そんな未来はお断り! ~未来が見える少女サブリナはこつこつ暗躍で成り上がる~

みねバイヤーン

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【第三章】おいしいお菓子を食べたいな

29. ピクニック

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 今日はピクニック。前孤児院長とシュバイン子爵を追い詰めたあとの、最初の号外。あのときジョーさんに「号外のお礼はなにがいい?」って聞かれて、アタシは欲しいものが思いつかなかったんだよね。だから、ジョーさんと五人組でピクニックしたいって言ったんだ。他の子たちも、ものよりピクニックの方がいいって言ったの。

 それ以来、ジョーさんはアタシたちを何度もピクニックに連れて行ってくれた。

「今日は絶好のピクニック日和だなー」

 ジョーさんが馬の上からのんびり言う。馬の隣には、もちろんネイト。
 アタシたちはオリーが引いてくれる荷車に乗ってる。いつもの光景。 

 今日は湖のほとりでピクニック。ウォルフハート王国の人気デート場所だから、カップルもたくさんいる。乾いた草の上に毛布をたくさん敷いて、バスケットの中身を出していく。フワフワパン、チーズ、ソーセージ、小さく切った野菜、、お菓子もいっぱい。

「たき火できたぞー」
「わーい。火であぶるとなんでもおいしくなるよねー」
「オレはソーセージをあぶる」
「アタシはじゃがいも。焼けたじゃがいもにチーズのっけるんだ」
「それ、絶対うまいやつじゃん」

 あちあち言いながら、あぶっては食べる。

「外で食べると、なんでもすっごくおいしくなる気がする」
「景色がいいしね」
「仕事休みだしさ」
「色々あった後だしな」
「またみんなとピクニックこれてよかったー」

 離宮も王宮もキレイだし、掃除も洗濯もお皿洗いもしなくていいんだけど。やっぱりアタシは孤児院の方がいい。豪華な部屋では息がうまくできないもん。孤児院ならのびのびできる。ぐっすり眠れる。

 お腹がいっぱいになったら、ネイトに木の枝を投げる。ボビーが枝を持つと、ネイトは目を輝かせて、投げられた瞬間に矢のように走り出す。でも、アタシが枝を持つと、ペタッと腹ばいになっちゃう。

「ちょっとー、ネイトってば。真面目にやってよ」
 アタシが文句を言うと、仕方ないですね、みたいな表情でネイトは起き上がる。

「えいっ」
 渾身の力で枝を投げる。

「あれ?」
 枝は、すぐ足元に落ちた。ネイトが一歩も動かず枝をくわえて、アタシに渡してくれる。

「なんか、ごめん」
 ボビーたちがお腹を抱えて笑っている。

 気を取り直してもう一回投げようと枝を構えると、急にネイトが遠くを見てうなり始めた。
 ネイトのうなり声なんて、初めて聞く。
 目の前が真っ黒になった。いつの間にかオリーがアタシの前に立ってる。

「なに? オリー、ネイト、どうした?」
 不安になって聞いていると、後ろから声がかかる。

「サブリナ、ちょっとオリーの背中に乗っててもらえる? 持ち上げるよ」
 ジョーさんに軽々抱えあげられて、オリーの背中に乗せられた。
「向こうから誰か来る」

 ジョーさんの指す方向を見ると、白馬が滑らかな動きでこちらに走ってきている。白馬の上には、真っ白なふたり。

「ギャー」
 ディミトリ王子とモニカ王女ー。白馬が似合いすぎるー。でも、会いたくないー。

「ギャー」
 アタシはもう一度叫んでしまった。

「サブリナ、落ち着いて。やばそうだったら、オリーに走ってもらうから。しっかりつかまってるんだよ」

 ジョーさんに言われて、オリーのフサフサの毛をしっかり握る。

 アタシたちの少し先に止まった白馬から、ディミトリ王子がトンッと降り立つ。ディミトリ王子に助けられて、モニカ王女も降りた。

「君たちに悪さをするつもりはない。ほら、この通り」
 ディミトリ王子がポケットから取り出した白旗を振る。

「ほら、モニカも振って」
 ディミトリ王子に言われて、モニカ王女も白旗を振った。

「降参だ。申し訳なかった。許してほしい。サブリナの友だちになりたくて、戻ってきたんだ。話を聞いてくれないか」

 どうしよう。ジョーさんを見ると、「聞くぐらいならいいんじゃないか」と言われたので、ディミトリ王子を向いてうなずく。

「まず、贈り物を受け取ってもらえないだろうか。僕とモニカの共作レシピ集だ」

 ディミトリ王子が合図をすると、後ろの方にいた侍従らしき人が本を掲げてゆっくりと歩いてくる。ジョーさんが受け取ってパラパラとめくり、眉毛を上げる。

「これは、すごいな。サブリナ、見てみるかい?」
「うん」

 ジョーさんから本を受け取る。とても豪華な装丁だ。表紙には金色の線がいくつも描かれている。表紙をめくると、庭園パーティーでアタシが胸に受け止めたマカロンの絵。ころんとしてかわいらしい。材料と作り方が美しい手跡で書かれてある。

 次のページには王冠みたいなお菓子。茶色くてピカッと光っていてたくさん溝がついている。カヌレって名前だって。おいしそう。

 次は葉っぱの模様みたいなパイ。王様のガレットだって。パイは大好き。どんな味だろう。

 めくるたびに、おいしそうな絵と詳しいレシピがある。夢の中でも見たことがない、お菓子ばかりだ。

「おいしそう」
「おいしくてよ。ロシェル王国でも超一流の、わたくしの専属パティシェのレシピですもの」

 白旗を掲げたモニカ王女がツーンと鼻をそらしながら言う。

「モニカ、今日は偉そうな態度は封印する約束だったろう」
「あら、これがわたくしのせいいっぱいよ」

 モニカ王女はディミトリ王子から顔をそむけて、またツーンとした。

「モニカ、とにかくひと言でいいから謝って。さあ、僕のあとに続いて」
「ご」
「──ご」

「め」
「──め」

「んなさい」
「──んなさい」

 いったい何を見せられているんだろうか。なんだか頭痛がする。でも、これがモニカ王女のせいいっぱいのお詫びだということは、よくよくよーくわかった。

「すまない、サブリナ。これで気が済むとは思えないけど、一度も謝ったことがないモニカからすれば、これで最大限なんだ。ごめんね」

 モニカ王女が口をとがらせている。よっぽど不本意だったみたい。なんなんだ。
 モニカ王女はアタシを見て、真っ赤になった頬をふくらませてから、ほんのちょこーっとだけ頭を下げた。

「悪かったわよ。それで、許してくれるわけ? 見なさいよ、わたくしの美しい指にペンだこができてしまったのよ」

 モニカ王女が手袋をとって、指を見せてくる。真っ白な指に、赤いペンだこができていた。

「えーっと?」
 ペンだこを見せびらかされる意味がわからなくて首をかしげると、モニカ王女が右眉をキリリと上げた。

「鈍いわね。レシピを書いたのは誰だと思っているの? このわたくしよ。ロシェル王国の最も優美な白鳥と称えられるわたくしよ。わたくしが選んだものは、モニカセレクションと呼ばれて、モニカ売れする、大人気の王女よ。字なんて、恋文でしか書いたことがないのに」
「えー」

 この美麗な文字をモニカ王女が? 何ページもあるレシピ集なのに。めっちゃくちゃ大変じゃん。

「コホン」
 ディミトリ王子がわざとらしく咳払いする。目を向けると、誇らしそうに胸をそらしている。

「絵は僕が描いた」
「え、えええーー」

 それは、本当に、心の底からビックリだよ。ディミトリ王子ってば、身分も高くて、見た目もよくて、その上に絵まで描けるわけ? え、神さま? 天は二物を与えずって言ってませんでしたっけ? アタシなんて顔しかいいとこなくて、裁縫もスリも枝投げもできませんけど? どういうこと?

「コホン」
 またディミトリ王子の咳払い。またなの? なにこの人、なんだかモジモジしてない?

「裏表紙を見てくれないかな」
「裏表紙?」

 裏返すと、金色の扉に載った青い鳥。この青い鳥、アタシがピエールさんに買ってもらった絵と同じ。

「まさか」
「サブリナは、僕の絵を始めて買ってくれた大切な人だ。悪さはしないから、そばにいさせてくれないかな。僕の絵を見て感想を言ってくれるだけでもいい」
「なんてこった」

 そんな偶然ってある? え、これが運命の出会いってやつ? いやいやいや、無理無理無理。王子様は絶対なし。

「婚約も結婚もしない、ただのお友だちなら、いいかなー」
 どうだろう。ジョーさんを見ると、うんうんと頷いてる。ボビーたちも後ろで「それならいんじゃね」って言ってる。

「ただのお友だちならいいような気もするけど、ピエールさんたちにも相談しようかな」
 ジョーさんを見ると、もっと深くうなずかれた。ボビーたちも「正しい」って後押ししてくれる。

「じゃあ、一旦保留でお願いします」
「手ごわい」
「生意気ね」
「ちょっと、モニカ」

 ディミトリ王子がモニカ王女の口を押える。
 このふたり、思ってたよりおもしろい王族なのかも? オリーの背中の上で、豪華なレシピ集を手に、アタシは混乱しまくっていた。
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