優しい庭師の見る夢は

エウラ

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100 執事長スミスの番い

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その日、私は運命に出会った。

公爵家当主ゼクス様の領内のとある孤児院の慰問に随伴した私は、いつもとは違う胸騒ぎを覚えていた。

領内の視察や孤児院慰問に向かうご当主様に随伴するのはこれが初めてではない。
だがこのような感覚は初めてであった。

そのため、些か動揺し、それがご当主様に気取られた。
執事長失格である。

「珍しいな、お前がその様な……うーむ……かな?」
「……は、その……申し訳ございません」
「よい。それならば、院長殿に話を通してみよう。もし、その者が人族であっても、きっと上手くやれるさ」

そう言って笑うご当主様に頭を下げ、私は孤児院に足を踏み入れた。

そこで出迎えた院長殿とシスター数人に紛れて、いた。私の運命の番いが。

おそらくもうじき成人を迎えるであろう、人族の少年。

そう、恐れていたとおりであった。

栗毛色の髪を顎先で揃えている。猫のようなアーモンド型の薄い水色の瞳に、小ぶりな唇。一見女の子に見える、可愛らしい少年だった。

人族は一八歳で成人を迎える。他種族と違って身体能力が低く、病気や怪我で亡くなりやすい。寿命も他種族と違っておおよそ八〇年。代わりに繁殖のために年中、妊娠可能とか。

ご当主様が色々と話をしているが、私は彼に釘付けだった。彼も視線に気付いて、私に微笑みかける。

──ぅ、いかん。何だこれは。皆、番いに出会うとこうなるのか!?

内心で悶えながら堪えていると、ご当主様が話を終えられたようだ。

「──スミス、彼はエリンといって、今年一五歳でここを出て就職先を探しているそうだ。それでうちの使用人見習いとして雇い入れようと思ったんだが、どうだ?」

そう話を振られて、私はご当主様を見た。

──いい提案だろう。

そう言っておられますね。はい、私も賛成でございます。

裏を読んで頷くと、ニコリと笑うご当主様。

「では、それでいいかな、院長殿、エリン」
「願ってもないことでございます!」
「ありがとうございます! 僕、頑張ります!」

ああ、僕って言うんですね。可愛いですね。

思わず私もニッコリ笑ってしまった。ご当主様にはニヤリとされましたが、もう、今日は構いませんとも。

「支度があるだろうから、後日、迎えを寄こそう。そのときはまた、彼が伺う。執事長のスミスだ」
「スミスです。よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします!」

こうして一通りの慰問を済ませると、帰路につく。
馬車の中で、ご当主様が呟いた。

「人族だったなあ」
「……そうでございますね」
「可愛い子だな」
「ええ。とても」

年齢よりも年下に見える。童顔なのだろう。

「……早く惚れさせて、番ってしまえ。人族は弱い。……寿命も……」
「……ええ。頑張りますとも」

我ら竜人と番えれば、寿命は竜人と同じにすることができる。そうすれば、大切に囲って、何事もなければ死ぬまで一緒に過ごせる。

番いの本能が薄い人族だから、あの手この手で絡め取って、私に惚れてもらわねば。そうでなくとも、私はすでに五〇〇歳を過ぎているのだ。外見も人族の初老くらいだろう。

こんな私に果たしてあんな若い子が惚れてくれるのか……。
そんな私の心情を読んだのか、ご当主様は笑って言った。

「初対面での印象は悪くなかったぞ。たぶん、お前に興味を持ってる。大丈夫だ」
「……だといいんですがねぇ」

こうして数日後に迎えに行くと、エリンはもじもじしながら私に言った。

「あの、一つお願いがあります。よろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
「……あの、僕……可愛い格好が好きで、えと、女の子の格好がしたいんです。頑張りますから、侍従じゃなくてメイドにしてください!」

そう言って頭を下げた彼に、一瞬、呆気にとられるも、すぐに声をかける。

「分かりました。大丈夫ですよ。仕事はお茶の準備や掃除など、メイドのものになりますが、よろしいですか?」
「っはい、その方が助かります! 僕、そういう仕事がしたかったんですけど、やっぱり男だから変って言われて……」

シュンと垂れる耳が見えるようです。本人はだいぶ気にされているのでしょうか。

「公爵家ではそういうことを言うものはおりませんし、気にしません。できることを覚えて頑張って下さい」
「ありがとうございます、スミス様!」

顔を上げて、ぱあっと笑うエリン。ぐはっと胸にクルものがあります。もちろん顔には出しませんとも。


───そして公爵家で男の娘のメイドとして、邸中の者から可愛がられて一年の見習い期間のあと、イツキ様がお邸に来られたときに使用人デビューを果たすエリン。

だいぶ私にも気を許してくれていますが、成人まであと二年あまり。

気長に待ちますよ。

でも早く、私に堕ちてきてくださいね。










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