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飛べない妖精
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妖精族のリノは一族から出来損ないと言われて育った。
何故なら通常4枚ある羽が2枚しかなかったからだ。
妖精族は綺麗な土地に魔素が凝り固まって、永いときを経て自然発生する珍しい一族で。
大抵は大人の姿で生まれてそのまま過ごす。
容姿は皆美しく、男性体と女性体に分かれてはいるが、元々自然発生の生命体なので、生殖機能は働いていない。
魔素が尽きるか魔物等に食い殺されたりすれば消えてしまうが、そうなってもただの空気中の魔素になるだけだと、皆、消えることに恐怖はないようだ。
自由気ままに過ごしている片隅で、リノは小さな体をギュッと抱きしめていた。
リノは生まれたときから体が小さい。
人族でいうところの7歳くらいの大きさだ。
見た目も幼児。一応男性体だ。
髪は真っ白。肌も真っ白。瞳はシャボン玉のような、光の加減で虹色にきらきら光る。
出来損ないといわれる2枚の羽も虹色だ。
綺麗だが上手く飛べない。
己を浮かせるのが精いっぱいで、すいすい空を飛ぶなんて夢のまた夢・・・。
生まれるまでの魔素が少なかったのだろう。魔法もろくに使えない。
毎日ジッと座っているだけ。
体も疲れやすいのだ。
『僕は何で生まれてきたんだろう』
いつも思っていた。
居なくたって誰も気にしない。
それならここに居なくてもいいよね?
そう思ったらもう限界だった。
そっと立ち上がると、その場所を離れて森の奥へと歩いていた。
誰も見向きもしなかった。
飛べないから、休み休み歩いて、時折、果物をもいで食べた。
魔素を含む果物は美味しかった。
皆は空気中の魔素を吸収するが、リノは小さいからか余り吸収出来ない。
だから食べ物を口にする。
何日か経った。
だいぶ奥に来たと思う。
幸い、ここは聖域に近い。
魔物が近づく事もなかったので、リノはここに住もうと決めた。
綺麗な泉が湧く、ちょっと拓けた場所を選んで、そばに生えている綺麗な木の洞に体を潜り込ませて、休んだ。
生まれて何年かぶりの安息だった。
時々果物を食べ、綺麗な泉に浸かり、泉の水を飲みに来る動物達と仲良くなってのんびり午睡をする。
そんな日々を何年過ごしたのか。気付いたら体は15歳くらいの大きさになっていた。
びっくりした。
少し前、無性に眠くてしばらく眠っていたと思う。
少し前と言ってるが、何日か何ヶ月か、もしかして何年か寝たのかもしれない。
「成長出来た。やっと普通のサイズだ。嬉しいなあ」
残念ながら羽は2枚のままだったけれど。
そんなある日、日課の午睡中にふと暗い影が差した。
曇りや雨ももちろんあるが、こんな風に突然暗くなる事は無かったので、うとうとしていた意識がふっと浮上した。
いつの間にか、周りにいつもいるふわふわもふもふの動物達がいなくなっていて、代わりに濡羽色の長い黒髪を後ろで一纏めにした、蜂蜜色の瞳の美丈夫が立っていた。
「・・・だあれ?」
リノは寝起きの舌っ足らずな声で問いかける。
その美丈夫は、リノの問いかけには応えず、独り言のように呟いた。
「・・・・・・っ可愛すぎだろ、俺の番いは」
「? なあに?」
その人は、ぐはっと呻いたあと跪いてリノの手を取り、こう言った。
「俺の名はヴァルツ。竜人だ。君を探していた。愛しい俺の番い」
「・・・・・・つがい」
って何?
そう聞こうとしたら取られた手をぐっと持ち上げられて腰を抱き込まれた。
「俺達の巣へ行こう」
「・・・す?」
「ああ、飛んで行けばすぐだから」
「とんで・・・」
寝ぼけて覚醒していない頭でただオウム返しの返答をするリノに構わず、ヴァルツは背中から髪と同じ色の翼を広げて予備動作も無くふわっと飛び上がった。
さすがのリノも目が覚めて、慌ててヴァルツの首に手を回した。
それに気を良くしたのか、ヴァルツがにっこり笑う。
グングン高くなり、自分では到底上がれない高度まで上昇すると、今度は凄い速さで進み始めた。
怖い。
他の妖精ならこのくらい慣れていて何ともないのかもしれないが、リノは生まれてこのかた、ほとんど飛んだ事が無い。
気付いたらヴァルツの腕の中で気を失っていた。
ヴァルツがそれに気付いたのは、巣である自分の邸に戻って来てからだった。
慌てて寝室へ寝かせて侍医を呼び診てもらう。
「こんな華奢なお体なのに高速で飛んでいらしたのですか? 我々竜人とは体の造りが違うのですよ! 死んでしまいますぞ!」
「そ、そんな! だ、大丈夫なのか?!」
顔面蒼白のヴァルツに溜飲を下げた侍医は、優しく諭す。
「正式に番うまではガラス細工のようにそっと触れるのですぞ。この方は妖精族ですが、どうやらかなり弱いお体のようです。おそらく、魔素の吸収が弱いのでしょう。普通は大気の魔素の吸収で事足りるのですが、この方は食べ物で補っておられたようですな」
それに、と付け加える。
「羽が2枚しかございません。本来は4枚、妖精によっては6枚の者も居ります。・・・この羽ではおそらくほとんど飛べないのでは・・・」
「・・・まさか。それではあんな高さであの速度では怖い思いをしたのでは・・・なんて事だ」
ヴァルツがガクリと膝をついた。
そこへ側近のアルフがやって来た。
「何やってんですか、ヴァルツ様。頼まれたもの調べてきましたよ!」
のっそり立ち上がり、はい、と目の前に差し出された書類に目を通す。
「・・・俺の番いは辛い思いをしていたんだな」
番いの気配を感じてすぐにアルフと共に飛んでいった先で見たのは、動物達と午睡をする可愛い妖精。
しかし他に同族の気配が無く、独りきりだった。
気になってアルフに調査を頼んだのだが。
「少し前までは幼児の姿で羽も2枚、魔法はほとんど使えず、空も飛べない・・・」
再び膝をつくヴァルツ。
「・・・どうしたんです?」
仕方なくここにいる侍医に聞いてみると、先ほど高速で飛んで帰って、番い殿が意識を失っていたと。
「馬鹿ですかあんた。そんなことしたら妖精族じゃなくても失神するに決まってるでしょ!」
側近の俺に対する扱いが酷い。
自業自得だけども!
「俺の番いは『リノ』と言うんだな」
「・・・・・・は? 何を今初めて知った風な・・・まさか・・・・・・」
「・・・・・・聞き漏らした。巣に連れ帰るのに気をとられてて」
「はあっ?! まさかまさか本人の承諾なしに連れて来ちゃったんですか?!」
「・・・・・・」
まさかだよ!
もう舞い上がっちゃったんだもの!
仕方ないだろう!
「・・・侍医さん、ヴァルツ様の頭も診てもらっていいですか?」
「スマンのう、アルフ様。恋の病にはつける薬はないんじゃよ」
2人して深ーい溜息を吐いた。
だから主に対しての態度が酷すぎるっての!
何故なら通常4枚ある羽が2枚しかなかったからだ。
妖精族は綺麗な土地に魔素が凝り固まって、永いときを経て自然発生する珍しい一族で。
大抵は大人の姿で生まれてそのまま過ごす。
容姿は皆美しく、男性体と女性体に分かれてはいるが、元々自然発生の生命体なので、生殖機能は働いていない。
魔素が尽きるか魔物等に食い殺されたりすれば消えてしまうが、そうなってもただの空気中の魔素になるだけだと、皆、消えることに恐怖はないようだ。
自由気ままに過ごしている片隅で、リノは小さな体をギュッと抱きしめていた。
リノは生まれたときから体が小さい。
人族でいうところの7歳くらいの大きさだ。
見た目も幼児。一応男性体だ。
髪は真っ白。肌も真っ白。瞳はシャボン玉のような、光の加減で虹色にきらきら光る。
出来損ないといわれる2枚の羽も虹色だ。
綺麗だが上手く飛べない。
己を浮かせるのが精いっぱいで、すいすい空を飛ぶなんて夢のまた夢・・・。
生まれるまでの魔素が少なかったのだろう。魔法もろくに使えない。
毎日ジッと座っているだけ。
体も疲れやすいのだ。
『僕は何で生まれてきたんだろう』
いつも思っていた。
居なくたって誰も気にしない。
それならここに居なくてもいいよね?
そう思ったらもう限界だった。
そっと立ち上がると、その場所を離れて森の奥へと歩いていた。
誰も見向きもしなかった。
飛べないから、休み休み歩いて、時折、果物をもいで食べた。
魔素を含む果物は美味しかった。
皆は空気中の魔素を吸収するが、リノは小さいからか余り吸収出来ない。
だから食べ物を口にする。
何日か経った。
だいぶ奥に来たと思う。
幸い、ここは聖域に近い。
魔物が近づく事もなかったので、リノはここに住もうと決めた。
綺麗な泉が湧く、ちょっと拓けた場所を選んで、そばに生えている綺麗な木の洞に体を潜り込ませて、休んだ。
生まれて何年かぶりの安息だった。
時々果物を食べ、綺麗な泉に浸かり、泉の水を飲みに来る動物達と仲良くなってのんびり午睡をする。
そんな日々を何年過ごしたのか。気付いたら体は15歳くらいの大きさになっていた。
びっくりした。
少し前、無性に眠くてしばらく眠っていたと思う。
少し前と言ってるが、何日か何ヶ月か、もしかして何年か寝たのかもしれない。
「成長出来た。やっと普通のサイズだ。嬉しいなあ」
残念ながら羽は2枚のままだったけれど。
そんなある日、日課の午睡中にふと暗い影が差した。
曇りや雨ももちろんあるが、こんな風に突然暗くなる事は無かったので、うとうとしていた意識がふっと浮上した。
いつの間にか、周りにいつもいるふわふわもふもふの動物達がいなくなっていて、代わりに濡羽色の長い黒髪を後ろで一纏めにした、蜂蜜色の瞳の美丈夫が立っていた。
「・・・だあれ?」
リノは寝起きの舌っ足らずな声で問いかける。
その美丈夫は、リノの問いかけには応えず、独り言のように呟いた。
「・・・・・・っ可愛すぎだろ、俺の番いは」
「? なあに?」
その人は、ぐはっと呻いたあと跪いてリノの手を取り、こう言った。
「俺の名はヴァルツ。竜人だ。君を探していた。愛しい俺の番い」
「・・・・・・つがい」
って何?
そう聞こうとしたら取られた手をぐっと持ち上げられて腰を抱き込まれた。
「俺達の巣へ行こう」
「・・・す?」
「ああ、飛んで行けばすぐだから」
「とんで・・・」
寝ぼけて覚醒していない頭でただオウム返しの返答をするリノに構わず、ヴァルツは背中から髪と同じ色の翼を広げて予備動作も無くふわっと飛び上がった。
さすがのリノも目が覚めて、慌ててヴァルツの首に手を回した。
それに気を良くしたのか、ヴァルツがにっこり笑う。
グングン高くなり、自分では到底上がれない高度まで上昇すると、今度は凄い速さで進み始めた。
怖い。
他の妖精ならこのくらい慣れていて何ともないのかもしれないが、リノは生まれてこのかた、ほとんど飛んだ事が無い。
気付いたらヴァルツの腕の中で気を失っていた。
ヴァルツがそれに気付いたのは、巣である自分の邸に戻って来てからだった。
慌てて寝室へ寝かせて侍医を呼び診てもらう。
「こんな華奢なお体なのに高速で飛んでいらしたのですか? 我々竜人とは体の造りが違うのですよ! 死んでしまいますぞ!」
「そ、そんな! だ、大丈夫なのか?!」
顔面蒼白のヴァルツに溜飲を下げた侍医は、優しく諭す。
「正式に番うまではガラス細工のようにそっと触れるのですぞ。この方は妖精族ですが、どうやらかなり弱いお体のようです。おそらく、魔素の吸収が弱いのでしょう。普通は大気の魔素の吸収で事足りるのですが、この方は食べ物で補っておられたようですな」
それに、と付け加える。
「羽が2枚しかございません。本来は4枚、妖精によっては6枚の者も居ります。・・・この羽ではおそらくほとんど飛べないのでは・・・」
「・・・まさか。それではあんな高さであの速度では怖い思いをしたのでは・・・なんて事だ」
ヴァルツがガクリと膝をついた。
そこへ側近のアルフがやって来た。
「何やってんですか、ヴァルツ様。頼まれたもの調べてきましたよ!」
のっそり立ち上がり、はい、と目の前に差し出された書類に目を通す。
「・・・俺の番いは辛い思いをしていたんだな」
番いの気配を感じてすぐにアルフと共に飛んでいった先で見たのは、動物達と午睡をする可愛い妖精。
しかし他に同族の気配が無く、独りきりだった。
気になってアルフに調査を頼んだのだが。
「少し前までは幼児の姿で羽も2枚、魔法はほとんど使えず、空も飛べない・・・」
再び膝をつくヴァルツ。
「・・・どうしたんです?」
仕方なくここにいる侍医に聞いてみると、先ほど高速で飛んで帰って、番い殿が意識を失っていたと。
「馬鹿ですかあんた。そんなことしたら妖精族じゃなくても失神するに決まってるでしょ!」
側近の俺に対する扱いが酷い。
自業自得だけども!
「俺の番いは『リノ』と言うんだな」
「・・・・・・は? 何を今初めて知った風な・・・まさか・・・・・・」
「・・・・・・聞き漏らした。巣に連れ帰るのに気をとられてて」
「はあっ?! まさかまさか本人の承諾なしに連れて来ちゃったんですか?!」
「・・・・・・」
まさかだよ!
もう舞い上がっちゃったんだもの!
仕方ないだろう!
「・・・侍医さん、ヴァルツ様の頭も診てもらっていいですか?」
「スマンのう、アルフ様。恋の病にはつける薬はないんじゃよ」
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