【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

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第二章・片思い自覚編〜帝都へ

リミニ領、領主グイドの護り

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 街の中心に建つ、堅牢堅固な造りの城。グイドの先導で馬に乗ったまま城門を抜け、城の入り口で馬から降りる。

 グイドが城内の廊下を歩きながら話した。

「伝令は届いている。急なことで疲れただろ? 部屋を準備したから、ゆっくり休んでくれ。あ、その前に夕食だな」

 三人の後ろを歩いていた執事が静かに助言する。

「食事の準備は出来ております」
「じゃあ食堂に行こう。こっちだ」

 先導するグイドについていく。城内は石造りのためか、窓が少なく外が見えない。

「ここだ」

 木でできた両開きのドアをグイドが開ける。そこは複数の細長いテーブルと椅子が並び、数十人が一斉に食事する食堂だった。
 食堂の広さに足を止めた二人をグイドが呼ぶ。

「そっちは大人数で食事をするときに使う。今日はこっちだ」

 グイドが食堂の端にあるドアを開けた。そこは、小綺麗な部屋で丸いテーブルと椅子がある。その隣には食事が乗ったワゴン。

「適当に座ってくれ。なにか飲みたいものがあるか?」
「いえ、とくにはないです」

 答えながらルドが近くの椅子に座った。クリスも同じように椅子に腰を下ろす。

「なら、この土地名産の酒があるんだが、どうだ? 少し辛口だが美味いぞ」
「あ、いえ。お酒は遠慮します」
「相変わらず真面目だな。まあ、仕事中だし仕方ないか」

 メイドがすべての料理をテーブルに並べると、執事を含め、使用人全員が退室した。普通なら給仕のために数人は残る。

 不思議そうな二人にグイドが笑いながら説明した。

「ここでは人に聞かれたくない話をすることが多いから、使用人には出て行ってもらうんだ。呼べばすぐ来るから問題はない。それより、腹が減っただろ? まずは食ってくれ」

 グイドが食事に手をつける。その姿にルドが顔を隠していた白い布を取り、食べ始めた。クリスもゆっくりと食べる。

 そんな二人を見ながらグイドが言った。

「城壁の倒壊現場での怪我人の治療は助かった。ありがとう」
「当然のことをしたまでだ」

 平然と答えるクリスをグイドがジッと見つめる。

「なんだ?」
「いや、まさかカイ殿の孫が治療師になっているとは思わなかったからな」

 グイドの言葉にクリスはルドを睨んだ。ルドが慌てて首を横に振る。

「自分は何も言ってないです!」
「ハッハッハッ! セルシティ第三皇子から聞いている。オレは昔、ガスパル殿とカイ殿に可愛がられたからな。今回のことは全力で協力させてもらう」
「そうか」
「で、セルシティ第三皇子からの今後の指令だ。ルドはその服だと目立つから、セルシティ第三皇子が準備した服に着替えて移動しろ、ということだ」

 ルドの顔が盛大に歪む。

「嫌な予感しかしないのですが……セルはどんな服を準備しましたか?」
「そう警戒するな。セルシティ第三皇子の親衛隊の服だ。それなら魔法騎士団ほどではないが相手を牽制できるし、権力もある。検問を抜けるのに苦労することはないだろう。あと、そちらの治療師の……」
「クリスだ」
「クリスか。クリスの服も準備してあるぞ」

 食事をしていたクリスの手が止まる。

「クリスは目に包帯を巻いて帝都の治療師に目の治療をしてもらう病人を演じろ、ということだ。つまり、クリスは貴族で目の治療のために急いで帝都に行く途中。ルドはその護衛、という設定だな」
「魔法騎士団と治療師の服は目立つし、噂もたちやすい。ここで服を変えるのは妥当か」
「そうですね」

 クリスとルドが納得する。そんな二人を眺めながらグイドが面白そうに目を細めた。


 並んでいた料理をすべて食べきり、クリスは満足していた。ルドも同じように完食している。
 そんな二人にグイドが話しかけた。

「そろそろ、明日以降のことについて話してもいいか?」
「明日以降、ですか?」

 グイドが呼び鈴を鳴らす。執事が空の食器を下げ、テーブルに紙を広げて退室する。
 それはリミニ領から帝都周辺の地図だった。

 軍人の顔になったグイドがリミニ領から帝都への道を指さす。

「帝都へ続く大きな道だから迷うということはないだろう。道中の治安もそんなに悪くはない。明日の昼はカントゥー町で馬を交換しろ。ただ、次に宿泊するソンドリオ領のベッピーノ・ビガット領主には気を付けろ。元は帝都に住んでいた貴族だが、十数年前にヘマして、ここに飛ばされた。無理やりにでも手柄や恩を作って帝都に戻ろうとしている野心家だ」
「そんな人に領主をさせているのですか?」
「全ての人間が聖人、潔白というわけにはいかないからな。自分より身分が下の者には横柄な態度を取る小者だ」

 クリスは肩をすくめ、ルドが神妙に頷く。

「よくある話だ」
「気を付けます」
「そんな領主だから、お前たちの本当の素性は明かされていない。さっき説明した設定通り、貴族とその護衛となっている。ま、護衛といってもセルシティ第三皇子の親衛隊だから下手に手は出してこないだろう」

 グイドが話を続ける。

「で、その翌日の昼はフォリーニョ町で馬を交換して、夜はイセルニア領の領主の城に宿泊する。ここの領主だが、代々この土地を治めていて、おっとりとした気品がある夫婦だ。ただ長く土地を治めている血筋だけあって一筋縄ではいかないしたたかさもある。一泊するだけだから問題はないだろうが、小細工や肩書は通用しない。その人自身を視て態度を決める夫婦だ。ここの夫婦にも本当の素性は明かされていないから、気を付けろよ」
「はい」
「今回はどこから狙われるか、誰が敵と通じているか分からない。セルシティ第三皇子もそのことを懸念して情報は必要最低限しか流していない。この城にいる間の安全は保障するが、一歩出たら常に警戒しろ」
「はい」

 緊張した面持ちのルドの頭をグイドがグシャグシャと撫でた。

「たった三日の護衛だ。お前なら楽勝とまではいかなくても、そこまで難しい任務じゃないだろ?」
「ですが、油断はできません」

 鋭い気配を放つルドの頭をグイドが軽く叩く。

「だから、ここでは気を張るな」
「そうですね。鉄壁の守護者と呼ばれたグイド将軍の守りほど安全なものはありません。お言葉に甘えさせて頂きます」
「おう。この城にいる間の守りは任せろ。おまえたちの部屋は隣同士にした。ドアの前には交代で見張りの兵を付ける」

 その言葉にルドが軽く頭を下げる。

「ありがとうございます」
「気にするな。疲れただろうから、少し早いが今日は休め」
「そうだな。さっさと休むか」
「はい」

 ルドが白い布で顔を隠す。グイドが呼び鈴を鳴らし、執事に指示を出した。

「部屋へ案内してくれ」
「はい」

 二人は執事に案内され、それぞれ部屋で休んだ。




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