28 / 30
【第三章】おいしいお菓子を食べたいな
28. 終わりよければ
しおりを挟む
帰国の途につく馬車の中で、モニカは荒れていた。
「この、役立たずな毒消し魔道具」
首からネックレスを引きちぎり、足で踏みつぶす。
「どうやったんだろう。意味がわからない」
ディミトリは両手首に巻いている毒消し魔道具を見て不思議がる。最高峰の魔道具だ。今まで一度だって裏切られたことはない。
「わたくしの、わたくしの素顔が見られてしまった。キイィィィ」
獣の断末魔のような金切り声に、ディミトリは耳をふさぐ。
「素顔もかわいいよ。年の割に」
モニカがいくつかは知らないけど。それは、ロシェル王国の触れてはならない謎のひとつとされている。ディミトリの適当な慰めは、モニカの耳に入らないようだ。そんなにわめくと、シワが増えるぞと、ディミトリは心の中でつぶやいた。
「味方を失い、心を折られた馬糞娘を連れて帰るつもりだったのに。わたくしのために馬車馬のように働かせるつもりだったのに。どうしてこうなってしまったの、イライラするわ」
「あちらの方が、一枚も二枚も上手だったってことだろうね。負けたんだ。まあ、あのかわいさには負けるよ」
ディミトリは、足を踏もうと一生懸命だったサブリナの踊りを思い出し、笑みがこぼれる。
「不愉快」
バシーンとモニカがディミトリの右頬を張る。
「顔はやめてよ。僕の商売道具なのに」
「役に立たなかったくせに」
「あの子はまだ子どもだから」
「あんただって、まだ坊やのくせに」
モニカの憎まれ口は聞き流し、サブリナの可憐さを思い出す。あと数年もたてば、誰もが振り向かずにいられないほどの美少女になるだろう。そのとき、もう一度挑戦してみようか。
「王子と令嬢にがっちり守られて、難攻不落かもしれない」
馬糞拾いの少女を、かの国の王侯貴族はなぜあそこまで愛するのだろうか。
答えはわかっている。不可能かと思われる難題でも果敢に挑戦する勇気。困難な状況でも、仲間と力を合わせて突破口を開く知恵。自分の、仲間の、王国の未来を変えようと、まっすぐ前を見続ける健気さ。それは、好きになるだろう。
「それに、あの子は僕の絵を買ってくれた」
幼いころから絵が好きだった。ロシェル王国の著名な画家の絵を模写すると褒められた。いつの頃だっただろう、自分が模写した絵が、他国に高く売りつけられていることを知ったのは。原作者への侮辱であるし、王子である自分を贋作者に貶めた恥辱に対して抗議したが、いい資金源だからと聞き入れられなかった。
絵描きなど、ロシェル王国の王族にとってはいくらでも代わりのきく存在なのだと。絵描きだけではない、末端の王子である自分も交換可能な消耗品なのだと、身に染みて知らされた。
せめてもの反抗に、それ以降は模写した絵には金のカギを描いておいた。これは、ただの贋作だと、誰かにわかってもらいたかった。
「著名な画家の絵の模写ではなく、僕自身が描いた絵を誰かに好きだと言ってもらいたかった」
ウォルフハート王国に着いたとき、軽い思いつきで自分の描いた青い鳥の絵を画商に持ち込んでみた。もちろん、変装して身分は隠した。ロシェル王国の王子の描いた絵だからではなく、絵そのものを気に入って誰かに買ってもらいたかった。
サブリナが、あの青い鳥の絵を宝物のように思ってくれていると知ったときは、全身が震えた。初めて誰かに認められた気がした。あの子のそばにいたい。あの子に、僕の他の絵も見てもらいたい。
鳥カゴから逃げ出したい自分と、鳥カゴに入りたくないサブリナ。僕たち、利害が一致するじゃないか、サブリナ。
「負け犬は去るのみだと思っていたけど、やっぱり気が変わった。モニカ、帰国はやめだ」
「はあ? あんた、何言ってるのよ」
「ロシェル王国に戻ったら、また金の鳥カゴの中だ。僕は、自由になりたい。モニカもそうだろう?」
「わかったような口をきかないでちょうだい。わたくしはいつだって自由よ」
「本当に? 上から言われて、好きでもないものにモニカセレクションの白鳥マークをつけてない?」
「うるさいわ」
モニカの平手がディミトリの左頬を狙う。打たれる前に、モニカの手をとらえた。
「モニカ。僕は知ってるよ。モニカだってあの子をおもしろいと思っただろう? ここまでモニカを手こずらせた子どもが未だかつていたかい? どうする? うかうかしていると、他国の王族にとられてしまうかもしれない。ウォルフハート王国はのんびりしてるからね」
モニカの目が光った。
「あんたの計画を聞いてやってもよくってよ」
モニカが悠然とほほえむ。
ディミトリは形のいい唇をゆっくり開く。
***
ドタバタがやっと落ち着いて、アタシは孤児院の院長室でやっとくつろいでいる。モニカ王女とディミトリ王子がいなくなるまで、安全のため王宮でかくまわれていたのだ。
「いやー、号外に二度も載ってしまったオレと君」
「ピエールさんってば、嬉しそう」
「だって、なかなかないことだよ。オレたち、すっごいよ」
ピエールさんはふたつの号外を見ながらニッコニコだ。ひとつは、最初のひどいパーティーの後に出たアタシがピエールさんの愛妾だという号外。もうひとつは、庭園パーティーの後に出た。ロシェル王国のモニカ王女がガセネタを新聞社につかませ、ウォルフハート王国に混乱をもたらしたという号外。ピエールさんの無実が証明された。こっちは、ジョーさんの署名記事だ。
ピエールさんはふたつの号外を額縁に入れ、どこに飾ろうか悩んでいる。
「それで、どうやったの? 早く教えてよ、ジョーさん」
あの日、秘密の通路から離宮内に入って来たジョーさん。アタシには薬の盛り方を教えてくれなかったんだ。知っちゃってると、アタシが挙動不審になってバレバレになるからだって。正しいけど、正しいけどさーーー。なんとかして薬を盛るから、ふたりをあおってくれって言われたアタシ、めちゃくちゃ大変だったんだよー。
「じゃあ、三択。薬はどこに仕込んだでしょう。一、スパークリングワイン。二、受付で渡したバラ。三、噴水の水」
「噴水の水? いや、さすがにそれはないでしょう。スパークリングワインは、確かモニカ王女はアレックス王子のグラスと取り換えたから、ってことは、え、バラなの? どうやって?」
「正解。だけど、不正解でもある。薬は、三つ全部に仕込んでたんだ」
「うわー、すっごい、すっごーい。詳しく、お願いします」
「いや、本当に大変だった。パイソン公爵閣下のところの優秀な魔道具師がいなかったら、もうどうにもならなかった」
向かいのソファーに座っているジョーさんが、長い足を組み替えながら、ため息まじりで言う。
「王族しか使えない最高級の毒消し魔道具を貸してもらって、サブリナの自白剤、じゃなかった黄色のクンツェの実を色んな濃度で試したんだ」
孤児院のチャリティーパーティーで前孤児院長とシュバイン子爵を追い込んだ黄色の実。パイソン公爵には効かなかったもんね。
「毒消し魔道具には探知されないぐらい毒性を抑え、でもじわじわ自白効果が出て来る。その微妙なさじ加減をみつけるのに、何人もの罪人を──」
「やっちゃったの?」
「いやいや、何人もの罪人を、喉がカラカラになるまで自白させた。あいつらの自叙伝が何冊でも書けるぐらい、全てを知ってしまった。別にそこまで知りたくなかったのに」
ジョーさんが遠い目をする。うわー、気の毒ー。
「毒性はすごく低いけど、アルコールと一緒に飲むと少し口が軽くなる濃度をみつけた。次に切り花をつける水に混ぜると、花の香からじわじわ効果があることもわかった。白バラは王族しか選ばないはずなので、白バラの水に薬を混ぜた」
「アレックス王子も白バラつけてたよね?」
「アレックス王子には事前に自白剤が効かなくなる別の薬を飲んでもらった」
「わー、手が込んでる。たいへんだったね」
「スパークリングワインもバラも効かなかった場合は、誰かがわざと噴水に落ちて、水をモニカ王女にかける計画だった。三つが揃えば、自白させられることはわかってたから」
「そっかー、アタシが落ちて、結果よかったんだね」
「サブリナは大活躍だったよ。よくやった。さすがサブリナ」
「えへへー、もっと褒めて」
「辛かっただろうに、本当にずっとがんばってきた。偉いと思う。尊敬するよ。君は立派な人間だ」
「ありがと」
褒められて、胸がほっこりする。アタシ、がんばったなー。
「サブリナー、迎えの馬車が来たぞー。パイソン公爵の家でお茶会するんだろ。急げ急げ」
ドアが開いてボビーがアタシを呼ぶ。
「あ、そうだった。今日はみんなでお祝いするんだった。行ってきます」
「楽しんできなさい」
ピエールさんとジョーさんが見送ってくれる。アタシはボビーと一緒に廊下を歩く。
「みんなもう嫌がらせされてないよね?」
「されてない、まったく。つーか、されたのもちょっとだけだぜ。ピエールさんとサブリナの悪口を街で言われたことあるけど、その場所はゴミも馬糞も片づけないことにしたんだ。そしたら、謝られた」
「剣よりもペンよりも馬糞が強いんだね」
「なんだそりゃ。まー、そうかもな。ピエールさんとサブリナのあることないこと書いた新聞社あったじゃん」
「ピエールさんとアタシのないことないこと、だけどね」
そこはしっかり訂正しておく。
「あー、わりい。あの新聞社の周りを馬糞で囲ってやったんだ。ざまあだろ」
「ざまあだね。訂正記事も載せさせたしね」
「まんまとモニカ王女に騙されやがって、あいつら」
「ホントだよ」
ピエールさんは号外を壁に飾ろうとしてるぐらい、気にしてないから、もう許してやるけどさ。あいつらー。
「じゃあ、女子会でいっぱいケーキ食べてきな」
「うん。お土産たくさんもらってくる」
「やったぜ」
ボビーに見送られて、パイソン公爵家の豪華な馬車に揺られる。楽しみだな。あの庭園パーティーからバタバタ続きで会えてないんだ。
ドキドキしながらパイソン公爵家を案内される。豪華で品のありまくるお茶会の部屋に入ると、もう三人が待っていた。
「みんな、久しぶり」
「待ってましたわ」
「会いたかった」
「お帰りなさいませ」
四人で手を取り合う。四人の手首で、シャラリと魔道具のチャームが揺れた。
「やっとお揃いが揃ったね」
「皆さま、がんばりましたわ」
「すっごくハラハラした」
「でも、冒険って感じがして楽しかったですわ」
四人が集まると、笑いが止まらなくなる。
「この、役立たずな毒消し魔道具」
首からネックレスを引きちぎり、足で踏みつぶす。
「どうやったんだろう。意味がわからない」
ディミトリは両手首に巻いている毒消し魔道具を見て不思議がる。最高峰の魔道具だ。今まで一度だって裏切られたことはない。
「わたくしの、わたくしの素顔が見られてしまった。キイィィィ」
獣の断末魔のような金切り声に、ディミトリは耳をふさぐ。
「素顔もかわいいよ。年の割に」
モニカがいくつかは知らないけど。それは、ロシェル王国の触れてはならない謎のひとつとされている。ディミトリの適当な慰めは、モニカの耳に入らないようだ。そんなにわめくと、シワが増えるぞと、ディミトリは心の中でつぶやいた。
「味方を失い、心を折られた馬糞娘を連れて帰るつもりだったのに。わたくしのために馬車馬のように働かせるつもりだったのに。どうしてこうなってしまったの、イライラするわ」
「あちらの方が、一枚も二枚も上手だったってことだろうね。負けたんだ。まあ、あのかわいさには負けるよ」
ディミトリは、足を踏もうと一生懸命だったサブリナの踊りを思い出し、笑みがこぼれる。
「不愉快」
バシーンとモニカがディミトリの右頬を張る。
「顔はやめてよ。僕の商売道具なのに」
「役に立たなかったくせに」
「あの子はまだ子どもだから」
「あんただって、まだ坊やのくせに」
モニカの憎まれ口は聞き流し、サブリナの可憐さを思い出す。あと数年もたてば、誰もが振り向かずにいられないほどの美少女になるだろう。そのとき、もう一度挑戦してみようか。
「王子と令嬢にがっちり守られて、難攻不落かもしれない」
馬糞拾いの少女を、かの国の王侯貴族はなぜあそこまで愛するのだろうか。
答えはわかっている。不可能かと思われる難題でも果敢に挑戦する勇気。困難な状況でも、仲間と力を合わせて突破口を開く知恵。自分の、仲間の、王国の未来を変えようと、まっすぐ前を見続ける健気さ。それは、好きになるだろう。
「それに、あの子は僕の絵を買ってくれた」
幼いころから絵が好きだった。ロシェル王国の著名な画家の絵を模写すると褒められた。いつの頃だっただろう、自分が模写した絵が、他国に高く売りつけられていることを知ったのは。原作者への侮辱であるし、王子である自分を贋作者に貶めた恥辱に対して抗議したが、いい資金源だからと聞き入れられなかった。
絵描きなど、ロシェル王国の王族にとってはいくらでも代わりのきく存在なのだと。絵描きだけではない、末端の王子である自分も交換可能な消耗品なのだと、身に染みて知らされた。
せめてもの反抗に、それ以降は模写した絵には金のカギを描いておいた。これは、ただの贋作だと、誰かにわかってもらいたかった。
「著名な画家の絵の模写ではなく、僕自身が描いた絵を誰かに好きだと言ってもらいたかった」
ウォルフハート王国に着いたとき、軽い思いつきで自分の描いた青い鳥の絵を画商に持ち込んでみた。もちろん、変装して身分は隠した。ロシェル王国の王子の描いた絵だからではなく、絵そのものを気に入って誰かに買ってもらいたかった。
サブリナが、あの青い鳥の絵を宝物のように思ってくれていると知ったときは、全身が震えた。初めて誰かに認められた気がした。あの子のそばにいたい。あの子に、僕の他の絵も見てもらいたい。
鳥カゴから逃げ出したい自分と、鳥カゴに入りたくないサブリナ。僕たち、利害が一致するじゃないか、サブリナ。
「負け犬は去るのみだと思っていたけど、やっぱり気が変わった。モニカ、帰国はやめだ」
「はあ? あんた、何言ってるのよ」
「ロシェル王国に戻ったら、また金の鳥カゴの中だ。僕は、自由になりたい。モニカもそうだろう?」
「わかったような口をきかないでちょうだい。わたくしはいつだって自由よ」
「本当に? 上から言われて、好きでもないものにモニカセレクションの白鳥マークをつけてない?」
「うるさいわ」
モニカの平手がディミトリの左頬を狙う。打たれる前に、モニカの手をとらえた。
「モニカ。僕は知ってるよ。モニカだってあの子をおもしろいと思っただろう? ここまでモニカを手こずらせた子どもが未だかつていたかい? どうする? うかうかしていると、他国の王族にとられてしまうかもしれない。ウォルフハート王国はのんびりしてるからね」
モニカの目が光った。
「あんたの計画を聞いてやってもよくってよ」
モニカが悠然とほほえむ。
ディミトリは形のいい唇をゆっくり開く。
***
ドタバタがやっと落ち着いて、アタシは孤児院の院長室でやっとくつろいでいる。モニカ王女とディミトリ王子がいなくなるまで、安全のため王宮でかくまわれていたのだ。
「いやー、号外に二度も載ってしまったオレと君」
「ピエールさんってば、嬉しそう」
「だって、なかなかないことだよ。オレたち、すっごいよ」
ピエールさんはふたつの号外を見ながらニッコニコだ。ひとつは、最初のひどいパーティーの後に出たアタシがピエールさんの愛妾だという号外。もうひとつは、庭園パーティーの後に出た。ロシェル王国のモニカ王女がガセネタを新聞社につかませ、ウォルフハート王国に混乱をもたらしたという号外。ピエールさんの無実が証明された。こっちは、ジョーさんの署名記事だ。
ピエールさんはふたつの号外を額縁に入れ、どこに飾ろうか悩んでいる。
「それで、どうやったの? 早く教えてよ、ジョーさん」
あの日、秘密の通路から離宮内に入って来たジョーさん。アタシには薬の盛り方を教えてくれなかったんだ。知っちゃってると、アタシが挙動不審になってバレバレになるからだって。正しいけど、正しいけどさーーー。なんとかして薬を盛るから、ふたりをあおってくれって言われたアタシ、めちゃくちゃ大変だったんだよー。
「じゃあ、三択。薬はどこに仕込んだでしょう。一、スパークリングワイン。二、受付で渡したバラ。三、噴水の水」
「噴水の水? いや、さすがにそれはないでしょう。スパークリングワインは、確かモニカ王女はアレックス王子のグラスと取り換えたから、ってことは、え、バラなの? どうやって?」
「正解。だけど、不正解でもある。薬は、三つ全部に仕込んでたんだ」
「うわー、すっごい、すっごーい。詳しく、お願いします」
「いや、本当に大変だった。パイソン公爵閣下のところの優秀な魔道具師がいなかったら、もうどうにもならなかった」
向かいのソファーに座っているジョーさんが、長い足を組み替えながら、ため息まじりで言う。
「王族しか使えない最高級の毒消し魔道具を貸してもらって、サブリナの自白剤、じゃなかった黄色のクンツェの実を色んな濃度で試したんだ」
孤児院のチャリティーパーティーで前孤児院長とシュバイン子爵を追い込んだ黄色の実。パイソン公爵には効かなかったもんね。
「毒消し魔道具には探知されないぐらい毒性を抑え、でもじわじわ自白効果が出て来る。その微妙なさじ加減をみつけるのに、何人もの罪人を──」
「やっちゃったの?」
「いやいや、何人もの罪人を、喉がカラカラになるまで自白させた。あいつらの自叙伝が何冊でも書けるぐらい、全てを知ってしまった。別にそこまで知りたくなかったのに」
ジョーさんが遠い目をする。うわー、気の毒ー。
「毒性はすごく低いけど、アルコールと一緒に飲むと少し口が軽くなる濃度をみつけた。次に切り花をつける水に混ぜると、花の香からじわじわ効果があることもわかった。白バラは王族しか選ばないはずなので、白バラの水に薬を混ぜた」
「アレックス王子も白バラつけてたよね?」
「アレックス王子には事前に自白剤が効かなくなる別の薬を飲んでもらった」
「わー、手が込んでる。たいへんだったね」
「スパークリングワインもバラも効かなかった場合は、誰かがわざと噴水に落ちて、水をモニカ王女にかける計画だった。三つが揃えば、自白させられることはわかってたから」
「そっかー、アタシが落ちて、結果よかったんだね」
「サブリナは大活躍だったよ。よくやった。さすがサブリナ」
「えへへー、もっと褒めて」
「辛かっただろうに、本当にずっとがんばってきた。偉いと思う。尊敬するよ。君は立派な人間だ」
「ありがと」
褒められて、胸がほっこりする。アタシ、がんばったなー。
「サブリナー、迎えの馬車が来たぞー。パイソン公爵の家でお茶会するんだろ。急げ急げ」
ドアが開いてボビーがアタシを呼ぶ。
「あ、そうだった。今日はみんなでお祝いするんだった。行ってきます」
「楽しんできなさい」
ピエールさんとジョーさんが見送ってくれる。アタシはボビーと一緒に廊下を歩く。
「みんなもう嫌がらせされてないよね?」
「されてない、まったく。つーか、されたのもちょっとだけだぜ。ピエールさんとサブリナの悪口を街で言われたことあるけど、その場所はゴミも馬糞も片づけないことにしたんだ。そしたら、謝られた」
「剣よりもペンよりも馬糞が強いんだね」
「なんだそりゃ。まー、そうかもな。ピエールさんとサブリナのあることないこと書いた新聞社あったじゃん」
「ピエールさんとアタシのないことないこと、だけどね」
そこはしっかり訂正しておく。
「あー、わりい。あの新聞社の周りを馬糞で囲ってやったんだ。ざまあだろ」
「ざまあだね。訂正記事も載せさせたしね」
「まんまとモニカ王女に騙されやがって、あいつら」
「ホントだよ」
ピエールさんは号外を壁に飾ろうとしてるぐらい、気にしてないから、もう許してやるけどさ。あいつらー。
「じゃあ、女子会でいっぱいケーキ食べてきな」
「うん。お土産たくさんもらってくる」
「やったぜ」
ボビーに見送られて、パイソン公爵家の豪華な馬車に揺られる。楽しみだな。あの庭園パーティーからバタバタ続きで会えてないんだ。
ドキドキしながらパイソン公爵家を案内される。豪華で品のありまくるお茶会の部屋に入ると、もう三人が待っていた。
「みんな、久しぶり」
「待ってましたわ」
「会いたかった」
「お帰りなさいませ」
四人で手を取り合う。四人の手首で、シャラリと魔道具のチャームが揺れた。
「やっとお揃いが揃ったね」
「皆さま、がんばりましたわ」
「すっごくハラハラした」
「でも、冒険って感じがして楽しかったですわ」
四人が集まると、笑いが止まらなくなる。
38
あなたにおすすめの小説
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さくら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。
さくら
恋愛
私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。
そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。
王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。
私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。
――でも、それは間違いだった。
辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。
やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。
王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。
無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。
裏切りから始まる癒しの恋。
厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。
騎士団の繕い係
あかね
ファンタジー
クレアは城のお針子だ。そこそこ腕はあると自負しているが、ある日やらかしてしまった。その結果の罰則として針子部屋を出て色々なところの繕い物をすることになった。あちこちをめぐって最終的に行きついたのは騎士団。花形を譲って久しいが消えることもないもの。クレアはそこで繕い物をしている人に出会うのだが。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
私の容姿は中の下だと、婚約者が話していたのを小耳に挟んでしまいました
山田ランチ
恋愛
想い合う二人のすれ違いラブストーリー。
※以前掲載しておりましたものを、加筆の為再投稿致しました。お読み下さっていた方は重複しますので、ご注意下さいませ。
コレット・ロシニョール 侯爵家令嬢。ジャンの双子の姉。
ジャン・ロシニョール 侯爵家嫡男。コレットの双子の弟。
トリスタン・デュボワ 公爵家嫡男。コレットの婚約者。
クレマン・ルゥセーブル・ジハァーウ、王太子。
シモン・グレンツェ 辺境伯家嫡男。コレットの従兄。
ルネ ロシニョール家の侍女でコレット付き。
シルヴィー・ペレス 子爵令嬢。
〈あらすじ〉
コレットは愛しの婚約者が自分の容姿について話しているのを聞いてしまう。このまま大好きな婚約者のそばにいれば疎まれてしまうと思ったコレットは、親類の領地へ向かう事に。そこで新しい商売を始めたコレットは、知らない間に国の重要人物になってしまう。そしてトリスタンにも女性の影が見え隠れして……。
ジレジレ、すれ違いラブストーリー
完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる