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月からの流れ星と治療
エルネスタと残された男たち〜ルド、クリス交互視点〜
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※※※※ルド視点※※※※
タイプがまったく違う男三人に囲まれデザートを食べるエルネスタ。その光景は自然と店内の女性たちの視線を集め、ルドは非常に居心地が悪かった。
「母上、買い物はこれで終わりですか?」
「そうね。これで全部かしら」
「では、あとは帰るだけですね」
安堵したルドを置いて、エルネスタがオグウェノとイディに視線を向ける。
「ところで、こちらの方々は?」
オグウェノが数多くの女性を虜にしてきた極上の笑みをつけて自己紹介した。
「挨拶が遅れて失礼しました。ケリーマ王国の第四王子、オグウェノ・ケリーマと申します。こちらは、臣下のイディ・カンバラケです。お見知りおきを」
イディが軽く頭をさげる。いきなり王子と自己紹介されたら普通は驚くか疑うところだが、エルネスタはにっこりと微笑んだ。
「ルドヴィクスの母、エルネスタ・ガルメンディアよ。そう、あなたが……」
「母上、場所を! 場所をわきまえてください!」
「わかっているわよぉ?」
エルネスタのどす黒い空気をまとった声にオグウェノの顔が笑みを浮かべたまま固まり、イディが臨戦態勢になる。
「会いたかったのよぉ? あなたが、私の、可愛いクリスちゃんを、誘拐したの、ねぇ?」
オグウェノが助けを求め無言でルドを見た。ルドが無言で任せろと頷く。
「師匠は母上のものではありません」
「いや! そこじゃねぇよ!」
思わず突っ込んだオグウェノにルドは首をかしげた。
「え?」
「天然か! いや、天然だったな」
頭を抱えるオグウェノ。エルネスタが扇子を出し、口元を隠した。
「あなたの顔は覚えたわ。夜道には気を付けなさい」
「いや、月姫を拐ったのは理由が、誤解が……」
「言い訳は見苦しいだけよぉ?」
「グッ……」
オグウェノの顔から余裕が消える。エルネスタが視線でイディを刺した。
「主であろうとも誤った道を進みそうになれば、それを正すのが臣下の務め。あなたはそれを怠ったの?」
「……すべては王子の御心のままに」
「そう。それがあなたの仕え方なのね」
エルネスタがパチンと扇子を閉じる。
「まあ、無事にクリスちゃんが帰ってきたから、今日はこれぐらいで引きましょう。ところでクリスちゃんはどこ?」
ルドに再び緊張が走る。エルネスタが着せた服がダサいから、ベレンが買い替えに行ったとは口が割けても言えない。
どう切り抜けるか悩んでいると、オグウェノが説明をした。
「お姫さんが一緒に買い物をしたい、と連れていった。どうしても着せたい服があるらしい」
「お姫さん?」
首を捻るエルネスタにルドが説明した。
「ベレンのことです」
「あら。あの二人はいつの間に一緒に買い物をするほど仲良くなったの?」
「二人に険悪な様子はありません」
「あら、意外。でも……まあ、ベレンと対等に話ができるのはクリスちゃんぐらいでしょうし、ちょうど良かったのかもね」
エルネスタが視線を伏せて紅茶を飲む。オグウェノが不思議そうに訊ねた。
「お姫さんには友がいないのか?」
「彼女は周囲が一歩引いていてね。本心を話せる友人は一人もいないの。その点、クリスちゃんはそういう遠慮がないから、話しやすいでしょうね」
「そういうことか」
「で、あなたの目的は?」
エルネスタの一言でイディとルドの視線がオグウェノに集まる。
「言ったら協力してもらえるか?」
「それは目的次第ね」
オグウェノとエルネスタが不気味に微笑み合った。
※※※※クリス視点※※※※
クリスの手を掴み大通りに出たベレンが二軒隣の店へ移動する。
「いらっしゃいませ、ベレンガリア様」
店の入り口にいた屈強なのドアマンが頭をさげながらドアを開ける。ベレンがチップをドアマンに渡し店内に入った。
「いらっしゃいませ」
落ち着いた女性の声。店員は女性だけで様々なドレスが飾られている。
ベレンが慣れた様子で店員に声をかけた。
「この人の全身コーデをお願いしますわ」
店員がにこやかな笑顔のまま、失礼にならない程度にクリスを頭から足先まで注視する。
「はい。ご希望の色やイメージなどは、ありますか?」
「そうですわねぇ……この前は、赤いドレスを着ていましたし、その前は黒でしたから、その二色以外がいいですわ」
「でしたら、春を意識して暖色系のお色はいかがでしょうか?」
「いいですわね。どうせなら……」
ベレンが完全にクリスを無視して話を進め、店員もクリスを無視して次々とドレスを持参する。
「こちらは新作です。少し高めの位置で絞ることにより、腰を細く足を長く見せる効果があります」
「夜会でも着れますわね」
「はい。目立つデザインですので注目の的になります」
ベレンがチラッとクリスの顔を見ると、死んだ目を微かに泳がせた。
そのことを敏感に読み取ったベレンが頷く。
「目立つのは苦手みたいですわ」
「それでしたら、こちらはいかがですか?」
「こちらは昔ながらのデザインですが、流行りの布を使いまして……あと、こちらも……」
「では、落ち着いたデザインのあれにしましょう」
ベレンがさっさとドレスを決めると、次は靴選び。
「背がありますのでヒールは低めで揃えました」
「ルドが相手ですからヒールは普通の高さでも大丈夫ですわ」
「まあ、素晴らしい。それでしたら……」
選べる靴の幅が広がり、店員がウキウキと別の靴を持ってくる。
クリスは顔を赤くして抗議した。
「犬が相手とは、どういうことだ!?」
「あら、今日はガルメンディア邸でパーティーがあるのでしょう? 当然、ダンスもありますから、踊る相手はルドになりますわよ?」
「パーティー……あっ!」
昨日、エルネスタがパーティーをすると言っていたことを思い出した。身内だけの食事会だと思っていたクリスは慌てた。
「誰が来るんだ? そんなに、大事になっているのか?」
「さあ? 皇族と親しい貴族の方々には招待状が配られていましたわ」
「いつの間に……」
パーティーは回避したいが、世話になっている以上、出席しないといけない。カリストはともかく、嬉しそうに準備をするラミラの姿が浮かぶ。
「こちらの靴は皮と布を組み合わせた新作で……」
「よいデザインですわね」
ベレンと店員の明るく楽しそう会話が続くがクリスの耳には入らない。
こうして、クリスが意識を取り戻した時には、すべてが終わっていた。
「やっぱり、思った通りですわ」
「よくお似合いです。ただ、あの下着が……」
「補正下着とかいうのですね。あれを脱げば、もっと似合ったのでしょうけど仕方ありません」
支払書にサインをしたベレンがクリスの手を引いて店を出る。
「早く戻りましょう。みんな驚きますわよ」
「……戻りたくないのだが」
「なぜですの?」
「この姿を……犬に見られたくない」
クリスの足が止まる。ベレンが肩をすくめた。
「可愛く飾りましたから、いくら鈍いルドでも気づくかもしれませんね。ルドが女性恐怖症になった原因は私ですし、今日はこれで勘弁しましょうか」
「勘弁ってなんだ?」
「男装しないと約束したのをお忘れで?」
「酔っていたのに覚えていたか」
「当然です。ですが、パーティーはどうしますの?」
「それは……しまっ」
慣れないヒールに足を取られ、クリスはベレンにしがみついた。
「大丈夫です?」
「なんとか。こういう靴は苦手だ」
「あら、あなたでも苦手なことがありますのね」
「私だって苦手なことぐらいある」
顔をしかめたクリスにベレンがフフフと笑う。
「なんだ?」
「少し安心しましたの」
「安心?」
「こうして見ると、あなたも普通の女性ですのね」
クリスは首をかしげた。そこに馬の蹄の音が響く。
「なんだ?」
二人はあっという間に騎士たちに囲まれた。
タイプがまったく違う男三人に囲まれデザートを食べるエルネスタ。その光景は自然と店内の女性たちの視線を集め、ルドは非常に居心地が悪かった。
「母上、買い物はこれで終わりですか?」
「そうね。これで全部かしら」
「では、あとは帰るだけですね」
安堵したルドを置いて、エルネスタがオグウェノとイディに視線を向ける。
「ところで、こちらの方々は?」
オグウェノが数多くの女性を虜にしてきた極上の笑みをつけて自己紹介した。
「挨拶が遅れて失礼しました。ケリーマ王国の第四王子、オグウェノ・ケリーマと申します。こちらは、臣下のイディ・カンバラケです。お見知りおきを」
イディが軽く頭をさげる。いきなり王子と自己紹介されたら普通は驚くか疑うところだが、エルネスタはにっこりと微笑んだ。
「ルドヴィクスの母、エルネスタ・ガルメンディアよ。そう、あなたが……」
「母上、場所を! 場所をわきまえてください!」
「わかっているわよぉ?」
エルネスタのどす黒い空気をまとった声にオグウェノの顔が笑みを浮かべたまま固まり、イディが臨戦態勢になる。
「会いたかったのよぉ? あなたが、私の、可愛いクリスちゃんを、誘拐したの、ねぇ?」
オグウェノが助けを求め無言でルドを見た。ルドが無言で任せろと頷く。
「師匠は母上のものではありません」
「いや! そこじゃねぇよ!」
思わず突っ込んだオグウェノにルドは首をかしげた。
「え?」
「天然か! いや、天然だったな」
頭を抱えるオグウェノ。エルネスタが扇子を出し、口元を隠した。
「あなたの顔は覚えたわ。夜道には気を付けなさい」
「いや、月姫を拐ったのは理由が、誤解が……」
「言い訳は見苦しいだけよぉ?」
「グッ……」
オグウェノの顔から余裕が消える。エルネスタが視線でイディを刺した。
「主であろうとも誤った道を進みそうになれば、それを正すのが臣下の務め。あなたはそれを怠ったの?」
「……すべては王子の御心のままに」
「そう。それがあなたの仕え方なのね」
エルネスタがパチンと扇子を閉じる。
「まあ、無事にクリスちゃんが帰ってきたから、今日はこれぐらいで引きましょう。ところでクリスちゃんはどこ?」
ルドに再び緊張が走る。エルネスタが着せた服がダサいから、ベレンが買い替えに行ったとは口が割けても言えない。
どう切り抜けるか悩んでいると、オグウェノが説明をした。
「お姫さんが一緒に買い物をしたい、と連れていった。どうしても着せたい服があるらしい」
「お姫さん?」
首を捻るエルネスタにルドが説明した。
「ベレンのことです」
「あら。あの二人はいつの間に一緒に買い物をするほど仲良くなったの?」
「二人に険悪な様子はありません」
「あら、意外。でも……まあ、ベレンと対等に話ができるのはクリスちゃんぐらいでしょうし、ちょうど良かったのかもね」
エルネスタが視線を伏せて紅茶を飲む。オグウェノが不思議そうに訊ねた。
「お姫さんには友がいないのか?」
「彼女は周囲が一歩引いていてね。本心を話せる友人は一人もいないの。その点、クリスちゃんはそういう遠慮がないから、話しやすいでしょうね」
「そういうことか」
「で、あなたの目的は?」
エルネスタの一言でイディとルドの視線がオグウェノに集まる。
「言ったら協力してもらえるか?」
「それは目的次第ね」
オグウェノとエルネスタが不気味に微笑み合った。
※※※※クリス視点※※※※
クリスの手を掴み大通りに出たベレンが二軒隣の店へ移動する。
「いらっしゃいませ、ベレンガリア様」
店の入り口にいた屈強なのドアマンが頭をさげながらドアを開ける。ベレンがチップをドアマンに渡し店内に入った。
「いらっしゃいませ」
落ち着いた女性の声。店員は女性だけで様々なドレスが飾られている。
ベレンが慣れた様子で店員に声をかけた。
「この人の全身コーデをお願いしますわ」
店員がにこやかな笑顔のまま、失礼にならない程度にクリスを頭から足先まで注視する。
「はい。ご希望の色やイメージなどは、ありますか?」
「そうですわねぇ……この前は、赤いドレスを着ていましたし、その前は黒でしたから、その二色以外がいいですわ」
「でしたら、春を意識して暖色系のお色はいかがでしょうか?」
「いいですわね。どうせなら……」
ベレンが完全にクリスを無視して話を進め、店員もクリスを無視して次々とドレスを持参する。
「こちらは新作です。少し高めの位置で絞ることにより、腰を細く足を長く見せる効果があります」
「夜会でも着れますわね」
「はい。目立つデザインですので注目の的になります」
ベレンがチラッとクリスの顔を見ると、死んだ目を微かに泳がせた。
そのことを敏感に読み取ったベレンが頷く。
「目立つのは苦手みたいですわ」
「それでしたら、こちらはいかがですか?」
「こちらは昔ながらのデザインですが、流行りの布を使いまして……あと、こちらも……」
「では、落ち着いたデザインのあれにしましょう」
ベレンがさっさとドレスを決めると、次は靴選び。
「背がありますのでヒールは低めで揃えました」
「ルドが相手ですからヒールは普通の高さでも大丈夫ですわ」
「まあ、素晴らしい。それでしたら……」
選べる靴の幅が広がり、店員がウキウキと別の靴を持ってくる。
クリスは顔を赤くして抗議した。
「犬が相手とは、どういうことだ!?」
「あら、今日はガルメンディア邸でパーティーがあるのでしょう? 当然、ダンスもありますから、踊る相手はルドになりますわよ?」
「パーティー……あっ!」
昨日、エルネスタがパーティーをすると言っていたことを思い出した。身内だけの食事会だと思っていたクリスは慌てた。
「誰が来るんだ? そんなに、大事になっているのか?」
「さあ? 皇族と親しい貴族の方々には招待状が配られていましたわ」
「いつの間に……」
パーティーは回避したいが、世話になっている以上、出席しないといけない。カリストはともかく、嬉しそうに準備をするラミラの姿が浮かぶ。
「こちらの靴は皮と布を組み合わせた新作で……」
「よいデザインですわね」
ベレンと店員の明るく楽しそう会話が続くがクリスの耳には入らない。
こうして、クリスが意識を取り戻した時には、すべてが終わっていた。
「やっぱり、思った通りですわ」
「よくお似合いです。ただ、あの下着が……」
「補正下着とかいうのですね。あれを脱げば、もっと似合ったのでしょうけど仕方ありません」
支払書にサインをしたベレンがクリスの手を引いて店を出る。
「早く戻りましょう。みんな驚きますわよ」
「……戻りたくないのだが」
「なぜですの?」
「この姿を……犬に見られたくない」
クリスの足が止まる。ベレンが肩をすくめた。
「可愛く飾りましたから、いくら鈍いルドでも気づくかもしれませんね。ルドが女性恐怖症になった原因は私ですし、今日はこれで勘弁しましょうか」
「勘弁ってなんだ?」
「男装しないと約束したのをお忘れで?」
「酔っていたのに覚えていたか」
「当然です。ですが、パーティーはどうしますの?」
「それは……しまっ」
慣れないヒールに足を取られ、クリスはベレンにしがみついた。
「大丈夫です?」
「なんとか。こういう靴は苦手だ」
「あら、あなたでも苦手なことがありますのね」
「私だって苦手なことぐらいある」
顔をしかめたクリスにベレンがフフフと笑う。
「なんだ?」
「少し安心しましたの」
「安心?」
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クリスは首をかしげた。そこに馬の蹄の音が響く。
「なんだ?」
二人はあっという間に騎士たちに囲まれた。
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