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153 高慢な兄のつかいどころ
しおりを挟む顔を引きつらせる叔母に、フリードは、ギロリと無情な視線を浴びせる。
「何か文句でも?」
大男のまなざしは鋭いが、しかしこちらも彼と同じメントライン家の血を引く女性。高慢さでは負けてはいなかった。
甥の無礼な態度には、グリゼルダも顔にしわを寄せて憤慨。
彼女には本日、午後から複数の来客がある予定。と、いっても、もちろん準備に忙しいのは使用人たちだけで、彼女自身はそれまで優雅に過ごす予定だったのだが。
しかし、この存在自体が騒々しい甥がいては、邸の中がひっかきまわされてしまうのは明らか。
せっかく“美しく”贅を凝らした邸を見せびらかそうと思っていたのに。これでは台無しになってしまうと、グリゼルダ。
「あ、あ、あなたねぇ、こっちにも都合というものがあるのよ! いくらあなたがこの家の嫡男だからって、叔母であるわたくしにも敬意を──」
「その通り、我この家の嫡男ぞ。で? 文句が?」
「………………」
必死の抗議を一蹴されグリゼルダは唖然。
フリードは、そのままふんぞり返って部屋の中の主の椅子に座った。
こうも堂々と上から来られると、さすがの彼女も額に青筋を浮かべながらも返す言葉がない。
我が物顔過ぎる嫡男には、グリゼルダの執事も使用人たちも、皆戸惑いつつ道を開けるしかなかったようだ。
フリードは、大きな肘掛椅子の背もたれに身を預け、ふんと、鼻を鳴らす。
「これから数日この家で過ごす」
「⁉ いやよ!」
グリゼルダは即座に叫んだが、フリードは聞く価値もないという顔であたりを眺めている。
「まさか──俺様の部屋まで勝手に内装を変えたりしておらぬだろうな……?」
フリードは、不機嫌そうに居間の黄金地に百花が咲き乱れるという派手な壁紙を睨む。
窓枠を豪奢に飾る分厚いフリンジカーテンは、深い緑に金縁。模様はピンクの薔薇で、端には等間隔に金糸でできたフリンジがあしらわれている。
そのあまりセンスがいいとは言い難い内装を、うんざりとした視線で見ていた甥に尋ねられたグリゼルダは、ギクリと肩を揺らした。
「あ……あらだって……あ、あなたはもうずいぶん長いことあの部屋を使っていなかったでしょう? これからだだってしばらくは使う予定はないのだし、だったら……」
「……変えたんだな?」
「……、……、……」
変えたどころか、グリゼルダはこの邸で二番目に上等なその部屋を、もっとこの甥が激怒しそうな使い方をしていた叔母は沈黙。
その態度に目を細めたフリードは、忌々し気に舌を打つ。
「ち! マリー!」
「!」
フリードの剣幕にグリゼルダが恐々と身をすくめていると。そこに、甥に呼ばれた誰かがやってくる。
「お呼びですかご主人様」
物腰低くやってきたのは、フリードが伴ってきたお付きの一人。
琥珀色の髪で、瞳の色は分厚い眼鏡のレンズに阻まれてよくわからない。黒縁の眼鏡のふちは太く、髪を後ろで馬の尾のように結び、メントライン家の使用人用のお仕着せを着ている。
その娘を見た瞬間、一瞬フリードの瞳が心配そうな色をにじませたが──誰もそれには気が付かなかった。
フリードは、彼女に命じた。
「こんなバカげた内装ではくつろげん! 邸内を俺様好みにすべて設え直させる。お前、邸の中をすべて点検してこい! 業者も手配しろ!」
「え⁉」
「かしこまりました」
命じられた娘は、グリゼルダの悲鳴のような声をよそに、フリードに一礼するとそそくさと居間を出ていった。
驚愕したのはグリゼルダだ。彼女を守るように付き添っていたこの邸の執事もギョッとしている。
「な、なに言ってるのフリード! あ、あなた、ここにはたった数日しかいないんでしょう⁉ 勤務領に戻らなくては……ちょ、ちょっと聞いてるのフリード⁉」
詰め寄る叔母にも、フリードはどこ吹く風。
「さぁて、叔母上、俺様の“妹”はどこだ?」
「グ、グステル、な、ら……今は外出していて……」
急な問いに叔母が戸惑いつつ返すと、途端、フリードの瞳がカッと見開かれる。
「なんだと⁉」
「ひ⁉」
「この俺様がせっかく足を運んでやったというのに、それを無視して外出とはいい気なものだ……おいそこの執事! 貴様、さっさと妹を呼び戻してこい!」
「は、はい!」
嫡男の無茶で身勝手な怒号を向けられた執事は、慌てて部屋を飛び出ていく。……おそらく、彼自身さっさとこの暴君の前から逃げたかった。
一人残されたグリゼルダは、途方に暮れたような顔で絶句している。
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