二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜

文字の大きさ
96 / 125
陰謀

ヴェンデルガルトの助け

しおりを挟む
 遠くで、誰かが呼んでいる気がする。ジークハルトは、悪夢を見ている気分だった。身体が重く動かない。視線も定まらず、気分が悪かった。だが、遠くでジークハルトを呼ぶ声は清らかで美しくて安心する。

治療ベハンドルング

 その声が聞こえると、ジークハルトはゆっくり瞳を開いた。青い顔でまだ力のないヴェンデルガルトが、彼を覗き込んで微笑んでいた。
「ヴェンデルガルト嬢! 君は休んでいないと!」
 慌てて起き上がりヴェンデルガルトの肩に手を置くが、彼女はゆっくり首を横に振った。
「まだ治療をしないと……失礼しますね」
 彼女を支えているのは、ロルフだ。本来なら睡眠時の服の姿のままのヴェンデルガルトが、薄いナイトガウンを羽織って自分の前に居るのがおかしい。
 何があったのか自分の記憶が欠落していた事に、ようやくジークハルトは気が付いた。そうしてようやく、フロレンツィアのパーティーで倒れた事を思い出した。
「パーティーの参加者の三分の一が倒れたよ。ひどい人は嘔吐したり錯乱状態の人もいた」
 イザークは無事だったようだ。しかし気分が悪いのか、少し疲れた顔をしていた。そうして、自分や他の人達がラムブレヒト公爵帝の前で寝かされていた。
「ジークハルト、何を口にしたの?」
「ズックの香草漬け焼きだ。木に刺して、直火で焼いたものを食べた――少し辛みが強い味だった」
「ほとんどの人が焚火をしていた庭で倒れていたから、怪しいならそれだね。だけど、何も口にしていない僕も気分が悪い。それに何より――フロレンツィアも同じように倒れていた。どういうことなの?」
 イザークは口にしていないが、毒の可能性が高いだろう。そうなると怪しいのはフロレンツィアだが、彼女も同じようにズックを食べていた。彼女が焼けたものを無差別に取ったので、彼女には毒が入ってない事を選ぶのは無理があるし、何より彼女自身が倒れている。
 その間にも、まだ体調が悪いヴェンデルガルトは倒れている人たちに急いで回復魔法をかけていた。彼女が倒れないか、不安に思えるほどだ。

「取り敢えず回復した人から城の空いている部屋に運んで、ラムブレヒト公爵帝邸は騎士団が封鎖して、白薔薇騎士団が調べる事にしたよ。それで構わないよね? あと、本当に申し訳ないけど城に馬を走らせてヴェーに助けを求めた。他の人はどうでもいいけど、ジークハルトは失う訳にいかないから」
「ああ、有難う。ヴェンデルガルト嬢には、申し訳ない事をした。ただ、焚火に紛れて――ヴェンデルガルト嬢の部屋での異臭と同じものが使われたかもしれない。くれぐれも公爵邸での匂いには気を付ける様に、白薔薇騎士団には報告しておかないといけないな。イザーク、君も一応回復魔法をかけて貰った方がいい」

「ジークハルト様! ジークハルト様ぁ!!」
 どうやら意識が戻ったフロレンツィアは、大きな声でジークハルトの名を呼ぶ――叫んでいる、という方が正しい。あまりにも煩いので、ジークハルトは仕方なくフロレンツィアの元に向かった。

 ヴェンデルガルトが居なければ、大惨事になっていただろう。第一王子であるジークハルトまで巻き込まれたので、皇室も調査に介入しなければならない。ラムブレヒト公爵家の者と使用人たちは、調査中は別宅に避難する事になった。
 調理に関わった料理人たちと手伝っていた使用人は、事情聴取で城へと向かった。
 その頃になると、ギルベルトを始め白薔薇騎士団が到着した。
「私は城に滞在させてください! こんなに怖い目に遭ったんですのよ!? ジークハルト様が傍にいるべきです!」
 フロレンツィアはそう騒いでいたが、ギルベルトは許可しなかった。
「ラムブレヒト嬢は、別宅へ向かってください。城で同じような事が起こっては、大変ですので」
「なによ! あんたはそんなだから、私の従姉妹に婚約破棄されたんだから! 見た目が綺麗でも、世渡りが下手で勿体ないわね!」
 怒りが収まらないフロレンツィアは、ギルベルトを口汚く罵る。その言葉に、白薔薇騎士団が侮蔑したような視線で冷たくフロレンツィアを見る。騎士団たちは、己の団長を敬愛している者が多い。ここにいる白薔薇騎士の怒りを、フロレンツィアは買ってしまった。元々彼女は騎士団たちに嫌われているので、気にしないだろうが。
「ヴェンデルガルト嬢から治療を受けた方たちは、馬車に乗ってください。毒素が抜けているとは思いますが、念のため今夜は城でお休みください」
 ギルベルトの指示で、参加者たちが馬車に向かう。幸い死人はいなかったようだが、あと少しで危ない人もいた。

「ヴェー!」

 全員の治療が終わると、気が抜けたのか体力の原因だったのか、ヴェンデルガルトがロルフに凭れる様に崩れ落ちた。慌てて抱き上げるロルフに、イザークが駆け寄った。
「ヴェンデルガルト嬢も、はやく城に! ロルフ、彼女を連れて帰ってくれ!イザークは、俺と一緒にギルベルトを手伝うんだ!」
 その言葉に、イザークは足を止めて複雑な表情でジークハルトを見つめた。参加者たちとヴェンデルガルトを乗せた馬車と馬たちが、城に向かって帰っていく。ラムブレヒト公爵の者達も、別宅へと向かった。邸宅内を調べるには、今がチャンスだった。
 
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

まさか私が王族の一員であることを知らずに、侮辱していた訳ではありませんよね?

木山楽斗
恋愛
王城の使用人であるメルフィナには、ある秘密があった。 彼女は国王の隠し子なのである。 その事実は、半ば公然の秘密となっていた。公にされたことは一度もないが、嗅覚に優れた者達はそれを察知していたのだ。 しかし中には、そうではない者達もいた。 その者達は、メルフィナを一介の使用人として考えて、彼らなりの扱い方をした。 それは許されるものではなかった。知らぬうちに王家に牙を向けた者達は、その行為の報いを受けることになったのだ。

【番外編も完結】で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★2/17 番外編を投稿することになりました。→完結しました! ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

処理中です...