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新たな出会い
ルドの父と夕食会
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夕食時。クリスはカリストを従えて食堂に移動した。
食堂は普通の部屋より少し広いほど。真ん中に大きめの長方形のテーブルと、椅子が三脚ずつ並ぶ。装飾品はなく、クリーム色の壁に暖炉と、こじんまりしている。
来客を迎えることもある食堂が家庭的な雰囲気であることに驚きつつ、クリスはルドの隣の椅子に腰かけた。反対側にはエルネスタと四十代後半ぐらいの男性が座る。
エルネスタがクリスの髪を見て眉尻をさげた。
「あら、髪の色を変えちゃったの? 金色で綺麗だったのに」
「いつもはこの色なので」
「さっきの服も似合っていたのに」
「これが普段着なので」
「今度、服をプレゼントするわ。あ、一緒に買い物に行くのもいいわね」
エルネスタが嬉しそうに提案する。それをルドが遮り、エルネスタの隣に座る男性を紹介した。
「母上、師匠はここへ遊びに来たのではありません。それより師匠、こちらは私の父、フィオリーノ・ガルメンディアです」
白髪交じりの茶髪を頭に撫でつけ、深いシワと傷跡がある険しい顔。隙のない気配のまま、琥珀の瞳でクリスを値踏みする。
そんな視線を受けてもクリスはいつもの無愛想なまま。
そこにエルネスタがフィオリーノの背中を勢いよく叩いた。
「そんな顔をしていたらクリスちゃんが怖がるでしょ。愛想よく笑顔の一つでも見せなさい」
(この顔で笑ったら、それはそれで怖そうだが)
さすがに言葉に出さなかったクリス。
するとフィオリーノが軽く咳払いをして、気まずそうに言った。
「もともと、こういう顔だ。だが、警戒させてしまったなら、すまない。私がこの屋敷の主のフィオリーノだ。ゆっくり滞在してくれ。困ったことが、あれば遠慮なく言ってほしい」
予想外の言葉にクリスは驚いた。
(犬を育てた親だからな)
妙なところで納得すると、クリスは笑顔で応えた。
「シェトランド領主、クリスティアヌス・フェリシアーノだ。こちらこそ、突然の訪問にも関わらず歓迎していただき、感謝している。帝都は初めてで、わからないことが多い。そのため、迷惑をかけると思うが容赦していただきたい」
「それはもちろん。分からないことは何でも聞いてくれ」
「それは、ありがたい」
クリスとフィオリーノが穏やかに話す。
初対面が無事に終わりホッとするルドの前に料理が運ばれてきた。
夕食はまさかのシェットランドの郷土料理。手に入らない食材は代用品を使い、ほぼ忠実に再現。
クリスはそのことをデザートが運ばれてくる前に触れた。
「まさかシェットランドの郷土料理が食べられるとは思わなかった」
「お味は良かったかしら?」
「あぁ。懐かしい味だった」
「カイ様が滞在されている時にシェットランドの郷土料理の作り方を教わったの。お口に合って良かったわ」
エルネスタが嬉しそうに話す。そこにカリストがティーカップを並べ、紅茶を淹れた。それを飲んだフィオリーノが鋭い目を丸くする。
「……美味いな。どこの茶葉だ?」
カリストが優雅に微笑む。
「こちらのキッチンにありました茶葉をお借りして淹れました」
「ほう? いつもと同じ茶葉でここまで変わるのか」
フィオリーノが素直に感心しながらも、近くにきたカリストを横目で観察する。
クリスは紅茶を飲みながら言った。
「カリストが淹れる紅茶はなかなかのものでな。うちの使用人になる者には、まずカリストから紅茶の淹れ方を学ぶ。とはいえ、この味を出せる者は少ししかいない」
「これは誰でも出せるような味ではないだろう」
「茶葉の状態や、その時の気候などで茶器を温める時間や茶葉を蒸らす時間を調節しております」
「それは難しいな」
フィオリーノが頷きながら、さり気なくティースプーンを手に取る。すかさずカリストがシュガーポットを差し出した。
「いくつお入れいたしましょう?」
フィオリーノの視線を黒い瞳が受け流す。フィオリーノが笑いながらティースプーンを置いた。
「かなりの手練れだな。クリス殿は良い執事を雇っておられる」
「口うるさいがな」
「執事なら、それぐらいが丁度いい」
和やかな雰囲気にルドが力を抜く。
フィオリーノがカリストの実力をみるため、ティースプーンで攻撃しようとしたのだが、それを察したカリストが先手を打って制した。
そのことに気づいたルドは場合によっては間に入るつもりだった。
緊張しているルドに対して、クリスはくつろいでいた。
ルドの両親とは初めての食事にも関わらず波長が合うのか気楽に話せる。
運ばれてきたデザートを食べながらフィオリーノがカリストに訊ねた。
「この国では見かけない髪と目の色だが、生まれはどこだ?」
普通、使用人のことは主に訊ねる。それをフィオリーノは本人に質問した。どんな身分の者でも一人の人間として対等に接する。
(こういうところが合うのだろうな)
納得するクリスの後ろで、カリストが困ったように微笑む。
その顔は普通の女性より儚く美しい。男と分かっていても見惚れそうになるが、フィオリーノは眉一つ動かない。
カリストが透き通る声で答えた。
「遥か東方です。この国とは交流がないほどの遠方ですので、ご存知ない国だと思います」
「ほう。そんな遠方から、なぜこの国に?」
「いつの間にかクリス様に拾われていました」
そう言ってカリストがクリスに視線を向ける。クリスはデザートを食べながら話した。
「成り行きだな。私の使用人は腕もそれなりにたつし、全責任は私が負う。心配されるな」
「失礼。そういうつもりではなかったのだ」
謝るフィオリーノにエルネスタが笑う。
「相変わらず腹の探り合いが苦手ね。クリスちゃんのことはルドが守るから大丈夫よ。ちょっと頼りないけどね」
「母上」
睨むルドの隣でクリスが頷く。
「頼りないところが多いがな」
「師匠!?」
焦るルドにクリスは吹き出すように笑った。気が抜けたクリスの自然な笑顔。
その顔にルドが固まる。
「そんなに慌てることか?」
「……」
「どうした?」
「い、いえ。なんでもありません」
覗き込んだクリスから逃げるようにルドが正面を向く。
エルネスタが微笑みながらクリスに言った。
「帝都にいる間はここを自分の家だと思ってちょうだい。なんなら家族だと思ってもいいわ」
「え?」
「お母様って呼んでもいいわよ。ほら」
「おか? え?」
二人の間にルドが割って入る。
「母上、師匠を困らせないで下さい」
「あら。でも家族のように接してほしいと思っているのは本当よ」
「それは、この食堂で食事をすると言った時に分かりました」
「どういうことだ?」
首を傾げるクリスにルドが説明した。
「ここは家族で食事をする食堂です。来客時は別の広い食堂を使用します」
「あそこは広くて煌びやかだけど、食事をするには寂しいもの。ここの方が、みんなが近くて話しやすくて温かくなるの」
「あぁ」
豪華で広い食堂は見栄えは良いが、食事をする人たちとの距離が開いて会話も難しい。
「離れて食事をするのは寂しいからな」
「そうなの。さすが、クリスちゃん。わかってくれて嬉しいわ。我が家の鈍い男どもとは違うわね。クリスちゃんがうちの子ならいいのに」
本気まじりの呟きにクリスは苦笑いしか出来なかった。
食堂は普通の部屋より少し広いほど。真ん中に大きめの長方形のテーブルと、椅子が三脚ずつ並ぶ。装飾品はなく、クリーム色の壁に暖炉と、こじんまりしている。
来客を迎えることもある食堂が家庭的な雰囲気であることに驚きつつ、クリスはルドの隣の椅子に腰かけた。反対側にはエルネスタと四十代後半ぐらいの男性が座る。
エルネスタがクリスの髪を見て眉尻をさげた。
「あら、髪の色を変えちゃったの? 金色で綺麗だったのに」
「いつもはこの色なので」
「さっきの服も似合っていたのに」
「これが普段着なので」
「今度、服をプレゼントするわ。あ、一緒に買い物に行くのもいいわね」
エルネスタが嬉しそうに提案する。それをルドが遮り、エルネスタの隣に座る男性を紹介した。
「母上、師匠はここへ遊びに来たのではありません。それより師匠、こちらは私の父、フィオリーノ・ガルメンディアです」
白髪交じりの茶髪を頭に撫でつけ、深いシワと傷跡がある険しい顔。隙のない気配のまま、琥珀の瞳でクリスを値踏みする。
そんな視線を受けてもクリスはいつもの無愛想なまま。
そこにエルネスタがフィオリーノの背中を勢いよく叩いた。
「そんな顔をしていたらクリスちゃんが怖がるでしょ。愛想よく笑顔の一つでも見せなさい」
(この顔で笑ったら、それはそれで怖そうだが)
さすがに言葉に出さなかったクリス。
するとフィオリーノが軽く咳払いをして、気まずそうに言った。
「もともと、こういう顔だ。だが、警戒させてしまったなら、すまない。私がこの屋敷の主のフィオリーノだ。ゆっくり滞在してくれ。困ったことが、あれば遠慮なく言ってほしい」
予想外の言葉にクリスは驚いた。
(犬を育てた親だからな)
妙なところで納得すると、クリスは笑顔で応えた。
「シェトランド領主、クリスティアヌス・フェリシアーノだ。こちらこそ、突然の訪問にも関わらず歓迎していただき、感謝している。帝都は初めてで、わからないことが多い。そのため、迷惑をかけると思うが容赦していただきたい」
「それはもちろん。分からないことは何でも聞いてくれ」
「それは、ありがたい」
クリスとフィオリーノが穏やかに話す。
初対面が無事に終わりホッとするルドの前に料理が運ばれてきた。
夕食はまさかのシェットランドの郷土料理。手に入らない食材は代用品を使い、ほぼ忠実に再現。
クリスはそのことをデザートが運ばれてくる前に触れた。
「まさかシェットランドの郷土料理が食べられるとは思わなかった」
「お味は良かったかしら?」
「あぁ。懐かしい味だった」
「カイ様が滞在されている時にシェットランドの郷土料理の作り方を教わったの。お口に合って良かったわ」
エルネスタが嬉しそうに話す。そこにカリストがティーカップを並べ、紅茶を淹れた。それを飲んだフィオリーノが鋭い目を丸くする。
「……美味いな。どこの茶葉だ?」
カリストが優雅に微笑む。
「こちらのキッチンにありました茶葉をお借りして淹れました」
「ほう? いつもと同じ茶葉でここまで変わるのか」
フィオリーノが素直に感心しながらも、近くにきたカリストを横目で観察する。
クリスは紅茶を飲みながら言った。
「カリストが淹れる紅茶はなかなかのものでな。うちの使用人になる者には、まずカリストから紅茶の淹れ方を学ぶ。とはいえ、この味を出せる者は少ししかいない」
「これは誰でも出せるような味ではないだろう」
「茶葉の状態や、その時の気候などで茶器を温める時間や茶葉を蒸らす時間を調節しております」
「それは難しいな」
フィオリーノが頷きながら、さり気なくティースプーンを手に取る。すかさずカリストがシュガーポットを差し出した。
「いくつお入れいたしましょう?」
フィオリーノの視線を黒い瞳が受け流す。フィオリーノが笑いながらティースプーンを置いた。
「かなりの手練れだな。クリス殿は良い執事を雇っておられる」
「口うるさいがな」
「執事なら、それぐらいが丁度いい」
和やかな雰囲気にルドが力を抜く。
フィオリーノがカリストの実力をみるため、ティースプーンで攻撃しようとしたのだが、それを察したカリストが先手を打って制した。
そのことに気づいたルドは場合によっては間に入るつもりだった。
緊張しているルドに対して、クリスはくつろいでいた。
ルドの両親とは初めての食事にも関わらず波長が合うのか気楽に話せる。
運ばれてきたデザートを食べながらフィオリーノがカリストに訊ねた。
「この国では見かけない髪と目の色だが、生まれはどこだ?」
普通、使用人のことは主に訊ねる。それをフィオリーノは本人に質問した。どんな身分の者でも一人の人間として対等に接する。
(こういうところが合うのだろうな)
納得するクリスの後ろで、カリストが困ったように微笑む。
その顔は普通の女性より儚く美しい。男と分かっていても見惚れそうになるが、フィオリーノは眉一つ動かない。
カリストが透き通る声で答えた。
「遥か東方です。この国とは交流がないほどの遠方ですので、ご存知ない国だと思います」
「ほう。そんな遠方から、なぜこの国に?」
「いつの間にかクリス様に拾われていました」
そう言ってカリストがクリスに視線を向ける。クリスはデザートを食べながら話した。
「成り行きだな。私の使用人は腕もそれなりにたつし、全責任は私が負う。心配されるな」
「失礼。そういうつもりではなかったのだ」
謝るフィオリーノにエルネスタが笑う。
「相変わらず腹の探り合いが苦手ね。クリスちゃんのことはルドが守るから大丈夫よ。ちょっと頼りないけどね」
「母上」
睨むルドの隣でクリスが頷く。
「頼りないところが多いがな」
「師匠!?」
焦るルドにクリスは吹き出すように笑った。気が抜けたクリスの自然な笑顔。
その顔にルドが固まる。
「そんなに慌てることか?」
「……」
「どうした?」
「い、いえ。なんでもありません」
覗き込んだクリスから逃げるようにルドが正面を向く。
エルネスタが微笑みながらクリスに言った。
「帝都にいる間はここを自分の家だと思ってちょうだい。なんなら家族だと思ってもいいわ」
「え?」
「お母様って呼んでもいいわよ。ほら」
「おか? え?」
二人の間にルドが割って入る。
「母上、師匠を困らせないで下さい」
「あら。でも家族のように接してほしいと思っているのは本当よ」
「それは、この食堂で食事をすると言った時に分かりました」
「どういうことだ?」
首を傾げるクリスにルドが説明した。
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「あそこは広くて煌びやかだけど、食事をするには寂しいもの。ここの方が、みんなが近くて話しやすくて温かくなるの」
「あぁ」
豪華で広い食堂は見栄えは良いが、食事をする人たちとの距離が開いて会話も難しい。
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