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第二章・片思い自覚編〜帝都へ
師匠心、弟子知らず
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クリスを横抱きのままルドがスタスタと歩く。
「気絶させない程度に殺気を放つとは、なかなか器用だな」
クリスの小声にルドが心配そうに腕の中に視線を落とす。
「それより、本当に大丈夫ですか?」
「別に何もされていないし、指一本触れられていない」
「ですが……」
「私が演技をしていることは、すぐに分かっただろ?」
「はい」
ルドが部屋に飛び込んだ時、クリスは自分で引きちぎったレースのリボンをベッピーノに握らせていた。
その瞬間を見ていたため、ルドはクリスの自作自演であることに気づき、話を合わせることができた。
「それでも、心配なものは心配です」
「そんなに心配するな。それより部屋に入った時に、師匠と呼んだだろ? なんのために呼び名を作ったんだ?」
「すみません、つい……」
「今回は気付かれなかったから良かったが、次からは気を付けろ」
「はい……」
目に包帯を巻いていても、犬耳と尻尾がしょぼんと垂れ下がったルドの幻が見える。完全に意気消沈したルドをフォローすることなく、クリスは淡々と話を続けた。
「で、これからどうするんだ?」
野宿になることも覚悟していたクリスに意外な提案がされる。
「夕方に立ち寄った酒屋が宿屋も兼ねていましたので、前金を払って部屋を確保しておきました」
「…………手際がいいな」
呆れ半分、感心半分のクリスにルドが困ったように笑った。
「ベッピーノに関しては酒屋でも良くない話を聞きましたので、念のために対策していただけです。では、いきますね」
城から出たルドが魔法を詠唱して夜空を駆ける。軽い一蹴りで屋根の上や木の枝を渡っていく。時々、周囲を確認しては小さな黒い物を落としているが、包帯で目を隠しているクリスは気付かない。
「まあ、検問所の前で賊が出るような領地だからな」
「そのことですが、たぶんベッピーノによる自演だと思われます」
「自演? つまりワザと賊に私たちを襲わせたというのか?」
「はい。そもそも、この周辺に賊はいないそうです」
クリスは首を傾げた。
「では、私たちを襲ってきたのは何者なんだ?」
「この街の住人のようです。今日の昼に突然、人相が悪い男を集めていたそうですから。賃金が高額だったので、話題になって結構な人数が集まったそうです」
「そんなことに金をかけるとはな。何が目的だったんだ?」
「賊に襲われている私たちを助けて、見返りを求めようとしていたようです」
クリスはベッピーノが部屋に入って来た時のことを思い出した。
「そういえば帝都に戻るとか、なんとか言っていたな」
「セルの親衛隊なら帝都に知り合いがいると考えたようです。助けた見返りとして、帝都に戻るための口利きが目的だったのでしょう」
夜風を受けてクリスは片目だけ包帯を少しずらす。眼前には澄んだ星空。
「自分で功績を上げて帝都に戻るという考えはなかったのか」
「どういう状況でこの地に飛ばされたのか知りませんが、場合によっては功績だけでは戻れないこともありますから」
「もしくは功績を上げるほどの実力がない、だな」
「たぶん、実力がないのでしょうね。ただ、意外にも治安維持には力を入れているらしく、憲兵だけは、本当に優秀らしいです」
クリスが検問所の手前で起きた出来事を思い出す。
「確かに対応は素早かったたな」
「はい。ベッピーノは自分が襲われることや、反乱が起きることをひどく警戒しているらしく、そちらの方面に関しては予算をしっかり使っているみたいです」
「賊のことといい、やけに詳しいな」
クリスの指摘にルドが照れたように笑う。
「酒屋の主人から軽く聞いただけです」
「ただの休憩ではなかったということか」
見抜けなかったことにクリスは拗ねたように顔を背けた。
「情報収集は大切ですから」
戦場では……という声が聞こえた気がして、思わず顔を上げる。そこにはクリスが知らない表情をした弟子が。
クリスは無言で包帯を戻し、そのまま黙った。
酒屋に着くと、ルドが裏口から主人に声をかけた。その時にさりげなく銀貨を渡す。主人が満面の笑顔で頷いて言った。
「朝までゆっくり休みな。憲兵が来たら追い返しとくからさ」
「ありがとうございます」
(人たらしか? どうやれば、そこまで人を動かせるんだ?)
銀貨のやりとりを見ていないため悩むクリスを抱いたまま、ルドが部屋に移動する。
綺麗なシーツが敷かれたベッドが二つと、ベッドサイドテーブルとランプがあるだけの小さな部屋。掃除はしっかりされており、埃やゴミなどはない。
クリスをベッドに座らせたルドがすぐに隠匿の魔法をかける。
「包帯を外して大丈夫ですよ」
「あぁ」
クリスは包帯を外し、薄暗い室内を初めて見た。すると、ルドが部屋の中を確認しながら、窓やドアなど人が入れる場所に魔法をかける。
「何をしているんだ?」
「ドアや窓の鍵を壊して侵入してくる可能性もありますから、その時は魔法が発動して相手を捕らえるようにしています。あと、壁に強化魔法をかけて壊せないようにしました」
「相変わらずだな。ふぁ……」
安心したのかクリスの口から欠伸が出た。
「自分は見張りをしますので、先にお休み下さい」
「お前は休まないのか?」
「自分は部屋の外で見張りをしていますから」
「お前なぁ、ここは普通の宿だろ? そんなことをしたら悪目立ちするうえに、この部屋に大事なものがある、とアピールしているようなものだぞ」
「ですが……」
クリスは立ちあがり、ルドの襟首を掴んでベッドまで引きずる。
「とにかく、お前も休め」
クリスはそのままルドをベッドに放り投げようとしたが、最後の最後でルドが抵抗した。
「それは出来ません」
「いいか……あっ」
体重をかけて引っ張ったため、クリスのバランスが崩れ、床に倒れかける。
「危ない!」
ルドがクリスの背中に手を回し、そのまま体を反転させてクリスをベッドの上に寝かせた。
「ふぅ、大丈夫で……」
ルドが言いかけて言葉を止める。丸くなった深緑の瞳に琥珀の瞳が写る。お互いの鼻先が触れそうなほど距離が近い。
時が止まったのかと思うほどの静寂。
そこにクリスの口が動いた。
「さ……」
「さ?」
ルドが首を傾げる。
「さっさと退け!」
言い終ると同時にクリスはルドの腹を蹴った。
「グッ……」
ルドがよろよろと立ち上がる。
「もういい! 好きにしろ!」
そう叫ぶとクリスはベッドに潜り込んだ。
「は、はい。すみません」
ルドが謝りながらベッドから下りる。それから、罠を確認するために部屋の中を見て回った。
一方のクリスはベッドの中で丸くなる。
(くそっ! なんなんだ!)
心臓がバクバクとうるさい。さっきまでは逃げることに集中していたせいか、横抱きで移動しても何も思わなかった。だが、今頃になって顔が赤くなっていくのを感じる。
(寝るぞ!)
クリスは心の中で宣言すると、強く目を閉じた。脳裏に先ほどの眼前に迫ったルドの顔がよみがえる。
強く澄んだ琥珀の瞳。男らしい精悍な顔。自分の体を支える逞しい腕。
襟足から伸びる長い赤髪が自分の頬に触れて……
そのことを思い出し、無意識に手が頬に伸びかけたところで我に返る。
「あぁ! くそっ!」
クリスは無理やり眠りについた。
「気絶させない程度に殺気を放つとは、なかなか器用だな」
クリスの小声にルドが心配そうに腕の中に視線を落とす。
「それより、本当に大丈夫ですか?」
「別に何もされていないし、指一本触れられていない」
「ですが……」
「私が演技をしていることは、すぐに分かっただろ?」
「はい」
ルドが部屋に飛び込んだ時、クリスは自分で引きちぎったレースのリボンをベッピーノに握らせていた。
その瞬間を見ていたため、ルドはクリスの自作自演であることに気づき、話を合わせることができた。
「それでも、心配なものは心配です」
「そんなに心配するな。それより部屋に入った時に、師匠と呼んだだろ? なんのために呼び名を作ったんだ?」
「すみません、つい……」
「今回は気付かれなかったから良かったが、次からは気を付けろ」
「はい……」
目に包帯を巻いていても、犬耳と尻尾がしょぼんと垂れ下がったルドの幻が見える。完全に意気消沈したルドをフォローすることなく、クリスは淡々と話を続けた。
「で、これからどうするんだ?」
野宿になることも覚悟していたクリスに意外な提案がされる。
「夕方に立ち寄った酒屋が宿屋も兼ねていましたので、前金を払って部屋を確保しておきました」
「…………手際がいいな」
呆れ半分、感心半分のクリスにルドが困ったように笑った。
「ベッピーノに関しては酒屋でも良くない話を聞きましたので、念のために対策していただけです。では、いきますね」
城から出たルドが魔法を詠唱して夜空を駆ける。軽い一蹴りで屋根の上や木の枝を渡っていく。時々、周囲を確認しては小さな黒い物を落としているが、包帯で目を隠しているクリスは気付かない。
「まあ、検問所の前で賊が出るような領地だからな」
「そのことですが、たぶんベッピーノによる自演だと思われます」
「自演? つまりワザと賊に私たちを襲わせたというのか?」
「はい。そもそも、この周辺に賊はいないそうです」
クリスは首を傾げた。
「では、私たちを襲ってきたのは何者なんだ?」
「この街の住人のようです。今日の昼に突然、人相が悪い男を集めていたそうですから。賃金が高額だったので、話題になって結構な人数が集まったそうです」
「そんなことに金をかけるとはな。何が目的だったんだ?」
「賊に襲われている私たちを助けて、見返りを求めようとしていたようです」
クリスはベッピーノが部屋に入って来た時のことを思い出した。
「そういえば帝都に戻るとか、なんとか言っていたな」
「セルの親衛隊なら帝都に知り合いがいると考えたようです。助けた見返りとして、帝都に戻るための口利きが目的だったのでしょう」
夜風を受けてクリスは片目だけ包帯を少しずらす。眼前には澄んだ星空。
「自分で功績を上げて帝都に戻るという考えはなかったのか」
「どういう状況でこの地に飛ばされたのか知りませんが、場合によっては功績だけでは戻れないこともありますから」
「もしくは功績を上げるほどの実力がない、だな」
「たぶん、実力がないのでしょうね。ただ、意外にも治安維持には力を入れているらしく、憲兵だけは、本当に優秀らしいです」
クリスが検問所の手前で起きた出来事を思い出す。
「確かに対応は素早かったたな」
「はい。ベッピーノは自分が襲われることや、反乱が起きることをひどく警戒しているらしく、そちらの方面に関しては予算をしっかり使っているみたいです」
「賊のことといい、やけに詳しいな」
クリスの指摘にルドが照れたように笑う。
「酒屋の主人から軽く聞いただけです」
「ただの休憩ではなかったということか」
見抜けなかったことにクリスは拗ねたように顔を背けた。
「情報収集は大切ですから」
戦場では……という声が聞こえた気がして、思わず顔を上げる。そこにはクリスが知らない表情をした弟子が。
クリスは無言で包帯を戻し、そのまま黙った。
酒屋に着くと、ルドが裏口から主人に声をかけた。その時にさりげなく銀貨を渡す。主人が満面の笑顔で頷いて言った。
「朝までゆっくり休みな。憲兵が来たら追い返しとくからさ」
「ありがとうございます」
(人たらしか? どうやれば、そこまで人を動かせるんだ?)
銀貨のやりとりを見ていないため悩むクリスを抱いたまま、ルドが部屋に移動する。
綺麗なシーツが敷かれたベッドが二つと、ベッドサイドテーブルとランプがあるだけの小さな部屋。掃除はしっかりされており、埃やゴミなどはない。
クリスをベッドに座らせたルドがすぐに隠匿の魔法をかける。
「包帯を外して大丈夫ですよ」
「あぁ」
クリスは包帯を外し、薄暗い室内を初めて見た。すると、ルドが部屋の中を確認しながら、窓やドアなど人が入れる場所に魔法をかける。
「何をしているんだ?」
「ドアや窓の鍵を壊して侵入してくる可能性もありますから、その時は魔法が発動して相手を捕らえるようにしています。あと、壁に強化魔法をかけて壊せないようにしました」
「相変わらずだな。ふぁ……」
安心したのかクリスの口から欠伸が出た。
「自分は見張りをしますので、先にお休み下さい」
「お前は休まないのか?」
「自分は部屋の外で見張りをしていますから」
「お前なぁ、ここは普通の宿だろ? そんなことをしたら悪目立ちするうえに、この部屋に大事なものがある、とアピールしているようなものだぞ」
「ですが……」
クリスは立ちあがり、ルドの襟首を掴んでベッドまで引きずる。
「とにかく、お前も休め」
クリスはそのままルドをベッドに放り投げようとしたが、最後の最後でルドが抵抗した。
「それは出来ません」
「いいか……あっ」
体重をかけて引っ張ったため、クリスのバランスが崩れ、床に倒れかける。
「危ない!」
ルドがクリスの背中に手を回し、そのまま体を反転させてクリスをベッドの上に寝かせた。
「ふぅ、大丈夫で……」
ルドが言いかけて言葉を止める。丸くなった深緑の瞳に琥珀の瞳が写る。お互いの鼻先が触れそうなほど距離が近い。
時が止まったのかと思うほどの静寂。
そこにクリスの口が動いた。
「さ……」
「さ?」
ルドが首を傾げる。
「さっさと退け!」
言い終ると同時にクリスはルドの腹を蹴った。
「グッ……」
ルドがよろよろと立ち上がる。
「もういい! 好きにしろ!」
そう叫ぶとクリスはベッドに潜り込んだ。
「は、はい。すみません」
ルドが謝りながらベッドから下りる。それから、罠を確認するために部屋の中を見て回った。
一方のクリスはベッドの中で丸くなる。
(くそっ! なんなんだ!)
心臓がバクバクとうるさい。さっきまでは逃げることに集中していたせいか、横抱きで移動しても何も思わなかった。だが、今頃になって顔が赤くなっていくのを感じる。
(寝るぞ!)
クリスは心の中で宣言すると、強く目を閉じた。脳裏に先ほどの眼前に迫ったルドの顔がよみがえる。
強く澄んだ琥珀の瞳。男らしい精悍な顔。自分の体を支える逞しい腕。
襟足から伸びる長い赤髪が自分の頬に触れて……
そのことを思い出し、無意識に手が頬に伸びかけたところで我に返る。
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