優しい庭師の見る夢は

エウラ

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46 思い出せない過去と心の傷 1

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※最後の頃、ほんの少し暴力的な描写があります。ご注意下さい。





ぽすん・・・と、何か柔らかいモノに倒れ込んだ感触がして意識が浮上した。

それと同時に首筋に金属質な冷たい感触とカシャンという何かが嵌まる音にビクッとして目を開けると、目の前には無表情の10歳くらいの男の子がいた。

「・・・誰?」

樹希の問いかけには応えず、その子は無反応のまま目の前から転移して消えてしまった。

呆然としながら起き上がり辺りを見渡すと、どうやら天蓋付きのベッドの上で、知らない部屋だった。
窓はあるが、いわゆる嵌め殺しというタダの明かり取りの開閉しない小窓のみ。
扉は二つ。
一つは浴室とトイレがあるようだ。
もう一つはおそらく出入り口なのだろうが、鍵がかかっていて開かない。

仕方なくベッドに腰掛けた。

───何がどうしたんだっけ?

ロッジのテラスでごろごろとうたた寝をしていたんだよね。
それで気付いたらここで・・・。

「・・・まさか、誘拐された?」

ハッとして首に手をやると、チャリっと金属音がした。
それで樹希は、今、自分が魔法が使えない状態な事に気付いた。
そういえば精霊達も見えない。
さっきの子のように転移をしようとしても無理そうだった。
ピアスの転移魔法も作動しない。

・・・おそらく、この首輪に樹希自身の魔法と身に着けている魔導具の発動を封じる機能があるのだろう。

「───どうしよう・・・」

まさか精霊の森に入れて僕を攫うような人がいるとは思わなかった。
シュルツも影さんもいるからと、僕自身は何にも対策していなかったし。

「・・・シュルツ、心配してるよね」

あれだけ過保護な彼のことだ。
周りが止められないほどキレて暴れてるかも。

「───シュルツ・・・逢いたい。助けて・・・」

僕は抱えていたために一緒に転移してきたクッションをギュッと抱き締めた。

するとチチッと声が聞こえて、顔を上げると、目の前にドゥエのリスさんがいた。

「っ! 一緒に転移してきたの? そっか、じゃあ、きっと僕がどこにいるのか分かるよね? 助けに来てくれるよね?」
『チチッ』
「───うん、君がいてくれて嬉しいよ。独りじゃなかった・・・でも見つからないように気を付けてね」

こくっと頷くリスさんにホッと和んでいると、鍵を開ける音が聞こえて身を固くした。
リスさんは僕の首筋に潜り込んで、光学迷彩で姿を消す。

扉を固唾を吞んで凝視していると、見たことのない、でも懐かしい造りの顔が出て来た。

───うん、アジア系の顔だ。前世でよく見た、ありふれたあっさり顔だ。

だがしかし、何もなければただ単に『懐かしい』で済んでいたが、今現状を鑑みるにこの人達が樹希の誘拐犯達に違いないと思うので、今は恐怖しかない。

その中でひときわ偉そうな、でっぷりと肥え太った中年のややハゲたオジサンは、見た目通りここじゃあ偉い部類なんだろう。
侍従っぽい人にアレコレ言いながら樹希の側までやって来て、固まっている樹希に手を伸ばしてきた。

樹希が嫌悪感丸出しで身体を引いたのに反応してムッとしたあと、ニタリといやらしい顔で笑った。

───ひいいいぃっ!!

内心で悲鳴をあげて眉をひそめていると、面白そうにその男は言った。

「───フン。ここ数年で随分と顔に出るようになったな。以前のような人形みたいに何も反応しないエルフよりかはよっぽど良い」
「・・・・・・?」

樹希には全く面識は無いのに、以前の樹希を知っているかのような口振り・・・。

「多少抵抗があった方が楽しめるというものだ。───4年前にどうやったのか知らんが、奴隷商人アレの元から忽然と消え去ってくれて・・・。アレからずっと探って漸く見つけたと思ったら、精霊の森の【管理者】なんぞになりおって、手が出せなくなっていて忌々しい!」

その時の様子を思い出したのか、苛ついたように怒鳴った。
ビクッとする樹希に視線を戻して再びニヤニヤ笑う。

「何処まで本当なのか、密偵によれば貴様、竜人の番いだと? 其奴の家のモノに護られているというではないか。散々警告もされたが、はっはっはっ!! 出し抜いてやったわ! 奴隷の中に転移スキルを持つ者がいてなあ、其奴は儂の言うことしか聞けないように躾けてあるから、何の感情もなく精霊の森に入れたわ!!」
「・・・・・・奴隷・・・・・・じゃあ、あの子は・・・」

命令を熟すだけの道具のように・・・?

あの時の空虚な瞳は、そういうこと・・・。

「貴様もああなりたくなかったら、儂の言うことを聞いて儂を満足させてみよ。・・・・・・籠の鳥のようにな」
「───っ?!」

再び手を伸ばしてきたのにもの凄い嫌悪感を押さえきれず、手で払いのけようとすると、バチッと何かが弾けたような音がした。

驚いて目を瞠ると、ハゲたオジサンはよろけたのか尻餅をついたようだった。
顔を真っ赤にして再び唾を飛ばしながら怒鳴り込んで来て、今度は防ぐ間もなく襟首を鷲掴みにすると思いっきり引き裂いた。

「───ひっ!!」

釦が弾け飛び、胸元が晒されて樹希がカアッと赤くなる。
と同時に嫌悪感と言い知れぬ恐怖で、樹希はガタガタと震えていた。

そんな樹希を他所に、ハゲたオジサンは樹希の胸元を凝視して樹希とは反対に顔を真っ青にした。

「───ま、まさか・・・・・・そんな・・・・・・ほ、本当に・・・?!」

凝視する先にあるのは樹希の胸に刻まれたシュルツの色の竜の鱗の紋様。


───番いの証だった。








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