【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

文字の大きさ
115 / 243
すれ違う二人

金獅子登場〜ルド視点〜

しおりを挟む
 周囲を高い山に囲まれた中心にある巨大な湖。山の雪解け水が溜まった湖は帝都の人々や、その周囲の畑を潤す水源であり、枯れたことはない。

 夕日が山影に姿を隠し暗くなった頃、ルドは湖に到着した。
 馬車から降りたカリストとルドをラミラが迎える。

「カイ様より、全ての判断は現場に任せる、とのことです」
「では、遠慮なくクリス様をお迎えに行きましょう」

 カリストから放出される冷気はだいぶん減ったが、怒り混じりの不気味な気配は継続中。馬車の中で隣にいたルドは、ずっとその気配を浴びていたため無駄に疲れていた。
 カリストがラミラに声をかける。

「いつ頃、来ますか?」
「日が沈む頃だそうです」
「では、そろそろ迎える準備をしましょう」
「わかりました」

 ラミラがメイド服のスカートの裾を上げ、太ももに装着している黒い筒を外す。そして手首に付けている楕円形の弾を取り、黒い筒に装填した。そして、湖の前で片膝をつき、まっすぐ黒い筒をかまえる。

 ルドがラミラの邪魔をしないように小声でカリストに訊ねた。

「何をするのですか?」
「目印を撃ちます」
「目印?」

 プシュ、という軽い音とともに光の線が湖の上に伸びる。立ち上がったラミラが数歩移動して再び片膝をついた。
 湖の上の光の線と黒い筒の角度を見比べながら平行になる位置を探す。
 深く息を吸い込んだラミラが狙いを定めて撃った。

 薄暗くなった湖に二本の光の線が輝く。それは、まるで山から天へと続く光りの道のようでもあった。

 そこにラミラが黒い筒を上空に撃つ。流れ星がまっすぐ空に帰っていくような光景に見惚れていると突然、風が吹きつけた。

「なっ!?」

 見たことのない大きさのナニかが一直線に飛んでくる。猛禽類の鳥にも似ているが、大きさが桁違いだ。
 かまえるルドをカリストが止める。

「絶対に攻撃しないで下さい」
「ですが……」
「絶対に、しないで下さい」
「は、はい」

 暗闇より暗い瞳に忠告され、ルドは本能的に体を小さくした。
 大きなナニかは盛大に水しぶきを上げながら湖を滑り、三人の前で止まる。

 鳥でいう胴体の部分にあるドアが開く。反射的にかまえたルドの頭をカリストが叩き、そのまま前に出た。

「わざわざ先代領主自ら操縦しなくても、他の者で良かったと思いますが」
「クリスティが攫われたんだろ? 暴走したお前をラミラが止めるのは、ちぃーと荷が重いと思ってな」
「そう言って、久しぶりに外に出たかっただけではないのですか?」
「そうとも言う!」

 豪快に頷きながら三人の前に現れたのは快活な老人だった。長い白髪を後ろで一つに纏め、シワに囲まれた深緑の瞳が楽しそうに輝く。姿勢が良く、外見の年齢と合わない。

 ルドはその姿を確認すると同時に敬礼をした。

「お久しぶりです! カイ殿!」

 かつて近隣諸国との戦で窮地だった国を救い、豪傑のカイと名を轟かせた英雄の一人。今は白髪になったが、若い頃は獅子のような金髪だったため、金獅子という二つ名がついた。ちなみに目は仮面で隠し、結婚と同時に姿を消した伝説的存在。
 ルドとは以前、一度だけ顔を合わせているが、その時は会話らしい会話もなく自己紹介だけで終わっていた。

 カイがニヤリと笑う。

「おう、ガスパルの孫! 久しぶりだな」
「はい!」
「あぁ、もう手は下げろ。あいつに似て真面目だな」
「はい!」

 手を下げても姿勢を正したまま固まっているルドにカイが近づく。

「オレはお前の上官でも何でもないんだ。楽にしろ」
「は、はい」

 そうはいっても力が抜けない。そんなルドの額をカイが小突く。

「今、そんなに力を入れていたらクリスティを助ける時に力が残ってないぞ」
「すみません……」
「謝るほどのことじゃねぇよ」
「いえ、そうではなく……目の前で師匠を連れ去られてしまい……」
「それか。その時のことを、もう少し詳しく聞きたいんだが……」

 カイがカリストに視線を向ける。

「それは移動しながら話します。先に目的地を絞りましょう」

 カリストが影から机と地図とランプを出した。

「なんで、そんな重い物が!? 収納魔法は、大きさは関係なく収納できますが、重さは体にかかりますよね?」

 しかし、カリストの動きは普段と変わらず身軽だった。
 驚いているルドにカリストが説明する。

「私の影は大きさや重さは関係なく収納できます。で、本題ですが……アンドレ」

 背後の木々が揺れ、頭から布を被った人が現れた。

「どうでした?」
「こっち、いった。あすのあさ、ここらへん、いるとおもう」

 アンドレが帝都から南東の方へ指を動かし、海を越えて砂漠の真ん中で止める。

「なかなかの速度で移動していますね。そこまで行かれると面倒ですから、その前に見つけて……いえ、この際ですから先回りして……」
「先回りって、明日の朝にはケマーリ王国の砂漠にいるんですよ? たとえクルマを使っても追いつけませんよ」

 カリストが横目でルドを見た。

「クルマより速い乗り物があるとしたら、どうします?」
「え?」

 ルドの背中に悪寒が走る。そういえば、クリスがそんなことを言っていた。

「クルマは道がないと移動できませんが、その乗り物は道も海も関係ないとしたら?」
「海も……関係ない?」
「そうです」

 ルドは恐る恐るカイが乗って来たモノに視線を向ける。

「まさか……」
「その、まさかです」
「シェットランド領から一日で帝都まで来たというのも……」

 カイが胸を張る。

「これなら一日どころか半日あれば来れるぞ」
「なんで、そんなモノがシェットランド領にあるんですか!?」

 自分の常識からかけ離れたモノの存在にルドは崩れ落ちた。そんなルドの背中をカイが叩く。

「まあ、まあ。細かいことは気にするな」
「細かくありません! それに乗らないといけないと考えると……」

 初めてクルマに乗った時の恐怖がよみがえる。

「問題にするのは、そこか。クリスティを助けに行かないなら、乗らなくてもいいぞ」
「乗ります」

 スクッと立ち上がったルドにカイが笑う。

「なら、グダグダ言うな。で、行き先なんだが、ちょっと気になることがある」

 カリストが地図から顔を上げた。

「どうされました?」
「報告だと、クリスティを連れ去ったのは結構な大きさの船だったらしいな」
「はい」
「それだけの大きさだと、朝までの連続移動は難しいと思う。たぶん途中で魔力が切れるはずだ」
「確かに帆船の形をしていました。気流や流動学など一切考えていない造りですから、魔力効率は悪いですね」
「気流? 流動学?」

 首を傾げるルドを無視してカリストが話しを続ける。

「どこかで魔力を補充するか、乗り物を変える可能性がありますね。ですが、あれだけの大きさの物ですから、どこに行っても目立ちます。それなら上空からでも見つけやすいでしょう」
「それはどうかな?」
「え?」
「木を隠すなら森の中って言う昔の言葉もある。まずは、ここに向かうぞ」

 カイが地図の一点を指さした。






しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

病弱な第四皇子は屈強な皇帝となって、兎耳宮廷薬師に求愛する

藤原 秋
恋愛
大規模な自然災害により絶滅寸前となった兎耳族の生き残りは、大帝国の皇帝の計らいにより宮廷で保護という名目の軟禁下に置かれている。 彼らは宮廷内の仕事に従事しながら、一切の外出を許可されず、婚姻は同族間のみと定義づけられ、宮廷内の籠の鳥と化していた。 そんな中、宮廷薬師となった兎耳族のユーファは、帝国に滅ぼされたアズール王国の王子で今は皇宮の側用人となったスレンツェと共に、生まれつき病弱で両親から次期皇帝候補になることはないと見限られた五歳の第四皇子フラムアーク付きとなり、皇子という地位にありながら冷遇された彼を献身的に支えてきた。 フラムアークはユーファに懐き、スレンツェを慕い、成長と共に少しずつ丈夫になっていく。 だがそれは、彼が現実という名の壁に直面し、自らの境遇に立ち向かっていかねばならないことを意味していた―――。 柔和な性格ながら確たる覚悟を内に秘め、男としての牙を隠す第四皇子と、高潔で侠気に富み、自らの過去と戦いながら彼を補佐する亡国の王子、彼らの心の支えとなり、国の制約と湧き起こる感情の狭間で葛藤する亜人の宮廷薬師。 三者三様の立ち位置にある彼らが手を携え合い、ひとつひとつ困難を乗り越えて掴み取る、思慕と軌跡の逆転劇。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

処理中です...