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第三章
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しおりを挟むいつ、どこから間違えたのだろうか……。休みなく働く私の身体。農具を手にして、誰からも使い方を教わっていないのに畑に農具を突き立てる。慣れない道具に初日の午前でマメができて午後にはマメは破れた。それでも回復の魔導具が設置されているため、すぐにマメができる前まで回復する。
そんな日々をひと月も繰り返していると、手の皮が厚くなっていき、マメが出来ても破れなくなった。
ソレイユとはいつも一緒だ。寝るときも隣同士のベッドで寝ているが、ただ私語はなく「おはよう」と「おやすみ」だけだ。
ここへきてどれだけたったのだろうか。
あの日……大手を振ってサンジェルスに戻るため、ソレイユと二人でモーリトスの戴冠式のパーティーに乗り込んだ。
しかし、そこには美しく輝いている美姫と巡り逢った。それが私がどん底に落ちる原因になったクーデリアだと気付いた。
「久しぶりだな、リリィ」
私が声をかけたが、不快そうにこちらを見たあと壇上に目を向けた。そこには今日の主役で私たちがわざわざ出向いてやった新国王がいる。─── あの顔、誰かに似ている。どこかでみたが思い出せん。しかし、新入りならお前の方がその場所から降りてきて挨拶しろ! まず先にこいつの態度を殴って床に叩きつけてやろう。泣いて許しを乞うなら奴隷として使ってやろう。
声をかけても挨拶すらしないこの無礼者に手を伸ばすと、畳んだ扇子で右頬を殴られて外まで吹き飛ばされた。そのまま庭の結界に全身を叩きつけられて地面に落ちた。激痛で気を失うこともできず。そんな私に、ソレイユとリリィの会話が鮮明に聞こえる。
「王太子殿下に対しての殺害未遂で身柄を拘束する!」
「王太子殺害っ! それはあの女のほう……!」
「クーデリア王太子殿下に手を出して何を言っている!」
「────── え?」
『リリィが王太子』。その言葉で私がリリィと婚約した理由を思い出した。
大国の次期国王がリリィの兄だ。そのため国王に子ができるまでの間は王太子になる。アーシュレイ領は元々モーリトス国領だ。その領土はサンジェルス国と同等の広さ。だからこそ『国土を広げる』ための婚約。それもサンジェルス国王から願い出たものだ。
さらに私の耳に入ったのが、ソレイユが主犯で私は婿養子……。私はすでに王太子ではない? いや、それよりサンジェルス国が滅びた? 私が逃げたことで王族全員が罪を被り、犯罪奴隷となった……? そして今はモーリトス国の一部になり、その領主がリリィ……
「あ……あぁ……」
私の愚かな行為で、サンジェルス国を滅ぼした……
私が逃げたから、国王も王妃も側妃たちも異母兄弟姉妹が全員奴隷に……
結婚間近だった異母姉は!
学院の入学を楽しみにしていた異母弟妹たちは!
臨月だった第三側妃は!
私が愚かだったから……みんなの未来を、夢を、人生を。
──────────── すべて私が壊してしまったんだ‼︎
牢に二人一緒に入れられて、私たちはただお互いを求めあって心の傷を癒し合っていた。それが公開檻で、私たちがすべて見られていたことを知った。それでも人は慣れてしまえるのだろう。初めは公開にされると騒いでいた私たちだったが、逆に見られていることで興奮するようになっていた。
そんな動物のような生活の中でも、私たちは粗食ではあるものの食事をして眠くなれば寝ていた。
ある日、目を覚ますと私たちは檻馬車で運ばれていた。食事に薬が混ぜられていたのだろう。
斬首刑になったはずの私たちを労働力として農場か牧場で働かせる。リリィはそう言っていた。私たちは夫婦だから離さない。そうも言っていた。私はリリィの温情に感謝した。でも、ソレイユの考えは違っていた。
「私たちは経営か労働者の管理か。とりあえず私たちは労働者として雇われたんだわ」
私はその言葉に反論も訂正もせず「そうだね」としか言えなかった。
何故そう言えるのだろう。これは罰だ。それにリリィは労働者ではなく労働力と言ったのだ。それは肉体労働者より過酷で人権を持たない人を指す。人として扱われないからこそ労働者と呼ばれない。換えのきく道具なのだ。─── それは今まで私たちが見下してきた人たちにしてきたことが自らにはね返ってきただけだ。
「ラフティはどうしているのだろう」
「ラフティ? どうなろうと構いませんわ」
「キミによく似た娘だろ」
「だから必要ないのですわ。私はあなたに似た子供が欲しかったのです。私の偽者は必要ないの。あなたには私という本物がいればいいのですわ」
はじめて……ソレイユの本性を垣間見た気がして怖くなった。
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