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死者使いと悪魔召喚
ルド自身による微かな自覚
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ルドが浮きかけていた腰を下ろす。
「あ、いえ。これ以上、自分が出来ることはありませんので」
その様子にクリスは小声で呟く。
「旧知の仲ということか」
「何か言いました?」
「なんでもない。で、今日は何か用事があったのではないのか?」
「そうです! 借りていた本をお返しして、新しい本をお借りしたいと思いまして!」
と、ルドが言ったところで盛大に腹がなった。
「そろそろ昼か。カルラ」
サロンの入り口で控えていたカルラが顔を出す。
「はい」
「昼食の準備は?」
「できております」
「食べるか?」
クリスの問いにルドが元気に二つ返事をした。
食堂に移動したクリスはルドの正面に座る。次々と運ばれてくる昼食を空腹の二人は競い合うように食べた。
そのため、カルラが何度も皿を運び、キッチンが戦場に。
こうして二人で五人前ほどの料理を完食し、空腹が落ち着いた頃。
ルドが食後の茶を前にして訊ねた。
「先ほど飲んだお茶は、どういうお茶なのですか? 魔法を解除できるお茶など聞いたことありませんが」
「薬草と言われる薬になる葉や実を調合して煮出したものだ。そこにカリストが魔法を解除する魔法を仕込んだ」
「飲み物に魔法を仕込む!?」
「他国ではそういう魔法もあるそうだ。飲み物や食べ物に魔法をかけて、王族同士で暗殺したり、されたり」
「そんな国が……」
「この国の皇族は比較的仲が良いからな。そういう話は聞かないが、他国では珍しくない」
そこでクリスは首元に手を入れて鎖を引っ張った。
「そういえば、これを返さないとな」
「返す?」
クリスはルドにシルバーチェーンの先についている物を見せる。そこには、銀のワイヤーで草花の模様に編まれた球体があり、中にルドのピアスが入っている。
球体を開けてピアスを取り出そうとするクリスをルドが止めた。
「それは師匠にあげたものです。返さなくていいです」
「もらった記憶はない」
「悪魔を倒した後、持っていてくださいと言ったら、そうか、って受け取ったじゃないですか」
「記憶にない」
頑ななクリスの態度に、ルドも負けじと開き直る。
「なら、もう一度言います。持っていてください」
「嫌だ」
「どうしてですか!?」
断られ続けたルドが半泣きに。伏せられた犬耳に、垂れ下がった尻尾の幻影が。
クリスはため息を吐きながらピアスをルドに見せる。ルドの髪より濃い深紅に輝く。
「おまえ、これがどういうものか分かっているのか?」
「自分の魔力を籠めた魔宝石です」
「そうだ。魔力を貯めたり、放出したりすることが出来る、希少で高額な石だ。魔法石でも同じことが出来るが、貯められる魔力量が桁違いに多い」
「その通りです」
「これ一つで一財産になるし、家一軒は軽く買えるんだぞ」
そんな魔宝石を高位貴族ではピアスにして生まれた子に贈る風習がある。魔宝石は持ち主の魔力を宿し、いざという時には物理的にも経済的にも持ち主を守る手段となる。
そして、結婚する時にはお互いのピアスを交換する、という。
クリスは再確認した。
「それを渡す意味を分かっているのか?」
「親からは大切な人ができたら渡しなさいと言われました」
「それだ! 私ではなく、将来の大切な人に渡すべきだろ!」
ルドが目を伏せて軽く頭を振る。
「将来ほど不確かなものはありません。だからこそ、今を大切にしたいんです。自分は師匠に渡したいと思いました」
そう言って顔を上げた琥珀の瞳は真剣そのもの。一歩も譲りそうにないルドに、説得が面倒になったクリスは折れた。
「……わかった。では、これは預かることにしよう。おまえが言う不確かな将来に私より大切な人が現れるまで、私が預かる」
「預けるつもりはありません」
「なら捨てるぞ」
怒り顔のクリスはシルバーチェーンに手をかける。ここまで譲歩したんだぞ、というクリスの圧力を感じたルドがグッと言葉を呑み込んだ。
「……わかりました。それでいいです。でも、もし師匠より大切な人が現れなかったら、どうします?」
「死ぬまで預かってやる」
クリスは不服そうに腕を組み、顔を窓に向けた。反対にルドが満足そうに笑う。
「ありがとうございます」
クリスは答えなかったが耳が微かに赤くなっていた。
ルドが外を眺めているクリスを見た。
自分と同い年か少し下ぐらいの年齢。しかし、横柄な態度のせいか、そのことを失念してしまう。
そして、自身のことより相手を助けようと暴走する。
こういう時に守れる誰かがいればいいのに。
そう考えながらルドがクリスの隣に立つ誰かを想像した。
「ん?」
「どうした?」
「い、いえ。なんでもないです」
「そうか」
クリスはルドを気にせず茶を飲んだ。
ルドが首を傾げながら胸を触る。クリスの隣に立つ誰か、を想像した瞬間、胸に微かに違和感を覚えた。鋭い針で突かれたような、一瞬だけ心臓を鷲掴みにされたような、わずかな痛み。
だが、痛みの原因に心当たりがない。
悩むルドにクリスは声をかけた。
「今日はこれからどうするんだ?」
「あの、できれば書庫で勉強したいのですが、いいですか?」
「好きにしろ。私は自室で休む」
「ありがとうございます」
「なにかあれば屋敷の者に声をかけろ」
そう言うと、クリスは食堂を離れた。放置されたルドが茶を飲み終えたところで、カリストが来た。
「伝え忘れておりましたが、クリス様は体調が万全ではございませんので、治療院研究所は十日ほど休まれます」
「そんなに調子が悪いのですか!?」
驚くルドにカリストが視線をキツくする。
「この前の事件で無理な魔力の使い方をしましたので回復に時間が必要です。しばらくはクリス様に魔法を使わせないでください。どんな小さな魔法でも、です」
「わかりました」
神妙に頷くルドにカリストが目を伏せた。
「クリス様も自身のことなので分かってはいますが、無理をしがちなので。いざという時は止めて下さい」
「自分では師匠を止められる自信がないです」
苦笑いするルドにカリストが断言する。
「どうしても難しい時は気絶させて下さい」
「いいのですか? 気絶させる、ということは、それだけの衝撃を師匠の体に与えますよ?」
「貴方なら力加減も分かっているでしょうから、下手な人に任せるより安心です」
「褒められているようには思えませんね」
「そのようなことはございませんよ」
カリストが微笑んで話題を変える。
「そうそう。クリス様が自分が治療院研究所を休む間は、書庫を自由に使って良い、と言われておりました」
「つまり明日からも、ここで勉強して良いってことですか?」
「はい」
「よし!」
拳を握って喜ぶルドをカリストが呆れた様子で眺めた。
「あ、いえ。これ以上、自分が出来ることはありませんので」
その様子にクリスは小声で呟く。
「旧知の仲ということか」
「何か言いました?」
「なんでもない。で、今日は何か用事があったのではないのか?」
「そうです! 借りていた本をお返しして、新しい本をお借りしたいと思いまして!」
と、ルドが言ったところで盛大に腹がなった。
「そろそろ昼か。カルラ」
サロンの入り口で控えていたカルラが顔を出す。
「はい」
「昼食の準備は?」
「できております」
「食べるか?」
クリスの問いにルドが元気に二つ返事をした。
食堂に移動したクリスはルドの正面に座る。次々と運ばれてくる昼食を空腹の二人は競い合うように食べた。
そのため、カルラが何度も皿を運び、キッチンが戦場に。
こうして二人で五人前ほどの料理を完食し、空腹が落ち着いた頃。
ルドが食後の茶を前にして訊ねた。
「先ほど飲んだお茶は、どういうお茶なのですか? 魔法を解除できるお茶など聞いたことありませんが」
「薬草と言われる薬になる葉や実を調合して煮出したものだ。そこにカリストが魔法を解除する魔法を仕込んだ」
「飲み物に魔法を仕込む!?」
「他国ではそういう魔法もあるそうだ。飲み物や食べ物に魔法をかけて、王族同士で暗殺したり、されたり」
「そんな国が……」
「この国の皇族は比較的仲が良いからな。そういう話は聞かないが、他国では珍しくない」
そこでクリスは首元に手を入れて鎖を引っ張った。
「そういえば、これを返さないとな」
「返す?」
クリスはルドにシルバーチェーンの先についている物を見せる。そこには、銀のワイヤーで草花の模様に編まれた球体があり、中にルドのピアスが入っている。
球体を開けてピアスを取り出そうとするクリスをルドが止めた。
「それは師匠にあげたものです。返さなくていいです」
「もらった記憶はない」
「悪魔を倒した後、持っていてくださいと言ったら、そうか、って受け取ったじゃないですか」
「記憶にない」
頑ななクリスの態度に、ルドも負けじと開き直る。
「なら、もう一度言います。持っていてください」
「嫌だ」
「どうしてですか!?」
断られ続けたルドが半泣きに。伏せられた犬耳に、垂れ下がった尻尾の幻影が。
クリスはため息を吐きながらピアスをルドに見せる。ルドの髪より濃い深紅に輝く。
「おまえ、これがどういうものか分かっているのか?」
「自分の魔力を籠めた魔宝石です」
「そうだ。魔力を貯めたり、放出したりすることが出来る、希少で高額な石だ。魔法石でも同じことが出来るが、貯められる魔力量が桁違いに多い」
「その通りです」
「これ一つで一財産になるし、家一軒は軽く買えるんだぞ」
そんな魔宝石を高位貴族ではピアスにして生まれた子に贈る風習がある。魔宝石は持ち主の魔力を宿し、いざという時には物理的にも経済的にも持ち主を守る手段となる。
そして、結婚する時にはお互いのピアスを交換する、という。
クリスは再確認した。
「それを渡す意味を分かっているのか?」
「親からは大切な人ができたら渡しなさいと言われました」
「それだ! 私ではなく、将来の大切な人に渡すべきだろ!」
ルドが目を伏せて軽く頭を振る。
「将来ほど不確かなものはありません。だからこそ、今を大切にしたいんです。自分は師匠に渡したいと思いました」
そう言って顔を上げた琥珀の瞳は真剣そのもの。一歩も譲りそうにないルドに、説得が面倒になったクリスは折れた。
「……わかった。では、これは預かることにしよう。おまえが言う不確かな将来に私より大切な人が現れるまで、私が預かる」
「預けるつもりはありません」
「なら捨てるぞ」
怒り顔のクリスはシルバーチェーンに手をかける。ここまで譲歩したんだぞ、というクリスの圧力を感じたルドがグッと言葉を呑み込んだ。
「……わかりました。それでいいです。でも、もし師匠より大切な人が現れなかったら、どうします?」
「死ぬまで預かってやる」
クリスは不服そうに腕を組み、顔を窓に向けた。反対にルドが満足そうに笑う。
「ありがとうございます」
クリスは答えなかったが耳が微かに赤くなっていた。
ルドが外を眺めているクリスを見た。
自分と同い年か少し下ぐらいの年齢。しかし、横柄な態度のせいか、そのことを失念してしまう。
そして、自身のことより相手を助けようと暴走する。
こういう時に守れる誰かがいればいいのに。
そう考えながらルドがクリスの隣に立つ誰かを想像した。
「ん?」
「どうした?」
「い、いえ。なんでもないです」
「そうか」
クリスはルドを気にせず茶を飲んだ。
ルドが首を傾げながら胸を触る。クリスの隣に立つ誰か、を想像した瞬間、胸に微かに違和感を覚えた。鋭い針で突かれたような、一瞬だけ心臓を鷲掴みにされたような、わずかな痛み。
だが、痛みの原因に心当たりがない。
悩むルドにクリスは声をかけた。
「今日はこれからどうするんだ?」
「あの、できれば書庫で勉強したいのですが、いいですか?」
「好きにしろ。私は自室で休む」
「ありがとうございます」
「なにかあれば屋敷の者に声をかけろ」
そう言うと、クリスは食堂を離れた。放置されたルドが茶を飲み終えたところで、カリストが来た。
「伝え忘れておりましたが、クリス様は体調が万全ではございませんので、治療院研究所は十日ほど休まれます」
「そんなに調子が悪いのですか!?」
驚くルドにカリストが視線をキツくする。
「この前の事件で無理な魔力の使い方をしましたので回復に時間が必要です。しばらくはクリス様に魔法を使わせないでください。どんな小さな魔法でも、です」
「わかりました」
神妙に頷くルドにカリストが目を伏せた。
「クリス様も自身のことなので分かってはいますが、無理をしがちなので。いざという時は止めて下さい」
「自分では師匠を止められる自信がないです」
苦笑いするルドにカリストが断言する。
「どうしても難しい時は気絶させて下さい」
「いいのですか? 気絶させる、ということは、それだけの衝撃を師匠の体に与えますよ?」
「貴方なら力加減も分かっているでしょうから、下手な人に任せるより安心です」
「褒められているようには思えませんね」
「そのようなことはございませんよ」
カリストが微笑んで話題を変える。
「そうそう。クリス様が自分が治療院研究所を休む間は、書庫を自由に使って良い、と言われておりました」
「つまり明日からも、ここで勉強して良いってことですか?」
「はい」
「よし!」
拳を握って喜ぶルドをカリストが呆れた様子で眺めた。
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