類を惹く

星来香文子

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第二章 恋と偏見

恋と偏見(5)

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 夏休みが始まって二週間後、私は再び兄が住んでいた街を訪れた。
 今回は一人で。私には二学年上に兄と同じ街で暮らしている七海ななみちゃんがいる。

 彼女の母は私の母と昔からの友人で、子供の頃から付き合いがあった。
 だが、彼女の大学進学と同時に、引っ越したのだ。
 もともと会いに行く約束はしていたし、なんの疑いもなく父と母は私にお土産をたくさん持たせて、送り出してくれた。
 父と母には、「七海ちゃんの家に遊びに行く」としか言っていない。
 
 実際、しばらくの間泊めてもらうことになるのだから間違いではないけれど……目的は、兄の死の真相を知ることだ。
 あの髪の毛を送ってきた人物は一体誰なのか、なぜ送ってきたのか、そもそも、本当に兄を殺したのは横田葵なのか、何もわからずもやもやとしているのが気持ち悪くて、はっきりさせたかった。
 髪の毛が入った封筒を七海ちゃんに見せると、目が飛び出そうなほどに目を見開いてから、少し後ずさった。

「うわ……これは確かに、やばいね」
「でしょう?」
「そういうことなら全然協力するよ。陽菜のお兄ちゃんは、私にとってもお兄ちゃんみたいなもんだったし」

 お互いの家に泊まりに来ることは何度もあったし、七海ちゃんと一緒に兄の車でドライブに出かけたこともある。
 学校への送り迎えをしてもらったこともあったし、兄自身も「妹がもう一人増えたようなもの」だとよく言っていた。七海ちゃんは兄の葬式にも来てくれていた。

「お兄ちゃんはあの顔だし、別の人が犯人の可能性もあると思って」
「ありえるね。最初にテレビで見た時はびっくりしたよ。まさか、陽菜のお兄ちゃんが殺されるなんてさ……知ってる人が殺されたってことにも驚いたけど……でも、報道では犯人は隣に住んでいた女子大学生だって聞いて、絶対恋愛関係のもつれとかだろうなって思った。ほら、小学生の時————前にもあったじゃん?」

 七海ちゃんは、あの新任教師の話をしているのだとすぐにわかった。
 実はあの時、七海ちゃんはまさに逆ギレしている彼女を目撃している。ピアノ教室の帰りにたまたま目撃したそうだ。

「陽菜のお兄ちゃんてさ、もちろん普通の人間から見てもイケメンだけど…………これは偏見かもだけど、私の中ではなんというか、ヤバい人に好かれてるイメージあるんだよね。前に私の親戚のお姉さんからも聞いたことあるよ。中学のバレンタインの時、髪の毛とか爪が入った手作りのチョコレート渡されてたことがあるって……」
「何それ、初めて聞いたんだけど……」
「知らなかった? あの当時中学では有名な話だったみたいだよ。今回もきっと、そういうヤバい女の仕業じゃないの?」

 七海ちゃんの親戚のお姉さんは、兄と同じ中高だったらしく、中学では有名な話だそうだ。
 つまりあの騒動を起こした新任教師と同時期に同じ中学にいたことになる。

「そうだと思う。逮捕された横田葵がどんな人間だったかは……————まぁ、それもヤバい感じの人から聞いた話だけど、ストーカーだったらしいし」

 そのヤバい感じの人————家近さんの髪の毛ではないかと思ってはいるけど、もしかしたら、兄にそういう感情を抱いていた人は他にもいたのではないかと思った。

 事件の目撃者である向井さんは、犯人の後ろ姿を見てはいるが、顔は確認していない。
 髪の長い女が包丁を持って立っているのを見て、すぐに助けを求めに交番まで走ったと証言している。
 横田葵が逮捕されたのは、向井さんが呼んで来た警察官が現行犯として逮捕したからだが……

「もしかしたら、警察を呼びに行っている間に、本当の犯人は逃げた可能性もあるんじゃないかと思ってるんだ。髪の長い女なんて、どこにでもいるし……でも、素人の私の推理なんて、あてにならない。だから————」

 それを確かめるためにも、兄の周辺を探らなければならないと思った。
 写真に写っていた人は、おそらく兄の会社の人だろうけど……二人は一体、どんな関係だったんだろう。他にも、例えば取引先の人とか、家近さんのように、どこかのお店の店員とか————知るために、私はこの街に来た。

「それで、その社さんだっけ? 会社の上司の人とは、いつ会うの?」
「明日。会社を見せてもらう約束をしたの。生前、兄が働いていた職場を見てみたいって言ったら、あっさり了承もらったよ」

 先ずは明日、兄が働いていた株式会社ハマコウフーズへ行く。
 そこからだ。
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