121 / 125
陰謀
隠し部屋
しおりを挟む
自分の家族を処刑された場面を見ていないので、ヴェンデルガルトには実感がない。今が二百年後の世だという事も、不思議に思うくらいだ。旅に来て、知らない土地にいるような感じなのだ。
しかし、アインホルン辺境伯と共にバッハシュタイン王国を滅ぼした貴族が、一緒に作り上げた国を滅ぼそうとしているのは皮肉に感じた。
時間が空いた時、ヴェンデルガルトは図書室でこの国の歴史を学んだ。やはり裏切りで出来た国なので、同じような事件が何度かあった。裏切りは裏切りを産む。それが歴史だと言われれば仕方ないが、そんな悲しい事件はなくした方がいい。皺寄せに貧しくなるのは、いつも庶民だからだ。
ヴェンデルガルトは、民を護る為に今回の謀反を最小限で止めたいと感じていた。だから、ジークハルト達と一緒に頑張っている。それで、ラムブレヒト公爵たちが処刑される事になっても――仕方がない、と自分に言い聞かせていた。
「初めまして、ヴェンデルガルト様。レナータ・エラ・ラムブレヒトでございます」
教会に着きレナータの部屋に通されると、暫くして化粧が薄い上品な女性が姿を現せた。穏やかでにこやかだ。服も黒のシックなワンピース姿で、所作は上品だが侯爵の人間と思えない質素な姿だった。
「お噂でしか知りませんが、二百年の時を経てバッハシュタイン王国の王女であるあなたにお会いできたことを、光栄に思います」
祈る用な仕草をしてヴェンデルガルトに頭を下げると、レナータは三人に椅子を勧めた。
「突然の訪問、本当に申し訳ありませんでした」
ヴェンデルガルトも優雅にお辞儀をすると、勧められた椅子に座った。ギルゲルトとロルフもそれに倣う。
「いいえ、お気になさらず――夫と娘の事で、来られたのでしょう」
レナータはハーブティーを入れると、三人に渡して自分の分も机に置く。娘が毒を扱うので、失礼を承知でロルフが先にそのハーブティーを口にした。
「夫は強欲で――娘もそれに似ました。私は、あの二人には付いていけません。離婚をして正式に教会に仕えたかったのですが、夫のブルーノは世間体を気にして許してくれませんでした。今離れて暮らして、心穏やかに過ごしています」
「そうですか。お二人に最近会いましたか?」
ヴェンデルガルトの言葉に、レナータは首を横に振ってから何かを思い出したように動きを止めた。
「何カ月も前に、私に贈り物だと――家具と本を送ってきました。私は会いたくなかったので、町に出ていました」
「それだわ!」
ヴェンデルガルトは立ち上がり、ティーカップをレナータの机に置いて彼女に問いかけた。それには、レナータを始めギルゲルトとロルフも驚いたようだ。
「それは、何処に?」
「こちらです」
戸惑いながらもレナータは立ち上がって、奥の部屋に続くドアを開けた。ヴェンデルガルトが付いて行くと、ギルゲルトとロルフも慌てて付いて行った。
「経済学や植物の本、小説――私があまり興味ない本ばかりだったので、手を付けていません」
奥の部屋は、ベッドルームも兼ねているようだった。あまり物を置かない質素にも取れる部屋の壁際に、本棚のような真新しい家具が置かれていた。三人はその家具を見るが、特に不自然な所はなかった。ただ、ひどく重い家具だった。男二人では持ち上げられそうにない。
「特別、おかしな所はないですね」
ロルフも、不思議そうな顔になる。しかしヴェンデルガルトが、続けてレナータに訊ねる。
「この後ろは、ただの壁ですか? なんか、変な空間がありますね?」
本棚になっている家具は、左右は奥が深い作りになっていて、中央はその半分の奥行だ。
「いえ、使っていない物置部屋があります。必要な時邪魔になるから、扉の前に置かないで欲しかったのですが」
その言葉で、ヴェンデルガルトの表情が確信したものになった。
「ギルゲルト様。バルシュミーデ皇国の紋章は、二頭の獅子に薔薇が描かれた紋章でしたよね?」
「そうです。その薔薇から、薔薇騎士団が作られました」
ヴェンデルガルトは、本の背表紙を探す――獅子が描かれているものだ。それは、確かに左右の本棚の端にあった。しかも、それは紙の本ではなく木で出来たものだった。それに触ると、その木の本もどきは横の木の枠に吸い込まれる様にゆっくり沈んで、カチャリと音が鳴る。
「これは!?」
「あとは薔薇! 薔薇を探して!」
ヴェンデルガルトの言葉に、ギルゲルトとロルフも必死に探した。レナータは、まさか自分の部屋に怪しいものがあるとは知らず、驚いたように口を手で押さえていた。
「ありました!」
ロルフが、一番下にあった薔薇の模様が描かれた木の本もどきを見つけて押した。それも本棚に吸い込まれる様に消えた。
ガタン
三つの本もどきが消えると、大きな音がして薄い中央の部分が半分ほど後ろに下がって、左右に分けて開いた。代わりにそこには、物置とされている部屋のドアが見えた。
「消えた家具職人の……まさか、こんな所にあるなんて!」
ギルベルトが驚いた声を上げた。そうして、そのドアを開けた――真っ先に見えたのは、苦しそうなフロレンツィアの姿だった。
「フロレンツィア!?」
「彼女に触れるな!」
急に、聞き慣れない声が上がった。振り返ろうとしたギルベルトに向かって、フロレンツィアと逃げた執事が剣を振りかぶって襲おうとしていた。
しかし、アインホルン辺境伯と共にバッハシュタイン王国を滅ぼした貴族が、一緒に作り上げた国を滅ぼそうとしているのは皮肉に感じた。
時間が空いた時、ヴェンデルガルトは図書室でこの国の歴史を学んだ。やはり裏切りで出来た国なので、同じような事件が何度かあった。裏切りは裏切りを産む。それが歴史だと言われれば仕方ないが、そんな悲しい事件はなくした方がいい。皺寄せに貧しくなるのは、いつも庶民だからだ。
ヴェンデルガルトは、民を護る為に今回の謀反を最小限で止めたいと感じていた。だから、ジークハルト達と一緒に頑張っている。それで、ラムブレヒト公爵たちが処刑される事になっても――仕方がない、と自分に言い聞かせていた。
「初めまして、ヴェンデルガルト様。レナータ・エラ・ラムブレヒトでございます」
教会に着きレナータの部屋に通されると、暫くして化粧が薄い上品な女性が姿を現せた。穏やかでにこやかだ。服も黒のシックなワンピース姿で、所作は上品だが侯爵の人間と思えない質素な姿だった。
「お噂でしか知りませんが、二百年の時を経てバッハシュタイン王国の王女であるあなたにお会いできたことを、光栄に思います」
祈る用な仕草をしてヴェンデルガルトに頭を下げると、レナータは三人に椅子を勧めた。
「突然の訪問、本当に申し訳ありませんでした」
ヴェンデルガルトも優雅にお辞儀をすると、勧められた椅子に座った。ギルゲルトとロルフもそれに倣う。
「いいえ、お気になさらず――夫と娘の事で、来られたのでしょう」
レナータはハーブティーを入れると、三人に渡して自分の分も机に置く。娘が毒を扱うので、失礼を承知でロルフが先にそのハーブティーを口にした。
「夫は強欲で――娘もそれに似ました。私は、あの二人には付いていけません。離婚をして正式に教会に仕えたかったのですが、夫のブルーノは世間体を気にして許してくれませんでした。今離れて暮らして、心穏やかに過ごしています」
「そうですか。お二人に最近会いましたか?」
ヴェンデルガルトの言葉に、レナータは首を横に振ってから何かを思い出したように動きを止めた。
「何カ月も前に、私に贈り物だと――家具と本を送ってきました。私は会いたくなかったので、町に出ていました」
「それだわ!」
ヴェンデルガルトは立ち上がり、ティーカップをレナータの机に置いて彼女に問いかけた。それには、レナータを始めギルゲルトとロルフも驚いたようだ。
「それは、何処に?」
「こちらです」
戸惑いながらもレナータは立ち上がって、奥の部屋に続くドアを開けた。ヴェンデルガルトが付いて行くと、ギルゲルトとロルフも慌てて付いて行った。
「経済学や植物の本、小説――私があまり興味ない本ばかりだったので、手を付けていません」
奥の部屋は、ベッドルームも兼ねているようだった。あまり物を置かない質素にも取れる部屋の壁際に、本棚のような真新しい家具が置かれていた。三人はその家具を見るが、特に不自然な所はなかった。ただ、ひどく重い家具だった。男二人では持ち上げられそうにない。
「特別、おかしな所はないですね」
ロルフも、不思議そうな顔になる。しかしヴェンデルガルトが、続けてレナータに訊ねる。
「この後ろは、ただの壁ですか? なんか、変な空間がありますね?」
本棚になっている家具は、左右は奥が深い作りになっていて、中央はその半分の奥行だ。
「いえ、使っていない物置部屋があります。必要な時邪魔になるから、扉の前に置かないで欲しかったのですが」
その言葉で、ヴェンデルガルトの表情が確信したものになった。
「ギルゲルト様。バルシュミーデ皇国の紋章は、二頭の獅子に薔薇が描かれた紋章でしたよね?」
「そうです。その薔薇から、薔薇騎士団が作られました」
ヴェンデルガルトは、本の背表紙を探す――獅子が描かれているものだ。それは、確かに左右の本棚の端にあった。しかも、それは紙の本ではなく木で出来たものだった。それに触ると、その木の本もどきは横の木の枠に吸い込まれる様にゆっくり沈んで、カチャリと音が鳴る。
「これは!?」
「あとは薔薇! 薔薇を探して!」
ヴェンデルガルトの言葉に、ギルゲルトとロルフも必死に探した。レナータは、まさか自分の部屋に怪しいものがあるとは知らず、驚いたように口を手で押さえていた。
「ありました!」
ロルフが、一番下にあった薔薇の模様が描かれた木の本もどきを見つけて押した。それも本棚に吸い込まれる様に消えた。
ガタン
三つの本もどきが消えると、大きな音がして薄い中央の部分が半分ほど後ろに下がって、左右に分けて開いた。代わりにそこには、物置とされている部屋のドアが見えた。
「消えた家具職人の……まさか、こんな所にあるなんて!」
ギルベルトが驚いた声を上げた。そうして、そのドアを開けた――真っ先に見えたのは、苦しそうなフロレンツィアの姿だった。
「フロレンツィア!?」
「彼女に触れるな!」
急に、聞き慣れない声が上がった。振り返ろうとしたギルベルトに向かって、フロレンツィアと逃げた執事が剣を振りかぶって襲おうとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
追放された元聖女は、イケメン騎士団の寮母になる
腐ったバナナ
恋愛
聖女として完璧な人生を送っていたリーリアは、無実の罪で「はぐれ者騎士団」の寮へ追放される。
荒れ果てた場所で、彼女は無愛想な寮長ゼノンをはじめとするイケメン騎士たちと出会う。最初は反発する彼らだが、リーリアは聖女の力と料理で、次第に彼らの心を解きほぐしていく。
王家の血を引いていないと判明した私は、何故か変わらず愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女であるスレリアは、自身が王家の血筋ではないことを知った。
それによって彼女は、家族との関係が終わると思っていた。父や母、兄弟の面々に事実をどう受け止められるのか、彼女は不安だったのだ。
しかしそれは、杞憂に終わった。
スレリアの家族は、彼女を家族として愛しており、排斥するつもりなどはなかったのだ。
ただその愛し方は、それぞれであった。
今まで通りの距離を保つ者、溺愛してくる者、さらには求婚してくる者、そんな家族の様々な対応に、スレリアは少々困惑するのだった。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる