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第11部
第八章 そして再会⑤
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……沈黙が続く。
今から教える。
そう告げたアッシュは、どうも、言葉に迷っているようだった。
一方、それは少年の方も同じようだった。
アッシュを前にして、とても困った顔をしている。
そんな二人の様子に気付いたか、ミランシャ達もいつしか周囲に集まっていた。
彼女達は、全員が神妙な顔をしていた。
サーシャ達としては、ますます困惑を抱くばかりだ。
奇妙な沈黙が、さらに続く。
――と、
「しっかりしないか。クライン」
トン、とオトハが、アッシュの背中を押した。
同時に、
「頑張ってください。コウタ」
メルティアが両手で、コウタの背中を押した。
二人は、それぞれ一歩だけ前に出た。
そして――。
「ああ~、そうだな……」
何から話すべきなのか。
アッシュは、ボリボリと頭をかいた。
聞くべきことが、伝えるべきことが、あまりにも多すぎた。
本当に、迷ってしまう。
だからか、
「人参は……」
最初に出てきたのは、とても平凡な質問だった。
「人参は、食べれるようになったか?」
アッシュの問いかけに、少年は目を丸くする。
「嫌いだったろ? 昔は」
「……うん」
黒髪の少年は、頷いた。
「けど、今は食べれるようになったよ。お世話になってるアシュレイ家に、そんなことで迷惑をかけられないし」
「……そっか」
アッシュは、口元を綻ばせる。
すでに少年の口調は、完全に砕けたものだった。
まるであの頃のように。
続けて、アッシュが尋ねる。
「どうだ? 騎士学校の方は楽しいか?」
少年は「うん」と答えた。
「信頼できる友達が沢山できたよ。特に、リーゼとジェイクは本当に頼りになるんだ」
「ん。そっか」
どこか自慢げに語る少年に、アッシュは優しげに目を細める。と、
「けど、流石に、さっきのは酷いよ」
そこで少年は、少し不満そうに告げた。
次いで頬をかいて、小さく嘆息する。
「そりゃあ、最初に挑んだのはボクの方だけどさ。何も、あそこまでボコボコにしなくてもいいじゃないか。メルも乗っていたのに」
「ははっ、悪かったな」
そう告げて、朗らかに笑うアッシュ。
やけに親しい二人の様子に、ユーリィ達は眉をひそめた。
ここまで来ると、エドワードでさえ、二人が知り合いであると察する。
「そういや」
アッシュは、少年の後ろにいる少女に目をやった。
「確か、アシュレイ家に助けてもらったんだよな」
「……うん。たまたま通りがかったアシュレイ家のご当主さまに。けど、あの日、ボクを守ってくれたのは――」
一拍おいて、
「叔父さんと、父さんだった」
グッと拳を固める。
「叔父さんは、ボクを地下倉庫に避難させてくれた。自分は死ぬのを覚悟して、外からドアを閉めたんだ。父さんは……」
少年の瞳に、はっきりと陰が差す。
「ボクと叔父さんを逃がすために、一人でレオス=ボーダーに向かっていった。農作業用の鎧機兵で」
「……そう、か」
アッシュは、息を吐いた。
父と叔父。多くのことを教えてくれた二人。
アッシュにとっても大切な家族だった。
「母さんだけは、結局、どんな最期だったのかは分からなかった」
「そっか……」
アッシュは、グッと唇を嚙んだ。
見ると、少年は肩を震わせていた。
恐らくその時の光景を思い出しているのだろう。
アッシュは、少し躊躇いつつも手を伸ばそうと思ったが、
――そっと。
少年の後ろにいた少女――メルティアが、その背中に手を触れていた。
(……ああ、なるほど)
どうやら、本当に彼女は義妹になるのかも知れない。
アッシュは、そんなことを思った。
(お前も大切なものを見つけたんだな)
そして、
「お前は強くなったよ、コウタ」
アッシュは、笑った。
多くのものを失い、辛い日々を過ごしたに違いない。
あの炎の日を思い出すことも、一度や二度ではなかったはずだ。
だが、そんな中でも、弟は大切なものを得て、強くなった。
「本当に誇らしいぞ」
「……うん、ありがとう。兄さん」
コウタも笑う。
その瞬間、ユーリィは「え?」と大きく目を見開いた。
サーシャとアリシア、ロックとエドワードも「は?」と呟いている。
オトハは、優しく微笑んでいた。
ミランシャ、シャルロットも微笑み、ルカとリーゼ、アイリは涙ぐんでいた。ジェイクはニヒルに笑い、ゴーレム達は「「「……オオオ」」」と騒いでいた。
「……良かったですね。コウタ」
メルティアは、ずっとコウタの背中に触れていた。
彼女の金色の瞳は、愛おしそうに和らいでいる。
「……ウム! ヨカッタナ! コウタ! アニト、サイカイデキタ!」
オルタナが祝砲のように空高く飛翔した。
鋼の鳥が上空で円を描く。
そんな中、
「お前にまた会えて嬉しいぞ。コウタ」
アッシュは、ガシガシ、と弟の黒い髪をかき回した。
続けて柔らかく瞳を細めると、笑って、願うのであった。
「さあ、兄ちゃんに聞かせてくれ。エリーズ国でのお前の暮らしを」
こうして。
多くの親愛なる者達に囲まれた中、兄と弟は再会した。
八年ぶりの邂逅を、果たしたのである。
「うん。分かったよ、兄さん」
大きく頷き、コウタも笑った。
「それじゃあ、まず何から話そうか」
今から教える。
そう告げたアッシュは、どうも、言葉に迷っているようだった。
一方、それは少年の方も同じようだった。
アッシュを前にして、とても困った顔をしている。
そんな二人の様子に気付いたか、ミランシャ達もいつしか周囲に集まっていた。
彼女達は、全員が神妙な顔をしていた。
サーシャ達としては、ますます困惑を抱くばかりだ。
奇妙な沈黙が、さらに続く。
――と、
「しっかりしないか。クライン」
トン、とオトハが、アッシュの背中を押した。
同時に、
「頑張ってください。コウタ」
メルティアが両手で、コウタの背中を押した。
二人は、それぞれ一歩だけ前に出た。
そして――。
「ああ~、そうだな……」
何から話すべきなのか。
アッシュは、ボリボリと頭をかいた。
聞くべきことが、伝えるべきことが、あまりにも多すぎた。
本当に、迷ってしまう。
だからか、
「人参は……」
最初に出てきたのは、とても平凡な質問だった。
「人参は、食べれるようになったか?」
アッシュの問いかけに、少年は目を丸くする。
「嫌いだったろ? 昔は」
「……うん」
黒髪の少年は、頷いた。
「けど、今は食べれるようになったよ。お世話になってるアシュレイ家に、そんなことで迷惑をかけられないし」
「……そっか」
アッシュは、口元を綻ばせる。
すでに少年の口調は、完全に砕けたものだった。
まるであの頃のように。
続けて、アッシュが尋ねる。
「どうだ? 騎士学校の方は楽しいか?」
少年は「うん」と答えた。
「信頼できる友達が沢山できたよ。特に、リーゼとジェイクは本当に頼りになるんだ」
「ん。そっか」
どこか自慢げに語る少年に、アッシュは優しげに目を細める。と、
「けど、流石に、さっきのは酷いよ」
そこで少年は、少し不満そうに告げた。
次いで頬をかいて、小さく嘆息する。
「そりゃあ、最初に挑んだのはボクの方だけどさ。何も、あそこまでボコボコにしなくてもいいじゃないか。メルも乗っていたのに」
「ははっ、悪かったな」
そう告げて、朗らかに笑うアッシュ。
やけに親しい二人の様子に、ユーリィ達は眉をひそめた。
ここまで来ると、エドワードでさえ、二人が知り合いであると察する。
「そういや」
アッシュは、少年の後ろにいる少女に目をやった。
「確か、アシュレイ家に助けてもらったんだよな」
「……うん。たまたま通りがかったアシュレイ家のご当主さまに。けど、あの日、ボクを守ってくれたのは――」
一拍おいて、
「叔父さんと、父さんだった」
グッと拳を固める。
「叔父さんは、ボクを地下倉庫に避難させてくれた。自分は死ぬのを覚悟して、外からドアを閉めたんだ。父さんは……」
少年の瞳に、はっきりと陰が差す。
「ボクと叔父さんを逃がすために、一人でレオス=ボーダーに向かっていった。農作業用の鎧機兵で」
「……そう、か」
アッシュは、息を吐いた。
父と叔父。多くのことを教えてくれた二人。
アッシュにとっても大切な家族だった。
「母さんだけは、結局、どんな最期だったのかは分からなかった」
「そっか……」
アッシュは、グッと唇を嚙んだ。
見ると、少年は肩を震わせていた。
恐らくその時の光景を思い出しているのだろう。
アッシュは、少し躊躇いつつも手を伸ばそうと思ったが、
――そっと。
少年の後ろにいた少女――メルティアが、その背中に手を触れていた。
(……ああ、なるほど)
どうやら、本当に彼女は義妹になるのかも知れない。
アッシュは、そんなことを思った。
(お前も大切なものを見つけたんだな)
そして、
「お前は強くなったよ、コウタ」
アッシュは、笑った。
多くのものを失い、辛い日々を過ごしたに違いない。
あの炎の日を思い出すことも、一度や二度ではなかったはずだ。
だが、そんな中でも、弟は大切なものを得て、強くなった。
「本当に誇らしいぞ」
「……うん、ありがとう。兄さん」
コウタも笑う。
その瞬間、ユーリィは「え?」と大きく目を見開いた。
サーシャとアリシア、ロックとエドワードも「は?」と呟いている。
オトハは、優しく微笑んでいた。
ミランシャ、シャルロットも微笑み、ルカとリーゼ、アイリは涙ぐんでいた。ジェイクはニヒルに笑い、ゴーレム達は「「「……オオオ」」」と騒いでいた。
「……良かったですね。コウタ」
メルティアは、ずっとコウタの背中に触れていた。
彼女の金色の瞳は、愛おしそうに和らいでいる。
「……ウム! ヨカッタナ! コウタ! アニト、サイカイデキタ!」
オルタナが祝砲のように空高く飛翔した。
鋼の鳥が上空で円を描く。
そんな中、
「お前にまた会えて嬉しいぞ。コウタ」
アッシュは、ガシガシ、と弟の黒い髪をかき回した。
続けて柔らかく瞳を細めると、笑って、願うのであった。
「さあ、兄ちゃんに聞かせてくれ。エリーズ国でのお前の暮らしを」
こうして。
多くの親愛なる者達に囲まれた中、兄と弟は再会した。
八年ぶりの邂逅を、果たしたのである。
「うん。分かったよ、兄さん」
大きく頷き、コウタも笑った。
「それじゃあ、まず何から話そうか」
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