【コミカライズ企画進行中】ヒロインのシスコンお兄様は、悪役令嬢を溺愛してはいけません!

あきのみどり

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152 痛恨の極み

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 本当は……グステルには、彼の怪我のこと以外にも、ヘルムートとは話したいことがあった、が……。

 現状を把握するのが先と、ゆっくりできないことを理由に、グステルはなんとなくその話題を口にするのをためらっていた。
 落ち着いてでないと、とても話せない。
 それが、もし、彼が自分に好意を抱いてくれたきっかけとなった出来事なのだとしたら。
 そう考えるだけでも、気恥ずかしくて顔が熱くなった。

(……物語に巻き込まれるのがイヤで、ラーラや殿下をしっかり避けていたつもりが……つまり、きっちり自分のやらかし案件だったわけね……)

 ヘルムートが、最初に自分の店を見つけられたはずである。
 グステルが作るぬいぐるみの顔は、基本的に、当時ののものと──ヘルムートに贈ったものと、ほぼ変わっていない。
 のんきなまる顔に、点々と小さな刺繡の目。そののどかな表情が、グステルの好みなのである。
 それらを店のショーウィンドウに並べていては、自分はここにいますよと宣伝しているようなものだった……。

(は、ず、かし、ぃ……)

 グステルは、思わず自分の顔を両手で覆ってうつむいた。
 再会の時から、なぜか好意が明らかなヘルムートに、『若者が宇宙人すぎる……』とか、不審に思っていた自分を、思い切り叱りつけてやりたかった。
 なんてことない。全部自分のせいではないか……。
 そう考えると、今度は血の気が引く。

(…………いたいけな少年を……たぶらかしてしまったのか私は……、…………)

 痛恨の極み。
 気が遠くなりそうである。
 だがしかし。
 今もし過去に戻ったとしても、あの広い王城で、心もとなさそうな顔をしていた少年に出会ってしまっては。グステルは、再び彼を励ますためにぬいぐるみをあげてしまう気がする。
 子供に弱いところは、多分、死んでも変われない。いや、実際いっぺん死んでも変われなかったわけで。
 グステルは、ここでハッとした。

(……もしやこれは……うちの領地で道行く女性に贈り物しまくっていたエドガー様と、同類……?)

 ショックである。
 しかし、エドガーは、あの行為を“女性を讃えるため”と堂々のたまう。
 それに比べ……グステルは、もちろんそういうつもりではなかったが。結果、ヒロインの兄をたぶらかしているのだから、これはなんだか自分のほうが不純な行いをしたような気がしてしまって。
 グステルは──がっくり。
 頭の中を嵐のように吹き荒れるのは、言い訳と懺悔。
  
(いや、だってそんな、ヒロインでもないんだから、道でばったり──ああ、ラーラに申し訳ない……)

「…………はあ」

 グステルは、がっくり肩を落としてため息。いろいろ申し訳なさすぎて、ゆえに、彼女はこの話題をヘルムートに尋ねられない。
 正直、申し訳ない反面、この、彼との幼い頃からのつながりが嬉しくもあるのだ。
 だから思い切って聞いてしまいたいような気もするが……いざ尋ねようとすると、複雑な感情が喉に詰まった。
 すくなくとも今の彼女には、自分からその話を切り出すのは、とてもとても勇気がいることだったのである。

 そうしてグステルは、その話題には触れられないまま、ひとまず王都での活動を開始。
 叔母がどんな利で動く人間なのか。
 エルシャという娘がどんな人間なのか。
 そしてできるだけことを穏便に収めるには、いったいどうしたらいいのか。
 それを見定めるために、グステルが自ら探りにメントライン家に行きたいと申し出ると、当然のようにヘルムートが難色を示した。

「え……何もあなた自らそんな危ないことをなさらなくても……」

 心配し、人を使えばいいと提案する彼に、グステルは心の乱れを隠してにっこり。

「あら、大丈夫ですよヘルムート様。楽勝です。叔母の行動はだいたい読めますし、私は領地の大邸宅にも潜り込んだ女です。街邸くらい。潜入だってできます。軽い軽い」

 領地の本邸とは違い、王都の街邸は大きさもそこそこ。
 広大な敷地を自由に使える領都と比べると、貴族といえど王都で個人が邸宅用に使える敷地は限られている。
 ですが、とヘルムート。

「狭いゆえに、不審な行動は発覚しやすくもあります」

 邸が狭ければ、それだけ住民たちの目も行き届きやすい。前回の本邸に忍び込んだ時のようにはいかないはずと指摘され、しかしグステルは自信をのぞかせる。

「そこは、私の記憶と小細工でカバーできるかと」

 グステルは、きらーん、と、頼もしさをかもしだす、が。

「記憶と、小細工……」

 何やら不穏な響きである。ヘルムートは、グステルが再び何かを企んでいるのだなと察して余計に心配顔。

(あ、あら……? いけない、不安にさせてしまった、みたい……)

 大丈夫だと思ってもらおうとしたはずが、逆に青年の表情が曇ったのを見て、グステルは内心焦る。
 けれども彼女は、街邸に侵入することに関しては本当に自信があるのだ。
 幼い頃、たびたび過ごした街邸の間取りは、今でもしっかりと覚えている。
 これもつまり、かつての家出計画のために蓄えた知識というわけだ。
 
「その……あの叔母のことですから、内装やらは、本邸同様ド派手に変えられているかもしれませんが……間取りが変わっていなければ私は潜入すらも可能です!」

 家出を企ててからというもの、グステルは、どうやってそこを抜け出すか、もしくは、どこに家族の秘密が眠っているかを探る目で邸を見ていた。
 その時の記憶は必ず役に立ってくれるはずで、そもそも王国兵や騎士たちがしっかり警備する王都では、治安が良く、あまり個人宅では警備人をおかない。
 メントライン家は、王都でも特に警備の固い高級住宅街に邸がある。警戒するにしても、男性使用人も多く、それで事足りているはず。
 だから、邸内にさえ侵入してしまえばこっちのものなのだと懸命に話す娘に。
 ヘルムートは、つい黙す。

 どうやら彼女は自分を説得しようと必死なようで。
 ……つまりこれは、彼女はどうあっても自分自身で動きたいのだろう。
 グステルの語り口調でそれを感じ。困ったように眉尻を下げる青年に。
 グステルは恥ずかしかったが、おずおずと彼の手に触れ、薄く微笑む。

「大丈夫ですよ。今回は、あなたも待機していてくださいますし……」
「グステル様……」

 彼女がそっと添えた程度に触れた手を、青年はすぐに握った。心配そうに包み込まれた自分の手に、グステルは気恥ずかしくも、嬉しくて。
 
 ──ああ、今なら昔のことを聞けそうな気が──……と……

 思ったが。
 どうやら、天はそれを許してはくれなかった。
 物音に気が付き青年から視線を外した娘は、やれやれと何やら騒がしくなりはじめた部屋の入口のほうを見る。

「グステル様?」

 照れくさそうに微笑んでいた顔が、急に『あーもう、まったく……』とでもいいたげなげっそりしたものに変わって。どうかなさいましたかと戸惑うヘルムートに。グステルは、小さく苦笑。
 ひとまず彼の手から、争いの火種になってしまいそうな己の手を引き抜き、それに、と、ため息交じりに続けた。

「……私には、騒々しい目くらましもついていますしね……」
「?」

 その諦観のまなざしに。いい感じにグステルのことしか頭にないヘルムートが不思議そうな顔をした、のと同時に。
 彼女たちがいる部屋の扉が大きく開け放たれる。

「っグステル! 菓子だ! 菓子を買ってきたぞ‼」

 さあ食らえ! と、かわいらしい箱を両手に抱えて部屋の中に飛び込んできたのは──もちろん。



「⁉ フリード⁉ あ、あなたまた来たの⁉」

 グリゼルダ・メントラインは、再びズカズカと邸に乗り込んできた甥に、表情をひきつらせて身をのけぞらせた。

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