【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

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第二章・片思い自覚編〜帝都へ

鬼ごっこ〜ルド視点〜

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 ルドは部屋に仕掛けた罠の最終確認すると、ドアに背を預けて腰を下ろした。
 そのまま周囲を警戒しながら目を閉じる。

 こうして警戒しながら寝ることは訓練で散々したし、戦場で何度も経験した。その時と比べれば、雨風が防げる建物の中というだけで、かなり楽だ。

 今のところ始めにクリスを捕まえようとしていた連中の姿はない。計画通り自分たちを見失ったのだろう。
 ただ、帝都に到着した時が一番危ない。待ち伏せされているだろうし、様々な人が集まるため警戒しても、しきれない。

 ルドは琥珀の瞳を薄く開けた。

 クリスを捕まえようとした連中はこの国の服を着ていたが、顔立ちの違いと言葉の訛りから、他国民のような感じがした。雇い主が他国の仕業に見せかけるために他国民を雇ったのか。もしくは、他国の……

「敵が誰であろうと、守り抜くだけだ」

 ルドは顔を上げると、頭から布団を被ったクリスに視線を向けた。規則正しく上下に動く布団に安堵する。

「疲れているのだろうな」

 呟きとともに先ほどの光景がルドの脳裏に浮かぶ。

 クリスの柔らかく細い腰。薄手の絹の寝間着だったので、いつもと感触が違ったのだろう。
 突然のことに謝ろうとクリスの顔を見れば、薄暗い部屋でも分かるほど、顔を真っ赤にしていた。
 それは普段の冷静な態度からは想像できない表情。
 しかも、ベッドに倒れた時。シーツに広がった金髪は黄金のように輝き、潤んだ深緑の瞳は宝石のように美しく、唇は花びらのように色鮮やかで。

 それはまるで……

「違う、違う、違う」

 ルドは諌めるように言いながら頭を激しく横に振り、再び目を閉じた。


 太陽が昇る前。空が白くなってきた頃、ルドは起床した。クリスを起こさないように静かに軽く体を動かす。いつもなら鍛練をするが、柔軟体操だけで終了。
 そして、丸くなっている布団に声をかけた。

「おはようございます。朝、早くて申し訳ないのですが、そろそろ起きて下さい」

 もぞもぞと布団が動き、金髪と顔だけが出てきた。

「……朝か」
「ベッピーノが本格的に自分たちを探しだす前にここから出ないといけませんので」
「……そうか。それは急がないといけないな」

 クリスが自分の影に手を突っ込み探るような動作をする。そして、治療師の服を引き抜いた。
 ボーとした顔のまま、無言で寝間着のボタンを外し始める。

 ルドは慌ててクリスを止めた。

「待って下さい。治療師の服では目立ちますから。セルが用意した服はありませんか?」
「……ん? あぁ」

 明らかに寝ぼけているクリスが再び影に手を突っ込む。そして、引き抜いた手には深緑の上着と黒いスカート。

「良かった。では、それに着替えて下さい」
「そうだな。着替え……」

 そこでクリスの目が丸くなる。顔を赤くしてルドに治療師の服を投げつけた。

「人の着替えを見るのが、お前の趣味か!?」
「あ、いえ。そんなことは……」
「なら、部屋の外に出ろ! よしと言うまで入ってくるな!」
「はい!」

 クリスの剣幕に押され、ルドは慌てて部屋から飛び出す。

「……ビックリした」

 廊下に出たルドは落ち着くために大きく深呼吸をした。そこで、ふといい匂いが鼻をかすめる。
 食べ物の良い匂いとは違う。花のような、自然な香り。
 匂いの発生源を探していたルドは視線を落とした。そこには、投げつけられた治療師の服。

「まさか……あ、師匠がつけている香水か香料の匂いか」

 一人で納得していると、室内から声がした。

「……入っていいぞ」

 着替え終わったクリスが茶色のマントを羽織る。部屋に入ったルドは、クリスに治療師の服を差し出した。

「あの、これはどうしますか?」

 クリスは治療師の服を無造作に掴むと、そのまま影の中に突っ込んだ。

「影の中に収納できる魔法ですか?」
「カリストが便利だから、と私の影に魔法をかけた。なんでも入れられるが、入れた物の重さが私にかかるのが難点だな。影に入れた物を常に背負っているようになる。服の一着や二着なら軽いから問題はないが」
「便利な魔法ですね。普通ならカバンや袋などの魔法具が必要ですから。あ、巻きます」

 感心しながらルドがクリスの目に包帯を巻く。

「自分で包帯を巻くとズレやすくて困る」
「自分では難しいですよね。朝食は街を出て、落ち着いたら食べますので。今は早くこの街から出ましょう」
「だが、検問所はどうする? 止められるぞ」
「そこはコッソリ抜けましょう」

 ルドはサイドテーブルに銀貨を置くとクリスとともに部屋から出て行った。


 宿の厩から昨日預けた馬を出したルドが馬に話しかける。

「悪いが今日もしっかり走ってくれ」

 馬が応えるようにルドに額をこすりつけた。ルドはクリスを馬に乗せると、ヒラリと馬に跨がった。

 早朝の人通りが少ない道を走る。検問所の前には予想通り憲兵がネズミ一匹通さない勢いで並んでいた。その鬼気迫る気配は包帯で目を隠しているクリスでも分かるほど。

「昨日の失態の口封じをなにがなんでもしたいようだな。どうやって検問所を通り抜けるんだ?」
「任せてください。しばらく声は出さないように」

 クリスが無言で頷く。ルドは馬の蹄を大きく響かせるように走り出した。その音に憲兵が気づき集まる。

「いたぞ!」
「止まれ!」

 憲兵が口々に叫びながら向かってきた。ルドは検問所の手前の角で、これ見よがしに曲がる。

「待て!」
「逃げられないぞ!」

 予想通り憲兵が追いかけてきた。そのまま憲兵を誘うように次々と角を曲がり、街中へ入る。

「一班は左から大回りして背後へ回れ! 二班は右から回って退路を絶て! 三班はこのまま追いつめろ!」

 憲兵が三組に分かれて走り出す。そこに別の検問所から応援の憲兵が集団で現れた。

「状況は?」
「城の南壁に追い詰めている途中だ」
「では、そこを中心に取り囲もう。南壁に通じる道を全て封じろ!」
「はっ!」

 集まっていた憲兵が一気に散らばる。

 ルドは次々と角を曲がり、街中を走り抜けていたが、徐々に憲兵と出会う回数が増えてきた。その度に進路を変えて走っていく。自然と走れる道は決まっていき、眼前に城の城壁が立ちはだかった。

 前方は高くそびえる壁。背後は隙間なく並ぶ憲兵たち。ルドは馬を止めて振り返った。

 憲兵の一人が剣を抜きながら前に出る。

「逃げ場はない! 大人しく投降しろ!」

 そこに爆発音が響いた。街中の数か所から黒煙が上がる。

「何事だ!?」

 憲兵たちの注意がルドから逸れ、黒煙を見上げる。だが、すぐに意識は目の前の獲物に戻った。

「まずは、こいつらを捕らえてから……なっ!? どこに行った!?」

 目を離した一瞬でルドどころか馬までも消えた。憲兵たちが一斉にルドが立っていた場所に集まる。

「抜け穴はない!」
「城壁を越えたのか?」
「馬を連れては無理だ!」
「どこに行ったか、誰か見ていないのか!?」
「ここから音もなく馬と逃げるのは不可能だ!」
「どうなっている!?」

 バラバラに騒ぐ憲兵たちを一喝する声が響いた。

「遠くには行っていないはずだ! すぐに街中を探せ! 各部隊の一班は黒煙が上がっている場所へ直行して現状を報告しろ!」
『はっ!』

 憲兵たちが街中に散った。






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