二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜

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南の国の戦

援軍到着

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 怪我人は多かった。ヴェンデルガルトは文句を言わず、笑顔で治癒魔法をかけて行く。彼女が気付かないうちに、怪我が治った兵たちは死者を隅に重ねた。戦場では邪魔になるし、戦いが終われば埋葬する為だ。
 治癒魔法をかけている間に、水や食料が使用人たちによって配られた。食欲がなくても、食べなければ戦えない。兵の疲労も、溜まってきていた。

「バーチュ王国と連絡を取りましょう」
 ジークハルト、アロイス、右と左の大臣が揃っている所に、王と宰相を連れたカサンドラが来た。
「兄上にも、魔法をかけたのか?」
「ええ、あちらも襲われる危険がありますから――第一王子よ、聞こえますか?」
 カサンドラがそう呼びかけると、すぐにツェーザルは、答えた。
『あら? さっきの龍ね。これが魔法の会話? すごい体験ね』
「兄上!」
 聞こえてきた声に、アロイスが思わず声を上げた。間違いなく、兄のツェーザルの声だった。しかしカサンドラの声しか聞こえないのか、アロイスの声には反応しなかった。
「あなたがヴェンデルガルトを連れて来る事を許してくれたおかげで、何とか援軍が来るまでに攻撃を耐える事が出来ました、感謝します」
『仕方ないじゃない、兵力差があるなんて言われたら。ヴェンデルガルトちゃんは怪我一つしてないでしょうね?』
「勿論です、絶対に彼女に怪我を負わせたり危険な事はさせません。そちらは、異常ありませんか?」
『こちらは、今の所安全よ。援軍は何事もなければ、夜には着くと思うわ。少し遅れて、肉やパンや野菜の兵糧も送ったわ。水は、ヴェンデルガルトちゃんが居れば大丈夫なのよね?』
 カサンドラがヴェンデルガルトに視線を向ける。ヴェンデルガルトから「どんな水でも治癒魔法をかければ飲み水になります」と聞いて、頷いた。
「では、何かありましたら報告いたします。ご協力有難うございます、第一王子よ」
『弟にもよろしく伝えておいて。ヴェンデルガルトちゃんを絶対に護りなさいと』
 そこで、会話は途切れた。
「兵糧は有難い。バーチュ王国に、どれほど感謝してよいのか……」
 宰相は、深々とアロイスに頭を下げた。
「いや、我々はバルシュミーデ皇国とレーヴェニヒ王国に従っているまで。隣国として、これからも仲良くしたいと思っている」
 アロイスも深々と頭を下げた。
「アンゲラー王国は滅ぼしても構わない、よろしいですね?」
 左の大臣のエッカルトが尋ねるとアロイスは迷わず頷き、ヘンライン国王は躊躇いながらも頷いた。
「多分、再び夜には襲ってくるでしょう。それまで、少しお休みください」
 兵たちは、夜まで仮眠をとる事にした。次襲ってくるときは、多分最後の戦いだろう。相手も、今回以上に必死になるはずだ。激戦は免れない。

「ヴェンデル」
 アロイスが、兵に水や食料を配っているヴェンデルガルトに話しかけた。ヴェンデルガルトは驚いた顔をして怪我をしていたアロイスの腹辺りに手を伸ばした。
「お怪我は大丈夫ですか? 塞がりました?」
 その必死な様子が健気で可愛らしく、アロイスは小さく噴き出した。
「笑い事ではありません! あんなに大きな怪我をされていたのに……!」
 思わず、ヴェンデルガルトは涙を滲ませた。初めて戦場と言うものを見た。剣が斬れば、それだけ死に繋がる――それを見て、本当に心配だったのだ。
「お前の魔法が効かないはずはない。安心しろ、大丈夫だ」
 ヴェンデルガルトが涙目になった事に、今度はアロイスが慌てて彼女の頭を撫でて安心させるようにそう言った。

 その時、ヴェンデルガルトの服の間からアヤーで出来た耳飾りが落ちた。

「出来たのか?」
 ヴェンデルガルトが拾う前に、アロイスが拾って耳飾りを眺めた。ヴェンデルガルトは恥ずかしそうに、それを取り返そうと手を伸ばす。
「出来ましたけど、まだ上手じゃなくて! あの、また作り直します!」
「いや、お前が初めて織ったものだ。俺が貰う――有難う」
 アロイスは笑うと、耳にあけている穴に金具を指した。大きなデザインではないので、邪魔にはならないだろう。
「似合うか?」
「……似合います」
 そう言うと、アロイスは笑みを深くした。
「俺も少し休む。お前は、カサンドラ殿と一緒に居る方がいい――絶対に、護る」
「……はい」
 アロイスはもう一度ヴェンデルガルトの頭を撫でて、彼の部下がいるところに戻った。部下達に、何か言われて嬉しそうにしていた。
「ヴェンデルガルト、あなたも休みなさい。魔力は精神力を使います。倒れては大変です」
 カサンドラがヴェンデルガルトを呼んだ。彼女は頷いて、ヘンライン王族の所に戻った。

 次第に闇が深くなる。アンゲラー王国の兵が襲ってくる前に、大将軍のコンラートが率いるレーヴェニヒ王国の援軍が先に到着した。
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