悪竜の騎士とゴーレム姫【第12部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第4部

第一章 少女達の日々②

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「メ、メル……」


 その時、ごくりと喉を鳴らす人物がいた。
 心配のあまり、声援を贈るのも忘れている彼の名前はコウタ=ヒラサカ。
 フドウと同じく、アロン大陸の血統の特徴である黒髪と黒い瞳を持つ少年だ。
 とは言え、彼はアロンからの留学生ではない。曾祖父がアロン大陸からの移住者であり、その血が色濃く残っているのだ。
 ともあれ、彼はこの上なく真剣な眼差しでメルティアを見つめていた。


「おいおい、コウタ」


 すると隣に立つ巨漢の少年が呆れたように声を掛けてきた。コウタの最も親しい友人であり、短く刈った濃い緑色の髪が特徴的な少年――ジェイク=オルバンだ。


「お前がそんな緊張してどうすんだよ。ただの模擬戦だぞ」


 そう言って、ジェイクが苦笑を浮かべる。
 コウタとメルティアは、表向きはアシュレイ家の住み込みの使用人とお嬢さまという間柄なのだが、それ以前に八歳からの付き合いになる幼馴染でもある。
 大切な幼馴染が心配なのは分かるが、コウタはいささか構い過ぎのような気がする。


「け、けどさ、ジェイク」


 コウタはジェイクに視線を向けて言う。


「メルは初めて自分で鎧機兵を操るんだよ。心配にもなるよ」

「まあ、確かに初めてだが……」


 ジェイクは両腕を組んだ。


「オレっちとしては、メル嬢の愛機がどんなのかが気になるな」


 そう言って、グラウンドの中央に目をやる。
 すでにフドウは愛機を召喚している。対し、メルティアは右の拳を掲げていた。


「コウタは知ってんのか? メル嬢の愛機がどんなんなのか」


 と、尋ねるジェイク。
 これまでメルティアは鎧の着用を理由に、鎧機兵の授業は常に見学していた。
 まあ、実際のところとしては面倒臭いから避けていたのだろうとジェイクは考えていた。
 それが今回、何か心境が変わるようなことでもあったのか、初めてメルティアが専用の鎧機兵を用意してきたのだ。


(メル嬢の愛機か……)


 ジェイクは、あごに手をやった。
 彼の知る限り、メルティアは紛れもなく鎧機兵製作の天才だ。
 果たしてどのような機体なのか、興味は尽きない。


「いや、知らないよ」


 しかし、コウタの返答は期待したものではなかった。


「メルは自分の愛機ついては全然教えてくれなかったんだ。だからどんな機体を造ったのか見るのはボクも今日が初めてなんだ」

「へえ。そうなのか」


 ジェイクは目を丸くした。
 メルティアがコウタにまで秘密にするのは珍しい。


「もしかしてサプライズってやつか?」

「うん。そう言ってたよ。メルは時々そういうことをする子だし」


 と、誰よりもメルティアの性格を知るコウタが言う。


「ふ~ん、メル嬢のサプライズか……」


 ジェイクは改めてグラウンドを見やる。
 これはかなり面白そうなモノが見られるのかもしれない。
 と、その時、周囲から「「「お、おおおおお……」」」と感嘆のような声が上がった。
 メルティアの前方が光り輝き、いよいよ彼女の鎧機兵が姿を現し始めたのだ。


「おっ、いよいよ始まるのか」

「うん、そうみたいだね」


 ジェイク、コウタも興味津々に徐々に現れる機体に注目した。
 周囲の生徒達も初お披露目となる剛令嬢の機体に興味を隠せなかった。


「おおッ! どんなんだ!」「あの体格ガタイの剛令嬢が乗るんだぜ。やっぱ普通のよりデケェんだろうな」「いや、案外鎧を重ね着したようなタイプかも知んねえぞ」


 と、意見が飛び交う。
 しかし、その機体が全容を現し始めて生徒達の言葉は消えた。
 思わず全員が絶句したのだ。
 そして遂に機体が完全に召喚された時、


「「「デケエエエエエエエエェェェエエエエエ―――ッ!?」」」


 全員が驚愕の声を上げていた。


「な、何なんだ、あのデカさは!?」「ちょ、ちょっと、あれって普通の機体の二倍ぐらいあるんじゃあ……」「尾もないぞ。動くのかあれ!?」


 再び飛び交う意見。
 遂に現れたメルティアの愛機。それは、あまりにも巨大な機体だった。
 全高は恐らく七セージル以上。全身の色はメルティアの鎧と同じ紫銀色だ。
 そのシルエットは直立した円塔のような姿だった。頭部もまた浅い筒状であり、赤い両眼以外は鎧装もなく、構造的にあごもない。両肩の肩当ては台形状で、何故か後方に向けて幼い子供程度ならば搭乗できそうなぐらい大きな出っ張りがある。両腕には四つほど孔が空いた巨大な手甲を装着していた。一方、下半身の装備は前方を大盾のような装甲で固め、後方を環状の装甲を重ねることで足元まで覆うスカート状の鎧装を形作っている。従来の機体には必ずあるバランサーである尾がないのも特徴の一つとして挙げられた。
 もしも城砦を擬人化したとすれば、このような姿になるのかもしれない。
 ともあれ、これほどまでに重装甲な機体は誰も見たことがなかった。


「こ、こいつはまたゴツイのが出てきたな」


 と、豪胆なジェイクさえも頬を強張らせて言う。
 それからコウタの方を見やり、


「ありゃあ、一体どうやって戦う機体なんだ?」


 見たところ、あの機体はかなり鈍重そうだ。特に武器も持っていないようなので、どうやって戦うのか、イメージしにくい鎧機兵だった。


「い、いや、ボクにも分からないよ」


 と、答えるコウタだったが、直感が告げている。
 あれはどう見ても、真っ当な戦い方をする鎧機兵に見えない。
 そもそもメルティアが自分専用に製造した機体だ。ただの鎧機兵の訳がない。
 果たして、どんな機能を有しているのか……。
 嫌な予感ばかりして、コウタはごくりと喉を鳴らした。
 するとその時、メルティアの愛機――《フォレス》の胸部装甲がおもむろに開いた。
 いよいよメルティアが搭乗するらしい。しかし、その方法もまた、従来の機体とは違っていた。胸部装甲ハッチは上には開かず、城門のように横に開いたのだ。

 しかも不意にレールのようなモノが地面へと伸び、玉座を彷彿させる椅子がスライドして降りてきた。全員が唖然とする中、メルティアは椅子に座る。椅子の背には大きな窪みがあり、メルティアの鎧のバックパックがピタリと組みこまれる。そしてそのまま引き上げられていくと、愛機の操縦席へと収納されていった。ガシュン、と重い音を立てて閉門する胸部装甲。ますますもって普通の鎧機兵ではない。


(メ、メルゥ……)


 コウタは冷や汗を流す。さっきから嫌な予感が止まらない。
 ああ、どうか。
 どうか、やりすぎることがありませんように。
 心の中で真摯にそう祈るコウタだった。
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