悪竜の騎士とゴーレム姫【第12部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第3部

第四章 いよいよ始まる『初デート』②

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「よ、よし。そろそろか」


 一方、ほぼ同時刻。
 魔窟館の前にて一人の少年が身構えていた。
 黒系統のブレザーに、薄い刺繍の入った白いシャツ。下には黒いズボンを履いた、休日であっても珍しい私服姿のコウタである。
 流石にデートに制服姿では望めない。彼なりの気遣いの表れだった。


「ふ、ふう……」


 脱力して小さく息をもらすコウタ。
 彼は三十分も前から、魔窟館の扉の前で立ち尽くしていた。
 早く来たのは緊張感から。そしてずっとこの場にいたのは、早く来たのはいいが、結局屋敷の中に入る勇気が持てなかったからだ。
 しかし、そんな躊躇いもここまでだった。
 すでに時刻は午後二時。メルティアと約束した時間が訪れている。
 デートで女性を待たせるのはあるまじき行為だと、ジェイクからも事前にアドバイスを受けている。ここは勇気を振り絞るしかなかった。


(が、頑張れボク!)


 と、頬をパンと叩き、コウタは自分を奮い立たせる。
 そして、すでに鍵を開けている重厚な扉を開けようとした時だった。

 ――ガチャリ、と。

 いきなり扉が勝手に開いた。いや、中から開けられたのか。
 反射的に硬直するコウタ。
 すると、ズシンと地面を踏みしめ、巨体が扉をくぐって現れた。
 着装型鎧機兵パワード・ゴーレムを着たメルティアである。


「メ、メル……?」


 しかし、コウタはその鎧姿を見るなり、眉をしかめた。
 魔窟館から出てきた以上、メルティアであるとは思うのだが、何と言うか普段の彼女にはない気迫のようなモノを感じたのだ。
 例えるなら、戦場に出る前の戦士の趣か。ただならぬ覚悟を感じる。
 それを示すかのように、着装型鎧機兵パワード・ゴーレムがプシューと全身から蒸気を出した。


「う、うわ!?」


 あまりにも人間らしくない機能に、コウタは思わず驚きの声を上げた。
 まるで鎧機兵が戦闘モードに移行するような様子だ。まあ、着装型鎧機兵パワード・ゴーレムは一応鎧機兵の一種ではあるのだが。


『………ふう』


 そして巨体には似つかわしくない可憐な声が放たれる。
 それは間違いなくメルティアの声だった。


「………メ、メル」


 と、コウタが顔を強張らせていると、おもむろに巨人はコウタを見やり、


『コウタ。もう来ていたんですね』


 と、緊張と覚悟が混じったような口調で告げてくる。
 コウタは、ただコクコクと頷いた。
 対し、メルティアは着装型鎧機兵パワード・ゴーレムの中で満足げに微笑み、


『で、ではコウタ』


 メルティアは巨体をもじもじさせてコウタを見やる。
 もし本体ならば、間違いなく上目づかいになっている。その姿の愛らしさは、本来ならば凄まじい破壊力だったに違いない。
 しかし、この巨体では威圧感しか感じなかった。
 それはこの姿に慣れたコウタでも例外ではなく、顔を強張らせていた。
 が、その様子には気付かず、メルティアはそっと巨大な手を差し出して……。


『そ、その、エスコートをお願いできますか?』


 と、声だけは可憐にコウタにお願いする。
 コウタは面持ちを改めた。いかに厳つい姿であろうともそれは外見だけ。
 中身のメルティアは普通の少女なのだ。


(……よし)


 コウタは小さく息を吐いて呼気を整えてから、着装型鎧機兵パワード・ゴーレムの手を取った。
 ごつごつとした機械仕掛けの手だが、この鎧の中にメルティアがいると思うと、不思議とドキドキして来る。
 改めてコウタは巨人を見やり、そこに微笑む幼馴染の姿を幻視した。
 コウタは想いを新たにして決意する。
 今日は、何としてでもやり遂げなければならない。
 メルティアを傷つけずに、彼女に満足してもらうのだ!


「……メル」


 そしてコウタは緊張した声色で少女に告げた。


「じゃ、じゃあデートに行こうか」


       ◆


「おっ、出て来たみてえだな」

「ええ、そのようですわね」


 と、呟くのは二人の人物。揃って帽子を深々と被り、動きやすそうな服装をしたジェイクとリーゼの二人である。
 そこは、アシュレイ邸の正門が見える路地の一角。
 時刻は昼の二時を少し回ったほどであり、ジェイクとリーゼの二人は静かにアシュレイ邸の様子を窺っていた。
 そして、いよいよ目的の人物達が正門から出てくるのを確認したのだ。
 ズシンズシンと足音を響かせる武装したメルティアと、彼女――見た目的には巨漢の甲冑騎士――と手を繋ぐコウタの姿だ。
 どう贔屓目に見てもカップルに思えないが、あれでも二人はデートに出かけようとしているのである。リーゼが唇を噛みしめ、二人を凝視する。


「……メルティア。コウタさまに手を繋いでもらえるとは何て羨ましい」

「いやいや、お嬢……」


 ジェイクは頬を引きつらせた。


「あれは手を繋いでいる内に入んねえだろ? メル嬢はあの鎧の中なんだぜ」


 実際、あの鎧越しでは手を繋ぐ意味はない。感触も伝わらないだろう。しかし、そんな光景でさえ羨ましく思えるほど、リーゼは追い込まれているようだ。数日前に出会った女性のアドバイスも、現状の危機を前にしては頭から吹っ飛んでいるに違いない。
「むむむ」と親指の爪を咬んでメルティア達を睨みつけている。
 すると、不意にリーゼがジェイクの方を見やり、


「オルバン」


 ぼそりと名を呼ぶ。


「早くコウタさま達の後を追いますわよ。このままでは見失います」

「お、おう。そうだな」


 相槌を打つジェイク。
 確かにコウタ達はすでに大分前に進んでいる。気付かれないように一定の距離を置く必要はあるが、あまり離されるのもよくない。


「そんじゃあ、後を追う――って待てよ。お嬢」


 ふと、ジェイクは足を止めた。


「……? どうしましたオルバン?」


 と、リーゼは首を傾げたが、ジェイクの視線の先――アシュレイ邸の正門を見やり、すぐに納得した。そこからメイド服の少女――アイリが現れたのだ。すぐ傍には、姿を隠すつもりなのかフード付きのマントを纏った三機のゴーレムがいる。中には小さな王冠を掲げた機体――ゴーレム隊の隊長機である零号の姿もあった。
 彼らはこっそりとコウタ達の後を追い始めた。
 どうやら目的はジェイク達と同じらしい。


「あらあら。あの子達は……」


 と、リーゼがクスリと笑う。先程まで焦りを隠せなかった彼女だが、アイリ達の姿を見て少しだけ冷静さを取り戻していた。
 ジェイクは少しホッとしながらもあごに手をやり、


「アイリ達もオレッち達と同じ目的か。なら合流すっか」

「そうですわね」


 リーゼもこくんと頷いて同意する。
 尾行とはあまり大人数で行うべきではないが、同じ目的でありながら別行動を取るのも得策ではない。ここは合流するのも手だろう。


「ふふ、ではあの子達に声をかけましょう」


 言って、早速リーゼが歩き出す。
 一方、アイリ達の方もこちらに気付き、目を丸くしていた。
 そしてリーゼとアイリ達は合流した。
 その様子を一人遠くで見やり、


(さて、と。いよいよ始まったか)


 ジェイクは小さく嘆息した。
 遂に実施されることになったコウタとメルティアのデート。
 二人の行く末に興味津々なアイリと、ゴーレム達。
 そしてひたすら焦燥に駆られるリーゼ。
 何とも騒がしくなってきたものだ。


(こいつは一体どうなるんだ?)


 友人達の行き着く先を案じて――。
 ただただ、頬を引きつらせるジェイクだった。
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