類を惹く

星来香文子

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第二章 恋と偏見

恋と偏見(4)

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 箱の大きさに対して、中身は軽い。
 送り元の欄を確認すると大手通販会社だった。
 事件が起こる前に、何か兄が注文していたのだろうか。

 それにしても、一ヶ月以上届くまでかかるものだろうか。
 色々と疑問ではあったが、その場ですぐに箱を開けてみると、A4サイズの厚手の茶封筒が一つだけ入っていた。
 何かの書類か本かと思ったが、底の方が膨らんでいて、柔らかい。
 封を切って開けて中を確認する。

「ひゃっ……!!」

 見た瞬間、私は驚いて変な悲鳴を上げたのと同時に封筒を床に落としてしまった。
 中身が封筒から飛び出し、床に散らばる。

「ちょっと……!! 何よ、これ!!」

 これには母も驚いて、大きく目を見開いて固まってしまった。

「なんで、こんなものが————」

 黒々とした長い髪の毛が入っていた。
 かつらであるかもしれないと、もう一度よく見たが、繋がっていない。
 適当なところでハサミでバッサリと切ったような、バラバラの髪の毛が袋いっぱいに入っていたのだ。

「女の人の髪……よね? なんで、お兄ちゃん宛に、こんなものが————?」
「わからない。わからないけど、気持ち悪い。誰が、なんのためにこんな……」

 こんな気持ちの悪いものを、買うはずがない。
 そもそも、髪の毛なんて買えるのか?
 買ったとしても、何の為に?

 わからないことが多すぎる。
 今考えれば、兄の事件は、メディアで多く取り上げられていたし、見知らぬ誰かの悪戯とか嫌がらせの可能性もある。
 でも、その時の私の脳裏には一人、思い当たる人がいた。

「あのコンビニの店員さん……家近さん、髪を切ったって……言ってたよね?」
「そ、それは、確かに、そうだけど……」

 どうしても、そこと結びついてしまう。家近さんは、兄の部屋の住所を知っていた。
 腰ほどあった長い髪も切った。
 兄の買ったものや、日付を事細かに覚えている異常性もある。

「もしそうだとしても、一体どうして? 髪の毛を送って、いったい何になるの?」
「わからない……でも、髪の毛だよ? それも、お兄ちゃんが死んだ後に送ってよこすなんて、異常だよ」

 警察に相談すべきではないかとも思ったが、この髪の毛が家近さんのものであると言い切れない。
 こういう時、どうすればいいのかわからないが、よくテレビや映画では、DNA鑑定で誰のものか特定していたなと思った。
 あの女刑事さんなら、調べてくれるかもしれない。

 でも、私は母にはあの刑事さんと連絡先を交換した話はしていなかった。
 なんとなく、悪いことをしているような気がして、言えずにいた。

「落としたのは私だし、私が片付けるよ。ママ、これ以外には変なものは届いてないよね?」
「え、ええ」


 私が片付けると言ったものの、誰のものかわからない、他人の髪の毛に直接触るのは気が引ける。
 私は使い捨てのビニール手袋をキッチンから持って来て、床に散らばったそれらを拾い集めて、封筒の中に戻した。そして、その時、改めて封筒の中を見て気が付いた。

 入っていたのは、髪の毛だけじゃない。写真が一枚入っていた。
 遠くから取られた盗撮写真のようで、兄の隣を歩いている女性の顔が赤いマジックで塗りつぶされ、目には穴が空いていた。
 兄はスーツを着ていたし、この女性の顔にはなんとなく見覚えがあった。

「お葬式に、来てた……————」

 名前は忘れてしまったが、「飛鳥くんは、私にとって、本当に大切な部下でした」と涙をこらえながら父と母に言っていたのを覚えている。
 一緒に写っている兄は、いつものように穏やかに笑っていた。
 この女性の方も……————家近さんは、横田葵が兄のストーカーだったと言っていた。
 それなら、兄がこの人と付き合っいると知って、殺意が芽生えたとか?

 わからない。
 でも、この荷物が送られた日付は、兄が死んだ後だ。

 その場で逮捕された横田葵には、できない。
 それに、横田葵は、犯行を否定している。
 もし、横田葵の言っていることが本当で、犯人は別にいるとしたら、それは一体、誰だろう?

 真実が知りたい。
 本当のことが知りたい。
 やっぱり、私は、兄がどうして殺されたのか、知りたいと強く思った。


 私は自分の部屋に戻ると、机の上に置いたままにしてあった向井さんから貰った名刺を手に取った。
 兄の上司だったこの社さんなら、何か知っているかもしれない。
 風邪を引いて会社を休んでいた部下を心配して、『向井ハイツ』まで訪ねてきていたということは、ひょっとしたら、この写真の女性と同一人物ではないだろうかと思った。

 兄は、社さんとどんな関係だったんだろう。
 ただの上司と部下?
 でも、それだけで風邪を引いた部下の見舞いに来るだろうか?

 それも、挙動不審だったと向井さんは言っていた。
 兄に恋人がいたかどうか、社さんなら知っているかもしれない。


「————あの、私、飛鳥陽菜と言います。……ええ、そうです。先月、お葬式で…………はい、妹です」

 名刺に書かれていた携帯番号に、すぐに電話をかけた。
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