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陰謀
危険なパーティー
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「ようこそ、ジークハルト様にイザーク様」
二人が到着すると、フロレンツィアはご機嫌な様子で出迎えてくれた。そうして早速ジークハルトの腕を取り、ホールへと向かった。ジークハルトは毎回思うのだが、フロレンツィアの主催のパーティーは、いつも独特の香りがした。甘い様な、身体が重くなるような香りだ。多分、西で採れる香草の香りだと言っていた。ジキタリス事件でこの家の事を知るまでは不思議に思わなかったが、フロレンツィアのパーティーから帰ると何故か目が冴えてなかなか眠れず、まだひどく喉が渇いた。食事に招かれた時は変わった事は感じなかったが、今はこの家で出されるものは口にしないでおこうとジークハルトは決めていた。
「ワインをどうぞ」
先日フロレンツィアを迎えに来ていた執事が、ジークハルトとフロレンツィア、イザークに赤い液体の入ったグラスを持って来た。
「この後、仕事があるので」
「僕は今喉が渇いてないからいいよ。それより、絵とか見てきてもいいかな? 結構高い絵を買ったんだろ?」
二人は手にしなかったが、フロレンツィアはグラスを手にして一息に飲んだ。
「ええ、お父様は高いと聞くとどうしても欲しくなるみたいなの。隣の部屋に飾ってますわ。どうぞ、ご自由に見て下さい」
イザークは、さっさとフロレンツィアから逃げる。彼は、フロレンツィアの事が元々苦手で、近寄りたくないのだ。
「今日は、沢山見えられて嬉しいわ。料理も、凝ったものを用意してますのよ」
ワインで濡れた赤い唇を舌で舐めたフロレンツィアは、ジークハルトを見上げて笑っていた。
庭に繋がるドアも開かれていて、短い夏が終わる風が時折部屋に吹いてきていた。
「庭で火を起こして、ズックの実を焼いてますの。西の香辛料を沢山使って、とても美味しくなったと料理長が言っていました。どうぞ、ジークハルト様も食べて下さいね」
ズックは嫌いではないが、この家のものはあまり口にしたくなかった。しかし、断り続けるのも返って怪しまれるような気がした。
「そうか、頂くよ」
「では――」
フロレンツィアがそちらに連れて行こうとすると、大柄な中年男性が二人に挨拶に来た。
「ジークハルト様、ご無沙汰しております。東の町でフロレンツ神を祭る教会の神父をしているアーベルです。覚えてらっしゃるでしょうか?」
「ああ、これは懐かしい! 弟と共に、幼少期お世話になりました。今もあの神殿に?」
ジークハルトは懐かしそうに、その男を見返した。全能神フロレンツは、バルシュミーデ皇国の国教だ。小さな頃、弟と共にアーベルの神殿の手伝いと教えを受けた。その頃彼はまだ神父になりたてで、背は高いが細く自信がなさそうな男だった。
「はい、あの神殿を任されるまでになりました。ジークハルト様も元気そうで、また聖女様を護り南の国まで行っていたと聞きました。騎士としても王子としても素晴らしい事です」
ヴェンデルガルトの話題が出ると、フロレンツィアは途端に機嫌が悪くなった。
「そんな事より、ズックを食べましょう。神父様も一緒にどうぞ」
と、無理やりジークハルトとアーベルを庭の薪の所まで連れて来た。料理長が自信があるという事で、人が多く集まっていた。香辛料に漬けた肉を木の串で刺し、火で炙って食べるようだ。
「食べ終えた串は、火の中に入れて下さいね。もう使いませんので」
フロレンツィアはジークハルトとアーベル神父にそれぞれ焼けた肉を渡して、自分の分も取った。
熱々を口に入れた――変な味かどうかは分からない。辛みが効いた香辛料のせいだろう。しかし、確かに美味しかった。
「これは美味しい。流石ラムブレヒト公爵様の料理ですな!」
アーベル神父が褒めると、フロレンツィアの機嫌は直った。嬉しそうに、自分もそれを口にした。
それを食べ終えると、三人は部屋に戻ろうとした。だが、後ろで悲鳴が上がった。
「きゃあ! どうしたの!?」
さっきまで輪になっていた人たちが、次々と倒れていく。悲鳴を上げていた女性も、泡を吹いて倒れた。
「どういう事だ!?」
アーベル神父とジークハルトは、倒れている人たちに近寄った。白目を剥いたり、苦しそうに吐いたり、気を失ったり――凄惨な現場だった。
「どうしたんだ!?」
部屋の中からも、声が上がる――ジークハルトは、青くなった。まさか……毒か?
振り返って自分の婚約者であるフロレンツィアを見た。彼女は口元を扇子で隠しているが、瞳は笑っているように見えた。
「がはっ!」
隣で、アーベル神父が倒れた。ジークハルトも、次第に視界がぐるぐると回って来る。倒れそうになるのを、必死で耐えている。
「――君は……」
しかし、目の前でフロレンツィアも倒れた。青い顔をして、気を失っているようだ。
「どういう事……だ……?」
意識が失いそうになるジークハルトの後ろで、薪がひときわ大きく燃え上がったような気がした。
そうして、ジークハルトもその場に倒れた。
二人が到着すると、フロレンツィアはご機嫌な様子で出迎えてくれた。そうして早速ジークハルトの腕を取り、ホールへと向かった。ジークハルトは毎回思うのだが、フロレンツィアの主催のパーティーは、いつも独特の香りがした。甘い様な、身体が重くなるような香りだ。多分、西で採れる香草の香りだと言っていた。ジキタリス事件でこの家の事を知るまでは不思議に思わなかったが、フロレンツィアのパーティーから帰ると何故か目が冴えてなかなか眠れず、まだひどく喉が渇いた。食事に招かれた時は変わった事は感じなかったが、今はこの家で出されるものは口にしないでおこうとジークハルトは決めていた。
「ワインをどうぞ」
先日フロレンツィアを迎えに来ていた執事が、ジークハルトとフロレンツィア、イザークに赤い液体の入ったグラスを持って来た。
「この後、仕事があるので」
「僕は今喉が渇いてないからいいよ。それより、絵とか見てきてもいいかな? 結構高い絵を買ったんだろ?」
二人は手にしなかったが、フロレンツィアはグラスを手にして一息に飲んだ。
「ええ、お父様は高いと聞くとどうしても欲しくなるみたいなの。隣の部屋に飾ってますわ。どうぞ、ご自由に見て下さい」
イザークは、さっさとフロレンツィアから逃げる。彼は、フロレンツィアの事が元々苦手で、近寄りたくないのだ。
「今日は、沢山見えられて嬉しいわ。料理も、凝ったものを用意してますのよ」
ワインで濡れた赤い唇を舌で舐めたフロレンツィアは、ジークハルトを見上げて笑っていた。
庭に繋がるドアも開かれていて、短い夏が終わる風が時折部屋に吹いてきていた。
「庭で火を起こして、ズックの実を焼いてますの。西の香辛料を沢山使って、とても美味しくなったと料理長が言っていました。どうぞ、ジークハルト様も食べて下さいね」
ズックは嫌いではないが、この家のものはあまり口にしたくなかった。しかし、断り続けるのも返って怪しまれるような気がした。
「そうか、頂くよ」
「では――」
フロレンツィアがそちらに連れて行こうとすると、大柄な中年男性が二人に挨拶に来た。
「ジークハルト様、ご無沙汰しております。東の町でフロレンツ神を祭る教会の神父をしているアーベルです。覚えてらっしゃるでしょうか?」
「ああ、これは懐かしい! 弟と共に、幼少期お世話になりました。今もあの神殿に?」
ジークハルトは懐かしそうに、その男を見返した。全能神フロレンツは、バルシュミーデ皇国の国教だ。小さな頃、弟と共にアーベルの神殿の手伝いと教えを受けた。その頃彼はまだ神父になりたてで、背は高いが細く自信がなさそうな男だった。
「はい、あの神殿を任されるまでになりました。ジークハルト様も元気そうで、また聖女様を護り南の国まで行っていたと聞きました。騎士としても王子としても素晴らしい事です」
ヴェンデルガルトの話題が出ると、フロレンツィアは途端に機嫌が悪くなった。
「そんな事より、ズックを食べましょう。神父様も一緒にどうぞ」
と、無理やりジークハルトとアーベルを庭の薪の所まで連れて来た。料理長が自信があるという事で、人が多く集まっていた。香辛料に漬けた肉を木の串で刺し、火で炙って食べるようだ。
「食べ終えた串は、火の中に入れて下さいね。もう使いませんので」
フロレンツィアはジークハルトとアーベル神父にそれぞれ焼けた肉を渡して、自分の分も取った。
熱々を口に入れた――変な味かどうかは分からない。辛みが効いた香辛料のせいだろう。しかし、確かに美味しかった。
「これは美味しい。流石ラムブレヒト公爵様の料理ですな!」
アーベル神父が褒めると、フロレンツィアの機嫌は直った。嬉しそうに、自分もそれを口にした。
それを食べ終えると、三人は部屋に戻ろうとした。だが、後ろで悲鳴が上がった。
「きゃあ! どうしたの!?」
さっきまで輪になっていた人たちが、次々と倒れていく。悲鳴を上げていた女性も、泡を吹いて倒れた。
「どういう事だ!?」
アーベル神父とジークハルトは、倒れている人たちに近寄った。白目を剥いたり、苦しそうに吐いたり、気を失ったり――凄惨な現場だった。
「どうしたんだ!?」
部屋の中からも、声が上がる――ジークハルトは、青くなった。まさか……毒か?
振り返って自分の婚約者であるフロレンツィアを見た。彼女は口元を扇子で隠しているが、瞳は笑っているように見えた。
「がはっ!」
隣で、アーベル神父が倒れた。ジークハルトも、次第に視界がぐるぐると回って来る。倒れそうになるのを、必死で耐えている。
「――君は……」
しかし、目の前でフロレンツィアも倒れた。青い顔をして、気を失っているようだ。
「どういう事……だ……?」
意識が失いそうになるジークハルトの後ろで、薪がひときわ大きく燃え上がったような気がした。
そうして、ジークハルトもその場に倒れた。
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