悪竜の騎士とゴーレム姫【第12部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第8部

第七章 《煉獄》の鬼②

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(……コウタさま)


 リーゼは祈るような想いで、《ディノス》を見つめていた。
 彼女の隣には、同じような表情をするアイリがいて、リーゼの手を握っていた。


(あれが、お義兄さまの機体、《朱天》ですか)


 真紅の角と白い鋼髪。
 まるで《煉獄》の鬼を思わせる漆黒の鎧機兵。
 コウタの《ディノ=バロウス》と並んでも、見劣りしない威圧感を持つ機体だ。


「……コウタ、勝てるかな?」


 アイリが、リーゼの手をギュッと掴んで呟く。
 あの敵が尋常ではないのは、素人のアイリでも分かるのだろう。


「……アイリ」


 リーゼは強くアイリの手を握り返した。
 しかし、気休めは言えない。


「……お義兄さまは《七星》最強です」


 わずかに視線を伏せる。


「対し、コウタさまの今の実力は、アルフレッドさまとほぼ同等。ミランシャさまの予測は、わたくしも正しいと思いました。恐らくコウタさまに勝ち目は……」


 ほぼ皆無。
 それは口にはしなかったが、アイリは眉をひそめた。


「ですが、安心してください。アイリ」


 リーゼは、優しく微笑む。


「この戦いは、《九妖星》を相手にする時とは違います。想いを伝えるための戦い。お怪我されないことは祈りますが、命を失うようなことだけは絶対にありません」

「……それは分かっているよ。けど、私は」


 アイリは、リーゼの顔を見上げた。


「……純粋にコウタに負けて欲しくない」


 リーゼはクスッと笑った。


「まあ、それはわたくしも同じですわね」


 愛する人の勝利を願わない女はいないということだ。
 アイリは、チラリと《ディノ=バロウス》に目をやった。


「……いつも思うけど、メルティアだけ相乗りの特権を持っているのはずるいと思う」

「……そうですわね」


 リーゼも《ディノ=バロウス》に目をやって頷く。


「そろそろ、あの特権は取り上げるべきですわね」

「……うん。私達も要求すべきだよ。けど」


 アイリは自分の真っ平らな胸を見た。それからリーゼの胸も見やる。
 アイリは「……むう」と呻いた。


「……リーゼなら、まだ押しつければ、おっぱいの感触は伝わるだろうけど、私にはまだ無理だよ。前から抱きつくってのは無理かな?」

「え? そ、それは……」


 リーゼは目を見開いた。
 そしてその直後に、ボッと赤くなる。
 思い出すのは、彼女の人生を決定することになった新徒祭。
 純白の鎧機兵と対峙した事件だ。


「シ、シートの位置や、操縦棍の高さを調整すれば可能ですが、そ、その……」


 体験談をつい語り始めてしまう。
 が、すぐにハッとし、リーゼは、口元を隠して視線を逸らしてしまった。
 耳や、うなじまで真っ赤だった。


「……リーゼ?」


 アイリが首を傾げる。


「……どうしたの? どうして顔が赤いの?」

「い、いえ! 何でもありませんわ!」


 それよりも、と続け、


「か、仮に、アイリが《悪竜ディノ=バロウス》モードが制御できるようになっても、コウタさまが戦場にアイリを連れて行くことはあり得ませんわ」

「……むう」


 無念そうに呻くアイリ。
 リーゼは、アイリの頭を撫でた。


「……けど、権利だけは欲しいところだよ」

「……そうですわね。後でメルティアに要求しますか」


 と、リーゼが頬に手を当て呟いた時。


「うわあ、何あれ……」


 呆然としたアリシアの声が届く。
 リーゼとアイリが、少し離れている彼女に視線を向けた。


「なんか、無茶苦茶おっかねえのが出てきたな、オイ」


 続けて、エドワードも呟きも聞こえてくる。
 どうやら、彼らは《ディノ=バロウス》を見て驚いているようだ。


(まあ、初めて《ディノス》を見れば当然の反応ですわね)


 リーゼは苦笑した。
 これは、きっと説明がいるだろう。
 リーゼは、アイリの手を引いて、アリシア達の方へと足を向けた。
 が、近付く前に、一度だけ足を止める。
 彼女は、視線を《ディノ=バロウス》に向けた。
 愛する人と、親しき友人が乗る鎧機兵は、今日も雄々しい姿だった。
 リーゼは、微かに瞳を細めた。


(……コウタさま)


 そして、彼女は祈る。


(どうかご武運を。そしてメルティア共に、怪我だけはなさらぬように)
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