アカペラバンドガールズ!! 〜島の女神様とわたし(見習い)のひみつの関係!?〜

Shooter

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第六章 さわり

(終) 最悪のクリスマス

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 目を覚ますと、そこはさっきまでいた高いホールではなく、低くて白い天井が視界に迫ってきた。
 鈍い頭の痛みに堪えながら辺りの様子を伺うと、どうやらどこかの病室みたいだ。

 壁にかかった時計は、丁度七時を差していた。
 窓から見える景色から、今は夜なのだとわかる。

 果たして、どれくらい眠ったのだろう。
 確か、歌い始めが四時少し前で、倒れてからずっと気を失っていて、今が午後七時。

 と、すれば三時間程だろうか。
 いや、もし日付が変わっていたりしたら、それ以上かも……。


 そこまで考えて、ふと今の自分が割と目まぐるしく頭を動かせていることに気づく。
 あれほど強く頭を打ったはずなのに、よくこんなに平気でいられるものだ。

 島に帰ったら、お父さんやお母さんに、丈夫な子に育ててくれてありがとう、って伝えなきゃ。
 ぼんやりそう思ってつい苦笑いしていると、横開きのドアがそろりと開いた。

 隙間から覗く大きな瞳は、わたしの姿を捉えるとすぐにいなくなる。
 そして、次の瞬間叫び声と共に、廊下から美樹が駆け寄ってきた。

「桜良が、目を覚ました!」

 後から他のみんなも現れる。
 それぞれ目に涙の粒を湛えながら、大声で口々に話し掛けてきた。

 きっと後で全員注意されるんだろうな、と思いながら、それでもやはりそれとなく嬉しさを感じた。

 野薔薇が今まで見たことないくらいの泣き顔で迫ってくる。
 そして、声を震わせながら叫んだ。

「……馬鹿。馬鹿桜良め! なんで何も言ってくれなかったんだ。もの凄く心配したんだぞ。
 体調が悪いなら、先にしっかりとそう言えって」

「野薔薇ね、ずっと落ち着かずにあたふたしてたんだよ。桜良が死んじゃう、誰でもいいからどうか桜良を助けてくれ、って何度も何度も呟きながら。だから、少しだけ勘弁してあげて」

 早百合が涙を光らせつつニコッと笑う。
 それを聞いて野薔薇の顔が瞬時に真っ赤になった。

「おい、言うなよ!」

 その慌てぶりに、思わずみんな笑い始める。
 顔はぐしょぐしょなのに、それでも互いに見つめ合って、笑っていた。

 わたしも、できることならそれに交ざりたかった。
 でも、やっぱり、どうしても素直にはなれなかった。

「……ねえ、早百合。今日は何日?」

 声のトーンも予想以上に低くなってしまう。
 尋ねられた早百合は、少しだけ顔を曇らせるとぼそっと囁いた。

「二十五日だよ。あれから、一日経ったの」

 そっか……。
 わたしは俯いて、静かに懺悔する。

「……わたしのせいで、コンテストを台無しにしちゃった。みんなでできる最後の演奏だったのに。
 ずっと、このために練習してきたのに!」

「桜良!」

 野薔薇が怒鳴る。
 きっ、とこれでもかとわたしを睨みつけながら言った。

「そんなことは、どうだっていい。私たちはお前さえ元気になってくれれば、それでいいんだ」

「そうだよ! うちも、すっごく嬉しいもん。桜良とまたこうやって話せて」

「はい。桜良先輩がいなくなってしまうなんて、考えたくもありませんから」

 横から口々に、みんな優しい声を掛けてくれる。
 でも、それでもやっぱり、自分を許すことはできなかった。

 だから、彼女たちに目を合わせることもせず、冷然とした声を浴びせる。

「……ごめん、出てって。もうわたしは、みんなに合わす顔なんてないの。
 もうみんなとは、会いたくもないんだ。じゃあ、ね」

 力強くわたしに振り上がった野薔薇の拳を、慌てて他のみんなが抑える。

 やがて悔しそうにうな垂れる彼女を先頭に、全員が病室を出ていく。
 ドアが閉まる音が名残惜しげに耳にこびりついた。


 病室内は再び一人だけになる。
 ふと、手の甲に水滴が一つ落ちた。

 雫はさらに増えて、シーツまで少し濡れてしまう。
 段々視界が霞んでくる。

 さっきは、みんな大泣きしている中、全然泣かなかったのに。
 今になって溢れ出た涙は、とどまることを知らず、頬を伝って流れ続けた。

 しばらくして、目元だけそっと拭うと、窓の外へと目をやる。
 さっきまで、空は真っ暗だったのに、今はちらほらと白い粉雪を見ることができる。

 今日は十二月二十五日。
 これが噂に聞くホワイトクリスマスっていうものだろうか。

 関東って、やっぱり凄いや。
 島じゃ、まず拝められない景色を目にすることができる。

 それなのに。
 そのはずなのに。

 生まれて初めて見る雪は、これっぽっちも嬉しくなんてなかった。

 ただひたすらに、哀しい白色に心が染まっていくのを感じながら、わたしはそっと静かに、ベッドの照明を消した。


第六章 さわり   終


* 最終章に行く前に、早百合目線で少し前の出来事から綴る、
 『幕間 ~Sayuri Side~』を是非お楽しみください……



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Shooterです。
第六章までお読みいただきありがとうございました!
とんでもないところで終わってしまいましたが、果たして桜良は大丈夫なのか……?
そして、このままBleθはどうなってしまうのでしょうか……?
いよいよ最終章ですが、その前に早百合目線で物語を補完する、
「幕間 ~Sayuri Side~」を是非お読みください!
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