【完結】悪役令嬢の断罪から始まるモブ令嬢の復讐劇

夜桜 舞

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モブ令嬢と後輩君

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私は、今はもう卒業した王立学園に来ていた。
ここには、私たちの一年後輩であり、ゲームの攻略対象の一人でもある「ルナソル・シャイム」が在学しており、今日は新三年生が入学式に向けての事前準備をしていることは把握済みである。

ちなみに、シャーナはテイラン家の屋敷に待機させている。
信用に値しない人間をそばに侍らせても、効率が下がるだけ。シャーナを利用するにはまだ早い。

「ん?あ、テイラン先輩ではないですか!!」

私がそう考えていると、他生徒に指示を飛ばしていた一人の青年――ルナソルが私に気づき、私に大きく手を振りながら近づいてくる。

「こんにちは、ルナソル君」

私はそんなルナソルの様子に嫌悪感を抱き、後ずさりそうになったが必死に堪え、無害で愚かな女を演じる。

「こんにちは、先輩!!舞踏会当日は風邪を召されていたようですが、もう大丈夫なのですか……?」
「えぇ、大丈夫よ」

――だって、貴方たちを復讐するために、ずっと寝込んでいるわけにはいかないもの

私はそう心の中で付け加えたが、ルナソルはそんなこと知る由もなく、笑顔で「それはよかったです!!」という。

……ルナソルかかつて、病弱な人間であった。
私とレイナが学園に入学してからというもの、二人で城下町を散策したことが何度もあった。
その時、道中で倒れているルナソルを見つけ、治療魔法が使えるレイナがルナソルのことを救っのだ。
この世界には、一部の人間は魔法が使え、ゲームの悪役令嬢であるレイナは底知れぬ魔法の才能があり、レイナの治療魔法を受けたルナソルは、目に見えて体調がよくなっていった。

それからというもの、ルナソルは私たち――特にレイナに懐き、私たちが城下町へ行くと真っ先に私たちを見つけ、よく三人で遊んだものだ。
そのころから、レイナに対する周りの目が避難の目に変わり始めていたので、レイナは私たちと城下町で三人で遊んでいるときが、唯一心から楽しめているときだったんだと思う。

そして、私とレイナがルナソルと仲良くなってからしばらくたったころ。
私たちが王立学園に通っていることがルナソルに知られてしまった。

王立学園は、国に通うすべての貴族が、15歳になる年から3年間通うことが義務付けられている学園。平民が通うことはほぼ不可能なのであるが、一つだけ例外があり、年に一人だけ選ばれる、学業が極めて優秀な生徒だけは特待生として王立学園に通うことを許されている。ちなみに、ソフィアも平民ながら特待生として王立学園に入学した。

そんな学園に私たちが通っていると知り、ルナソルは自分も王立学園に入りたいと言い出した。
私は彼が学園に入学してしまえば、デイファンやシオンのように、レイナを裏切るのではと思い、彼の入学に反対しようとしたのだが、レイナは反対するどころかむしろルナソルが学園に入学することを応援していたため、ルナソルが学園に入学するための努力を否定することはできなかった。
ルナソルは自頭が良いそうで、私たちが学園入学に必要な知識を教えると、一発で覚え、その知識を使って応用問題まで簡単に解くことができてしまう。

そんなルナソルに、レイナは自分のことのように喜び、そんなレイナの様子を見て、ルナソルはより一層勉学に励むこととなり、無事、特待生として王立学園へ入学した。
そして、ルナソルは私が危惧していた通り、入学後はどんどんソフィアに心酔していき、レイナを毛嫌うことになる。

――ねぇ、レイナ。私、貴女のしたいことが、よくわからない。貴女も本当は分かっていたのでしょう?ルナソルがソフィアに心酔し、自分を裏切ることになることなんて……

「――テイラン……先輩?」

ふと、昔のルナソルのことを思い出していると、今のルナソルが心配そうにこちらを見ており、現実に引き戻される。

――貴方に心配される筋合いはない。

そう突き放せたらどれほど楽だったかはわからないが、私はそんな考えなしな行動はしない。
今はまだ、彼の信頼を損なうような行動はするべきではない。彼を突き放すのは、彼が一番絶望してくれる時だ。

私はそう考え、にっこりと表面上だけ笑いながら口を開く。

「いえ、少し考え事をしていただけよ……それよりも、ルナソル君。私とこのあと少しだけお話ししない?……もちろん、入学式の事前準備が終わった後だけれども」

私がルナソルにそう提案すると、ルナソルは「え、あ、その……」ともごもごしながら答える。

「実は……この後はソフィアさんと一緒にお茶をする予定でして……」

頬を赤らめながらそう言うルナソル。私は心底気持ち悪かったが、それを決して表情には出さず、明るい声で「あら、それは残念だわ」と、思ってもいないことを口に出す。

「ソフィアさんとお茶をする場所は、一体どこなのかしら?」

私が世間話を装ってそう聞くと、ルナソルはためらうこともなく、「ほら、覚えてないですか?昔、僕らがよく行ったカフェ」と教えてくれる。

「あぁ、あそこですか……確かにデートにピッタリね」
「デっ!?」
「あら、違ったかしら?」

真っ赤に頬を染めながらたじろぐルナソル。

――あぁ、本当に気色悪い

そう思いながらも一切態度には出さず、ただの無害な仲の良い友人を演じる。

ねぇ、レイナ。私はこれで、あっているのかな?

心の中で、親友にそう問うが、何も返ってくるはずがない。
一人むなしく思いながら、「あ、と……そろそろ時間ですね。それじゃあ、また」と言い残し、入学式準備へと向かうルナソルの後姿を、長い間見続けていたのであった。
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