二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜

文字の大きさ
95 / 125
陰謀

危険なパーティー

しおりを挟む
「ようこそ、ジークハルト様にイザーク様」
 二人が到着すると、フロレンツィアはご機嫌な様子で出迎えてくれた。そうして早速ジークハルトの腕を取り、ホールへと向かった。ジークハルトは毎回思うのだが、フロレンツィアの主催のパーティーは、いつも独特の香りがした。甘い様な、身体が重くなるような香りだ。多分、西で採れる香草の香りだと言っていた。ジキタリス事件でこの家の事を知るまでは不思議に思わなかったが、フロレンツィアのパーティーから帰ると何故か目が冴えてなかなか眠れず、まだひどく喉が渇いた。食事に招かれた時は変わった事は感じなかったが、今はこの家で出されるものは口にしないでおこうとジークハルトは決めていた。
「ワインをどうぞ」
 先日フロレンツィアを迎えに来ていた執事が、ジークハルトとフロレンツィア、イザークに赤い液体の入ったグラスを持って来た。
「この後、仕事があるので」
「僕は今喉が渇いてないからいいよ。それより、絵とか見てきてもいいかな? 結構高い絵を買ったんだろ?」
 二人は手にしなかったが、フロレンツィアはグラスを手にして一息に飲んだ。
「ええ、お父様は高いと聞くとどうしても欲しくなるみたいなの。隣の部屋に飾ってますわ。どうぞ、ご自由に見て下さい」
 イザークは、さっさとフロレンツィアから逃げる。彼は、フロレンツィアの事が元々苦手で、近寄りたくないのだ。
「今日は、沢山見えられて嬉しいわ。料理も、凝ったものを用意してますのよ」
 ワインで濡れた赤い唇を舌で舐めたフロレンツィアは、ジークハルトを見上げて笑っていた。
 庭に繋がるドアも開かれていて、短い夏が終わる風が時折部屋に吹いてきていた。
「庭で火を起こして、ズックの実を焼いてますの。西の香辛料を沢山使って、とても美味しくなったと料理長が言っていました。どうぞ、ジークハルト様も食べて下さいね」
 ズックは嫌いではないが、この家のものはあまり口にしたくなかった。しかし、断り続けるのも返って怪しまれるような気がした。
「そうか、頂くよ」
「では――」
 フロレンツィアがそちらに連れて行こうとすると、大柄な中年男性が二人に挨拶に来た。
「ジークハルト様、ご無沙汰しております。東の町でフロレンツ神を祭る教会の神父をしているアーベルです。覚えてらっしゃるでしょうか?」
「ああ、これは懐かしい! 弟と共に、幼少期お世話になりました。今もあの神殿に?」
 ジークハルトは懐かしそうに、その男を見返した。全能神フロレンツは、バルシュミーデ皇国の国教だ。小さな頃、弟と共にアーベルの神殿の手伝いと教えを受けた。その頃彼はまだ神父になりたてで、背は高いが細く自信がなさそうな男だった。
「はい、あの神殿を任されるまでになりました。ジークハルト様も元気そうで、また聖女様を護り南の国まで行っていたと聞きました。騎士としても王子としても素晴らしい事です」
 ヴェンデルガルトの話題が出ると、フロレンツィアは途端に機嫌が悪くなった。
「そんな事より、ズックを食べましょう。神父様も一緒にどうぞ」
 と、無理やりジークハルトとアーベルを庭の薪の所まで連れて来た。料理長が自信があるという事で、人が多く集まっていた。香辛料に漬けた肉を木の串で刺し、火で炙って食べるようだ。
「食べ終えた串は、火の中に入れて下さいね。もう使いませんので」
 フロレンツィアはジークハルトとアーベル神父にそれぞれ焼けた肉を渡して、自分の分も取った。
 熱々を口に入れた――変な味かどうかは分からない。辛みが効いた香辛料のせいだろう。しかし、確かに美味しかった。
「これは美味しい。流石ラムブレヒト公爵様の料理ですな!」
 アーベル神父が褒めると、フロレンツィアの機嫌は直った。嬉しそうに、自分もそれを口にした。
 それを食べ終えると、三人は部屋に戻ろうとした。だが、後ろで悲鳴が上がった。
「きゃあ! どうしたの!?」
 さっきまで輪になっていた人たちが、次々と倒れていく。悲鳴を上げていた女性も、泡を吹いて倒れた。
「どういう事だ!?」
 アーベル神父とジークハルトは、倒れている人たちに近寄った。白目を剥いたり、苦しそうに吐いたり、気を失ったり――凄惨な現場だった。

「どうしたんだ!?」

 部屋の中からも、声が上がる――ジークハルトは、青くなった。まさか……毒か?

 振り返って自分の婚約者であるフロレンツィアを見た。彼女は口元を扇子で隠しているが、瞳は笑っているように見えた。

「がはっ!」
 隣で、アーベル神父が倒れた。ジークハルトも、次第に視界がぐるぐると回って来る。倒れそうになるのを、必死で耐えている。
「――君は……」
 しかし、目の前でフロレンツィアも倒れた。青い顔をして、気を失っているようだ。
「どういう事……だ……?」
 意識が失いそうになるジークハルトの後ろで、薪がひときわ大きく燃え上がったような気がした。

 そうして、ジークハルトもその場に倒れた。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

まさか私が王族の一員であることを知らずに、侮辱していた訳ではありませんよね?

木山楽斗
恋愛
王城の使用人であるメルフィナには、ある秘密があった。 彼女は国王の隠し子なのである。 その事実は、半ば公然の秘密となっていた。公にされたことは一度もないが、嗅覚に優れた者達はそれを察知していたのだ。 しかし中には、そうではない者達もいた。 その者達は、メルフィナを一介の使用人として考えて、彼らなりの扱い方をした。 それは許されるものではなかった。知らぬうちに王家に牙を向けた者達は、その行為の報いを受けることになったのだ。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

処理中です...