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しおりを挟むじっと決断を迫るように見つめていると、ヘルムートが息を吐く。長く、冷静さを取り戻そうとするような深呼吸。
「あの……何か……誤解があるようです」
ヘルムートは端正な顔を引き締めて、努めて冷静に、静かにそう言った。(※そうしないと泣く)
「私は、あなたを脅しも、監視もしていません。それに、公爵にも何もお知らせしていません」
その言葉には、グステルは一瞬無言。
「……、…………え? そ、そう……なんですか……?」
これにはグステルは戸惑った。
では、なぜ彼はここにくるのだろうかと考えて、恐る恐る尋ねる。
「でも……あなたは私が絶対に“グステル・メントライン”だと断言しておいででしたよね……? いえ、もちろん違うのですが」
先日彼は、今にも父に報告に駆け出しそうな勢いだったから、その言葉をにわかには信じがたくて。怪訝な思いで尋ねると、ヘルムートはしっかりと彼女の目を見ていう。
瞳の奥まで深く覗き込むようなまっすぐな視線にグステルは少し身構える。
「確信はしています。でも……ご実家への連絡は、あなたがお嫌そうだったので控えました」
「……」
彼の語った理由に、グステルは少しだけ驚いた。と、青年は穏やかに続ける。
「自分のことを勝手に推測して決めつけるなとおっしゃったでしょう? その通りだと思いました。ですから……いかに子を失ったお父君があなたを一日千秋の思いでお待ちであろうと、まずは、当事者であるあなたの気持ちを優先すべきかと思いました。幼い頃に連れ去れられ、一番つらい思いをなさったのは、あなたでしょうから」
静かに慈しむような視線を向けられて。シニアパワーで彼を強引にでも押し切ろうと思っていたグステルは……大いに戸惑った。想定外の、思いやりである。
「え……? で、では……毎日毎日ここへおいでになるのは……? 脅しでも監視でもないのでしたら……なんですか……?」
ぽかんとした顔でグステルが尋ねると、不意にヘルムートの顔が僅かに赤らむ。
「そ、それは……もちろんこうしてあなたと話をしたかったからです。相手のことを知らなければ、人間は結局憶測でものを考えてしまいます。ですから……」
「話……」
青年は少し照れたような表情になって、ただ真剣さはそのままに続ける。
「あなたの事情を知りたかったのです。あなたがどうしてもとおっしゃるので、“ステラ”とお呼びしていますが……あなたがお忘れになっていても、あなたは間違いなく、グステル嬢です。それは、絶対です」
その断言には、そこだけは譲れないという否定を寄せ付けない彼の確信を感じた。
ヘルムートの瞳を見ていたグステルは、つい唸る。
とにかく、どうやら彼は、彼女が思っていたよりずっと自分に気を遣っていてくれていたらしいと察した。
しかし、それはありがたいが……家に戻りたくないグステルからすると、彼のこの確信は困る。
どうしたら、彼に『自分は別人』だと納得し、ここへ来ないようにしてもらえるのだろうか。
そもそも、彼はどうして自分がグステルだと見抜いたのだろう。
そんな疑問を抱いていると、青年が言う。
「……ですから、私がここにくることはお許し願いたい。まずはあなた自身のことを思い出して欲しいのです。そして……」
──私を思い出してもらえれば……。
「……え? なんですか?」
青年の最後の言葉はとても小さくて。聞こえなかったグステルは彼を見てもう一度言ってくれないかと頼む。
「すみません、聞こえませんでした、今なんと……?」
しかしヘルムートはただ笑うばかり。
「いえ、なんでもありません」
「?」
その表情が寂しそうに見えて。グステルは少し不思議に思った。
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