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第二章・片思い自覚編〜帝都へ
新しい服と新しい呼び名
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クリスは荷物を確認して、まとめているとノックの音が響いた。
「師匠、朝食の準備ができました」
「あぁ」
茶色のフードを被りドアを開ける。ルドに導かれるように廊下に出ると、昨日の夜とは違う兵士がクリスに敬礼した。
フードで顔を隠したクリスは逃げるようにルドの部屋に入る。美味しそうな匂いに顔をあげると、テーブルにはパンとスープの軽食が並ぶ。
「急かすようで申し訳ありませんが、早く食べて出発しましょう」
「そうだな」
フードを被ったまま椅子に座ったクリスにルドが首を傾げる。
「そのまま食べるのですか? フードが邪魔になりませんか?」
クリスはフードの下から鋭く睨む。
「笑うなよ」
「え?」
ルドが言葉の意味を理解する前にクリスはフードと取って、マントを脱いだ。
「……え、ぇえ!?」
琥珀の瞳を丸くして声を上げたルドの足をクリスが蹴る。
「うるさい! 準備してあった服がこれなんだ! 見苦しくても我慢しろ! 文句ならセルティに言え!」
「あ、いえ。見苦しくは、ない……です…………」
クリスは女性用の服を着ていた。
白いブラウスに首元を隠すフリル。胸には琥珀の宝石が付いた大きな黒いリボン。
その上に目立たない暗めの深緑の上着。下は黒のロングスカートで、裾から何重もの白のレースが覗く。補正下着を着ているため、女性らしいくびれはないが、それが気にならないデザイン。
外出用のドレスであるためシンプルで、全体的に地味な色合い。しかし、使われている布は高級品でデザインも洗練されており上品な雰囲気が漂う。
ルドが設定を思い出して納得したように頷いた。
「これなら貴族令嬢に見えますし、護衛が必要ですね」
「そんなにジロジロ見るな。似合わないのは分かっているんだ」
「あ、いえ。思ったより違和感がないので、そちらのほうが驚きです」
クリスは感心したように話すルドを蹴りたくなったが、グッと堪えた。自分のことを男だと思っているのだから、こういう言い方になるのは仕方ない。
むしろ、違和感がないと言われたほうが……
「そ、そうか」
どうにか返事をしたクリスは、緊張で握りしめていたスカートから手を離した。
そして、目の前のルドを改めて眺める。
「そういうお前は……なんか、違うな」
晴れ渡った空のような青色にセルシティの髪のような銀糸の飾りがある親衛隊の服。カッコいいデザインなのだが、色合い的に微妙にルドに似合っていない。
これなら、魔法騎士団の騎士服のほうが似合っていた。
セルシティは微妙に似合わないことを分かっていて、ルドに親衛隊の服を着るように命令をしたのだろう。
そのことを悟ったクリスはため息を吐いた。
「お互いセルティに遊ばれてるな」
「そうですね」
早朝から変に疲れた二人は無言のまま朝食を食べた。
完食したクリスは茶色のマントを羽織る。そこでルドが声をかけた。
「包帯を巻きましょうか?」
「頼む」
ルドが慣れた手つきでクリスの目に包帯を巻く。
「いつもは巻く側だから、巻かれるのは不思議な感じだな」
「そうですか」
「お前は顔を隠さないのか?」
「白い布は魔法騎士団が隠密行動をする時に付けるものですから」
「あれだけ目立っておいて隠密っていうのもなぁ」
呆れるクリスにルドが苦笑いを浮かべる。
「わかっています。ただ、あれを付けている時は詮索は禁止という目印でもあるので、便利は便利なんですよ」
「いろいろあるんだな。では、行くか」
クリスはフードを被って髪を隠した。
『透視』
スタスタと歩き出したクリスにルドが慌てて声をかける。
「一人で歩いたら危ないですよ!」
「透視魔法で見えているから大丈夫だ」
そのまま部屋から出ようとしたクリスをルドが止めた。
「師匠。この国では、女性は魔法が使えません。魔力の流れに敏感な人が見れば、師匠が透視魔法を使うために魔力を放出しているのが分かります。その姿では、女性が魔法を使っていると騒ぎになります。その服を着ている間は魔法を使わないほうがいいと思います。それに目が見えないのに、普通に歩いていたら怪しまれます」
「確かにそうだな。そうなると、どう移動するか」
「自分が手を繋いで誘導しますので」
突然、手を握られたクリスはビクリと跳ねる。
「師匠?」
「い、いきなり手を掴まれて驚いただけだ!」
「あ、すみません。次からは声をかけますので」
平然としたルドの声に、クリスは焦っていた気持ちが一気に落ち着いた。自分だけがあたふたして、まるで道化師のよう。
沈むクリスの隣で、ルドがほんのり耳を赤くしていた。緩みそうになる口元を手で隠し、気を引き締める。
「師匠が包帯をしていて良かった」
「ん? なんだ?」
「いえ! なんでもありません! では、歩きますね」
クリスはルドに引かれて部屋を出た。ルドの手は自分の手を軽く包み込むほど大きく温かい。そして、手のひらは剣だこで意外とゴツゴツしている。
そのことを意識したとたん、クリスの心臓がうるさく響き、体が熱くなる。
「落ち着け、落ち着け、落ち着け……仕事だ。これは仕事だ。仕方ないんだ」
自分に言い聞かすように小声で呟くクリスにルドが訊ねた。
「師匠。歩きにくければ担いで移動しますが、どうしましょう?」
「お前なぁ、設定を考えろ。どこに護衛対象である貴族令嬢を担いで移動するヤツがいる? そもそも、私のことを師匠と呼ぶのも、おかしいだろ」
「そう言われれば、そうですね。師匠のことは、なんて呼びましょう?」
「好きに呼べ」
ルドが歩きながら考える。
「師匠の本名はクリスティアヌスでしたよね? うーん……クリスティはセルが呼んでいるし……」
(別の本名もあるが……まあ、教えることではないな)
「そうだ! ティアナ! ティアナはどうですか?」
「おまえ……その名前をどこで……?」
思わずクリスの足が止まる。ルドが得意げに説明をした。
「クリスティアヌスの女性名はクリスティアナですから。そこから、ティアナにしてみました。どうですか?」
その名で呼ばれることはないと思っていたクリスは、久しぶりに呼ばれて嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになる。
クリスは空いている手でフードを深く被った。
「……好きにしろ」
「はい」
満足そうなルドとは対照的にクリスは俯いたまま足を動かす。
(包帯とフードをしていて良かった)
人には見せれない顔になっている自覚があるクリスは、黙ったまま歩くことに集中した。
「師匠、朝食の準備ができました」
「あぁ」
茶色のフードを被りドアを開ける。ルドに導かれるように廊下に出ると、昨日の夜とは違う兵士がクリスに敬礼した。
フードで顔を隠したクリスは逃げるようにルドの部屋に入る。美味しそうな匂いに顔をあげると、テーブルにはパンとスープの軽食が並ぶ。
「急かすようで申し訳ありませんが、早く食べて出発しましょう」
「そうだな」
フードを被ったまま椅子に座ったクリスにルドが首を傾げる。
「そのまま食べるのですか? フードが邪魔になりませんか?」
クリスはフードの下から鋭く睨む。
「笑うなよ」
「え?」
ルドが言葉の意味を理解する前にクリスはフードと取って、マントを脱いだ。
「……え、ぇえ!?」
琥珀の瞳を丸くして声を上げたルドの足をクリスが蹴る。
「うるさい! 準備してあった服がこれなんだ! 見苦しくても我慢しろ! 文句ならセルティに言え!」
「あ、いえ。見苦しくは、ない……です…………」
クリスは女性用の服を着ていた。
白いブラウスに首元を隠すフリル。胸には琥珀の宝石が付いた大きな黒いリボン。
その上に目立たない暗めの深緑の上着。下は黒のロングスカートで、裾から何重もの白のレースが覗く。補正下着を着ているため、女性らしいくびれはないが、それが気にならないデザイン。
外出用のドレスであるためシンプルで、全体的に地味な色合い。しかし、使われている布は高級品でデザインも洗練されており上品な雰囲気が漂う。
ルドが設定を思い出して納得したように頷いた。
「これなら貴族令嬢に見えますし、護衛が必要ですね」
「そんなにジロジロ見るな。似合わないのは分かっているんだ」
「あ、いえ。思ったより違和感がないので、そちらのほうが驚きです」
クリスは感心したように話すルドを蹴りたくなったが、グッと堪えた。自分のことを男だと思っているのだから、こういう言い方になるのは仕方ない。
むしろ、違和感がないと言われたほうが……
「そ、そうか」
どうにか返事をしたクリスは、緊張で握りしめていたスカートから手を離した。
そして、目の前のルドを改めて眺める。
「そういうお前は……なんか、違うな」
晴れ渡った空のような青色にセルシティの髪のような銀糸の飾りがある親衛隊の服。カッコいいデザインなのだが、色合い的に微妙にルドに似合っていない。
これなら、魔法騎士団の騎士服のほうが似合っていた。
セルシティは微妙に似合わないことを分かっていて、ルドに親衛隊の服を着るように命令をしたのだろう。
そのことを悟ったクリスはため息を吐いた。
「お互いセルティに遊ばれてるな」
「そうですね」
早朝から変に疲れた二人は無言のまま朝食を食べた。
完食したクリスは茶色のマントを羽織る。そこでルドが声をかけた。
「包帯を巻きましょうか?」
「頼む」
ルドが慣れた手つきでクリスの目に包帯を巻く。
「いつもは巻く側だから、巻かれるのは不思議な感じだな」
「そうですか」
「お前は顔を隠さないのか?」
「白い布は魔法騎士団が隠密行動をする時に付けるものですから」
「あれだけ目立っておいて隠密っていうのもなぁ」
呆れるクリスにルドが苦笑いを浮かべる。
「わかっています。ただ、あれを付けている時は詮索は禁止という目印でもあるので、便利は便利なんですよ」
「いろいろあるんだな。では、行くか」
クリスはフードを被って髪を隠した。
『透視』
スタスタと歩き出したクリスにルドが慌てて声をかける。
「一人で歩いたら危ないですよ!」
「透視魔法で見えているから大丈夫だ」
そのまま部屋から出ようとしたクリスをルドが止めた。
「師匠。この国では、女性は魔法が使えません。魔力の流れに敏感な人が見れば、師匠が透視魔法を使うために魔力を放出しているのが分かります。その姿では、女性が魔法を使っていると騒ぎになります。その服を着ている間は魔法を使わないほうがいいと思います。それに目が見えないのに、普通に歩いていたら怪しまれます」
「確かにそうだな。そうなると、どう移動するか」
「自分が手を繋いで誘導しますので」
突然、手を握られたクリスはビクリと跳ねる。
「師匠?」
「い、いきなり手を掴まれて驚いただけだ!」
「あ、すみません。次からは声をかけますので」
平然としたルドの声に、クリスは焦っていた気持ちが一気に落ち着いた。自分だけがあたふたして、まるで道化師のよう。
沈むクリスの隣で、ルドがほんのり耳を赤くしていた。緩みそうになる口元を手で隠し、気を引き締める。
「師匠が包帯をしていて良かった」
「ん? なんだ?」
「いえ! なんでもありません! では、歩きますね」
クリスはルドに引かれて部屋を出た。ルドの手は自分の手を軽く包み込むほど大きく温かい。そして、手のひらは剣だこで意外とゴツゴツしている。
そのことを意識したとたん、クリスの心臓がうるさく響き、体が熱くなる。
「落ち着け、落ち着け、落ち着け……仕事だ。これは仕事だ。仕方ないんだ」
自分に言い聞かすように小声で呟くクリスにルドが訊ねた。
「師匠。歩きにくければ担いで移動しますが、どうしましょう?」
「お前なぁ、設定を考えろ。どこに護衛対象である貴族令嬢を担いで移動するヤツがいる? そもそも、私のことを師匠と呼ぶのも、おかしいだろ」
「そう言われれば、そうですね。師匠のことは、なんて呼びましょう?」
「好きに呼べ」
ルドが歩きながら考える。
「師匠の本名はクリスティアヌスでしたよね? うーん……クリスティはセルが呼んでいるし……」
(別の本名もあるが……まあ、教えることではないな)
「そうだ! ティアナ! ティアナはどうですか?」
「おまえ……その名前をどこで……?」
思わずクリスの足が止まる。ルドが得意げに説明をした。
「クリスティアヌスの女性名はクリスティアナですから。そこから、ティアナにしてみました。どうですか?」
その名で呼ばれることはないと思っていたクリスは、久しぶりに呼ばれて嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになる。
クリスは空いている手でフードを深く被った。
「……好きにしろ」
「はい」
満足そうなルドとは対照的にクリスは俯いたまま足を動かす。
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