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40 ラーラ・ハンナバルト ②
しおりを挟む「あ、あの、ええと……ヘルムート様はその、お忙しくて……! 多分ちょっとお忘れになっただけかと!」
「……お兄様が? 私を……お忘れになった……?」
従者のヴィムは取り繕うようにわたわたとそう言ったが……。彼の言葉では、ラーラの戸惑いは拭い去ることはできなかったらしかった。
令嬢は、とても驚いたのか呆然としている。
──仕方ない。
これまで彼女の兄ヘルムートは、何をおいても妹を優先し、大切にしてきた。
それは実母のいないラーラの母親代わりのように。実父にぞんざいに扱われる彼女の父親代わりのように。とにかく甲斐甲斐しく面倒を見てきたのである。
だから毎年彼女の誕生日の前ともなると、ヘルムートは何日も前からラーラを喜ばせるために奔走していたし、祝いを忘れたことなど一度もない。
それが……今年はその誕生日を目前にして家に戻ってこないばかりか、事情を説明する手紙すらないという。
兄が今いるはずの都市シュロスメリッサは、ここ王都からはかなり遠い。そこから一日二日で戻れないことを考えても、兄はきっと彼女の誕生日に間に合わないのに。
ラーラはもしかして……と、不安そうな顔になる。
「お兄様……どこかお加減でも悪いの……? まさか……お怪我でもなさった⁉︎」
ラーラからすると、そうでもなければ、あの兄が自分を放っておくはずがないと思った。
ゆえに彼女はヴィムにそう尋ねた、の、だが……。
令嬢が悲しく縋り付くような顔をしたのを見たヴィムは、咄嗟に令嬢が泣いてしまうのではと慌ててしまい。思わず、大きな声で「そ、それはありません!」と、力一杯断言してしまった……。
と、令嬢は余計に困惑した様子で。
「……そう、なの……?」
どこか傷ついたようなその表情を見たヴィムは、しまったと青くなる。
ここは嘘でも『そうなんです、兄上様はちょっとお疲れ気味で……』とかなんとか誤魔化しておいたほうが令嬢を傷つけなかったかもしれない。
案の定、すっかり表情を曇らせてしまった令嬢にヴィムはさらに慌てる。
彼女にとって兄は幼い頃から自分を溺愛し、味方で当たり前の存在。きっとその戸惑いは深い。
「あ! あ! で、でも! ラーラ様への贈り物やお土産の品は山のように預かっておりますよ!」
「…………そうなの……?」
慌てたヴィムがそう慰めると、彼女は少しだけ気持ちを持ち直したのか、ため息混じりにわかったわとつぶやく。
「……そうなのね、残念だけど……お兄様にもご事情があるのだから仕方ないわね……。私、お兄様に手紙を書いてみるわ……ヴィム、持っていってくれる?」
悲しそうに言われたヴィムは、ぶんぶんと頭を縦に振る。
しかし令嬢の落胆は明らかで。
青年は、彼女を悲しませる原因を作った主人ヘルムートと、その彼が現在夢中になっている娘を若干恨めしく思うのだった。
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