【完結】悪役令嬢の断罪から始まるモブ令嬢の復讐劇

夜桜 舞

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モブ令嬢は行動する

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「レイナが……婚約破棄された?」
「えぇ。そのうえで、何者かの手により、国外追放のために用意された馬車の中でお亡くなりになられていたようで……」

テイラン公爵家の屋敷にて。

私――ヴィル・テイランは、親友であり幼馴染でもある、「レイナ・ファリウム」の訃報を、テイラン家に仕えるメイドであるシャーナの口から、自身の部屋で聞く。

「……少し、下がってくださるかしら?」
「……かしこまりました」

速やかに私のもとから去るシャーナを見送りながら。
私は、自身が置かれている状況を整理するため、これまでのことを思い出したのであった。

―――――

まず、私には親友のレイナにすら言っていないのだが、前世の記憶というものがある。
前世の友人から借りた乙女ゲーム、「魔法の光と6人の彼」。ゲーマーである私は、ゲームの内容を一夜で全て攻略し、意見交換のため、休日の朝に前世の友人の家へと向かっていた最中、信号無視をした車にひかれ、あっさりと息を引き取った。そんな私が転生した先が、「魔法の光と6人の彼」の世界であった。こういう転生もののお約束である、悪役令嬢とかヒロインに転生するわけではなく、単なるモブ。しかしそれゆえ、私は物語に関係なく、自由に行動することができた。ちなみに私が前世の記憶を思い出したのは3歳のころ。まぁ、モブが前世の記憶を思い出したって、意味がないと思っていたのだが。

さて、話は変わるが、私は社交界で知り合った公爵令嬢――レイナと親しくなる。確かそれは、4歳ころだった気がする。私が彼女と知り合って日も経たない内は、従者に対し我儘放題だった彼女だが、ある時を境に、レイナは我儘ひとつ言わなくなった。おそらく、このあたりからレイナは記憶を思い出したんだと思う。正直、レイナはあまりにも変わりすぎていたため、転生者である私から見れば、記憶を思い出したことなんて一目瞭然であった。

はじめのころは、彼女は自身の断罪を防ぐためだけに、前世の記憶を取り戻した後も私と仲良くしてくれているのかと思った。でも、それはどうやら違うらしい。

レイナは確かに自身の断罪を防ぎたいという思いはあったんだと思う。でも、私への優しさの9割以上は、疾しいことなどない本心であった。それに気が付いてからは、私は気が付けばレイナのもとにいた。
それはなにも、私だけではない。彼女の婚約者であるディファンや、従兄のシオンなども、きっと彼女の表面上だけではない、本心からの優しさに触れ、彼女のそばにずっといたいと思っていたのだろう。

こんなに優しいレイナなら、きっと断罪される運命を防げるはず。

確信に近い願いを胸に、私は日々を過ごしていたが、彼女の人生の歯車が狂ったのは……いや、正確に回り始めたのは、王立学園の入学式からだった。

これまで彼女の優しさに心救われてきた者たちは皆、入学式の日から徐々にヒロインであるソフィアに無条件に魅了され、レイナのもとから離れていった。そして、彼女の戯言を簡単に信じ、レイナに避難の目を向けるようになる。しかし私は、レイナのために行動などできなかった。馬鹿馬鹿しいと思うかもしれない。それでも、私は幼き日に交わした約束を破って、彼女に失望されるのが怖かったのだ。

様々な思惑が絡み合いながら、ゲームは着々と進行し、レイナの運命を決定づける、レイナの断罪イベントである、卒業記念舞踏会が開催される。

私は卒業記念舞踏会の日は、運悪く風邪をひいてしまい、辞退してしまった。今思えば、あの時断罪イベントが起こるのは分かっていたのだから、無理をしてでも行けばよかったと、後悔してもしきれない。

レイナはゲーム通り、断罪された。しかし、ゲームの断罪イベントだけでは飽き足らず、レイナは何者かの手によって殺されてしまった。

「なぜ、レイナが……あの子は何も悪くないのに!!」

私は目に涙を浮かべながら、憎しみ半分、悔しさ半分に叫ぶ。

何もできなかった自分が憎いし悔しい。
そして、レイナに救われたのにもかかわらず、彼女を無情にも切り捨てた奴らが憎たらしくて仕方がない。

「これまでは物語のモブで、でしゃばるのはよくないと思い、見て見ぬふりをしていましたが……こればかりは見過ごせません!!」

(――もしも、私に何かあったとしても、貴女は何もかかわらないでね?)

昔交わした彼女との約束。しかし、もう恐れてはいけない。だってレイナは、もういないのだから。それならば、私がレイナのために、レイナを傷つけた人たちに復讐しても、いいはずだ。

「――シャーナ、戻ってきなさい」

そうと決まれば早速行動に移さなければ。そう考え、先ほど下がらせたシャーナをもう一度呼び寄せる。

「お呼びしましたか?お嬢様」
「えぇ、呼んだわ。それで、早速だけど、いつものを頼んでもいいかしら?」
「はい、勿論」

シャーナはそう言い残して部屋を出たが、数秒後には戻り、くすみグリーンのロングスカートと半袖の白いワイシャツ。それとローブをを手にしていた。

「これでよろしかったでしょうか?」
「えぇ、あっているわ」

私は、目の前にシャーナがいるのも気にせずに、彼女が用意してくれた服に着替える。

「どう?シャーナ。どこか変なところはない?」
「はい……ですがお嬢様、また城下町に行くつもりですか……?」
「……これを着ているということは、そうなんでしょうね」

私はそう言いながら、ローブについているフードを被り、顔を隠す。

「それじゃあ、シャーナ。私は今から城下町に行ってくるわ」
「……お気を付けください、お嬢様」

呆れたようにそう言いながら私を送り出すシャーナを気にも留めず、私は足早に屋敷から去る。復讐といっても、私一人では何もできない。まずは、協力者を得ることに努めなければ。

貴族はだめだ。信用できない。あの日、舞踏会にいた者たちは、無情にもレイナに手を差し伸べようとしなかった。そんな人に協力を頼むなんて、想像しただけで反吐が出そうになる。
平民ならば、まだ可能性はある。平民の中には、ソフィアを不審に思い、レイナの死を悲しんでくれているものもいるかもしれない。

そう考え、私は平民が暮らす城下町へと出かけたのであった。
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