【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

文字の大きさ
40 / 243
死者使いと悪魔召喚

誰かによる極秘な政策

しおりを挟む
 クリスは悩むアウルスを眺めた。

 セルシティのことだから、今回の事件を口にすれば絶命する魔法をかけたのだろう。それを自分が解除するところまで予想して。

 ただ、茶で魔法を解除したなんて普通ではありえない。その状態で話せば命がない、と言われていることを簡単に話すわけない。

 アウルスの葛藤に気付いたルドが何か言おうとしたが、クリスはそれを止めた。

「私はアウルスおまえからの問いにしか答えないぞ」

 アウルスがクリスを見据える。意地悪く笑っているが深緑の瞳は真剣。それだけ重要な話だからこそ、こちらの意志を試そうとしている。

 悩むアウルスを前に、クリスは悠然と足を組み、体を椅子に預けた。

「無理にとは言わない。ただし後日訊ねても、私は一切答えないからな」

 アウルスが無言のままクリスを見る。
 深緑の瞳からは考えを読み取ることはできない。底が見えない瞳は濁っているのではなく、風がない湖畔のように澄んでいる。
 職業柄さまざまな人と出会ってきたが、こんな目を持つ人間は滅多にいない。良くも悪くも強い信念と自信を持っている。

 覚悟を決めたアウルスが両手に力を入れて訊ねた。

「この国では女と奴隷は魔法が使えない。だが先日の事件で貴殿の奴隷は魔法を使っていた。どういうことだ?」

 言い切ったアウルスが命があることに深く息を吐く。
 クリスは軽く頷くと、安堵しているアウルスに問いかけた。

「では、何故この国では女と奴隷は魔法が使えない? 女だから、奴隷だから、とかいう間抜けな答えは言うなよ。女も、奴隷も、人間だ。私達となんの変わりもない、同じ人間だからな」

 クリスの言葉にウルバヌスの肩がピクリと動く。その動作を見逃さなかったクリスはウルバヌスを睨んだ。

「この国の人間はその意識が欠落しすぎなんだ」
「確かに、この国に連れてこられるまでは魔法が使えた奴隷もいるし、他国では魔法が使える女もいる……」

 アウルスが考え込む。

「もう少し根拠、理由を考えるようになれ。カリスト」
「はい」

 後ろで控えていたカリストがクリスの隣に立つ。

「屈んで首を見せろ」
「はい」

 屈んだカリストが襟のボタンを外し、首元を広げた。女好きのウルバヌスでさえ見惚れるほどの綺麗な白い肌と鎖骨。だが、そこには奴隷が付けなければならない首輪がなかった。
 アウルスが視線をキツくする。

「首輪は? 何かあった時、どうする?」
「屋敷の外に出る時は付けるようにしている。そもそも、どうして首輪をしなければならないんだ?」
「それは奴隷の持ち主が誰か分かるようにするためだ」
「それもあるが、本当の狙いは別にある。見てもほとんど分からないだろうが、ここに魔法印の痕があるだろ?」

 クリスはカリストの首を指さした。しかし、そこには白い肌があるだけで、印は見えない。

「奴隷はこの国に入る前に奴隷の証として、この魔法印を押される。魔法印は魔力を印に集める。そして、奴隷が付ける首輪は、印に集められた魔力を吸収する」
「つまり、その魔法印で魔力を首に集め、首輪が魔力を吸収することで、奴隷が魔法を使えないようにしているのか? だが、魔力を吸収しても魔法石がない首輪では、魔力が多い奴隷だとすぐに魔力が一杯になるぞ」
「そうだな。ところで奴隷に装着させる首輪の値段がバカ高いのは知っているか?」
「あぁ」
「それは何故だ?」
「うっ」

 思わず唸ったアウルスを置いてクリスは話を続けた。

「首輪の素材は大したものを使っていないし、魔法石も使っていない。魔力を吸収する作用を付けても、普通ならここまで高額にならない」
「……考えたこともなかった」
「首輪の値段がバカ高いのは、高度な魔法式が組み込まれているからだ。吸収した魔力が一定量溜まったら転送されるようにな」

 淡々と説明するクリスに対し、アウルスが体を乗り出す。

「魔力を転送!? そんな魔法式があるのか!? 魔力はどこに集められている!?」

 クリスは肩をすくめた。

「さぁ? それは知らない。カリスト、いいぞ」

 カリストが立ち上がり首元を整える。

「奴隷は魔力を常に吸い取られているから魔法が使えない」
「だが、貴殿の奴隷は魔法を使えたではないか」
「そんな馬鹿らしい仕組みに付き合う義理はないからな。魔法印と首輪の魔法式は解除してある」
「な……な、なぁっ!?」

 軽く言っても違反であり、反逆罪にもなりかねない。加えて、それをあっさり白状するところが信じられない。

 驚愕のあまり声が出なくなったアウルスに代わり、クリスの常識外れな行動に慣れてきたルドが質問をした。

「では、この国の女性はどうして魔法が使えないのですか? 魔法印や首輪ようなものは付けてないですよね?」
「そこはまた違う方法を使っている。簡単に言うと思い込みだ」
「思い込み?」
「そうだ。思い込みというより思い込ませている、か。始めは女が魔法を使うことは、はしたない、だった。そこから、女は人前で魔法を使うな、女が魔法を使えば罰する、に変化した。そうなれば女は自然と魔法を使わなくなる。その後いつの間にか、女は魔法が使えない、に情報がすり替えられ、それが常識となった。ニ百年ぐらいの時間をかけて情報操作した結果だがな。気の長い戦略だ」
「誰がそんなことを? なんのために?」

 クリスは肩をすくめた。

「目的は知らん。が、昔の権力者の誰かだろう」
「では、女性でも魔法を使えるのですか?」
「使おうと思えばな。聞きたいことは、全部か?」

 クリスの確認にルドが隣を見る。衝撃の情報の連続に唸り続けるアウルス。

 そこで静観していたウルバヌスが質問をした。

「さっきの茶は不要なものが出たら味が変わるって言ってたけど、オレから何か出たのか?」

 騎士モードからプライベートモードになったウルバヌスが軽く自分の体を触って確認する。

「詳しいことはアウルスそいつに聞いたらいい。で、いつまで牛みたいに唸っているつもりだ?」

 頭を抱えていたアウルスが顔を上げた。

「こんな話を私たちにして良かったのか? もし私が告発すれば、どうなるか分かるだろう?」
「副隊長!?」

 慌てるルドに対し、クリスは軽く笑う。

「私は質問に答えただけだ。それで問題があるというのであれば好きにすればいい」

 黙ったアウルスにクリスは目を細めた。

「奴隷の魔力を吸収して転送するなど、明らかに皇族が関わっている。そうなれば、知っているのは極一部の者のみだ。下手に報告すれば、自分の存在が消されるし、報告した相手がこのことを知らなければ、そこから内政が揺らぎ、国が崩れる可能性もある」

 クリスは悠然と微笑んだ。

「私はセルティのように優しくないからな。告発でも報告でもすればいい。だが、その後のことまでは知らないぞ。おまえのことも、この国のことも、な」
「クッ……」

 奥歯を噛んだアウルスが茶を一気に飲み干して立ち上がる。

「ウルバヌス、行くぞ」
「は、はい!」

 ウルバヌスも茶を一気に飲んで追いかけた。ルドが二人の後ろ姿とクリスを交互に見る。

「ついていってもいいんだぞ」

 素っ気ないクリスの言葉にルドが動いた。








しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

病弱な第四皇子は屈強な皇帝となって、兎耳宮廷薬師に求愛する

藤原 秋
恋愛
大規模な自然災害により絶滅寸前となった兎耳族の生き残りは、大帝国の皇帝の計らいにより宮廷で保護という名目の軟禁下に置かれている。 彼らは宮廷内の仕事に従事しながら、一切の外出を許可されず、婚姻は同族間のみと定義づけられ、宮廷内の籠の鳥と化していた。 そんな中、宮廷薬師となった兎耳族のユーファは、帝国に滅ぼされたアズール王国の王子で今は皇宮の側用人となったスレンツェと共に、生まれつき病弱で両親から次期皇帝候補になることはないと見限られた五歳の第四皇子フラムアーク付きとなり、皇子という地位にありながら冷遇された彼を献身的に支えてきた。 フラムアークはユーファに懐き、スレンツェを慕い、成長と共に少しずつ丈夫になっていく。 だがそれは、彼が現実という名の壁に直面し、自らの境遇に立ち向かっていかねばならないことを意味していた―――。 柔和な性格ながら確たる覚悟を内に秘め、男としての牙を隠す第四皇子と、高潔で侠気に富み、自らの過去と戦いながら彼を補佐する亡国の王子、彼らの心の支えとなり、国の制約と湧き起こる感情の狭間で葛藤する亜人の宮廷薬師。 三者三様の立ち位置にある彼らが手を携え合い、ひとつひとつ困難を乗り越えて掴み取る、思慕と軌跡の逆転劇。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

処理中です...