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新たな出会い
久しぶりの風呂と報告
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カリストに案内された部屋はクイーンサイズのベッドにテーブルと椅子、ソファーが置かれた広めの客室だった。しかも、書斎や浴室など他の部屋まである。
主寝室のような充実ぶりに室内を確認したクリスは呆れながら呟いた。
「なかなか贅沢な部屋だな」
「カイ様が帝都で過ごされる時にこの部屋を利用していたそうで、不自由がないように改装していたら、こうなったそうです」
この国では風呂に入る習慣があまりないので客室に浴槽があることが非常に珍しい。
だが、クリスの領地ではサウナや温泉文化があり、湯に浸かる習慣が根付いている。
「先代も湯に浸かりたかったのか」
納得しているクリスにラミラが声をかけた。
「クリス様、着替えはどうされますか? クリス様の普段着しか、お持ちしていないのですが……」
「それでいい。いや、それがいい。この服はセルシティに押し付けられただけだ」
「とてもお似合いですのに。カルラが見たら、とても喜びましたよ」
「似合う必要はない。それより」
クリスは側にあった椅子に座った。
「屋敷はどうなった? どういう状況だ?」
主の顔になったクリスにカリストが報告する。
「クリス様が屋敷を出られてすぐ敷地内に複数の賊が侵入してきました。侵入者が屋敷に入る前に捕まえようとしたのですが、なかなか捕らえることが出来ませんでした」
「屋敷から煙が上がっているのが見えたが?」
「姿が見えない侵入者に苛立ったコックたちと庭師たちが暴走をしまして……」
その光景を容易に想像できたクリスは軽くため息を吐いた。
「暴れる時は屋敷を壊すな、とあれだけ言っているのにな」
「クリス様が帰るまでに破壊したところの修繕をすることと、半年間は子どもたちの遊び相手をするように課しておきました」
「体力が有り余っているなら、それで発散させるのはいいな。で、侵入者は捕まえたのか?」
「それがセルシティ第三皇子の親衛隊が突入してきまして、その混乱に乗じて逃げられました」
クリスは眉間にシワを寄せる。
「……親衛隊の中に紛れ込んだのか?」
「その可能性もあります」
「親衛隊……か。他に侵入者の特徴はなかったか?」
「少しだけ対峙したのですが、他国の武術を嗜んでいるようでした」
「どこの国の武術だ?」
「あの独特の動きは、たぶん南東の……砂漠の民のものだと思います」
「南東、か。ファウスティーノの屋敷で見かけた客人の服も南東の砂漠の民の民族衣装だったな」
クリスはラミラが置いた紅茶を飲んで一息ついた。
たった数日だが久しぶりに飲む紅茶の味は懐かしく、緊張していた体から力が抜けていく。
「……やはりお前たちが淹れた紅茶が一番だな」
クリスの言葉にカリストとラミラの動きが止まる。失言に気がついたクリスは慌てて立ち上がった。
「風呂に入ってくる!」
クリスは勢いよく立ち上がり、浴室に駆け込む。その後ろ姿にカリストとラミラが顔を見合わせた。
浴室に入ったクリスは湯が張られた浴槽を眺めていた。温泉ではないが湯に浸かれるのは嬉しい。湯に手をつけて温度を確認する。
「少しぬるいな」
そのまま魔法を詠唱した。
『火よ、その身の温もりを分け与えよ』
湯全体が温まり、ちょうど良い温度になる。
「やっと、この服から解放される」
クリスは服を脱ぐと湯に浸かった。心地よい温もりが全身を包む。頭から湯を被り、久しぶりの風呂を満喫する。
「明日は帝城に行かないとな。襲ってきた連中が不明だが……また襲ってくるだろうな。他国の者か、他国とみせかけた自国の者か……目的は治療の阻止……か? 治療して困る者は……」
考えようとするが、まとまらない。眠気に襲われる。
「情報が少なすぎる」
クリスは大きく息を吸って吐くと、勢いよく湯からあがった。
ラミラが準備したタオルで体を拭き、用意されていた服を着る。補正下着の上にいつもの着慣れたシャツとズボン。あとは薄手の上着。
「よし」
クリスは気合いを入れて浴室から出た。長い金髪を背中に流し、大股で歩くクリスにラミラが露骨に残念そうな顔になる。
「どうした?」
「スカートを履かれていた時は淑女らしい身のこなしでしたのに……」
「服装に合わせた動きをしていただけだ」
クリスはドガッと椅子に座ると、カリストが背後に立った。
『風よ、温もりと乾きを』
ふわりと風がクリスの髪を撫で、一瞬で乾く。
「髪の色はいかがしましょう?」
「いつも通りにしてくれ」
「はい」
カリストが鼈甲の櫛を取り出し、クリスの髪を梳かして茶髪へと変える。そして髪を一つに纏め、質素な紐で結んだ。
「ところでクリス様、夕食に食べたいデザートはありますか?」
「なぜだ?」
「エルネスタ婦人が、クリス様のお好きなデザートを知りたいと」
「特にない」
「ではシェットランドのデザートと伝えておきましょうか?」
シェットランドはクリスが治めている領地の地名であり、独特の文化が発展している。
「それが無難だな」
「そのように伝えて参ります」
カリストが一礼して部屋から出ていく。クリスは控えているラミラに声をかけた。
「この屋敷は、どんな感じだ?」
「犬の実家だけあり、普通の屋敷より守りが堅いです。庭と屋敷の二重で侵入防止の魔法を敷いていますし、屋敷の中も主人の部屋の近くには複数の罠が張られています」
「魔法の罠か?」
「魔法もありますが、物理的な罠もあります」
侵入者は魔法に気をとられがちなため、意外と物理的な罠に弱いことがある。
「使用人たちの様子は?」
「厳選した人材らしく、奴隷は一人もいません。代々、この家に仕えている人間を雇っているそうです」
「さすが赤鷹の二つ名を持つ英雄ガスパルの生家だな」
今は隠居してオークニーに引っ越したが、ガスパルはここで生まれ育った。先祖代々、皇帝に仕えており、将軍を多く輩出している名家でもある。
そのぶん敵も多く、生活をする場の守りを強固にするのは当然で。
「街宿に泊まるよりは安全ということか」
「もしかしたら帝城より安全かもしれません」
「……そのようだな。帝都にいる間は厄介になるか」
観念したように呟いたクリスにラミラが微笑んだ。
主寝室のような充実ぶりに室内を確認したクリスは呆れながら呟いた。
「なかなか贅沢な部屋だな」
「カイ様が帝都で過ごされる時にこの部屋を利用していたそうで、不自由がないように改装していたら、こうなったそうです」
この国では風呂に入る習慣があまりないので客室に浴槽があることが非常に珍しい。
だが、クリスの領地ではサウナや温泉文化があり、湯に浸かる習慣が根付いている。
「先代も湯に浸かりたかったのか」
納得しているクリスにラミラが声をかけた。
「クリス様、着替えはどうされますか? クリス様の普段着しか、お持ちしていないのですが……」
「それでいい。いや、それがいい。この服はセルシティに押し付けられただけだ」
「とてもお似合いですのに。カルラが見たら、とても喜びましたよ」
「似合う必要はない。それより」
クリスは側にあった椅子に座った。
「屋敷はどうなった? どういう状況だ?」
主の顔になったクリスにカリストが報告する。
「クリス様が屋敷を出られてすぐ敷地内に複数の賊が侵入してきました。侵入者が屋敷に入る前に捕まえようとしたのですが、なかなか捕らえることが出来ませんでした」
「屋敷から煙が上がっているのが見えたが?」
「姿が見えない侵入者に苛立ったコックたちと庭師たちが暴走をしまして……」
その光景を容易に想像できたクリスは軽くため息を吐いた。
「暴れる時は屋敷を壊すな、とあれだけ言っているのにな」
「クリス様が帰るまでに破壊したところの修繕をすることと、半年間は子どもたちの遊び相手をするように課しておきました」
「体力が有り余っているなら、それで発散させるのはいいな。で、侵入者は捕まえたのか?」
「それがセルシティ第三皇子の親衛隊が突入してきまして、その混乱に乗じて逃げられました」
クリスは眉間にシワを寄せる。
「……親衛隊の中に紛れ込んだのか?」
「その可能性もあります」
「親衛隊……か。他に侵入者の特徴はなかったか?」
「少しだけ対峙したのですが、他国の武術を嗜んでいるようでした」
「どこの国の武術だ?」
「あの独特の動きは、たぶん南東の……砂漠の民のものだと思います」
「南東、か。ファウスティーノの屋敷で見かけた客人の服も南東の砂漠の民の民族衣装だったな」
クリスはラミラが置いた紅茶を飲んで一息ついた。
たった数日だが久しぶりに飲む紅茶の味は懐かしく、緊張していた体から力が抜けていく。
「……やはりお前たちが淹れた紅茶が一番だな」
クリスの言葉にカリストとラミラの動きが止まる。失言に気がついたクリスは慌てて立ち上がった。
「風呂に入ってくる!」
クリスは勢いよく立ち上がり、浴室に駆け込む。その後ろ姿にカリストとラミラが顔を見合わせた。
浴室に入ったクリスは湯が張られた浴槽を眺めていた。温泉ではないが湯に浸かれるのは嬉しい。湯に手をつけて温度を確認する。
「少しぬるいな」
そのまま魔法を詠唱した。
『火よ、その身の温もりを分け与えよ』
湯全体が温まり、ちょうど良い温度になる。
「やっと、この服から解放される」
クリスは服を脱ぐと湯に浸かった。心地よい温もりが全身を包む。頭から湯を被り、久しぶりの風呂を満喫する。
「明日は帝城に行かないとな。襲ってきた連中が不明だが……また襲ってくるだろうな。他国の者か、他国とみせかけた自国の者か……目的は治療の阻止……か? 治療して困る者は……」
考えようとするが、まとまらない。眠気に襲われる。
「情報が少なすぎる」
クリスは大きく息を吸って吐くと、勢いよく湯からあがった。
ラミラが準備したタオルで体を拭き、用意されていた服を着る。補正下着の上にいつもの着慣れたシャツとズボン。あとは薄手の上着。
「よし」
クリスは気合いを入れて浴室から出た。長い金髪を背中に流し、大股で歩くクリスにラミラが露骨に残念そうな顔になる。
「どうした?」
「スカートを履かれていた時は淑女らしい身のこなしでしたのに……」
「服装に合わせた動きをしていただけだ」
クリスはドガッと椅子に座ると、カリストが背後に立った。
『風よ、温もりと乾きを』
ふわりと風がクリスの髪を撫で、一瞬で乾く。
「髪の色はいかがしましょう?」
「いつも通りにしてくれ」
「はい」
カリストが鼈甲の櫛を取り出し、クリスの髪を梳かして茶髪へと変える。そして髪を一つに纏め、質素な紐で結んだ。
「ところでクリス様、夕食に食べたいデザートはありますか?」
「なぜだ?」
「エルネスタ婦人が、クリス様のお好きなデザートを知りたいと」
「特にない」
「ではシェットランドのデザートと伝えておきましょうか?」
シェットランドはクリスが治めている領地の地名であり、独特の文化が発展している。
「それが無難だな」
「そのように伝えて参ります」
カリストが一礼して部屋から出ていく。クリスは控えているラミラに声をかけた。
「この屋敷は、どんな感じだ?」
「犬の実家だけあり、普通の屋敷より守りが堅いです。庭と屋敷の二重で侵入防止の魔法を敷いていますし、屋敷の中も主人の部屋の近くには複数の罠が張られています」
「魔法の罠か?」
「魔法もありますが、物理的な罠もあります」
侵入者は魔法に気をとられがちなため、意外と物理的な罠に弱いことがある。
「使用人たちの様子は?」
「厳選した人材らしく、奴隷は一人もいません。代々、この家に仕えている人間を雇っているそうです」
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今は隠居してオークニーに引っ越したが、ガスパルはここで生まれ育った。先祖代々、皇帝に仕えており、将軍を多く輩出している名家でもある。
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