愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径

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第三章

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「あなた……その首から下げているのは何?」
「え……?」
「それよ」

女は私の胸にスラリと長い指を向けた。

「露店で購入した『恋愛成就の願いが込められた指輪』よ」
「違うわ。その指輪を通している鎖の方よ」
「これ? これは指輪をつけて学院には通えないから露店の人がオマケでくれたものよ」
「それには魅了の効果がついているわ」
「え? うそ……こっちの指輪ではなくて?」
「ええ、間違いないわ。その指輪ではなく鎖から魅了の効果を感じるわ」

指輪を通したまま首から外して、差し出されている手に差し出す。もう、私には必要ないもの。ううん、これさえなければ何も始まらなかった。

「そう、コレはアイツの仕業ね」

何か言っているが、もう私には必要がないもの。

「これを預けてもらえるかしら?」
「差し上げます。もう私には必要がないんです。攻略失敗で……時間切れだもの」
「じゃあ、あなたには時間をあげるわ」
「それはいったい……」
じゃないわ。にあげるのよ」


私が覚えているのはそこまで。
気付いたのは粗末な家の簡素なベッドだった。サンジェルスの王城からど田舎に移動していた私たちは、行き倒れていたところを助けられたらしい。驚いたことに、私たちが城から逃げ出してすでに半月もたっているようだ。

「ソレイユ、どういうことかわかるか?」
「私にもわからないわ」

私の指にはあのとき女に渡したはずの指輪がはまっている。何故かジョスカーから贈られたという間違った記憶をジョスカーが持った状態で。

「申し訳ない。この指輪以外、何も持ち出せなかったとは」
「いいえ。指輪以外にももう一つ、大事なものを持ち出せたわ。私にはこれだけで十分よ」

あの女が時間を与えてくれたのは、私に宿った生命のため。ジョスカーが私から離れられないように指輪が残されたのだろうか。でも、魅了の効果があるのはあの鎖の方だと言っていたのに。

私たちは逃亡を協力してくれる貴族を探した。その中にモーリトスに別邸を持つ貴族が協力を名乗り出た。ここから近いモーリトスの王都の外れ。移動に揺れの少ない馬車も出してもらえて、快適にその別邸に逃げ込めた。
そこでは外出が出来ないものの、それは妊婦の私にはちょうどよかった。ジョスカーも隠れ住んでいる自覚はあったため、大人しくしていた。私が捕まれば、お腹の子も死んでしまう。私たちはそれを理解していた。
それにこの別邸の持ち主の配慮で私たちが快適に暮らせるように手配していたため、ある程度の不満はあるものの生活は満足できるものだった。

────── そして私は女の子を出産した。

出産して数日後から、ふたたび王太子妃ヒロインは私という元の性格に戻った。ジョスカーもサンジェルスの王太子という立場に目覚めた。私たちは子供のために自らの立場を示してサンジェルスに戻るつもりだった。
そんなある日、別邸の持ち主名義でここモーリトスの王城で開かれるパーティーの招待状が届いた。

「これはチャンスではないか?」

それは戴冠式のパーティー。つまり、貴族だけでなく王族もたくさん集まるというわけだ。ここで『サンジェルス国の王太子夫妻』として周知されれば、私たちは堂々とサンジェルスに帰ることができる。それに祝い事である以上、私たちに不当にかけられた罪を
すぐに招待に相応しいドレスと装飾品を用意させ、毎日全身を磨かせた。

そして向かった戴冠式で私たちは……
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