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二人の意識の変化
わんこ弟子による無自覚な本塁打
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クリスはクルマから降りて両手を伸した。
「ここはいつ来ても気持ちがいいな」
周囲に高い木はなく、山肌がむき出しの岩と草。その奥には雪で白くなった山と、吹き下ろす冷たい風。
ルドもクルマから降りると、クリスは座席の下から上着を取り出した。
「着とけ」
ルドが手渡された上着に袖を通す。厚手の生地で中に綿が入っているが見た目より軽く、風を通しにくい素材のため温かい。
クリスは柔らかい厚手の生地で作られたマントを羽織る。これだけで全身が包まれ温かい。
「師匠、これからどうするのですか?」
「魔力を補充してくる」
「そんなことが出来るのですか!?」
「本当に必要最低限だからな。魔法が使えるほどではない。この前の悪魔召喚事件で、無理な魔力の使い方をしたため、魔力がほとんど残っていなくて、日常生活にも支障が出てきている。だから、仕方なくだ」
「ですが、魔力が補充できるなんて初めて聞きました」
疑うことなく尊敬の眼差しで見つめてくるルド。
そんなルドをクリスはジッと見上げた。
「な、なんですか?」
「おまえ、なんでそんなに簡単に信じるんだ? 私が嘘を言っているかもしれないんだぞ」
「嘘なんですか?」
キョトンと軽く首を傾げるルドにクリスは頭を押さえた。
「人を疑うということを知らないのか? そもそも、私に聞きたいことはないか?」
「聞きたいこと?」
「治療魔法に関わること以外で、だぞ」
「えぇ? うーん……」
ルドが心当たりがないと言わんばかりに腕を組んで悩む。クリスはルドの答えを諦めた。
「普通はあの副隊長のように疑問に思うことばかりだと思うぞ。私が、神に棄てられた一族なのか。もし、その一族なら神の加護がないのに、どうやって魔法で治療をしているのか。他にも、どうして、この大昔の乗り物を持っているのか、とか。いくらでも疑問は出てくるだろ?」
「そういえば……」
言われて気がついた、という顔のルドにクリスはため息を吐く。
「能天気なのか、バカなのか……考えすぎて疑心暗鬼になるのも良くないが、ここまで考えないのも問題だな」
「だって、どんなことがあっても師匠が師匠であることに変わりはありませんし、自分の気持ちが変わることもありませんから」
ルドが満面の笑顔で断言する。
迷いなく見つめる澄んだ琥珀の瞳。風に遊ばれて泳ぐ赤髪。キラキラと輝く精悍な顔。鍛えられた逞しい体。
ルドの姿と言葉に、クリスは自分の顔が真っ赤になるのを感じた。
「おま……だか、その、クッ……」
クリスは何か言おうとしたが言葉が出ない。口をパクパクと動かしたが、声を出すことを諦めてその場に座り込んだ。
「……反則だろ」
両膝に顔を埋めて言った呟きが地面に消える。しかし、心配したルドが慌てて膝をつき、クリスの顔を覗き込む。
「師匠!? どうされました!? 体調が悪いのですか!?」
「……」
恥ずかしさが頂点になったクリスは無言で立ち上がり、俯いたまま歩きだした。
ルドが慌てて追いかける。
「師匠、待ってください! 大丈夫ですか!?」
クリスは足を止めると、振り返らずに言った。
「なんでもない。私は魔力を補充してくるから、おまえはそこの家の暖炉に火を起こしていろ」
「は、はい」
「あと、絶対にこっちに来るな」
「わかりました!」
クリスはルドを見ることなく細道から山の中へと入った。獣道に近い岩道を登る。
「……もう少しぐらい私に興味を持ってもいいんじゃないか? 普通は疑問だらけだろ」
ぶつぶつ呟きながら、ふと自分の言葉に疑問を持つ。
「……なぜ、私は知ってもらいたいと思っているんだ?」
隠しているわけではないが、多くの人に知られても困る。だから、このことを知っているのは限られた者だけ。
別に本人が知りたいと言っているわけではないのだから、あえてこちらから教える必要もない……のだが。
「魔法で治療する方法が学べればいいのか……私など、治療魔法のおまけでしかない、と……」
物足りないような、寂しいような、初めて感じる想い。
パキッ。
枝を踏んだ音でクリスは我に返った。
「べ、別にそれでいいじゃないか! あいつは魔法で治療ができるようになれば、それでいいんだから! 私のことなど、始めからどうでもいいんだ!」
重い気持ちを振り払うように突き進む。息が上がってきたところで目的地に到着した。
「……はぁ、はぁ」
両膝に両手をついて俯く。余計なことを考えていたせいか、それとも魔力がほとんどないせいか、いつもより疲れやすい。
クリスは息を整えると顔を上げた。目の前には小さな湖があり、湖底から水が湧き出ている。
「ここは、いつも綺麗だな」
クリスはマントを脱ぐと湖の横に置いた。上着を脱ぎ、靴を脱ぐ。そして薄い上着一枚とズボン一着になったところで湖に足をつけた。
「ぬるいぐらいか」
湧き水のため、水温は常に一定。冬でも凍ることはない。
クリスはゆっくりと湖の中に入り、空を見上げた。
「ふぅぅぅ……」
体の中にある空気を全て吐き出していく。そのまま体が湖底へと沈む。いつもは一つにまとめている茶色の髪が水の中へ広がる。
枯渇した魔力を求めるように全身が周囲の魔力を吸収していく。皮膚という境界が溶け、水と混ざり合う。
世界に自分という個がのまれていく。恐ろしいという感覚はなく、雄大な自然に包まれる安心感の方が強い。蜂蜜のように甘く、麻薬のように逃れられなくなる誘惑。
もし全て溶けてしまったら、どれだけ気持ちがいいのだろう……
そんなことを意識のすみで考えてしまう。だが、いつもそうなる前に世界から弾かれる。
再びゆっくりと体が上昇していく。息が苦しくなり、クリスは湖面に顔を出した。
「ぶはぁ!」
クリスは顔に張り付いた髪を手で後ろに流す。マントが置いてあるところへ、ゆったりと泳ぐ。
「まあまあ魔力を吸収できたな。魔法はまだ使えないが、生活するには問題ないだろ」
目的を終えたクリスは湖から出ると、岩影から人が飛び出し、剣先を突きつけられた。
「ここはいつ来ても気持ちがいいな」
周囲に高い木はなく、山肌がむき出しの岩と草。その奥には雪で白くなった山と、吹き下ろす冷たい風。
ルドもクルマから降りると、クリスは座席の下から上着を取り出した。
「着とけ」
ルドが手渡された上着に袖を通す。厚手の生地で中に綿が入っているが見た目より軽く、風を通しにくい素材のため温かい。
クリスは柔らかい厚手の生地で作られたマントを羽織る。これだけで全身が包まれ温かい。
「師匠、これからどうするのですか?」
「魔力を補充してくる」
「そんなことが出来るのですか!?」
「本当に必要最低限だからな。魔法が使えるほどではない。この前の悪魔召喚事件で、無理な魔力の使い方をしたため、魔力がほとんど残っていなくて、日常生活にも支障が出てきている。だから、仕方なくだ」
「ですが、魔力が補充できるなんて初めて聞きました」
疑うことなく尊敬の眼差しで見つめてくるルド。
そんなルドをクリスはジッと見上げた。
「な、なんですか?」
「おまえ、なんでそんなに簡単に信じるんだ? 私が嘘を言っているかもしれないんだぞ」
「嘘なんですか?」
キョトンと軽く首を傾げるルドにクリスは頭を押さえた。
「人を疑うということを知らないのか? そもそも、私に聞きたいことはないか?」
「聞きたいこと?」
「治療魔法に関わること以外で、だぞ」
「えぇ? うーん……」
ルドが心当たりがないと言わんばかりに腕を組んで悩む。クリスはルドの答えを諦めた。
「普通はあの副隊長のように疑問に思うことばかりだと思うぞ。私が、神に棄てられた一族なのか。もし、その一族なら神の加護がないのに、どうやって魔法で治療をしているのか。他にも、どうして、この大昔の乗り物を持っているのか、とか。いくらでも疑問は出てくるだろ?」
「そういえば……」
言われて気がついた、という顔のルドにクリスはため息を吐く。
「能天気なのか、バカなのか……考えすぎて疑心暗鬼になるのも良くないが、ここまで考えないのも問題だな」
「だって、どんなことがあっても師匠が師匠であることに変わりはありませんし、自分の気持ちが変わることもありませんから」
ルドが満面の笑顔で断言する。
迷いなく見つめる澄んだ琥珀の瞳。風に遊ばれて泳ぐ赤髪。キラキラと輝く精悍な顔。鍛えられた逞しい体。
ルドの姿と言葉に、クリスは自分の顔が真っ赤になるのを感じた。
「おま……だか、その、クッ……」
クリスは何か言おうとしたが言葉が出ない。口をパクパクと動かしたが、声を出すことを諦めてその場に座り込んだ。
「……反則だろ」
両膝に顔を埋めて言った呟きが地面に消える。しかし、心配したルドが慌てて膝をつき、クリスの顔を覗き込む。
「師匠!? どうされました!? 体調が悪いのですか!?」
「……」
恥ずかしさが頂点になったクリスは無言で立ち上がり、俯いたまま歩きだした。
ルドが慌てて追いかける。
「師匠、待ってください! 大丈夫ですか!?」
クリスは足を止めると、振り返らずに言った。
「なんでもない。私は魔力を補充してくるから、おまえはそこの家の暖炉に火を起こしていろ」
「は、はい」
「あと、絶対にこっちに来るな」
「わかりました!」
クリスはルドを見ることなく細道から山の中へと入った。獣道に近い岩道を登る。
「……もう少しぐらい私に興味を持ってもいいんじゃないか? 普通は疑問だらけだろ」
ぶつぶつ呟きながら、ふと自分の言葉に疑問を持つ。
「……なぜ、私は知ってもらいたいと思っているんだ?」
隠しているわけではないが、多くの人に知られても困る。だから、このことを知っているのは限られた者だけ。
別に本人が知りたいと言っているわけではないのだから、あえてこちらから教える必要もない……のだが。
「魔法で治療する方法が学べればいいのか……私など、治療魔法のおまけでしかない、と……」
物足りないような、寂しいような、初めて感じる想い。
パキッ。
枝を踏んだ音でクリスは我に返った。
「べ、別にそれでいいじゃないか! あいつは魔法で治療ができるようになれば、それでいいんだから! 私のことなど、始めからどうでもいいんだ!」
重い気持ちを振り払うように突き進む。息が上がってきたところで目的地に到着した。
「……はぁ、はぁ」
両膝に両手をついて俯く。余計なことを考えていたせいか、それとも魔力がほとんどないせいか、いつもより疲れやすい。
クリスは息を整えると顔を上げた。目の前には小さな湖があり、湖底から水が湧き出ている。
「ここは、いつも綺麗だな」
クリスはマントを脱ぐと湖の横に置いた。上着を脱ぎ、靴を脱ぐ。そして薄い上着一枚とズボン一着になったところで湖に足をつけた。
「ぬるいぐらいか」
湧き水のため、水温は常に一定。冬でも凍ることはない。
クリスはゆっくりと湖の中に入り、空を見上げた。
「ふぅぅぅ……」
体の中にある空気を全て吐き出していく。そのまま体が湖底へと沈む。いつもは一つにまとめている茶色の髪が水の中へ広がる。
枯渇した魔力を求めるように全身が周囲の魔力を吸収していく。皮膚という境界が溶け、水と混ざり合う。
世界に自分という個がのまれていく。恐ろしいという感覚はなく、雄大な自然に包まれる安心感の方が強い。蜂蜜のように甘く、麻薬のように逃れられなくなる誘惑。
もし全て溶けてしまったら、どれだけ気持ちがいいのだろう……
そんなことを意識のすみで考えてしまう。だが、いつもそうなる前に世界から弾かれる。
再びゆっくりと体が上昇していく。息が苦しくなり、クリスは湖面に顔を出した。
「ぶはぁ!」
クリスは顔に張り付いた髪を手で後ろに流す。マントが置いてあるところへ、ゆったりと泳ぐ。
「まあまあ魔力を吸収できたな。魔法はまだ使えないが、生活するには問題ないだろ」
目的を終えたクリスは湖から出ると、岩影から人が飛び出し、剣先を突きつけられた。
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