悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!

水都(みなと)

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第2話 料理

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 リゼルに私を信じてもらうには、まず親子として信頼関係を築くところからだ。

 私はできる限りリゼルを気に掛けるようにした。なるべく声を掛け、傍に寄り添おうとした。

 が、リゼルの冷たく分厚い壁が溶けることはなかった。父親が亡くなって間もなく、しかも今まで無関心だった継母が急に近づいて来るのだ。奇妙に思わないわけがない。

 幼いとはいえ、リゼルはもう8歳だ。小さな子のように抱っこしたり一緒に寝たりするのは逆効果だろう。散歩やピクニックに誘ってみたが、一瞥もされず無視されてしまった。

 けど、どんなに嫌われようが睨まれようが、リゼルはかわいい。私が推していたリゼルはもう少し成長した後からだったから、推しの幼少期を目の前で見られるなんて夢のようだ。本当は抱きしめてしまいたくなる。

 何かリゼルが愛情を感じられるようなことをしたい。母親から子への愛情……ベタだが、やはり手料理だろうか。

 前世の母は料理上手で、毎食おいしいご飯を作ってくれた。いつか自分が母親になったら、私も子供においしいご飯を作ってあげたいと思っていた。

 料理を作りたい、と厨房に入ったところ厨房の使用人に止められた。

「炊事は奥様のなさるお仕事ではございません」
「無理を承知なのはわかっているわ。でも、リゼルを元気づけるための料理を作りたいの。どうか私に料理を教えてください」

 深々と頭を下げると、使用人たちに「おやめください!」と大慌てで止められた。しかし、それで覚悟が伝わったのか料理をすることに許可を貰えた。

 前世でもある程度料理をしたことはあるが、こちらの世界では炊事場事情も違う。コック長から直々に手ほどきを受け、なんとかリゼルが好む食事を作れるようになった。

 しかし、作れればいいというわけじゃない。食べてもらえなければ意味がない。

 その日、食堂にやってきたリゼルは私を視界に入れないようにして席に着いた。メイドが「今日のお料理は奥様がお作りになられたんですよ」と言うと、リゼルはガタリと席を立った。

「リゼル、待って。一口でいいから食べてみて」
「俺に毒でも盛るつもりか。そうはいくか」
「そんな……!」

 私は自分で先に食べてみせたが、リゼルは馬鹿馬鹿しそうな顔を浮かべるだけだった。

 「父上もそうやって殺したのか?」

 リゼルは吐き捨てるようにそう言って出て行った。

 その後も料理を作り続けたが、一向に食べてくれない。何も食べないわけにはいかないだろうと、コックが作ったものを持って行くようメイドに頼んだが、それも手に付けていないらしい。完全にハンストだ。

 それと同時に、奇妙なことが起こり始めた。自室が泥棒に入られたかのようにめちゃくちゃにされたり、ドレスが引き裂かれていたり、アクセサリーが泥まみれになっていた。

「ちょ、ちょっと誰か来て! 泥棒! 不法侵入!?」

 と、最初こそ騒いでいたが、使用人たちは顔を見合わせるばかり。それで鈍い私でもいい加減察しがついた。

 全部リゼルの仕業だ。ついに私を無視するだけじゃなく、直接嫌がらせをするようになってきた。

 嫁入り道具にと無理して父母が持たせてくれた象牙細工の宝石箱が力いっぱい投げつけられてたときと、婚約指輪が傷だらけになっていたときは泣けた。

 ダメなことはダメだと叱った方がいいのかもしれないが、これは恐らく試し行動。広い心で受け止めてあげなければいけない。グッと堪えて、笑顔でリゼルに声を掛け続けた。いつか彼の心の氷が溶けてくれるのを信じて。

 これ以上ハンストをさせるわけにはいけないと、私が料理を作らなくなってからリゼルは食事を取るようになった。しかし、部屋に料理を運ばせて、食堂に顔を出さなくなった。

 そして、リゼルは部屋に引きこもってしまった。最初は良かれと思ってドア越しに「おはよう」「おやすみ」と伝えてきたが、ドンとドアを蹴飛ばされるだけなので逆効果だと気付いてやめた。

 リゼルとの関係の修復は不可能なのか。しかし、ここで音を上げたらリゼルは悪役令息一直線だ。なんとか彼に愛されているという実感を持ってもらい、未来を変えなければ。

「奥様、最近お変わりになられましたね」

 机に頬杖をついて悩んでいると、メイドのメアリーに声を掛けられた。赤毛を三つ編みにした彼女は使用人たちの中で1番若く、リゼルとも仲良くしていると聞いている。

「ご無礼を承知で正直に申しますと、奥様が旦那様とご結婚されたときは少し……近寄りがたい存在でございました。ですが、今の奥様は私たちにも気さくに声を掛けてくださり、嬉しく思っています。特に厨房の皆さんは、奥様に頭を下げられて冷や汗をかいたと言っていました」

 メアリーにもあの顛末は伝わっていたのか。いや、屋敷中の使用人たちには知れ渡っているはずだ。それまで私の変化に訝し気な視線を向けていた使用人たちも、徐々に態度が柔らかくなっているとは思っていた。

「料理を教えてほしいなんて、無理を言ってしまったものね」
「リゼル様のためにお料理をお作りになるなんて、素晴らしいです。近頃の奥様はリゼル様にとても寄り添っておいでだと、使用人たちの間でも話しております」
「ありがとう。でも、むしろあの子を追いつめているんじゃないかって不安なの」
「大丈夫です。きっとリゼル様もいつかは奥様の愛情に気づいてくださいます。今はまだ旦那様のこともあって、落ち込まれているだけです」
「そうだといいのだけれど」

 ちらりと目をやったドレッサーには、なんとか泥を落としたアクセサリーが並べてある。

 私はどんなに嫌われてもいい。ただリゼルを悪役令息なんかに、処刑される未来にさせたくない。

 けどそのためには、リゼルに寄り添う人が必要なのだ。



 
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