【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

文字の大きさ
42 / 243
二人の意識の変化

麗人による悦楽な遊び

しおりを挟む
 クリスは不機嫌な顔で朝食をとっていた。給仕するカルラの表情も固い。

 そんな二人の先には。

 白金の髪を編込み背中に流し、優雅に朝食を食べるセルシティ。隣には給仕をするカリスト。
 その背後には近衛騎士が二人。鋭い視線で警戒している。
 そんな緊張感の中、カリストが平然と給仕をこなす。

 クリスは紅茶を飲みながらセルシティを睨んだ。

「例の事件で犬を自宅監禁にしていたそうだな。おまえなら監禁しなくても、身分証明ぐらいすぐに出来ただろ」

 犬がルドのことと察したセルシティが茶化すように質の悪い笑みを浮かべる。

「三日もルドに会えなくて寂しかったかい?」
「だ、誰が! そんなこと!」

 紅茶を吹き出しかけたクリスに、セルシティがますます口角を上げた。

「おや、おや。そんなに真っ赤になって否定するとは。あながち間違いではないようだね」
「だから! そんなこと一言も言ってないだろ!」

 クリスは激しくテーブルを叩いて立ち上がる。

「そんなに声を荒げるところを久しぶりに見たよ。まさか、クリスティがねぇ……」

 ニヤニヤするセルシティに、クリスは水が入ったピッチャーを持った。そのままセルシティにぶちまけようとしたところで、黒い瞳と目が合う。

 カリストが微笑み、首を左右に振った。
 その姿にクリスは大きく息を吐き、忌々しそうに椅子に座る。

 これ以上、感情を出すのはセルシティの思うツボ。のせられてはいけない。
 クリスは大きく息を吸って呼吸を整えた。

「で、そんなことを言うために朝食をたかりに来たのか?」
「もう少し遊びたかったのに。ルドのようにはいかないか」
「犬のことは、もういい。で、ここに来た目的は?」

 セルシティが珍しく真面目な顔になる。

「悪魔召喚の事件について、続報だ。オンディビエラ子爵を捕縛した」
「そうか」

 驚く様子なく食事を再開したクリスにセルシティが肩を落した。

「なんだ。知っていたのか」
「捕縛は知らん。ただ、私について嗅ぎ回っていたから少し調べたら、いろいろ良くないモノが出てきた」
「その辺りはルドが裏でいろいろ動いていたからね。おかげで捕縛しやすかったよ」
「犬が?」
「そう。クリスティの前だと、あんな感じだけどね。敵にまわしたら厄介だよ、ルドは」

 無言のクリスにセルシティが話を戻す。

「オンディビエラ子爵はクリスティに治療を断られた後、ベッティーノと接触してね。オンディビエラ子爵は奴隷誘惑の疑惑を密告して、クリスティが警備兵によって牢に留置されたところを裏金で助けて恩を売る。ベッティーノはクリスティが不在の間に妊婦の奴隷を誘拐。と計画していたそうだ」

 クリスは肩をすくめた。

「変なところで利害が一致したんだな」
「まったくだよ。それに、まだ関わっている人間がいる。ベッティーノが数多くある検問を、どうやって突破して、オークニーに侵入したのか。どうやって、二人が出会ったのか」
「そこまで手引きをした者がいる、か。この国でそこそこの権力や人脈を持っていないと無理だな」
「あぁ。調査中だが、私の失策を狙っている者か、内部から撹乱してこの国の力を削ごうとしている者か。そんなところだろう」
「大変だな」

 他人事のクリスにセルシティが眉尻を下げる。

「もう少し協力的になってくれてもいいと思うんだけど」
「それは、そっちの仕事だ。私を巻き込むな。用が済んだなら、さっさと帰れ」
「まぁ、まぁ。もう一つ話があるんだ」

 セルシティが今までの雰囲気を消し、クリスを咎めるように睨む。

「今回はかなり無理をしたらしいな」

 クリスは無言のまま答えない。

「奴隷を助けるな、とは言わない。だが、世界を見ろ。助けを必要とする人は何千、何万といる。全員を助けようとすれば、クリスティの方が先に潰れる」

 セルシティからの本気の忠告に、クリスは思い出すように語り始めた。

「カリストがいた国ではエンという言葉があるそうだ」

 セルシティが黙ってクリスの言葉に耳を傾ける。

「エンには、丸を意味するエンや、人との繋がりを意味するエンなどがある。私の一族は、あの時あのままだったら、私が出てくる・・・・前に滅んでいた、と聞いている。それを先代の領主が狭い円から出て、この国で縁を創り、広げた。そのおかげで一族は絶滅を免れ、命を繋いだ。その結果、私はここにいる。エンとは、どこでどう繋がり、どのような結果をもたらすか分からない」

 相づちも打たず、黙って聞くセルシティにクリスは続けた。

「私は全ての人を助けることは出来ないし、そんな力もない。だが、せっかく繋がった命だ。目に留まった人だけでも助けたい。それは贅沢か?」

 まっすぐ見つめてくる深緑の瞳に、セルシティが大きく息を吐く。

「……贅沢だな。やりたいことがやれる。それは、とても贅沢なことだ」
「では、その贅沢を全力でやらせてもらおう」

 ニヤリと笑うクリスにセルシティが諦めたように笑う。

「好きにすればいい」
「安心しろ。迷惑はかけない」
「少しぐらいかけてもいいぞ?」
「おまえに貸しを作るものほど怖いことはない」
「そんなことないよ」

 セルシティが楽しそうに否定する。そこで、カリストがクリスに声をかけた。

「犬が来たようですね」

 クリスは一瞬立ち上がりかけ、椅子に座り直した。
 その様子にセルシティがニヤリと笑う。

「ほう? 朝早くからルドは熱心だな。さて、私はそろそろおいとましよう」

 セルシティが立ち上がるが、クリスは動かない。

「今度、用事がある時は私を呼び出せ。おまえがここに来たら使用人たちが苛立って仕事にならん」
「そうか。なら、次から気を付けよう」
「二度と来るな」
「はい、はい」

 セルシティが廊下に出ると、ルドと鉢合わせた。

「セル!? どうして、ここに!?」

 予想外の人物の出現にルドが臨戦態勢になる。一方のセルシティが意味ありげに笑う。

「おはよう、ルド。いや昨日の夜、世話になってな。朝食を済ませて、これから帰るところだ」
「夜?」

 困惑しているルドの耳元でセルシティが囁いた。

「クリスのベッドは、なかなか寝心地が良かったよ」
「ベッド? ベッドの寝心地をなぜ……」

 首を傾げていたルドが何かに気付いたのか、突然顔を真っ赤にして叫んだ。

「どういう意味だ!?」
「他人のベッドで寝る目的など、そう多くないだろ」
「なっ!?」

 ルドが真っ赤な顔のまま口をパクパクと動かすが声が出ない。そこに飛んできたクリスはルドの腹を蹴った。

「なにを想像している!? なにを!」
「え? あ、師匠!」

 次にクリスはセルシティを睨んだ。

「おまえも! ないこと! ないこと! ないこと、言うな!」
「何もないんですね!」

 嬉しそうなルドにクリスは怒鳴り返す。

「あってたまるか!」
「いや、ちゃんとあったことも言ったよ」
「何があったんですか!」

 両肩を掴んで迫るルドをクリスは殴った。

「落ち着け! セルティもこれ以上引っ掻き回すな!」
「そうかい。じゃあ、そろそろ帰るよ」
「早く帰れ!」
「セル! 師匠に何をしたんだ!」
「何もされとらん! 朝食を一緒に食べただけだ!」

 クリスはルドを何度も蹴る。そんな二人を眺めながら、セルシティが楽しそうに城へ戻った。

 セルシティが屋敷から出た後もルドが何度もクリスに確認する。

「あ、あの師匠? 本当になに……」
「しつこい! セルティは早朝にいきなりやって来て、飯を食わせろと言うから、食わせただけだ! そもそも男同士で何があるというんだ!」

 ルドの顔がキョトンとなり目が丸くなる。

「師匠、知らないのですか?」
「どういうことだ?」
「男同士だからこそ、あるんです」

 予想外の言葉にクリスは固まった。

「は?」

 クリスの間抜けな声が響いた。


しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

病弱な第四皇子は屈強な皇帝となって、兎耳宮廷薬師に求愛する

藤原 秋
恋愛
大規模な自然災害により絶滅寸前となった兎耳族の生き残りは、大帝国の皇帝の計らいにより宮廷で保護という名目の軟禁下に置かれている。 彼らは宮廷内の仕事に従事しながら、一切の外出を許可されず、婚姻は同族間のみと定義づけられ、宮廷内の籠の鳥と化していた。 そんな中、宮廷薬師となった兎耳族のユーファは、帝国に滅ぼされたアズール王国の王子で今は皇宮の側用人となったスレンツェと共に、生まれつき病弱で両親から次期皇帝候補になることはないと見限られた五歳の第四皇子フラムアーク付きとなり、皇子という地位にありながら冷遇された彼を献身的に支えてきた。 フラムアークはユーファに懐き、スレンツェを慕い、成長と共に少しずつ丈夫になっていく。 だがそれは、彼が現実という名の壁に直面し、自らの境遇に立ち向かっていかねばならないことを意味していた―――。 柔和な性格ながら確たる覚悟を内に秘め、男としての牙を隠す第四皇子と、高潔で侠気に富み、自らの過去と戦いながら彼を補佐する亡国の王子、彼らの心の支えとなり、国の制約と湧き起こる感情の狭間で葛藤する亜人の宮廷薬師。 三者三様の立ち位置にある彼らが手を携え合い、ひとつひとつ困難を乗り越えて掴み取る、思慕と軌跡の逆転劇。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

処理中です...