クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第15部

第五章 我ら、愛の六戦士!➄

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(ななな、何すか! こいつは!)

 ダインは、息を呑んだ。
 元傭兵で元騎士。
 その話は聞いていた。しかし、この機体は何なのか……。

 ――三万八千ジン。
 ダインが敬愛するレナの愛機でさえ、こんな恒力値は持っていない。
 その上、あの速度で投擲された槍をあっさりと受け止め、流れるような動きで《衝伝導》――衝撃のみを直接相手に流す《黄道法》を使った。

 あの動きを見れば分かる。
 破格の性能の機体に頼った動きではない。
 あの男自身が、一流以上の技量の持ち主だと、悔しくも理解した。

(こいつは、レナさんのことを狙った、ただのハーレム野郎じゃねえんすか!)

 冷たい汗が止まらない。
 握りしめる操縦棍と手の間にも汗が滲んでくる。

 ――こいつはヤバい……。
 現役の傭兵だからこそ、敵の強大さをひしひしと感じた。
 今までの経験が、逃げろ、逃げろと叫んでいるのが分かる。

 ――だが。
 脳裏に、満面の笑みを見せる団長の姿がよぎる。

(レナさん!)

 ダインは、心の中で鳴り響く警鐘を抑えつけた。
 このままでは、彼女は確実にこの男の手に落ちる。
 それだけは、断じて許容できなかった。

(オイラに勇気を!)

 ダインは、愛機・《ダッカル》を疾走させた。
 車輪が土煙を巻き起こし、《ダッカル》は一気に加速する!
 敵機を中心に、弧を描いて疾走。背後に回ると突撃槍を立てて突撃した!
 ――しかし、
 ――ズドンッッ!

(うおっ!?)

 漆黒の鬼は、振り向くこともなく、尾の動きだけで槍を弾いたのだ。
 あまりの膂力差に、《ダッカル》は突撃槍ごと吹き飛ばされてしまった。

(こいつ、後ろに目でも付いてるんすか!?)

 驚愕する。が、次の瞬間には息を呑んだ。
 拳を固めて鬼が振り向いたからだ。
 《ダッカル》は態勢を整え始めたばかりで迎撃など出来ない。

(ヤ、ヤバい――)

 ダインは青ざめる。
 だが、追撃はこなかった。
 僚機――《グランジャ》と《クイック》が、鬼に攻撃したからだ。
 二機は手斧と剣で果敢に挑んでいく。

『す、すまねえっす!』

 僚機たちに感謝を告げる。
 その間に《ダッカル》は態勢を整え直した。
 正直、戦力とは考えてなかった同志たちに、心から詫びる。
 彼らの動きも、ダインの想像以上だった。

 学生だと聞いていた《グランジャ》の操手――ジェイク。
 田舎騎士だと当てにもしていなかった《クイック》の操手――ライザー。
 的確な指示を出すデューク。
 そして散ってしまったが、エドワードとロックもそうだ。

 全員が、ダインの想像を超えていた。
 全員が、敵の強大さを理解していたのだ。

 一番覚悟が出来ていなかったのは、ダインだった。

(本当にすまねえっす! みんな!)

 今回限りの仲間たち。
 だが、今は共に強大な敵に立ち向かっている。
 ダインは、戦友たちに心から感謝した。

『うおおおおおおお―――ッッ!』

 ダインは、雄たけびを上げて戦線に復帰した。
 対峙するのは三機。
 突撃槍、手斧、剣。絶え間なく繰り出される攻撃。
 しかし、流水のように動く、鬼の両腕の防御を崩すことが出来ない。

(化けモンっすか!)

 ダインが歯を軋ませた、その時だった。

『みんな! 三秒だけ踏ん張ってくれ!』

 ジェイクが突如、叫んだ。
 ダインとライザーは、仲間の少年の言葉を即座に応えた。
 さらに速度が上がる突撃槍と剣の猛攻。
 その隙に《グランジャ》は、大きく間合いを取った。

 そして――ズガンッッ!
 外套をなびかせて《グランジャ》は飛翔した。

 上空十セージルほどだ。《雷歩》を使った跳躍だった。

「「「おおおおおッッ!」」

 観客たちの視線が上空に集まる。
 すると、《グランジャ》は外套を翻した。隠された左腕が解放される。
 それは、巨大な砲身だった。
 《グランジャ》は、砲口を眼下に向けた。

『みんな! 散ってく――え?』

 漆黒の鬼を足止めしてくれている仲間たちに、散開を告げようとしたジェイクだったが、そこで思わず唖然とした。
 突如、目の前が暗くなったからだ。
 それは《朱天》の掌だった。
 漆黒の鬼が跳躍し、《グランジャ》の頭部を掌握したのだ。

『砂漠でもねえ場所で、鎧機兵が外套を着んのは大抵何かを隠しているからな』

『……それ、前にも言われたことがありますよ』

 ジェイクは「はあ……」と嘆息した。
 直後、愛機の視界が完全に消える。《朱天》に頭部を潰されたのだ。
 続けて《朱天》は《グランジャ》の胴体を抱えると、地面にズズンと着地した。

『ここまでだな。ジェイク』

 ズシン、と《グランジャ》を地面に落とす。

『お前も、ロックたちと並んで端っこにいろよ』

『……うっす。分かりました』

 ジェイクは脱力しながら、そう答えた。
 これでもう残すは三機。
 会場の皆がそう思った瞬間だった。

『《貫き通すはノブリス――』

 不意に声が響く。
 次いで、ゴウッと炎が噴き上がった。
 それは今まで唯一戦闘に参加していなかった《デュランハート》の背中からだった。
 紳士型鎧機兵は、杖で刺突の構えを取っていた。
 しかも、その杖は、柄の部位から高速回転をしている。

貴き誇りオブリージュッッ》!』

 そして《デュランハート》は跳躍した。
 背中から勢いよく噴き出す炎で加速した跳躍だ。
 高速回転する杖は、《朱天》の喉元に迫る――が、

『やっぱ、お前は狸だよな』

 その一撃さえも《朱天》は凌いだ。
 回転する杖を――《デュランハート》の突撃を右腕だけで受け止めていた。
 わずか三セージルほどの火線を引くだけで、完全に停止させる。
 そして左掌は《デュランハート》の胸部に添えられていた。

『密かに、ずっと狙っていた訳か』

 アッシュは、言う。

『闘技が使えねえのをギミックで補ったのか。しかも、俺が油断する瞬間を狙って、司令塔自らが特攻かよ』

『ああ……くそ。やっぱ無理だったか』

 ザインが無念そうに呟く。アッシュは苦笑した。

『お前が一向に手を出してこねえのが、逆に気になってたしな。けど、そのギミックは俺も知らねえな。どこで組み込んでもらったんだ?』
『街の工房でだよ。お前への秘密兵器をお前に仕込んでもらう訳にもいかないしな』

 ザインも苦笑を浮かべた。

『アリシアさんの件、ちゃんと説明しろよな』

『ああ、分かっているよ。後でな』

 アッシュがそう答えた瞬間、
 ――バカンッッ!
 《デュランハート》の胸部装甲が砕け散った。

『こ、これで四人目……』

 司会者が息を呑んで告げる。

『な、なんということなのか。次々と散っていく戦士たち。俺の嫁たちに手を出すことは許さない。これが獅子の尾を踏むということなのか……』

『おい待て。何だそのナレーションは』

 流石にアッシュがツッコミを入れるが、司会者は何も答えなかった。
 それは会場全体も同様だった。
 漆黒の鬼の、圧倒的なまでの格の違いに。
 観客たちは息を呑み、会場は静寂に包まれていた。
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