【完結】悪役令嬢の断罪から始まるモブ令嬢の復讐劇

夜桜 舞

文字の大きさ
9 / 23

モブ令嬢と恋への抵抗

しおりを挟む
三日後。私は再びシャスタに来ていた。
私は魔王と名乗るシュエルの元へ行きたいのだが、何せ魔界への行き方がわからない。なので、初めてシュエルに出会った場所の近くで待ち伏せしていれば、もしかしたら魔界に行かずとも会えるかもしれないと考えたのだ。

「――いらっしゃいませ」

今日は前回来たときよりも幾分か空いていて、私は自由な席へお座りくださいと店員さんに言われる。
一瞬思考した後、私は道が見やすいテラス席を選ぶ。

「ご注文は、前回と同じでよろしいですか?」

注文を聞きに来た店員さんの言葉に、覚えていたのかと驚きつつ。
私は「えぇ、それでお願いします」と頼む。

頼んだ品はすぐに届き、私はゆっくりと食べ始めるのであった。



それから、どのくらいの時間がたったであろうか。
私はもうすでに、レモンのタルトを食べ終え、紅茶も残りわずかになっていた。

ちなみにタルトは、いくら食べても前回のように意識が朦朧とするようなことはなく、最後まで美味しく食べることができた。

「やっぱり、曲がりなりにも魔王と名乗る人が、そう簡単に人間界に来るだなんて……てかこの世界に魔物っているんだ」

一晩で全クリしたため、あまり細かいことは覚えていないのである。

「……帰るか」

本当は今日中にシュエルに会いたいのだが、こんなところで時間をつぶすのは勿体ない。
そう考え、私は代金を支払い、屋敷へと帰ろうとしたのだが……

「 !? 」

シャスタから少し離れた場所で、シュエルとソフィアが一緒にいるのが見えた。
よく見ると、シュエルとソフィアは腕を組んでおり、私はシュエルもソフィアに魅了されたうちの一人だと思ったのだが……

「うん?」

シュエルは私に気が付き、口パクと私に何かを訴えかけている。

今の私はきっと、都合のいい解釈しかできないだろうけどなぁ、と思いながら、シュエルの言いたいことを読み取る。

「えぇ、と…… た す け て く れ ?」

私がそうつぶやきながら首をかしげると、シュエルはうんうんと頷き、ソフィアに気づかれない程度に控えめに私に手招きしてくる。

「……しょうがない」

これでシュエルに貸しができると思えば安いもの。
そう自身に暗示をかけながら、私は二人に近づく。

「――あら?ソフィアさん。こんなところで奇遇ですね」
「へ?……あぁ、えっと……」
「ふふっ、私の名前はヴィル・テイランですよ」
「あ、あぁ!公爵家の!!」

いや、どういう覚え方してんの、と突っ込みたい気持ちを抑え、私は微笑みながら「えぇ、そうです」と答える。

「そういえば、先ほどデイファン様が貴女を探していると言っていましたよ?」
「えぇ!?デイファン様が!!」
「えぇ」

嘘である。そもそも私は、婚約者がいるのに他の女になびく男などとは、もう二度と会話もしたくない。

「どこにいたの!?」

私が話しかけたときは興味なんて微塵もなさそうだったのに、デイファンの話をしたとたん、私に鬼気迫る勢いで話しかけてくる。

「えっと、確か……城下町のはずれのどこかだったような……」
「ありがとう!!……それと、シュエル様もお元気で!!」

私がソフィアに話しかけたあたりから蚊帳の外であったシュエルにもきっちりとあいさつし、ソフィアは私が言った情報を信じて疑わずに、城下町のはずれの方に走り去っていく。

「……ありがとう。君がまさか俺を助けてくれるだなんて……」
「いえ、貸しができると思えばお安い御用ですよ。それと、口調が前回よりもずいぶんお変わりになりましたね?」
「あ!?……い、いや、何でもない。忘れろ」

予期せぬ、シュエルに貸しだけではなく弱みも握れて、私は貴重な時間を割いてまでシャスタにいた甲斐があったというものだ。

「そういえば、魔王様がどうして人間界に?」

私は珍しく、本心からの興味を口にする。

「あぁ。この前会ったときに、貴様に魔界への行き方を教えていなかったからな。前回貴様を見つけた場所の近くにいれば、貴様を見つけられると思い、ここ数日はずっとここにいた」
「へ、へぇ……魔王様も随分暇なのですね」

私は正常を装いながら、内心はとてつもなく困惑していた。

ここ数日って……シュエルと会ったのは四日前……その日から、わざわざ私を待っていてくれたの?来るかどうかもわからないのに……?てかまるっきり私と思考回路同じだし!!
い、いやいや。ドキドキなんてしていない。あくまでシュエルは利用すべき駒。レイナの復讐のために、恋愛にうつつを抜かしている暇はないのに……!!
それに、こんなことでドキドキして恋をしてしまうだなんて、メインキャラあいつらのこと言えないじゃない……!!私は決して、恋なんて……!

「べ、別に、嬉しくなんかないんだから!!」
「は?別に貴様が喜ぶなんて微塵も思っていないが」

なんでツンデレみたいなこと言った!?
しかもシュエル塩だし!!
――あぁ、もういい!!とにかく今は復讐最優先!!他の余計なことは考えない!!

「とにかく!!……わ、私は、」
「なぁ、話は後にしないか?ソフィアとかいう小娘が戻ってくるかもしれんしな」

シュエルがそう言った瞬間、指が鳴る音がし、気が付けば私は、シュエルと初めて会話した場所に立っていたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

侯爵令嬢の置き土産

ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。 「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

モブは転生ヒロインを許さない

成行任世
恋愛
死亡ルートを辿った攻略対象者の妹(モブ)が転生ヒロインを断罪します。 .

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

【短編】お姉さまは愚弟を赦さない

宇水涼麻
恋愛
この国の第1王子であるザリアートが学園のダンスパーティーの席で、婚約者であるエレノアを声高に呼びつけた。 そして、テンプレのように婚約破棄を言い渡した。 すぐに了承し会場を出ようとするエレノアをザリアートが引き止める。 そこへ颯爽と3人の淑女が現れた。美しく気高く凛々しい彼女たちは何者なのか? 短編にしては長めになってしまいました。 西洋ヨーロッパ風学園ラブストーリーです。

……モブ令嬢なのでお気になさらず

monaca
恋愛
……。 ……えっ、わたくし? ただのモブ令嬢です。

処理中です...