悪竜の騎士とゴーレム姫【第12部まで公開】

雨宮ソウスケ

文字の大きさ
257 / 399
第8部

第七章 《煉獄》の鬼①

しおりを挟む
「……メル」


 コウタは、手を繋ぐメルティアに声をかけた。


「……怖い?」

「いえ。大丈夫です」


 メルティアは微笑む。


「コウタが傍にいますから」

「……うん」


 コウタは頷くと、視線を兄に向けた。
 すると、兄の前方で転移陣が輝いた。


「ッ! あれが……」


 コウタは、目を見開く。
 転移陣から現れたのは、一機の鎧機兵だった。
 漆黒を基調にした異形の鎧。甲殻類の背中を思わせる手甲。
 獅子のような白い鋼髪を持ち、額から二本、後頭部にさらにもう二本生やした、紅水晶のような四本角が特徴的な鎧機兵だ。
 鋭い牙が重なり合って閉ざされたアギトは、まるで鬼のような風貌である。


「兄さんの愛機。《朱天》か」


 闘神とも謳われる《七星》最強の機体。
 その名声に違わない、恐ろしいまでの威圧感を放っていた。
 兄が乗り込むと、鬼の両眼が輝いた。
 対峙しただけで射すくめられるような圧だ。
 コウタが微かに喉を鳴らす。と、


「……コウタ」


 メルティアがギュッと手を握りしめて告げた。


「……私達も」

「……うん。行くよ。メル」


 言って、コウタは腰の短剣に手を添えた。


「来い。《ディノス》」


 愛機の名を呼んだ。
 そしてコウタの前でも転移陣が輝く。
 出てくるのは、処刑刀を携える、黒と赤で彩られた竜装の鎧機兵。
 コウタの愛機・《ディノ=バロウス》だ。


(……《ディノス》)


 コウタは、これまで幾つもの試練を共にくぐり抜けてきた相棒に告げる。


(今日の戦いは、きっと今まで以上になる。頼むよ)


 相棒は何も答えない。
 けれど、想いは確かに伝わった気がする。


「行こう。メル」

「はい。コウタ」


 そうしてコウタ達は《ディノス》に乗り込んだ。


(行くよ。《ディノス》)


 コウタは、緊張した面持ちで愛機の操縦棍を握りしめた。
 そして、ズシンと。
 ゆっくりとした歩みで、兄の乗る《朱天》に近付いていく。
 兄は、何も言わず待っていてくれた。


『お待たせしました』


 剣の間合いに入ったところで、《ディノス》は足を止める。
 コウタは自分の相棒の名を兄に告げた。


『これがボクの愛機、《ディノ=バロウス》です』


 すると意外な回答が返ってくる。


『おう。知ってるさ』

『……え?』


 コウタは目を丸くする。
 コウタの背中に寄り添うメルティアも同様だ。


「もしかして、ルカから聞いていたのではないでしょうか?」

「うん。そうなのかな?」


 コウタは率直に兄に尋ねた。


『ルカから聞いてたんですか?』

『まあ、それと似たようなモンだな』


 と、兄はどこか皮肉げな様子で答えた。
 少し疑問に残ったが、あまり気にすることでもないだろう。


(今はそれよりも)


 コウタは面持ちを引き締める。と、


『さて、と』


 おもむろに兄が呟いた。
 同時に号砲が轟いた。
《朱天》が胸部装甲の前で両の拳を叩きつけのだ。


『《七星》が第三座、《朱天》――《双金葬守》アッシュ=クラインだ』


 兄が名乗る。
 コウタは警戒する眼差しを向けた。
 兄は言葉を続けた。


『色々とダメな俺だが、それでも今のお前の気持ちぐらいは分かっている。だが、今の俺は極星の名も背負っているんだ。言っとくが手加減はしねえぞ』

『分かっています』


 コウタは、頷いた。
 それに呼応して《ディノス》もまた力強く頷く。


『手加減は一切無用です。それでは、ここで挑む意味がない。もちろん、ボクと――メルも全力を尽くします』


 そう告げるなり、《ディノス》は処刑刀を横に薙いだ。


(……うん)


 自分でも納得のいく脱力だ。
 背中を支えてくれているメルティアのおかげか。
 自分は今、驚くほどに自然体でいる。


『改めて名乗ります』コウタは告げた。『エリーズ国騎士学校二回生、コウタ=ヒラサカです。愛機の名は《ディノ=バロウス》。そして……』


 そこで一度言葉を止める。
 脳裏にはこれまでの日々が蘇っていた。


『……あの日から』


 ――そう。あの炎の日から。
 コウタの口から、想いが溢れ出てくる。


『あの炎の日から、ボクも色々な人に出会い、色々なモノを背負いました。その中にはボクに二つ名を贈った人間もいました』


 あの男のことも思い出す。
 初めて出会った高い壁。自分を遙かに超える男。


「……ほう。二つ名か」


 と、これはオトハの声だ。
 コウタは視線を女性に向ける。
 肘に手を当てて腕を組む彼女は、軽く驚いている様子だった。


『……そうなのか』


 兄の方も、少し驚いていた。
 だが、それも当然なのかも知れない。
 十代で二つ名を持つのは、かなり稀だ。名乗っていても自称が多いと聞く。


(ボクもアルフ以外じゃ知らないし)


 そう思っていると、


『一体どんな二つ名なんだ? 誰から贈られたんだ?』


 兄が尋ねてきた。


「……コウタ」

「……うん」


 コウタは少しだけ困った表情を見せた。


『贈られた名は《悪竜顕人》。意味は《悪竜》を現世に顕現させた者。重々しくて気恥ずかしいんですけどね。そして、ボクにその名を贈ったのは――』


 自分が知る最強の男。
 緊張と警戒を共に、あの男の名を告げる。


『ボクが初めて戦った《九妖星》。《金妖星》ラゴウ=ホオヅキです』


 数瞬の沈黙。
 オトハは、大きく目を剥いた。
 そして兄は、


『……そうか』


 ポツリ、と呟いた。


『……あのクソジジイとは、すでに遭っているって、シャルから聞いていたが、まさか他の《妖星》とも遭遇してたのか?』


 それはもう、しょっちゅう遭遇している。
 全員で九人いるらしい《妖星》の内、すでに三人と面識がある。
 すれ違いレベルなら《地妖星》も含めて四人である。
 いつか全員と遭いそうで嫌だった。


『ボクとしては、あまり遭いたくないんですけど』


 これは素直な想いだ。
 あんな怪物達には遭いたくない。
 ただ、仇であるあの男と、だけは例外だが。


(リノは今、どこにいるのかな?)


 そう思っていると、


「……コウタ」


 不意に、メルティアがギュッとコウタの腹筋をつねってきた。
 コウタが何を考えているのか、気付いたのだろう。


「……またあのニセネコ女のことを考えていましたね」

「え、あ、いや、その……」


 鋭すぎる幼馴染に、コウタが口ごもっていると、


『ははっ、そいつは同意見だ』


 アッシュが笑った。
 一瞬、コウタはキョトンとしたが、《九妖星》との遭遇率を語ったようだ。
 どうも、兄も似たような遭遇率らしい。


「流石はコウタのお兄さまですね」

「いや、まあ、ボクもそう思うけど」


 コウタも笑う。
 兄に、とても、よく似た笑顔で。


『けど、ボクはこの名を受け取りました。この名は最強を目指すボクの覚悟です』


 コウタは、告げた。


『ボクの名は《悪竜顕人》コウタ=ヒラサカ。たとえ、あなたであっても、容易くあしらえるなんて思わないでください』


 伊達や酔狂で、この二つ名を名乗っている訳ではない。
 この名には誇りと共に、覚悟を込めていた。


『……おう。そうだな』


 兄は、真剣な声色で応えてくれた。
 そして――。


『そんじゃあ、始めようとすっか。《悪竜顕人》』

『……はい』


 コウタは頷く。
 あの男さえ超える高い壁。
 それに挑む時が、遂に訪れたのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

処理中です...