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第六章 彼女
彼女(2)
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兄の同級生だった古住みなみさんは、現在どうしているのか尋ねると、古住弁護士は「隣街で働いている」と言った。
七海ちゃんの親戚のお姉さんからの情報によれば、現在どうしているかは不明ということだったが、意外と近い場所にいた。
七海ちゃんは古住みなみさんは子供を置いて出て行ったと聞いたらしいが、元旦那さんは地元じゃ有名な家の人だったということもあるし、古住弁護士の話では子供を置いて出て行ったというのは語弊があるようだ。
子供を置いてというより、置いていくよう迫られたということらしい。
「兄の彼女になるはずだったっていうのは、どういうことですか?」
付き合っていたなら、彼女だったというのが普通であるところを、なるはずだったというのはかなり違和感があった。
「ああ、それは、私もよくわかりません。みなみが言うには、離婚して就職が決まったから、これで彼女になれるはずだったとか……みなみには昔から思い込んだらこう、なんでも自分がいいように解釈してしまうようなところがありますので、今回もおそらく何か勝手に思い込んでいるんじゃないかと思います」
確かに古住弁護士と古住みなみさんは見た目は似ているようだけど、性格は違うのだと思った。
なんというか、古住みなみさんはこれまで兄に一方的に思いを寄せていた人たちに似ている気がする。
相手の気持ちより自分の気持ちを優先する、恋に落ちたのだから仕方がないと言い出すタイプの人間だと思った。
やはりどうも兄はこの手のタイプの人間に好かれやすい。
「あまりにしつこいので、とりあえず横田葵さん本人に会って話を聞いたところ、彼女が犯人ではない可能性があると思って、弁護を引き受けることにしたんです。犯人であるなら当然、懲役でも死刑でも、きちんと裁かれて罰を受けるべきではりますが————犯人ではないなら、助けるべきだと思っています」
「それは……私もそう思います。兄に対するストーカー行為は悪いことですけど、兄を殺したのが別の人間だったなら、今も人殺しが何食わぬ顔で歩いているってことになります。そんなの、怖いです」
犯人がどんな人物かわからないし、どうして兄が殺されたのかもわからない。
無実の人間に、怒りをぶつけるわけにもいかない。
兄が殺されるようなことをしたとも思いたくないし、兄の身に何が起きて、こんなことになってしまったのか私は知りたかった。
だからこそ、こうして動いているのだ。
危険なことかもしれないけれど、それでも、私は理由を知りたかった。
「陽菜さんの話を聞いた限りでは、飛鳥さんの周囲には謎の人物が三人いますね。まず、浜田社長が話していた料理上手な彼女。ベッドの下から下着が出てきたなら、存在していたのは確かなようですが誰もその人を見ていない」
本人から直接聞いたわけではないが、弁護士の話によれば音成さんも兄の部屋に出入りしている女性は目撃したことがないとのことだった。
兄の部屋の様子を向かいのマンションから覗いていた疑惑がある向井さんも、近くのコンビニの店員の家近さんも、スーパーで働いていた人たちだって、兄が女性と二人でいるような話は聞かなかった。
唯一あるとすれば、風邪を引いた兄を心配してアパートまで訪ねてきた社さんくらいだけれど、二人は恋人だったわけじゃない。
一方的な片思いだった。
「それと、スーパーで飛鳥さんを見ていたという髪の長い女性。横田葵さんとは顔が違う、幽霊のような女性。それから、音成さんの部屋に住んでいた謎の女性。通報者の向井さんは、最初に殺人現場に居合わせた時、髪の長い女の後ろ姿しか見ていません」
横田葵が兄の部屋に入った時には、ほかに誰もいなかった。
向井さんが慌てて警察を呼びに行っている間に、髪の長い女はいなくなっていて、代わりに横田葵が落ちていた包丁で自分を刺そうとしていたのを、警官に止められた。
横田葵の証言が本当なら、向井さんが見間違えるほどに後ろ姿が似ていたということになる。
「横田葵さんの髪は、おそらく腰のあたりまであります。ちょうど、先ほどエレベーターですれ違った鬘の女性のような感じですね。殺人現場を見て動揺していたとはいえ、犯人は同じような体型と髪型だったのではないかと私は考えています。横田葵さんが犯人じゃないのであれば、その料理上手の彼女か別のストーカー女性が犯人なのかもしれません。ただ、もしそのどちらかが犯人だとしたら、おかしい点があります」
「なんですか?」
「返り血です。飛鳥さんは首から下を複数回刺されています。当然、返り血を浴びているはずです。血のついた服で逃げていたなら、目撃者がいてもおかしくありません。深夜だったとはいえ、まったく人通りがなかったわけではないですからね。向井さんが血相を変えて交番に駆け込む姿は目撃されているんです。けれど、警察の調査では、202号室の玄関とその周りにしか血痕は残っていません。一番遠い場所でも、201号室の前までです。階段にもありませんでした。犯人は、階段を降りずにどうやって逃げたんでしょう?」
七海ちゃんの親戚のお姉さんからの情報によれば、現在どうしているかは不明ということだったが、意外と近い場所にいた。
七海ちゃんは古住みなみさんは子供を置いて出て行ったと聞いたらしいが、元旦那さんは地元じゃ有名な家の人だったということもあるし、古住弁護士の話では子供を置いて出て行ったというのは語弊があるようだ。
子供を置いてというより、置いていくよう迫られたということらしい。
「兄の彼女になるはずだったっていうのは、どういうことですか?」
付き合っていたなら、彼女だったというのが普通であるところを、なるはずだったというのはかなり違和感があった。
「ああ、それは、私もよくわかりません。みなみが言うには、離婚して就職が決まったから、これで彼女になれるはずだったとか……みなみには昔から思い込んだらこう、なんでも自分がいいように解釈してしまうようなところがありますので、今回もおそらく何か勝手に思い込んでいるんじゃないかと思います」
確かに古住弁護士と古住みなみさんは見た目は似ているようだけど、性格は違うのだと思った。
なんというか、古住みなみさんはこれまで兄に一方的に思いを寄せていた人たちに似ている気がする。
相手の気持ちより自分の気持ちを優先する、恋に落ちたのだから仕方がないと言い出すタイプの人間だと思った。
やはりどうも兄はこの手のタイプの人間に好かれやすい。
「あまりにしつこいので、とりあえず横田葵さん本人に会って話を聞いたところ、彼女が犯人ではない可能性があると思って、弁護を引き受けることにしたんです。犯人であるなら当然、懲役でも死刑でも、きちんと裁かれて罰を受けるべきではりますが————犯人ではないなら、助けるべきだと思っています」
「それは……私もそう思います。兄に対するストーカー行為は悪いことですけど、兄を殺したのが別の人間だったなら、今も人殺しが何食わぬ顔で歩いているってことになります。そんなの、怖いです」
犯人がどんな人物かわからないし、どうして兄が殺されたのかもわからない。
無実の人間に、怒りをぶつけるわけにもいかない。
兄が殺されるようなことをしたとも思いたくないし、兄の身に何が起きて、こんなことになってしまったのか私は知りたかった。
だからこそ、こうして動いているのだ。
危険なことかもしれないけれど、それでも、私は理由を知りたかった。
「陽菜さんの話を聞いた限りでは、飛鳥さんの周囲には謎の人物が三人いますね。まず、浜田社長が話していた料理上手な彼女。ベッドの下から下着が出てきたなら、存在していたのは確かなようですが誰もその人を見ていない」
本人から直接聞いたわけではないが、弁護士の話によれば音成さんも兄の部屋に出入りしている女性は目撃したことがないとのことだった。
兄の部屋の様子を向かいのマンションから覗いていた疑惑がある向井さんも、近くのコンビニの店員の家近さんも、スーパーで働いていた人たちだって、兄が女性と二人でいるような話は聞かなかった。
唯一あるとすれば、風邪を引いた兄を心配してアパートまで訪ねてきた社さんくらいだけれど、二人は恋人だったわけじゃない。
一方的な片思いだった。
「それと、スーパーで飛鳥さんを見ていたという髪の長い女性。横田葵さんとは顔が違う、幽霊のような女性。それから、音成さんの部屋に住んでいた謎の女性。通報者の向井さんは、最初に殺人現場に居合わせた時、髪の長い女の後ろ姿しか見ていません」
横田葵が兄の部屋に入った時には、ほかに誰もいなかった。
向井さんが慌てて警察を呼びに行っている間に、髪の長い女はいなくなっていて、代わりに横田葵が落ちていた包丁で自分を刺そうとしていたのを、警官に止められた。
横田葵の証言が本当なら、向井さんが見間違えるほどに後ろ姿が似ていたということになる。
「横田葵さんの髪は、おそらく腰のあたりまであります。ちょうど、先ほどエレベーターですれ違った鬘の女性のような感じですね。殺人現場を見て動揺していたとはいえ、犯人は同じような体型と髪型だったのではないかと私は考えています。横田葵さんが犯人じゃないのであれば、その料理上手の彼女か別のストーカー女性が犯人なのかもしれません。ただ、もしそのどちらかが犯人だとしたら、おかしい点があります」
「なんですか?」
「返り血です。飛鳥さんは首から下を複数回刺されています。当然、返り血を浴びているはずです。血のついた服で逃げていたなら、目撃者がいてもおかしくありません。深夜だったとはいえ、まったく人通りがなかったわけではないですからね。向井さんが血相を変えて交番に駆け込む姿は目撃されているんです。けれど、警察の調査では、202号室の玄関とその周りにしか血痕は残っていません。一番遠い場所でも、201号室の前までです。階段にもありませんでした。犯人は、階段を降りずにどうやって逃げたんでしょう?」
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