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治療師の仕事と治療魔法の講義
麗人による迷惑な遊び
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学問都市オークニーの中心地に建つ城。現帝の息子・第三皇子の住居でもある。
クリスはその城の庭でお茶会をさせられていた。
正面には編みこんだ長い白金の髪を背中に流した青年。長いまつ毛に紫の瞳。人間離れした美麗な顔に白磁の肌。
精霊のような外見にして、この城の主のセルシティ第三皇子。
不機嫌丸出しのクリスにセルシティが微笑む。
「君の執事が淹れた紅茶ほどではないけど、良い味だよ」
促されたクリスは渋々、紅茶を一口飲んだ。しっかりと感じる茶葉の香りと味。
「確かに前回より美味い。だが、渋みが強い。茶葉の味を出そうとして蒸らし過ぎだ。あとは水か」
「クリスティの領地の茶葉で味は美味しくなったけどね。良い水がなくて」
「水は探すしかないな。それで、紅茶の話をするために私を呼んだのか?」
絶対零度のクリスの視線をセルシティが穏やかに流す。
「たまには、ゆっくりするのも必要だと思うよ」
「私はそんなに暇人ではないのだが?」
「知ってるよ。ところで、最近変わったことがなかったかな?」
セルシティの問いにクリスは黙る。セルシティが楽しそうにクッキーを口に入れた。
「警戒しなくてもいいのに」
「さて、どうだか」
「今回は面白いモノを見せようと思ってね」
「面白いモノ?」
「そろそろかな」
セルシティが空に視線を移す。クリスもつられて見上げると、大声が響いた。
「来たぞ!」
「捕まえろ!」
「特別賞与だ!」
「逃がすか!」
浮き足だったような、威勢がいい声が続く。
「そっちに行ったぞ!」
「追い詰めろ!」
「捕まえ……うわっ!?」
「う、嘘だろ!?」
勢いがあった声が次第に驚きと焦りに変わる。
「これでもダメなのか!?」
「通すな!」
「絶対に死守しろ!」
悲鳴混じりの必死な声。
「地獄の特訓だぞ!」
「やめてくれ!」
「なら、突破されるな!」
「死ぬ気で守れ!」
阿鼻叫喚になった声が徐々に近づいてくる。
「相手は一人だぞ!」
「何をしている!」
「増援が来るまで、持ちこたえ……」
突如、激しかった音が消えた。無言で空を見ていたセルシティが口元に笑みを浮かべる。
「やあ、遅かったね」
セルシティの前に赤髪が舞い降りた。体には煙をまとっているが傷はどこにもない。琥珀の瞳がセルシティを映す前に横を向いた。
「師匠! ご無事ですか!?」
あまりの登場にクリスの口が半開きとなる。
「……おまえ、どうしてここに?」
どうにか言葉を出したクリスを無視して、ルドが心配そうに飛びつく。
「怪我はありませんか? 酷いことをされませんでしたか?」
「いや、私よりおまえの方が……」
ルドがひたすらクリスの全身を観察する。それは久しぶりに主と再会した忠犬のようで。
セルシティが笑いを堪えて呟く。
「本当に犬だな」
クリスの無事を確認したルドが安堵したように息を吐いた。
「ご無事で良かったです」
「人の話を聞け!」
我慢の限界を超えたクリスがルドの腹を蹴る。
「痛っ! 何をするんですか!?」
「それはこっちのセリフだ! なぜ、いきなり空から降ってきた!?」
「それは……師匠、ちょっと待っ、話ができなっ!」
ルドの言葉を聞く気がないクリスは蹴りを止めない。そして、肩を振るわせて笑っているセルシティも止める気はない。
誰も制する人がいない混沌とした空間に、中年の騎士が走ってくる。その姿にクリスがようやく足を止めた。
「ここに来るまでに何をした?」
「何もしていませんよ? ここまで一直線に来ただけです」
ルドの回答にクリスが蹴りを再開させる。
「一直線に来るだけで、あんな騒動になるか! そもそも、ここをどこだと思っている!?」
「いてっ! そろそろ本気で痛いんですが!」
「知るか!」
漫才のような光景に走ってきた騎士が唖然とする。セルシティが騎士に声をかけた。
「訓練は終了。各隊、反省点と改善点を報告書にまとめて今日中に提出するように。夜には各部の隊長を集めて会議をする」
「はっ!」
騎士が敬礼をして走り去る。
話を聞いたクリスは標的をルドからセルシティに移した。
「訓練とは、どういうことだ?」
「侵入者に対する訓練でね」
セルシティがルドを指さす。
「私の命を狙う侵入者を捕まえるという訓練をしたんだ。近頃、騎士団の気が緩んでいるから、実戦を兼ねてね。侵入者を捕まえたら特別賞与。侵入者が私のところまで来たら地獄の特訓」
クリスはルドを見下ろした。
「ほう? なかなか面白いことに参加していたようだな」
「知りません! 自分はまったく知りませんでした!」
「だが侵入者役は、おまえだろ!」
「いや、ですから! 知らなかったんです!」
「なら、何故ここにいる!?」
「それは……ゲフッ」
クリスの蹴りがルドのみぞおちに入る。そのまま地面に沈むルドを眺めながら、セルシティがクリスに声をかけた。
「ほら、面白いものが見れただろう?」
「面白くもなんともない。なにも知らないなら、どうしてここに来た?」
ルドがどうにか顔だけを起こす。
「師匠が治療院研究所を休むと聞いた時、セルの印璽が押された空の封筒を渡されました」
「それだけで、私がここにいると?」
「はい。師匠が無断で休み、セルから空の封筒が届いた。ということは、セルが師匠に何かした、と予測しました」
「それで、ここに一直線に来たのか?」
「はい!」
自信満々なルドにクリスはため息を吐いた。
「だが、急いで来ることもないだろ」
ルドが勢いよく起き上がって叫ぶ。
「師匠はセルの裏の顔を知らないから、悠長なことが言えるんです!」
「そもそも、おまえら知り合いだったのか?」
クリスはルドとセルシティを交互に見た。セルシティが懐かしそうに話す。
「学友でね。あの頃はこうしてよく遊んだよ」
「セルが一方的に仕掛けてきたけどな!」
「悪友ということか。ところで、私が言うのもなんだが、おまえはセルティに敬語は使わなくていいのか? こんなのでも第三皇子だぞ」
「言葉に関しては師匠に言われたくないですけど……敬語は使わないと誓約をさせられたんです。不敬になるから嫌だと言ったのに」
ルドが額を押さえて座り込む。代わりにセルシティが説明した。
「あの頃のルドは何をしても無表情の無反応だったからね。池に落としたり、火をつけたり、土に埋めたり、空に飛ばしたり、いろんなことをしたよ」
「さすがに命に関わることには反応する!」
「で、命の危機を感じたルドが交渉をしてきたから、私に敬語を使わないことを条件に止めたんだ」
「……そうか」
いろいろツッコミどころがある話だったが、クリスは聞き流すことにした。下手に関わっていらぬ火の粉を被りたくない。
ルドが必死にクリスに訴える。
「そんなセルシティから空の封筒が届いたんですよ? 師匠の身を案じるのは普通だと思いません?」
ルドが捨てられた子犬のように潤んだ瞳で見上げる。
「うっ……」
その姿にクリスは言葉が詰まった。
子犬や幼子がするなら可愛いが、実際は図体のでかい青年。可愛らしさからは対極。
そう。対極なのに、クリスは何故か少し可愛いと思ってしまった。
クリスは自分の考えを否定するようにルドに蹴りをいれた。
「心配しなくても、セルティが腹黒く、人でなしなことは知っている!」
貶されたセルシティだが気にすることなく微笑む。
「私だって命は惜しいからね。クリスティに手を出すようなことはしないよ」
そこに従者が現れ、恭しく一礼をした。
「セルシティ様、バスクル国のノロドム公爵夫妻とご面会の時間です」
「じゃあ、私は先に失礼するよ」
あっさりと去ったセルシティにルドが肩を落とす。
「また遊ばれた……」
「おまえが単純すぎるんだ。私のことなど、ほっとけばいいのに」
「そういうわけにはいきません!」
ルドが立ち上がって握りこぶしを作る。
「師匠は自分が守ります!」
その言葉にクリスは顔が赤くなるのを感じた。と、同時にルドの腹に鋭い一撃を放つ。
「自分の身ぐらい自分で守れる!」
声も出さずにルドの体が倒れる。
「帰る!」
歩きだしたクリスに倒れたルドが手だけを伸ばす。
「し、師匠……出口は、そちらではな、いで、す……」
ルドの手が力尽きたように地面に落ちる。
二人のやり取りを遠くから眺めていたセルシティが口角を上げた。
「やっぱり面白いなぁ」
「セルシティ様」
「あぁ」
セルシティが城の中へ入った。
クリスはその城の庭でお茶会をさせられていた。
正面には編みこんだ長い白金の髪を背中に流した青年。長いまつ毛に紫の瞳。人間離れした美麗な顔に白磁の肌。
精霊のような外見にして、この城の主のセルシティ第三皇子。
不機嫌丸出しのクリスにセルシティが微笑む。
「君の執事が淹れた紅茶ほどではないけど、良い味だよ」
促されたクリスは渋々、紅茶を一口飲んだ。しっかりと感じる茶葉の香りと味。
「確かに前回より美味い。だが、渋みが強い。茶葉の味を出そうとして蒸らし過ぎだ。あとは水か」
「クリスティの領地の茶葉で味は美味しくなったけどね。良い水がなくて」
「水は探すしかないな。それで、紅茶の話をするために私を呼んだのか?」
絶対零度のクリスの視線をセルシティが穏やかに流す。
「たまには、ゆっくりするのも必要だと思うよ」
「私はそんなに暇人ではないのだが?」
「知ってるよ。ところで、最近変わったことがなかったかな?」
セルシティの問いにクリスは黙る。セルシティが楽しそうにクッキーを口に入れた。
「警戒しなくてもいいのに」
「さて、どうだか」
「今回は面白いモノを見せようと思ってね」
「面白いモノ?」
「そろそろかな」
セルシティが空に視線を移す。クリスもつられて見上げると、大声が響いた。
「来たぞ!」
「捕まえろ!」
「特別賞与だ!」
「逃がすか!」
浮き足だったような、威勢がいい声が続く。
「そっちに行ったぞ!」
「追い詰めろ!」
「捕まえ……うわっ!?」
「う、嘘だろ!?」
勢いがあった声が次第に驚きと焦りに変わる。
「これでもダメなのか!?」
「通すな!」
「絶対に死守しろ!」
悲鳴混じりの必死な声。
「地獄の特訓だぞ!」
「やめてくれ!」
「なら、突破されるな!」
「死ぬ気で守れ!」
阿鼻叫喚になった声が徐々に近づいてくる。
「相手は一人だぞ!」
「何をしている!」
「増援が来るまで、持ちこたえ……」
突如、激しかった音が消えた。無言で空を見ていたセルシティが口元に笑みを浮かべる。
「やあ、遅かったね」
セルシティの前に赤髪が舞い降りた。体には煙をまとっているが傷はどこにもない。琥珀の瞳がセルシティを映す前に横を向いた。
「師匠! ご無事ですか!?」
あまりの登場にクリスの口が半開きとなる。
「……おまえ、どうしてここに?」
どうにか言葉を出したクリスを無視して、ルドが心配そうに飛びつく。
「怪我はありませんか? 酷いことをされませんでしたか?」
「いや、私よりおまえの方が……」
ルドがひたすらクリスの全身を観察する。それは久しぶりに主と再会した忠犬のようで。
セルシティが笑いを堪えて呟く。
「本当に犬だな」
クリスの無事を確認したルドが安堵したように息を吐いた。
「ご無事で良かったです」
「人の話を聞け!」
我慢の限界を超えたクリスがルドの腹を蹴る。
「痛っ! 何をするんですか!?」
「それはこっちのセリフだ! なぜ、いきなり空から降ってきた!?」
「それは……師匠、ちょっと待っ、話ができなっ!」
ルドの言葉を聞く気がないクリスは蹴りを止めない。そして、肩を振るわせて笑っているセルシティも止める気はない。
誰も制する人がいない混沌とした空間に、中年の騎士が走ってくる。その姿にクリスがようやく足を止めた。
「ここに来るまでに何をした?」
「何もしていませんよ? ここまで一直線に来ただけです」
ルドの回答にクリスが蹴りを再開させる。
「一直線に来るだけで、あんな騒動になるか! そもそも、ここをどこだと思っている!?」
「いてっ! そろそろ本気で痛いんですが!」
「知るか!」
漫才のような光景に走ってきた騎士が唖然とする。セルシティが騎士に声をかけた。
「訓練は終了。各隊、反省点と改善点を報告書にまとめて今日中に提出するように。夜には各部の隊長を集めて会議をする」
「はっ!」
騎士が敬礼をして走り去る。
話を聞いたクリスは標的をルドからセルシティに移した。
「訓練とは、どういうことだ?」
「侵入者に対する訓練でね」
セルシティがルドを指さす。
「私の命を狙う侵入者を捕まえるという訓練をしたんだ。近頃、騎士団の気が緩んでいるから、実戦を兼ねてね。侵入者を捕まえたら特別賞与。侵入者が私のところまで来たら地獄の特訓」
クリスはルドを見下ろした。
「ほう? なかなか面白いことに参加していたようだな」
「知りません! 自分はまったく知りませんでした!」
「だが侵入者役は、おまえだろ!」
「いや、ですから! 知らなかったんです!」
「なら、何故ここにいる!?」
「それは……ゲフッ」
クリスの蹴りがルドのみぞおちに入る。そのまま地面に沈むルドを眺めながら、セルシティがクリスに声をかけた。
「ほら、面白いものが見れただろう?」
「面白くもなんともない。なにも知らないなら、どうしてここに来た?」
ルドがどうにか顔だけを起こす。
「師匠が治療院研究所を休むと聞いた時、セルの印璽が押された空の封筒を渡されました」
「それだけで、私がここにいると?」
「はい。師匠が無断で休み、セルから空の封筒が届いた。ということは、セルが師匠に何かした、と予測しました」
「それで、ここに一直線に来たのか?」
「はい!」
自信満々なルドにクリスはため息を吐いた。
「だが、急いで来ることもないだろ」
ルドが勢いよく起き上がって叫ぶ。
「師匠はセルの裏の顔を知らないから、悠長なことが言えるんです!」
「そもそも、おまえら知り合いだったのか?」
クリスはルドとセルシティを交互に見た。セルシティが懐かしそうに話す。
「学友でね。あの頃はこうしてよく遊んだよ」
「セルが一方的に仕掛けてきたけどな!」
「悪友ということか。ところで、私が言うのもなんだが、おまえはセルティに敬語は使わなくていいのか? こんなのでも第三皇子だぞ」
「言葉に関しては師匠に言われたくないですけど……敬語は使わないと誓約をさせられたんです。不敬になるから嫌だと言ったのに」
ルドが額を押さえて座り込む。代わりにセルシティが説明した。
「あの頃のルドは何をしても無表情の無反応だったからね。池に落としたり、火をつけたり、土に埋めたり、空に飛ばしたり、いろんなことをしたよ」
「さすがに命に関わることには反応する!」
「で、命の危機を感じたルドが交渉をしてきたから、私に敬語を使わないことを条件に止めたんだ」
「……そうか」
いろいろツッコミどころがある話だったが、クリスは聞き流すことにした。下手に関わっていらぬ火の粉を被りたくない。
ルドが必死にクリスに訴える。
「そんなセルシティから空の封筒が届いたんですよ? 師匠の身を案じるのは普通だと思いません?」
ルドが捨てられた子犬のように潤んだ瞳で見上げる。
「うっ……」
その姿にクリスは言葉が詰まった。
子犬や幼子がするなら可愛いが、実際は図体のでかい青年。可愛らしさからは対極。
そう。対極なのに、クリスは何故か少し可愛いと思ってしまった。
クリスは自分の考えを否定するようにルドに蹴りをいれた。
「心配しなくても、セルティが腹黒く、人でなしなことは知っている!」
貶されたセルシティだが気にすることなく微笑む。
「私だって命は惜しいからね。クリスティに手を出すようなことはしないよ」
そこに従者が現れ、恭しく一礼をした。
「セルシティ様、バスクル国のノロドム公爵夫妻とご面会の時間です」
「じゃあ、私は先に失礼するよ」
あっさりと去ったセルシティにルドが肩を落とす。
「また遊ばれた……」
「おまえが単純すぎるんだ。私のことなど、ほっとけばいいのに」
「そういうわけにはいきません!」
ルドが立ち上がって握りこぶしを作る。
「師匠は自分が守ります!」
その言葉にクリスは顔が赤くなるのを感じた。と、同時にルドの腹に鋭い一撃を放つ。
「自分の身ぐらい自分で守れる!」
声も出さずにルドの体が倒れる。
「帰る!」
歩きだしたクリスに倒れたルドが手だけを伸ばす。
「し、師匠……出口は、そちらではな、いで、す……」
ルドの手が力尽きたように地面に落ちる。
二人のやり取りを遠くから眺めていたセルシティが口角を上げた。
「やっぱり面白いなぁ」
「セルシティ様」
「あぁ」
セルシティが城の中へ入った。
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