悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!

水都(みなと)

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第17話 潜入

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 大急ぎで庭に馬が二頭準備された。

「乗馬の経験は?」
「あります」
「それは上等。場所は本当にわかるんだな?」
「ええ、案内します」
 
 没落しているとはいえ、両親はプライドからか貴族が習う一通りのことを身につけさせてくれた。こんなところで感謝することになるとは。

 ヴェインと共に森へと馬を走らせる。ラノベではステラを助けに行く道中が詳しく書かれていた。その記憶を必死で辿りながら、ヴェインを案内する。

 辺りが完全に暗くなってきて、少し霧まで出てきた。本当に見つかるだろうかと不安になった時、遠くに教会の十字架が見えた。

「ここからは歩くぞ。見張りが居るだろうから、馬だと気付かれる」

 慎重に音を立てないよう、息をひそめて教会へと近づく。ヴェインの言った通り、入り口に兵士らしき者が2人立っていた。

「大当たりだな。こんな夜にこんな場所の教会に見張りを立てておくなんて、何かあると言ってるようなものだ」
「やっぱりこの中にリゼルがいるのね。早く助けないと」
「待て。爺さんに貰ったこれを使う」

 ヴェインが取り出したのは、丸薬のようなものに枝葉が付いている。それにヴェインが火をつけた。

「吸い込むなよ」

 まずヴェインは石を遠くに投げた。それが落ちた音に兵士たちの注意がそれる。その隙に、丸薬を兵士たちの近くへ投げた。

「なんなの?」
「眠り薬だ」

 霧に紛れているからか、兵士たちは気づいていないようだった。何かおかしいと兵士たちが辺りを探し始めたが、その頃にはもう薬がまわっていた。

 ガクリと兵士2人が倒れ込む。眠ってしまったようだ。

「行くぞ」

 兵士を起こさないようそっと横を通るが、教会の扉には南京錠が掛かっている。

「任せろ」

 と言うや否や、ヴェインが細い針金のようなものを鍵穴に差し込んだ。そして、何度かカチャカチャとしただけで南京錠が外れた。

「……ヴェイン、あなた本職は何なの?」
「眼鏡屋に決まってるだろ。手先は器用なんだよ」

 中に入ると小さな教会は誰もおらず、物音ひとつしない。

「いないな」
「地下室だわ。ここは昔、隠れ信徒が使っていた教会なんです。十字架の裏から地下室に入れるはず」

 は? という顔をしているヴェインに説明することなく、十字架の下をくぐって裏の壁を押した。ガコンと音がして、壁がへこみスライドした。そこへ、地下へと繋ぐ階段が現れる。

「お前、なんでこんなこと知って……」
「知人から聞きました」

 それ以上聞いてくれるなとの意を込めながら言うと、ヴェインは黙って頷いた。でも、階段を下りようとするとヴェインが手で制止する。

「待て。念には念をだ」

 ヴェインは再び丸薬の枝葉に火を点け、階段の下に投げ込んだ。一刻も早く助けに行きたい気持ちを押さえながら、薬が充満するまでの時間を待つ。

 屋敷を出てからそこまで時間は経っていないはずなのに、待つ時間が永遠にも感じられる。

 そしてこの時間は、私に悪い妄想を掻き立てるには十分過ぎた。もしリゼルに危害が加えられていたら、大けがでもしていたら、それどころか、もしかしたら……

「大丈夫か?」

 余程酷い顔をしていたのか、ヴェインが私を覗き込んでいた。悪い妄想を振り払って返事をする。

「大丈夫よ。もう行ってもいい頃かしら」
「ああ」

 ヴェインが先を歩いてくれ、一段一段長い階段を下りていく。やっと下まで到着すると、暗くて何も見えない。壁に手をつくと、石造りになっているようだった。

 長い廊下を進んで行く。

 周りは静まり返っていて、見張りがいる様子もない。順調に行きすぎている気がして胸が騒いだ。もしかしたら、リゼルはここにいないのかもしれない。それとも……

「よくここがわかったな」

 音も気配もなく、大きな黒い塊が闇の底から現れた。暗闇にぼんやりと浮かぶその顔は、はっきりとわかる。

「……サイラス」

 固まる私の前に、ヴェインが庇うように立ってくれる。その肩越しに、ニヤリと笑うサイラスが見えた。

 昔から憎らしくてたまらなかったサイラス。でも今はそれどころではない。ふつふつと、怒りと嫌悪感が吐きそうなくらい込み上げてくる。

「リゼルはどこ!? ここに居るんでしょう!」
「居るにはいるが……見ない方がいいぞ」

 意味深なその言葉に、私の身体から血の気が引く。ぐらりと倒れそうになる。

「おい、しっかりしろ! どうせデタラメだ!」

 ヴェインの言葉に足を踏ん張り、サイラスを強い視線で見据えた。私はあの子の母親だ。腹を括れ、自分。
 
「そんな脅しは通用しません! リゼルを返してもらいます」

 ヴェインが何かをサイラスの顔目掛けてぶつけた。また何かの丸薬だろう。煙が立ち上る。

 しかし、サイラスは鬱陶しそうに手で煙を払っただけで平然としている。

「お前らの小手先の攻撃など効くか」

 サイラスが腰からスラリと剣を抜いた。その剣は切っ先が見えず、棒のようになっている。
 
 その代わりに、ビリビリと電気が走っているのが見えた。その光に照らされ、サイラスの顔が青白く浮かび上がる。

 その剣をサイラスが振り上げた。

「くそ……っ」

 ヴェインが胸元から短刀を取り出し、剣を受け止めた。しかし、剣も肉体もサイラスの方が上だ。

「逃げろ! ロゼッタ!」

 短刀でなんとかサイラスの剣を振り払い、そのまま短刀でサイラスに突進していく。しかしひらりとかわされ、ヴェインの首筋に思い切り電撃が叩きこまれる。

「ヴェイン!」

 どさりと倒れたヴェインに、助けを呼ばねばと背を向けたのが間違いだった。私の背中に、電流が流れ込む。

「ああああっ!?」

 目の前が真っ白になりしゃがみ込む。なんとか気絶はしなかったが、目がチカチカして何も見えない。

「来い」

 サイラスに髪を掴まれ、抵抗も虚しくそのまま引きずられた。
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