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獣人国の安堵(sideラインハイト)
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あの衝撃的な出来事から十数日後。
エヴァとリッカが龍人国に移動するのを見送り、部下数名と共に自分も王宮に戻った。
あの2人が龍人国へ帰る際、辺境伯邸の執事達が2名一緒についていったが、あの2人は内部告発をしてくれたあの時のヤツらだった。
あのエヴァからリッカの世話役をもぎ取ったと聞いたときは驚いたが、リッカの信頼を得たのだろう。
そのままリッカに尽くすつもりのようで、エヴァにも懇願して正式に雇ってもらったようだ。
あの2人は今回の事件解決の功労者だからな。
自覚なしに世界平和の一端を担った。
マジ感謝だな。
戻ってからは執務室でひたすら書類と格闘している。
まだまだ後始末が残っていて、さすがの俺も少々疲れがみえた。
「団長、少しお休み下さい。我々が後を引き継ぎますので」
「・・・そうか? すまない。少し休むか」
軽く眉間をもみ、はあ、と溜息を吐いた。
「それにしても、今回は本当に九死に一生を得たな・・・」
「・・・ええ、本当に」
「さまざまな偶然が重なった結果、獣人国はおろか、この世界が救われた。いや、これは必然だったのだろうな。神の采配か」
「・・・心優しい方でしたね。リッカ殿」
「そうだな。あんなに苛酷な、死んだ方がマシと言えるような境遇にあってなお、歪まない魂を持っていて」
だがしかし。
「その心を支え続けたのは紛れもなく、エヴァだろうな。前々世からと聞いたときは驚いたが」
本当に敵に回らなくてよかった。
エヴァだけでも厄介なのに、『現人神』だったリッカが加わったら、世界なんて一瞬で終わってる。
しかし、リッカの人柄を知れば知るほど復讐など有り得ないと分かる。
あんな境遇の中でも、戦相手を殺さないように立ち回っていたらしい。
普通は出来ないぞ。
自分がたとえ死ににくいと知ってても、襲われれば咄嗟に反撃してしまうだろう。
心底優しい人だ。
これからうんとエヴァに幸せにして貰うといい。
眠る前に少し軽食を、と思い執務室から出て王宮内を歩いていたら、ノクトに出会った。
ノクトーーーノクティス・マグノリア・ルス。俺のすぐ上の兄。
第二王子で魔導士団の団長を務める。
俺と違って普段も真面目で人当たりもいいので、老若男女に好かれているが自覚が無い人だ。いわゆる天然。
「ライト、調子はどうだ?」
「ノクト兄上。ご無沙汰してます。少し軽食を取って休もうかと騎士団の食堂へ向かっているところです」
「・・・何時ものように砕けていいぞ。疲れているのだろう?」
「ハハ、じゃあ遠慮なく。ノクトはどうしてここへ?」
早々に猫を脱ぎ捨てて軽く聞く。
「何だ、心配したからとは思わないのか?」
心外だと言う風に返事が帰ってきた。
他愛もない話をしながら食堂へ行き、半個室のテーブルに着くと、取りあえず軽食を頼む。
団の食堂は夜勤や早、遅番の騎士の為に一日中稼働している。
料理が届いたタイミングで、ノクトが防音結界を張った。
やっぱりか、と思う。
ひとまず、シチューを口にし、ノクトをうかがう。
ノクトは紅茶を一口飲んだ後、逡巡して、静かに言葉を発した。
「・・・龍人国王弟の、エアヴァルト殿下の様子は、どうだった?」
口の中の食べ物を飲み込んで、応える。
「番殿を手に入れた途端、人が変わったように番殿を構い倒していたよ。番殿が置かれていた状況を知って、関係者全員殺そうとしていたが」
ノクトはギョッとしたが、気持ちは分かる。この「分かる」は双方の意味でだが。
殺してやりたいというエヴァの気持ちは同じく番を持つ獣人として当然俺も思う。
しかし、ノクトの気持ちも分かる。
お互いまだ番がいない状態だからか、そこまでは・・・という気持ちがある。
そもそも、Sランク冒険者で龍人。戦闘力は桁違いだ。その彼なら、言葉通りに全員どころか国一つ消す事なんて造作もないのだから。
「本当に、番殿には足を向けて寝られないよ。番殿の気持ち一つ、言葉一つで国どころか世界が消えていたのだから」
復讐のふの字も出なかった。
エヴァがいてくれればそれだけでいいと。
「番殿は異世界人で『現人神』だったと聞いたが」
「そうだね。召喚の際、肉体を失ったため慌てて神が力を込めすぎたということだが。そのせいで長く苦しんだが、おかげで番となるエヴァと巡り会えた。結果としてはよかったのかな」
ノクトが思案顔で呟く。
「番殿、リッカ殿といったか。一度お会いしたかったな。剣も魔法も凄いのだろう? 手合わせは無理でも、この目で見てみたかったな」
・・・ウン、そういえばこの人も結構な魔法馬鹿だったな。
「体術も凄いぞ。スタンピードの時はブラッディベアを殴る蹴るして吹き飛ばしていたから。しかも5歳児の体で。それでも首輪のせいで元々のスペックよりほど遠かったらしい」
あの時は衝撃的だったな。
「まあ、エヴァに連絡を取って、模擬戦でもして貰えば? 当分は無理だろうけど」
「・・・そうだな。蜜月だものな。こちらも色々後始末があるし、落ち着いた頃に打診してみるか」
そうそう。馬に蹴られて死にたくはない。
「何にしても、世界が終焉を迎えずに済んで本当によかった」
「だな!」
あの2人なら末永く世界を見守ってくれるだろう。
エヴァとリッカが龍人国に移動するのを見送り、部下数名と共に自分も王宮に戻った。
あの2人が龍人国へ帰る際、辺境伯邸の執事達が2名一緒についていったが、あの2人は内部告発をしてくれたあの時のヤツらだった。
あのエヴァからリッカの世話役をもぎ取ったと聞いたときは驚いたが、リッカの信頼を得たのだろう。
そのままリッカに尽くすつもりのようで、エヴァにも懇願して正式に雇ってもらったようだ。
あの2人は今回の事件解決の功労者だからな。
自覚なしに世界平和の一端を担った。
マジ感謝だな。
戻ってからは執務室でひたすら書類と格闘している。
まだまだ後始末が残っていて、さすがの俺も少々疲れがみえた。
「団長、少しお休み下さい。我々が後を引き継ぎますので」
「・・・そうか? すまない。少し休むか」
軽く眉間をもみ、はあ、と溜息を吐いた。
「それにしても、今回は本当に九死に一生を得たな・・・」
「・・・ええ、本当に」
「さまざまな偶然が重なった結果、獣人国はおろか、この世界が救われた。いや、これは必然だったのだろうな。神の采配か」
「・・・心優しい方でしたね。リッカ殿」
「そうだな。あんなに苛酷な、死んだ方がマシと言えるような境遇にあってなお、歪まない魂を持っていて」
だがしかし。
「その心を支え続けたのは紛れもなく、エヴァだろうな。前々世からと聞いたときは驚いたが」
本当に敵に回らなくてよかった。
エヴァだけでも厄介なのに、『現人神』だったリッカが加わったら、世界なんて一瞬で終わってる。
しかし、リッカの人柄を知れば知るほど復讐など有り得ないと分かる。
あんな境遇の中でも、戦相手を殺さないように立ち回っていたらしい。
普通は出来ないぞ。
自分がたとえ死ににくいと知ってても、襲われれば咄嗟に反撃してしまうだろう。
心底優しい人だ。
これからうんとエヴァに幸せにして貰うといい。
眠る前に少し軽食を、と思い執務室から出て王宮内を歩いていたら、ノクトに出会った。
ノクトーーーノクティス・マグノリア・ルス。俺のすぐ上の兄。
第二王子で魔導士団の団長を務める。
俺と違って普段も真面目で人当たりもいいので、老若男女に好かれているが自覚が無い人だ。いわゆる天然。
「ライト、調子はどうだ?」
「ノクト兄上。ご無沙汰してます。少し軽食を取って休もうかと騎士団の食堂へ向かっているところです」
「・・・何時ものように砕けていいぞ。疲れているのだろう?」
「ハハ、じゃあ遠慮なく。ノクトはどうしてここへ?」
早々に猫を脱ぎ捨てて軽く聞く。
「何だ、心配したからとは思わないのか?」
心外だと言う風に返事が帰ってきた。
他愛もない話をしながら食堂へ行き、半個室のテーブルに着くと、取りあえず軽食を頼む。
団の食堂は夜勤や早、遅番の騎士の為に一日中稼働している。
料理が届いたタイミングで、ノクトが防音結界を張った。
やっぱりか、と思う。
ひとまず、シチューを口にし、ノクトをうかがう。
ノクトは紅茶を一口飲んだ後、逡巡して、静かに言葉を発した。
「・・・龍人国王弟の、エアヴァルト殿下の様子は、どうだった?」
口の中の食べ物を飲み込んで、応える。
「番殿を手に入れた途端、人が変わったように番殿を構い倒していたよ。番殿が置かれていた状況を知って、関係者全員殺そうとしていたが」
ノクトはギョッとしたが、気持ちは分かる。この「分かる」は双方の意味でだが。
殺してやりたいというエヴァの気持ちは同じく番を持つ獣人として当然俺も思う。
しかし、ノクトの気持ちも分かる。
お互いまだ番がいない状態だからか、そこまでは・・・という気持ちがある。
そもそも、Sランク冒険者で龍人。戦闘力は桁違いだ。その彼なら、言葉通りに全員どころか国一つ消す事なんて造作もないのだから。
「本当に、番殿には足を向けて寝られないよ。番殿の気持ち一つ、言葉一つで国どころか世界が消えていたのだから」
復讐のふの字も出なかった。
エヴァがいてくれればそれだけでいいと。
「番殿は異世界人で『現人神』だったと聞いたが」
「そうだね。召喚の際、肉体を失ったため慌てて神が力を込めすぎたということだが。そのせいで長く苦しんだが、おかげで番となるエヴァと巡り会えた。結果としてはよかったのかな」
ノクトが思案顔で呟く。
「番殿、リッカ殿といったか。一度お会いしたかったな。剣も魔法も凄いのだろう? 手合わせは無理でも、この目で見てみたかったな」
・・・ウン、そういえばこの人も結構な魔法馬鹿だったな。
「体術も凄いぞ。スタンピードの時はブラッディベアを殴る蹴るして吹き飛ばしていたから。しかも5歳児の体で。それでも首輪のせいで元々のスペックよりほど遠かったらしい」
あの時は衝撃的だったな。
「まあ、エヴァに連絡を取って、模擬戦でもして貰えば? 当分は無理だろうけど」
「・・・そうだな。蜜月だものな。こちらも色々後始末があるし、落ち着いた頃に打診してみるか」
そうそう。馬に蹴られて死にたくはない。
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あの2人なら末永く世界を見守ってくれるだろう。
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