【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

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月からの流れ星と治療

オグウェノとルド〜ルド、クリス交互視点〜

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※※※※ルド視点※※※※

 操縦室の端でルドは飛空艇を飛ばすところを見学していた。クリスは別室でベレンの介抱中。
 操縦室という部屋の真ん中で床に杖を立てたムワイが叫ぶ。

「ちょっ、これ、マジで重すぎなんですけど!?」
「だから、おまえに操縦させてるんだろ。とりあえず帝都に着けばいい」
「その前に僕の魔力が干からびますけどっ!?」
「ギリギリ持つだろ」
「……そういうところは目敏いですよね?」
「頑張れ」
「うぇぇー……」

 詫びの品を大量に乗せた飛空艇がゆっくりと浮上する。セスナの速さと浮遊感に比べたら、まったく問題ない。

「あとで好きなだけ休暇をやる」
「約束ですよぉ!」

 死にそうな顔で叫ぶムワイに軽く手を振りオグウェノが甲板へ出る。
 ルドは外に出たところでオグウェノに声をかけた。

「少し聞きたいことがあるのですが」
「なんだ?」

 平然としているオグウェノに対し、ルドは緊張と警戒を解かない。

「数日前、オークニーで師匠を襲ったのは、ケリーマ王国の手の者ですか?」
「オークニー? 聞いたことがある地名だが、どこだったか……あ、学問都市で有名な街か。そこで何かあったのか?」
「そこで、師匠が数人の男女に襲われました。動きから、ケリーマ王国の武術を嗜んでいるようでした」
「オレは指示してないぞ」
「では、ケリーマ王国でそのような命令をする人はいますか?」

 オグウェノが顎に手をあてて考える。

「んー、いないと思うけどなぁ。そもそも、月姫を襲って得するヤツがいないし……」

 月姫という単語にルドはこめかみを引きつらせつつ、そのまま質問を続けた。

「では、師匠が帝城にいることを、どうやって知りました?」
「あぁ。それは、たまたまだ。月姫に会いにシェットランド領へ行こうとして、ついでに現帝に挨拶しようと帝城に寄ったら月姫が居た」
「そうですか。あと師匠は男性です。姫と呼ぶのは、失礼だと思いますが?」

 ルドの発言に、オグウェノの目が丸くなる。

「それ、本気で言ってるのか?」
「本気とは?」

 質問を質問で返したルドの全身をオグウェノが観察する。
 襟足だけ長く伸びた赤髪。整った顔立ちに、穢れのない琥珀の瞳。体は鍛えており、イケメンの好青年という雰囲気。
 かなりモテそうだが、女遊び、女慣れしている様子もない。むしろ女性を避けている。

(本当に月姫が女だと知らないのか?)

 ややこしそうな気配を察知したオグウェノが話の方向を変えた。

「じゃあ、呼び方について相談してこよう。月姫はどこだ?」
「……師匠は二日酔いのベレンの介抱をしています」
「わかった」

 オグウェノがルドに背を向け、軽く手を振って立ち去る。
 その後ろ姿を眺めながらルドは考えた。

 オグウェノが嘘を言っているようには見えない。ならば、最初にクリスを襲わせたのは誰か。その目的は何か。
 ルドは眉間を押さえて唸った。


※※※※クリス視点※※※※


「うぅ……」

 船室に響くベレンの呻き声。そこにノックの音がした。ラミラが少しだけドアを開けるとオグウェノがいる。

「いかがされましたか?」
「ちょっと、月姫と話がしたくてな。いいか?」
「いいぞ」

 クリスの返事にラミラがドアを大きく開けた。
 青い顔で床に置いたクッションに倒れているベレンにオグウェノが声をかける。

「大丈夫か?」

 無言のベレンに代わりクリスが答えた。

「二日酔いのうえに船酔いだ。到着するまでは、我慢するしかない」
「そうか。ところで、おまえの番犬から忠告を受けたんだが」

 クリスは番犬がルドのことだと察した。

「なにを言った?」
「月姫のことを、男なのに姫と呼ぶな、と」

 その言葉にカリストが視線を逸らし、ラミラが大きくため息を吐いた。
 その反応で全てを悟ったオグウェノが驚く。

「マジか!? マジであの番犬は月姫のことを男だと思っているのか!?」
「そうだ」
「うわぁ、マジで!? どういう目をしているんだ!?」

 ベレンが何か言おうとしたが呻き声しか出せない。クリスは肩をすくめた。

「いろいろあるんだ」
「そうか。ま、そのほうがこっちは好都合だから良いけどな」
「何が好都合なんだ?」
「こっちの話だ」

 オグウェノがにっこりと男前の笑顔になる。薔薇の花束が合う、甘いマスクで男の色気垂れ流しの笑み。
 普通の女性なら赤面して見惚れるところだが、クリスは表情一つ変えずに頷いた。

「私に関係ないなら、別にいい。で、そんなことを確認するために、ここに来たのか?」

 あっさりとしたクリスの態度にオグウェノがいつもの雰囲気になり、話を続けた。

「いや、いや。目的はそれじゃない。男ってことにしているなら、姫と呼ぶのは都合が悪いか?」
「呼び方は好きにしろ。どうせ、変える気なんてないんだろ」
「よく分かってるな。でも一応、他の呼び方も考えたぞ」
「なんだ?」
月読命つくよみ

 クリスは眉間にシワを寄せて盛大にため息を吐いた。

「今のままでいい」

 静観していたラミラが訊ねる。

「どんな意味の言葉ですか? 初めて聞きましたが」
「大昔の月の神の名だ。カッコいいだろ」
「はぁ……」

 自信満々のオグウェノだが、カッコよさが分からないラミラは曖昧に返事をするのみ。その後ろでカリストがそっと視線を落とした。


 昼過ぎ。
 帝都にざわめきが広がる。二日前に海へと去った空飛ぶ帆船が再び現れたのだ。

 帆船は悠々と上空を飛び、帝城の真上で停止。中庭に騎士から兵士までが隙間なく整列する。
 そこにオグウェノたちが降り立った。

 緊張が走る中、オグウェノが軽い声で話す。

「いやぁ、騒がせて悪かった。これ、持参した詫びの品書きだ。受け取ってくれ」

 騎士たちの中から二十代半ばの青年が出てきた。髪は白に近い金。瞳は紺。整った顔立ちで睨む姿は冷徹な印象を受ける。

「第一皇子のコンスタンティヌスだ。今回のことは、ケリーマ王国の王と我が父である現帝が通信機で対話をされ、罪には問わないこととなった。だが、緊急で治療が必要な者がいたとはいえ、無断で治療師を連れて行くことは金輪際なきように」
「あぁ、すまなかった」

 軽く流すオグウェノに反省の様子はない。コンスタンティヌスの眉間のシワがますますキツくなる。
 険悪な雰囲気の二人をクリスは無表情で眺めた。

 今回の誘拐劇は、ケリーマ王国に早急に治療が必要な人がいたため、クリスが優秀な治療師だと聞いたオグウェノが突発的に動いた、ということになった。
 こんな嘘に騙される現帝ではないが、クリスから穏便に済ませてくれという後押しがあり、表面上は受け入れた。

 ちなみに、ルドたちがクリスと合流していることは現帝に知らせていない。そのため、帆船の中で待機している。

 ベレンが一歩前に出て、膝を折った。

「お久しぶりでございます、コンスタンティヌスお兄様」

 ベレンの姿にコンスタンティヌスの目が少し緩む。

「久しぶりだ、ベレン。この度は災難だったな」
「いいえ。オグウェノ様はとても良くしてくださり、貴重な体験ができました」
「だが、所詮は〝神に棄てられた一族〟だ。我が国に厄災を持ち込む前に即刻立ち去れ」

 見下すような視線にオグウェノの後ろに控えていたイディが怒鳴る。

「王子を愚弄するか!」
「イディ、落ち着け。喧嘩をしに来たんじゃない」

 オグウェノの言葉にイディが下がる。しかし、コンスタンティヌスの護衛たちの警戒は強まる。

「砂漠の民は、身の程を知らぬ野蛮者だな。さすが〝神に棄てられた一族〟が治める国だ」
「そんな……」

 反論しようとしたベレンの肩をクリスが掴み、代わりに前に出た。








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