【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

文字の大きさ
90 / 243
第二章・片思い自覚編〜帝都へ

新しい服と新しい呼び名

しおりを挟む
 クリスは荷物を確認して、まとめているとノックの音が響いた。

「師匠、朝食の準備ができました」
「あぁ」

 茶色のフードを被りドアを開ける。ルドに導かれるように廊下に出ると、昨日の夜とは違う兵士がクリスに敬礼した。
 フードで顔を隠したクリスは逃げるようにルドの部屋に入る。美味しそうな匂いに顔をあげると、テーブルにはパンとスープの軽食が並ぶ。

「急かすようで申し訳ありませんが、早く食べて出発しましょう」
「そうだな」

 フードを被ったまま椅子に座ったクリスにルドが首を傾げる。

「そのまま食べるのですか? フードが邪魔になりませんか?」

 クリスはフードの下から鋭く睨む。

「笑うなよ」
「え?」

 ルドが言葉の意味を理解する前にクリスはフードと取って、マントを脱いだ。

「……え、ぇえ!?」

 琥珀の瞳を丸くして声を上げたルドの足をクリスが蹴る。

「うるさい! 準備してあった服がこれ・・なんだ! 見苦しくても我慢しろ! 文句ならセルティに言え!」
「あ、いえ。見苦しくは、ない……です…………」

 クリスは女性用の服を着ていた。
 白いブラウスに首元を隠すフリル。胸には琥珀の宝石が付いた大きな黒いリボン。
 その上に目立たない暗めの深緑の上着。下は黒のロングスカートで、裾から何重もの白のレースが覗く。補正下着を着ているため、女性らしいくびれはないが、それが気にならないデザイン。

 外出用のドレスであるためシンプルで、全体的に地味な色合い。しかし、使われている布は高級品でデザインも洗練されており上品な雰囲気が漂う。

 ルドが設定を思い出して納得したように頷いた。

「これなら貴族令嬢に見えますし、護衛が必要ですね」
「そんなにジロジロ見るな。似合わないのは分かっているんだ」
「あ、いえ。思ったより違和感がないので、そちらのほうが驚きです」

 クリスは感心したように話すルドを蹴りたくなったが、グッと堪えた。自分のことを男だと思っているのだから、こういう言い方になるのは仕方ない。
 むしろ、違和感がないと言われたほうが……

「そ、そうか」

 どうにか返事をしたクリスは、緊張で握りしめていたスカートから手を離した。
 そして、目の前のルドを改めて眺める。

「そういうお前は……なんか、違うな」

 晴れ渡った空のような青色にセルシティの髪のような銀糸の飾りがある親衛隊の服。カッコいいデザインなのだが、色合い的に微妙にルドに似合っていない。
 これなら、魔法騎士団の騎士服のほうが似合っていた。

 セルシティは微妙に似合わないことを分かっていて、ルドに親衛隊の服を着るように命令をしたのだろう。
 そのことを悟ったクリスはため息を吐いた。

「お互いセルティに遊ばれてるな」
「そうですね」

 早朝から変に疲れた二人は無言のまま朝食を食べた。


 完食したクリスは茶色のマントを羽織る。そこでルドが声をかけた。

「包帯を巻きましょうか?」
「頼む」

 ルドが慣れた手つきでクリスの目に包帯を巻く。

「いつもは巻く側だから、巻かれるのは不思議な感じだな」
「そうですか」
「お前は顔を隠さないのか?」
白い布あれは魔法騎士団が隠密行動をする時に付けるものですから」
「あれだけ目立っておいて隠密っていうのもなぁ」

 呆れるクリスにルドが苦笑いを浮かべる。

「わかっています。ただ、あれを付けている時は詮索は禁止という目印でもあるので、便利は便利なんですよ」
「いろいろあるんだな。では、行くか」

 クリスはフードを被って髪を隠した。

『透視』

 スタスタと歩き出したクリスにルドが慌てて声をかける。

「一人で歩いたら危ないですよ!」
「透視魔法で見えているから大丈夫だ」

 そのまま部屋から出ようとしたクリスをルドが止めた。

「師匠。この国では、女性は魔法が使えません。魔力の流れに敏感な人が見れば、師匠が透視魔法を使うために魔力を放出しているのが分かります。その姿では、女性が魔法を使っていると騒ぎになります。その服を着ている間は魔法を使わないほうがいいと思います。それに目が見えないのに、普通に歩いていたら怪しまれます」
「確かにそうだな。そうなると、どう移動するか」
「自分が手を繋いで誘導しますので」

 突然、手を握られたクリスはビクリと跳ねる。

「師匠?」
「い、いきなり手を掴まれて驚いただけだ!」
「あ、すみません。次からは声をかけますので」

 平然としたルドの声に、クリスは焦っていた気持ちが一気に落ち着いた。自分だけがあたふたして、まるで道化師のよう。

 沈むクリスの隣で、ルドがほんのり耳を赤くしていた。緩みそうになる口元を手で隠し、気を引き締める。

「師匠が包帯をしていて良かった」
「ん? なんだ?」
「いえ! なんでもありません! では、歩きますね」

 クリスはルドに引かれて部屋を出た。ルドの手は自分の手を軽く包み込むほど大きく温かい。そして、手のひらは剣だこで意外とゴツゴツしている。
 そのことを意識したとたん、クリスの心臓がうるさく響き、体が熱くなる。

「落ち着け、落ち着け、落ち着け……仕事だ。これは仕事だ。仕方ないんだ」

 自分に言い聞かすように小声で呟くクリスにルドが訊ねた。

「師匠。歩きにくければ担いで移動しますが、どうしましょう?」
「お前なぁ、設定を考えろ。どこに護衛対象である貴族令嬢を担いで移動するヤツがいる? そもそも、私のことを師匠と呼ぶのも、おかしいだろ」
「そう言われれば、そうですね。師匠のことは、なんて呼びましょう?」
「好きに呼べ」

 ルドが歩きながら考える。

「師匠の本名はクリスティアヌスでしたよね? うーん……クリスティはセルが呼んでいるし……」

(別の本名もあるが……まあ、教えることではないな)

「そうだ! ティアナ! ティアナはどうですか?」
「おまえ……その名前をどこで……?」

 思わずクリスの足が止まる。ルドが得意げに説明をした。

「クリスティアヌスの女性名はクリスティアナですから。そこから、ティアナにしてみました。どうですか?」

 その名で呼ばれることはないと思っていたクリスは、久しぶりに呼ばれて嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになる。

 クリスは空いている手でフードを深く被った。

「……好きにしろ」
「はい」

 満足そうなルドとは対照的にクリスは俯いたまま足を動かす。

(包帯とフードをしていて良かった)

 人には見せれない顔になっている自覚があるクリスは、黙ったまま歩くことに集中した。




しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

病弱な第四皇子は屈強な皇帝となって、兎耳宮廷薬師に求愛する

藤原 秋
恋愛
大規模な自然災害により絶滅寸前となった兎耳族の生き残りは、大帝国の皇帝の計らいにより宮廷で保護という名目の軟禁下に置かれている。 彼らは宮廷内の仕事に従事しながら、一切の外出を許可されず、婚姻は同族間のみと定義づけられ、宮廷内の籠の鳥と化していた。 そんな中、宮廷薬師となった兎耳族のユーファは、帝国に滅ぼされたアズール王国の王子で今は皇宮の側用人となったスレンツェと共に、生まれつき病弱で両親から次期皇帝候補になることはないと見限られた五歳の第四皇子フラムアーク付きとなり、皇子という地位にありながら冷遇された彼を献身的に支えてきた。 フラムアークはユーファに懐き、スレンツェを慕い、成長と共に少しずつ丈夫になっていく。 だがそれは、彼が現実という名の壁に直面し、自らの境遇に立ち向かっていかねばならないことを意味していた―――。 柔和な性格ながら確たる覚悟を内に秘め、男としての牙を隠す第四皇子と、高潔で侠気に富み、自らの過去と戦いながら彼を補佐する亡国の王子、彼らの心の支えとなり、国の制約と湧き起こる感情の狭間で葛藤する亜人の宮廷薬師。 三者三様の立ち位置にある彼らが手を携え合い、ひとつひとつ困難を乗り越えて掴み取る、思慕と軌跡の逆転劇。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

処理中です...