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第10章 舞踏会の長い夜
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出てきたのは騎士と思われる男が三人と、甲冑をつけた兵士二人。
男たちは何かを探すように、大聖堂内を見回している。
「あれ。どうしたんだろう。警備を強化するのかな」
「あれは……ブリュノ殿? いちばん左にいるのは、王太子殿下の親衛隊長ですね」
「へぇ、親衛隊長か。強いの?」
「私と同じくらいでしょうか」
「じゃあ、王都じゃそこそこ強いんだね」
二人が不思議に思いながら様子を見ていると、ブリュノの視線がジョエルに止まった。
彼は仲間たちに何かしら告げると、真っ直ぐこちらに向かって歩いてくる。
こつこつと響く複数の足音が、どこか不穏な空気をまとっている。
大聖堂に身を寄せている貴族たちの目が、一斉にこちらに注がれた。
王太子の親衛隊長が兵を引き連れて向かう先にいるのは、第四王子の側近だと気づく。
そして近くには、つい先ほどその王子と揃いの衣装で踊っていた噂の病弱令嬢がいる。
ざわりと、空気が動いた。
「ブリュノ殿。どうされましたか。今、城内はどういう状況なのでしょうか」
ジョエルが椅子から立ち上がると、穏やかな声音ながらもぴしりと問いただす。
立場も身分もジョエルの方が上。
しかし、相手はその問いには答えずに言う。
「今、貴殿が一緒におられるのは、ラヴェラルタ辺境伯令嬢に間違いありませんか?」
えっ? わたし?
どうして?
ジョエルは両手を左右に広げてマルティーヌを背に庇った。
「それが、何か」
「彼女を我々に引き渡していただきたい」
「なっ……。彼女が何をしたと言うのか」
「先ほど、ラヴェラルタ騎士団がクーデターを起こしました。その取り調べのために、ご令嬢には同行願いたい」
「ばかな!」
大聖堂内に、悲鳴に似たどよめきが上がった。
「クーデターだなんて、そんなはずありませんわ!」
マルティーヌも思わず声を上げた。
長剣に右手をかけながら高圧的に近づいて来たブリュノは、ジョエルの間合いに入って足を止めた。
他の騎士や兵は長椅子を乗り越え、マルティーヌとジョエルを囲みこむ。
「ではなぜ、あのように大勢の騎士を城内に導き入れていたのでしょう」
「それは……」
真実を口にすることができず、マルティーヌは黙り込む。
「魔獣を呼び寄せたのも、この国最高の魔術師といわれるセレスタン殿だということです。今回の魔獣の襲撃は、混乱に乗じて国王陛下と王太子殿下を殺害するための自作自演だったのです」
「はぁ?」
荒唐無稽すぎる説明にジョエルはおもわず脱力し、マルティーヌは憤慨する。
「兄さまたちがそんなことをするはずがありませんわ。彼らは今も、魔獣と勇敢に戦っているはずです!」
彼らは今、魔獣の脅威から国を守る騎士団の矜持にかけて、命がけで戦っているのだ。
それを、言うに事欠いて自作自演などと!
すると、ブリュノはにやりと笑った。
「彼らはすでに全員捕縛されました」
彼は、周囲の貴族らにも聞こえるよう、勝利宣言のように声を張り上げた。
「そんなの嘘です!」
貴族らから上がった安堵の声やラヴェラルタ騎士団への非難の声を打ち消すように、マルティーヌが声を上げた。
だいたい、普段恐ろしい魔獣を相手にしているラヴェラルタの男たちを、王都の軟弱な騎士や兵が捕らえられるはずがない。
魔獣と戦う力も度胸もないくせに、よくもそんな戯言が言えたもんだわ。
握りしめた両手が怒りに震えた。
「さあ、ご令嬢。我々と一緒に来てください」
「嫌です!」
「あなたは病弱な方だと聞いています。手荒なことはしたくありません。おとなしく我々についてきてください」
取り囲んだ騎士らはじりじりと間を詰めてくる。無防備なマルティーヌの背後にも騎士が入り込んできた。
もう、完全に逃げ場を塞がれた。
「どうしても彼女を連れて行くと言うのか」
ジョエルの右手がさっと左腰に動く。
「ジョエル様、お控えください。私は王太子殿下の命でここに来ています。その剣を抜けば、貴殿も罪に問われます」
そう言いながら、ブリュノはくいと顎を上げて仲間たちに合図を送った。
背後の騎士が手を伸ばし、マルティーヌの二の腕をつかむ。
「きゃあああ! 助けてぇぇぇっ!」
マルティーヌは胸元をぎゅっと押さえて背中を丸めると、自分史上初めての言葉を叫んだ。
男たちは何かを探すように、大聖堂内を見回している。
「あれ。どうしたんだろう。警備を強化するのかな」
「あれは……ブリュノ殿? いちばん左にいるのは、王太子殿下の親衛隊長ですね」
「へぇ、親衛隊長か。強いの?」
「私と同じくらいでしょうか」
「じゃあ、王都じゃそこそこ強いんだね」
二人が不思議に思いながら様子を見ていると、ブリュノの視線がジョエルに止まった。
彼は仲間たちに何かしら告げると、真っ直ぐこちらに向かって歩いてくる。
こつこつと響く複数の足音が、どこか不穏な空気をまとっている。
大聖堂に身を寄せている貴族たちの目が、一斉にこちらに注がれた。
王太子の親衛隊長が兵を引き連れて向かう先にいるのは、第四王子の側近だと気づく。
そして近くには、つい先ほどその王子と揃いの衣装で踊っていた噂の病弱令嬢がいる。
ざわりと、空気が動いた。
「ブリュノ殿。どうされましたか。今、城内はどういう状況なのでしょうか」
ジョエルが椅子から立ち上がると、穏やかな声音ながらもぴしりと問いただす。
立場も身分もジョエルの方が上。
しかし、相手はその問いには答えずに言う。
「今、貴殿が一緒におられるのは、ラヴェラルタ辺境伯令嬢に間違いありませんか?」
えっ? わたし?
どうして?
ジョエルは両手を左右に広げてマルティーヌを背に庇った。
「それが、何か」
「彼女を我々に引き渡していただきたい」
「なっ……。彼女が何をしたと言うのか」
「先ほど、ラヴェラルタ騎士団がクーデターを起こしました。その取り調べのために、ご令嬢には同行願いたい」
「ばかな!」
大聖堂内に、悲鳴に似たどよめきが上がった。
「クーデターだなんて、そんなはずありませんわ!」
マルティーヌも思わず声を上げた。
長剣に右手をかけながら高圧的に近づいて来たブリュノは、ジョエルの間合いに入って足を止めた。
他の騎士や兵は長椅子を乗り越え、マルティーヌとジョエルを囲みこむ。
「ではなぜ、あのように大勢の騎士を城内に導き入れていたのでしょう」
「それは……」
真実を口にすることができず、マルティーヌは黙り込む。
「魔獣を呼び寄せたのも、この国最高の魔術師といわれるセレスタン殿だということです。今回の魔獣の襲撃は、混乱に乗じて国王陛下と王太子殿下を殺害するための自作自演だったのです」
「はぁ?」
荒唐無稽すぎる説明にジョエルはおもわず脱力し、マルティーヌは憤慨する。
「兄さまたちがそんなことをするはずがありませんわ。彼らは今も、魔獣と勇敢に戦っているはずです!」
彼らは今、魔獣の脅威から国を守る騎士団の矜持にかけて、命がけで戦っているのだ。
それを、言うに事欠いて自作自演などと!
すると、ブリュノはにやりと笑った。
「彼らはすでに全員捕縛されました」
彼は、周囲の貴族らにも聞こえるよう、勝利宣言のように声を張り上げた。
「そんなの嘘です!」
貴族らから上がった安堵の声やラヴェラルタ騎士団への非難の声を打ち消すように、マルティーヌが声を上げた。
だいたい、普段恐ろしい魔獣を相手にしているラヴェラルタの男たちを、王都の軟弱な騎士や兵が捕らえられるはずがない。
魔獣と戦う力も度胸もないくせに、よくもそんな戯言が言えたもんだわ。
握りしめた両手が怒りに震えた。
「さあ、ご令嬢。我々と一緒に来てください」
「嫌です!」
「あなたは病弱な方だと聞いています。手荒なことはしたくありません。おとなしく我々についてきてください」
取り囲んだ騎士らはじりじりと間を詰めてくる。無防備なマルティーヌの背後にも騎士が入り込んできた。
もう、完全に逃げ場を塞がれた。
「どうしても彼女を連れて行くと言うのか」
ジョエルの右手がさっと左腰に動く。
「ジョエル様、お控えください。私は王太子殿下の命でここに来ています。その剣を抜けば、貴殿も罪に問われます」
そう言いながら、ブリュノはくいと顎を上げて仲間たちに合図を送った。
背後の騎士が手を伸ばし、マルティーヌの二の腕をつかむ。
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