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南の国の戦
同盟
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アロイスが城を出ると、白い鳥が飛び立つのが見えた。夕日を浴びて飛び立つ鳥は、南ではあまり見ない鳩だ。
交渉は、上手くいった。『バーチュ王国はヘンライン王国の鉱物を安く買う事を止める。北や東へ貿易でバーチュ王国を通る際、一定の通行料を払う』という事で話はついた。アンゲラー王国とも話し合いをしたが、彼らはこれを認めず鉱物を売らないのならヘンライン王国を占領すると発表した。
「東のレーヴェニヒ王国から二万の援軍がバーチュ王国を通ります。さらに北のバルシュミーデ皇国も我が国を支援すべく、バーチュ王国を通過すると聞いております。通行の許可して頂きたいのですが」
「バルシュミーデ皇国が?」
ヘンライン公国の宰相との話で、アロイスは少し強張った顔をした。ヴェンデルガルトを攫った件で、バルシュミーデ皇国がどう出て来るのか分からない状況だったからだ。
「レーヴェニヒ王国が、我らに協力する様に説得すると聞いております。話がまとまれば、レーヴェニヒ王国の水龍が全軍を指揮する為にこちらに向かってくるとの事です。もしこの情報がアンゲラー王国に漏れているなら、二万の大軍が来る前に我が国かバーチュ王国を襲う可能性があります」
「龍に……二万もの大軍……」
レーヴェニヒ王国は何処かの国を攻める事はせず、独自に国を創り貿易も最小限で済ませている謎の国だ。その国が、はるばるヘンライン王国の為にそんな大軍を送るのが不思議だった。
「バルシュミーデ皇国が通過する件、承知した。同盟を結べたことは、俺の部下に国に戻らせて知らせる。レーヴェニヒ王国とバルシュミーデ皇国の指揮官が来るまで、俺はここに留まった方がいいな」
「そうして頂けると、有難いです。バーチュ国王にあてた手紙を、すぐに用意させます。レーヴェニヒ王国の二万の軍は、一万はこちらに。残りの一万はバーチュ王国を護る為に配置するよう頼んでいます」
「その配慮こそ有難い。こちらも手薄になる事を心配していました」
同盟の証の書状を二枚作り、それと共にアロイスの父であるバーチュ国王にあてた手紙を持ち、アロイスが連れて来た部下の中から三人を国に戻した。
アロイス一行をもてなす宴が開かれたのだが、途中でアロイスはその宴を抜け出して庭を歩いていた。彼の頭を占めているのは、ヴェンデルガルトの事だ。バルシュミーデ皇国が来るなら、話し合いをしなければならないだろう。この戦を終わらせて、正式に彼女を自分のものにしたかった。彼女の瞳が他の男を見るだけで、苛立つ心の狭さに苦笑いする。
「こちらでしたか」
庭でぼんやりしていると、誰かに声をかけられた。赤い髪に赤い目――アロイスと同じ瞳の女性だった。腹に子供がいるのか、ゆったりとした服に身を包んでいる。
「――あなたも、龍族の末裔ですか?」
不思議な女性だった。どこか浮世離れをした雰囲気で、笑む顔はどこか懐かしい。バーチュ王国でも、龍族の血を引くのは王族だけで先祖返りもアロイスだけだ。少し年上の年代で、自分と同じような龍の目を持った人が隣国にいるとは知らなかった。
「あなたが小さい時に、私はお会いしているんですよ? ふふ、覚えていらっしゃらないようですね」
アロイスの記憶には、なかった。女は愛おし気に、大きなお腹を撫でた。
「ヘンライン国王の子です。この子の為にも、どうか我が国をお守りください」
「王族のお方でしたか、失礼いたしました」
アロイスは、慌てて頭を下げた。女はそんなアロイスの頭を撫で、「ご武運を」と呟くと歌いながらゆっくりとした足取りで城へと戻って行った。
その後ろ姿を眺めて、やはり記憶にない事を確認して首を横に傾げた。珍しい瞳だから、会えば覚えているはずなんだが――記憶がない程幼い時だったのだろうか。
兄上に聞けば分かるかも知れない。そう思い、アロイスも宴がまだ終わらない城に向かおうとした。
「敵襲―!」
大きな声と共に、鐘の音がガンガンと響き渡った。アロイスは慌てて己の武器を手にする為、城の中に入った。城の中も、兵士が武器を手に慌てて外に向かおうとしていた。
「アンゲラー王国が、北東の街を襲いに来ました! 国境には兵を配置していましたが、今混戦状態です!」
バーチュ王国は国境付近に首都があるが、ヘンライン公国は南寄りだ。すぐに首都は襲えない。それでも相手の数が分からないので、北東の町が陥落すればそのままの勢いで南下をしてくるかもしれない。
無事でいてくれ、ヴェンデル!
アンゲラー王国が、バーチュ王国も襲っていないかがアロイスは気掛かりだった。
交渉は、上手くいった。『バーチュ王国はヘンライン王国の鉱物を安く買う事を止める。北や東へ貿易でバーチュ王国を通る際、一定の通行料を払う』という事で話はついた。アンゲラー王国とも話し合いをしたが、彼らはこれを認めず鉱物を売らないのならヘンライン王国を占領すると発表した。
「東のレーヴェニヒ王国から二万の援軍がバーチュ王国を通ります。さらに北のバルシュミーデ皇国も我が国を支援すべく、バーチュ王国を通過すると聞いております。通行の許可して頂きたいのですが」
「バルシュミーデ皇国が?」
ヘンライン公国の宰相との話で、アロイスは少し強張った顔をした。ヴェンデルガルトを攫った件で、バルシュミーデ皇国がどう出て来るのか分からない状況だったからだ。
「レーヴェニヒ王国が、我らに協力する様に説得すると聞いております。話がまとまれば、レーヴェニヒ王国の水龍が全軍を指揮する為にこちらに向かってくるとの事です。もしこの情報がアンゲラー王国に漏れているなら、二万の大軍が来る前に我が国かバーチュ王国を襲う可能性があります」
「龍に……二万もの大軍……」
レーヴェニヒ王国は何処かの国を攻める事はせず、独自に国を創り貿易も最小限で済ませている謎の国だ。その国が、はるばるヘンライン王国の為にそんな大軍を送るのが不思議だった。
「バルシュミーデ皇国が通過する件、承知した。同盟を結べたことは、俺の部下に国に戻らせて知らせる。レーヴェニヒ王国とバルシュミーデ皇国の指揮官が来るまで、俺はここに留まった方がいいな」
「そうして頂けると、有難いです。バーチュ国王にあてた手紙を、すぐに用意させます。レーヴェニヒ王国の二万の軍は、一万はこちらに。残りの一万はバーチュ王国を護る為に配置するよう頼んでいます」
「その配慮こそ有難い。こちらも手薄になる事を心配していました」
同盟の証の書状を二枚作り、それと共にアロイスの父であるバーチュ国王にあてた手紙を持ち、アロイスが連れて来た部下の中から三人を国に戻した。
アロイス一行をもてなす宴が開かれたのだが、途中でアロイスはその宴を抜け出して庭を歩いていた。彼の頭を占めているのは、ヴェンデルガルトの事だ。バルシュミーデ皇国が来るなら、話し合いをしなければならないだろう。この戦を終わらせて、正式に彼女を自分のものにしたかった。彼女の瞳が他の男を見るだけで、苛立つ心の狭さに苦笑いする。
「こちらでしたか」
庭でぼんやりしていると、誰かに声をかけられた。赤い髪に赤い目――アロイスと同じ瞳の女性だった。腹に子供がいるのか、ゆったりとした服に身を包んでいる。
「――あなたも、龍族の末裔ですか?」
不思議な女性だった。どこか浮世離れをした雰囲気で、笑む顔はどこか懐かしい。バーチュ王国でも、龍族の血を引くのは王族だけで先祖返りもアロイスだけだ。少し年上の年代で、自分と同じような龍の目を持った人が隣国にいるとは知らなかった。
「あなたが小さい時に、私はお会いしているんですよ? ふふ、覚えていらっしゃらないようですね」
アロイスの記憶には、なかった。女は愛おし気に、大きなお腹を撫でた。
「ヘンライン国王の子です。この子の為にも、どうか我が国をお守りください」
「王族のお方でしたか、失礼いたしました」
アロイスは、慌てて頭を下げた。女はそんなアロイスの頭を撫で、「ご武運を」と呟くと歌いながらゆっくりとした足取りで城へと戻って行った。
その後ろ姿を眺めて、やはり記憶にない事を確認して首を横に傾げた。珍しい瞳だから、会えば覚えているはずなんだが――記憶がない程幼い時だったのだろうか。
兄上に聞けば分かるかも知れない。そう思い、アロイスも宴がまだ終わらない城に向かおうとした。
「敵襲―!」
大きな声と共に、鐘の音がガンガンと響き渡った。アロイスは慌てて己の武器を手にする為、城の中に入った。城の中も、兵士が武器を手に慌てて外に向かおうとしていた。
「アンゲラー王国が、北東の街を襲いに来ました! 国境には兵を配置していましたが、今混戦状態です!」
バーチュ王国は国境付近に首都があるが、ヘンライン公国は南寄りだ。すぐに首都は襲えない。それでも相手の数が分からないので、北東の町が陥落すればそのままの勢いで南下をしてくるかもしれない。
無事でいてくれ、ヴェンデル!
アンゲラー王国が、バーチュ王国も襲っていないかがアロイスは気掛かりだった。
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