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第8章 舞踏会の対策会議
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ロランの顔を見るのは、精鋭部隊が『魔王城』を目指して森の拠点を発った朝以来。
約一ヶ月ぶりだ。
「ロラン!」
マルクが駆け寄ると、彼はゆっくりとこちらに顔を向けた。
彼のような経験がトラウマになり、二度と剣が握れなくなる者もいるが、この試練を乗り越えた者はさらに強くなれる。
マルクは双方の例を何度か目にしているから心配だったが、彼の腰に下がっている長剣を見て少しほっとした。
以前より少し元気がない気がするけど、顔色は悪くない。
きっと大丈夫。
彼は剣を捨てたりしない。
そう信じ、言葉を選んで話しかけてみる。
「久しぶりだな。調子はどうだ」
「何かとしんどかったけど、もう整理は着いたから。実は、休んでいた間も実家でいろんな技を試してみていたんだ」
「それなら良かった。今日はどうしたんだ。朝早くから自主練に来たのか? 会議が終わってからでいいなら、俺も付き合うけど」
ロランの現在の状態を知るためには、剣を交えてみるのが手っ取り早い。
しかし、彼は首を横に振った。
「いや。今日は、ヴィルに手合わせを頼みたくて来たんだ」
「ヴィルジール殿下に? なんで?」
「そろそろ王都に帰るって聞いたから、最後に相手をしてもらいたくて」
「そっか……」
最初の頃、ロランはいつもヴィルジールの朝の肩慣らしの相手に指名されていた。
当時は実力に劣るヴィルジールが、本気でロランに挑んでいた。
ロランも王子相手に何一つ手加減なく、相手になっていた。
競い合っていた二人の間には、信頼関係ができているし、ロランはヴィルジールが振るう剣に魅了されてもいた。
彼らの実力は、今では完全に逆転しているから、手合わせをすればロランの方が膝をつくことになる。
それでも、王都に帰れば二度と会うことのないであろう王子と、最後に一試合したいと思うのは自然なことだろう。
ロランに頼まれれば、きっと殿下も拒まない。
「殿下もそろそろ来るから、頼んでみるといいよ。あ、そうだ。彼は今はヴィルじゃなくてヴィルジール殿下だから、言葉遣いは気をつけるように」
「……そうか。分かった」
遅れていたオリヴィエとセレスタンも管理棟の前までやってきた。
「おう、ロラン。元気だったか」
「はい、元気です。任務を途中で投げ出すようなことになってしまって……」
オリヴィエは、気まずそうに小さくなるロランの肩を叩く。
「ははは。よくあることだから気にするな。お前が回復したんならそれでいい」
「おっ? ロランだ。どうした、今はみんな休みだぞ」
「ロラン、久しぶり」
クレマンやバスチアンらも次々と集まってきた。
そして、ラヴェラルタ家からの小道に、ヴィルジールとジョエルも姿を現した。
「あ……」
ロランにぴりりとした緊張が走る。
歩いてくるヴィルジールの姿をしばらく見つめた後、意を決したように走り出す。
「俺、ちょっと行ってくる!」
事情を知らないオリヴィエらは呆気にとられた。
「急にあいつ、どうしたんだ?」
「ヴィルジール殿下に手合わせを頼みたいんだって。そのために来たって言ってたよ」
「ええっ? ……大丈夫か、おい」
「多分」
ロランがヴィルジールに必死に話している様子を、離れた場所から見守る。
彼らが何を話しているのかは聞き取れなかったが、どうやら了解が得られたようだ。
三人が管理棟の前までやってきた。
「悪いが、今からロランと手合わせすることにしたから、会議は先に始めていてくれないか」
ここから追い払おうとするかのようなヴィルジールの言葉に、マルクはきょとんとなった。
「え? 手合わせにそんなに時間はかからないだろう? 終わるまで待つよ」
「いや、騎士団の精鋭たちに取り囲まれていては、彼も緊張するだろう。だから、ここに残るのはジョエルだけだ。全員中に入ってくれ」
彼は決定事項のようにきっぱりと言う。
さっき長く話していたから、おそらくロランがそう頼んだのだろう。
彼が『死の森』で負傷した後、戦えなくなってしまったことを考えれば、騎士団の仲間が見守る中で剣を振るうことは難しいのかもしれない。
殿下も彼の事情を知っているから、うまく立ち回ってくれるはず。
でも、ロランが無理をしないか心配だ。
どれくらい回復したのかもこの目で確かめたい。
「俺もダメなのか?」
マルクが訴えるようにロランの顔を見たが、彼は小さく首を横に振った。
「そういうことだから、もう行ってくれ。さあ、オリヴィエ団長」
ヴィルジールに横目で促され、オリヴィエも従わざるを得なくなった。
自分の騎士団の大事な部下を、他人に預けなければならないことを無念に思う。
後ろ髪を引かれる思いで、管理棟の入り口の鍵を開けた。
「さあ、会議を始めるぞ。皆中に入れ」
マルクや集まっていた騎士団の仲間たちも、しぶしぶ中に入っていった。
約一ヶ月ぶりだ。
「ロラン!」
マルクが駆け寄ると、彼はゆっくりとこちらに顔を向けた。
彼のような経験がトラウマになり、二度と剣が握れなくなる者もいるが、この試練を乗り越えた者はさらに強くなれる。
マルクは双方の例を何度か目にしているから心配だったが、彼の腰に下がっている長剣を見て少しほっとした。
以前より少し元気がない気がするけど、顔色は悪くない。
きっと大丈夫。
彼は剣を捨てたりしない。
そう信じ、言葉を選んで話しかけてみる。
「久しぶりだな。調子はどうだ」
「何かとしんどかったけど、もう整理は着いたから。実は、休んでいた間も実家でいろんな技を試してみていたんだ」
「それなら良かった。今日はどうしたんだ。朝早くから自主練に来たのか? 会議が終わってからでいいなら、俺も付き合うけど」
ロランの現在の状態を知るためには、剣を交えてみるのが手っ取り早い。
しかし、彼は首を横に振った。
「いや。今日は、ヴィルに手合わせを頼みたくて来たんだ」
「ヴィルジール殿下に? なんで?」
「そろそろ王都に帰るって聞いたから、最後に相手をしてもらいたくて」
「そっか……」
最初の頃、ロランはいつもヴィルジールの朝の肩慣らしの相手に指名されていた。
当時は実力に劣るヴィルジールが、本気でロランに挑んでいた。
ロランも王子相手に何一つ手加減なく、相手になっていた。
競い合っていた二人の間には、信頼関係ができているし、ロランはヴィルジールが振るう剣に魅了されてもいた。
彼らの実力は、今では完全に逆転しているから、手合わせをすればロランの方が膝をつくことになる。
それでも、王都に帰れば二度と会うことのないであろう王子と、最後に一試合したいと思うのは自然なことだろう。
ロランに頼まれれば、きっと殿下も拒まない。
「殿下もそろそろ来るから、頼んでみるといいよ。あ、そうだ。彼は今はヴィルじゃなくてヴィルジール殿下だから、言葉遣いは気をつけるように」
「……そうか。分かった」
遅れていたオリヴィエとセレスタンも管理棟の前までやってきた。
「おう、ロラン。元気だったか」
「はい、元気です。任務を途中で投げ出すようなことになってしまって……」
オリヴィエは、気まずそうに小さくなるロランの肩を叩く。
「ははは。よくあることだから気にするな。お前が回復したんならそれでいい」
「おっ? ロランだ。どうした、今はみんな休みだぞ」
「ロラン、久しぶり」
クレマンやバスチアンらも次々と集まってきた。
そして、ラヴェラルタ家からの小道に、ヴィルジールとジョエルも姿を現した。
「あ……」
ロランにぴりりとした緊張が走る。
歩いてくるヴィルジールの姿をしばらく見つめた後、意を決したように走り出す。
「俺、ちょっと行ってくる!」
事情を知らないオリヴィエらは呆気にとられた。
「急にあいつ、どうしたんだ?」
「ヴィルジール殿下に手合わせを頼みたいんだって。そのために来たって言ってたよ」
「ええっ? ……大丈夫か、おい」
「多分」
ロランがヴィルジールに必死に話している様子を、離れた場所から見守る。
彼らが何を話しているのかは聞き取れなかったが、どうやら了解が得られたようだ。
三人が管理棟の前までやってきた。
「悪いが、今からロランと手合わせすることにしたから、会議は先に始めていてくれないか」
ここから追い払おうとするかのようなヴィルジールの言葉に、マルクはきょとんとなった。
「え? 手合わせにそんなに時間はかからないだろう? 終わるまで待つよ」
「いや、騎士団の精鋭たちに取り囲まれていては、彼も緊張するだろう。だから、ここに残るのはジョエルだけだ。全員中に入ってくれ」
彼は決定事項のようにきっぱりと言う。
さっき長く話していたから、おそらくロランがそう頼んだのだろう。
彼が『死の森』で負傷した後、戦えなくなってしまったことを考えれば、騎士団の仲間が見守る中で剣を振るうことは難しいのかもしれない。
殿下も彼の事情を知っているから、うまく立ち回ってくれるはず。
でも、ロランが無理をしないか心配だ。
どれくらい回復したのかもこの目で確かめたい。
「俺もダメなのか?」
マルクが訴えるようにロランの顔を見たが、彼は小さく首を横に振った。
「そういうことだから、もう行ってくれ。さあ、オリヴィエ団長」
ヴィルジールに横目で促され、オリヴィエも従わざるを得なくなった。
自分の騎士団の大事な部下を、他人に預けなければならないことを無念に思う。
後ろ髪を引かれる思いで、管理棟の入り口の鍵を開けた。
「さあ、会議を始めるぞ。皆中に入れ」
マルクや集まっていた騎士団の仲間たちも、しぶしぶ中に入っていった。
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