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しおりを挟む不整脈(?)がおさまったあと。
グステルは店の表に“休憩中”の札を出し、青年に椅子を進め、深―く深く深呼吸をしてから。改めて、ヘルムートと対峙した。
店の中の作業台に向かい合って座り、覚悟を持って青年を見上げると、ヘルムートもそんなグステルの様子に何かを感じたのか、さすがに緊張の面持ち。
グステルは、彼の端正な顔を射るように見ながら、背筋を伸ばして問う。ここは、年長者の威厳を見せねばならぬと意気込んだ。
「あの……率直にお聞きますが……これはもしかして……何某の脅しか何かですか⁉︎」
「? 脅し?」
「もしくは、監視? もしかして……公爵に頼まれたのですか⁉︎ 娘疑惑をかけられた私が、どこかへ逃げないように⁉︎」
真剣に尋ねると、ヘルムートは一瞬瞳をぱちぱちと瞬かせている。
もうあれから七日経った。
ということは、彼があの直後に王都に報せを送ってしまっていたら、早馬ならもう返事が返ってきていてもおかしくはない。
「あの件については否定致しましたよね? 私は、メントライン嬢ではありません。そのような嫌疑をかけられては困るのです! だって私は一人で自分と猫を養っている身です。ただでさえ身よりもなく我が身だけで頑張っているのに……貴族の方々の疑いの目まで向けられてはストレスでぬいぐるみを縫う針を持つ手も狂ってしまいます!」
そう語気を強めて訴えると──なぜだヘルムートはカッと目を見開いて渋面。苦いものでも食べたかのような顔になった青年は眉間を指で摘んで横を向く。(※泣きそう)
それを見たグステルはまたギョッとする。
(──何⁉︎ 怒ってるの⁉︎ 呆れているの⁉︎)
それはグステルの目には、『ふー……この庶民の女はなんて厚かましい……貴族の自分がなぜ庶民の言葉を聞かねばならぬのか……』という表情に見えた。
なにせ、転生者であるグステルが実際に出会ってしっかり交流したことのある貴族は父や母と兄、そしてイザベル嬢のみ。
ゆえに、ほぼわがままで高慢な貴族としか接触したことのないグステルにとって、貴族はそのようなものなのである。
──だからグステルは、負けん気を発揮した。
(それで私が怯むと思ったら大間違いですよお坊ちゃん。こっちは“悪役令嬢”予定者、しかも精神年齢は既にシニアなんですから……)
ここは、少し厚かましいくらいで行きたいところとグステルは不敵に笑う。
「とにかく、今すぐこの包囲網を解いてください、迷惑なんです」
キッパリ言うと、ヘルムートがやっと彼女を見た。グステルはその視線をしっかりと迎え撃つ。
──が。
残念なことに、彼女は彼の性格を見誤っていた。
……まさか、この渋い顔の下で、自分に対する彼の同情心がいっそう加速していたなんて思いもしない。
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