【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

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月からの流れ星と治療

プロポーズは突然に

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 嫌というほど見覚えがある真っ白な騎士服。

「魔法騎士団……」

 呟いたクリスを騎士たちが囲む。その中から一人の青年が出てきた。
 ベレンがクリスの前に立ち、キツく睨む。

「これはどういうことですの? ランスタッド様」
「知り合いか?」

 訊ねたクリスにベレンが小声で答える。

「ルドが所属しております魔法騎士団、第一部隊の同期でライバルですわ」
「ライバル?」
「ランスタッド様が勝手に言っているだけですけど」

 騎士として鍛え抜かれた体に、サラサラの亜麻色の髪と鋭い青い瞳。平凡な顔立ちだが、魔法騎士団に所属しているプライドの高さが全身から溢れる。
 観察しているクリスにランスタッドが問いかけた。

「貴様がルドヴィクスを惑わしている者か?」
「惑わす?」

 眉間にシワをよせたクリスにランスタッドが剣を抜く。ベレンが叫んだ。

「なにをなさいますの!?」
「とぼけても無駄だぞ。ルドヴィクスを退団などさせんからな」

 思わぬ言葉にクリスは目を丸くした。

「……なんのことだ?」
「知らぬとは言わさんぞ! 貴様にそそのかされルドヴィクスは退団願いを隊長に出した! そのことで団長たちが頭を抱えておられる! そのため……」

 説明の途中だったが、クリスはベレンを押しのけてランスタッドに迫った。

「どういうことだ!?」

 ランスタッドが顔を赤めてたじろぎ、クリスから顔を背ける。

「だ、だから、団長たちが……」
「違う! 退団願いを出した理由は!?」
「それは貴様が出させ……」
「出させていない! そもそも、一年で魔法騎士団に戻ると……」
「師匠!」

 突如聞こえた声にクリスは顔をあげた。騎士たちの頭上を飛び越え、ルドが目の前に着地する。
 そしてクリスを抱き上げ、素早くランスタッドから距離を取った。

「師匠、ご無事で……」

 ルドが腕の中に視線を落とし固まる。

 鮮やかな橙色のドレスに、白い肌を覆う柔らかなレース。胸の中心には深紅の宝石。まるで、春が一足先に咲いたような姿。
 その上には、キョトンとこちらを見上げる顔。
 茶色の髪を緩く結い上げ、頬は薄っすらと紅に染まり、唇は熟れた桃のように瑞々しい。

 それは美しい年頃の乙女だった。

 クリスだと思い込んでいたルドが一瞬で硬直し、全身から汗が噴き出す。
 口をパクパクと動かし、なんとか声を出した。

「も、申し訳なっ、人違っ……あ」

 ぱっちりと伸びた睫毛に囲まれた深緑の瞳と目が合う。そこでルドがふにゃりと笑った。

「このは師匠だ」
「ちょっと化粧をしただけで、見分けがつかなくなるな」
「いてっ! すみませんっ!」

 クリスに頭を叩かれたルドが頭をさげる。そこにランスタッドが怒鳴った。

「ルドヴィクス! そんなヤツに惑わされるな!」
「師匠、少々お待ちを」

 いつものルドの様子にクリスは少しホッとする。
 クリスを下ろしたルドがランスタッドの前に立った。

「師匠を愚弄することは、誰であろうと許さない」
「女が苦手だと言っていたクセに、その変わり様! オレが目を覚まさせてやる!」
「女? 待て。師匠は……」

 ランスタッドがルドの言葉を無視して、チラリとクリスを覗き見る。視線が合うと、ランスタッドの顔が赤くなり、慌ててルドに怒鳴った。

「それか、きっちりフラれて魔法騎士団に戻って来い!」
「だから、待て。フラれるも、なにも師匠は……」

 説明をしようとしたルドに別の声が割り込む。

「ちょっと待った!」

 騎士たちが割れてできた道をオグウェノとイディが歩く。

「話がややこしくなるから、お前は出てくるな」

 頭を抱えて嘆くクリスを無視して、オグウェノが顔を綻ばす。

「やっぱり、綺麗だ」

 そして、一瞬で雰囲気を変えた。王族の重圧を放ちながら真剣な顔でクリスに手を差し出す。

「こんな住みにくい国は捨てて、我と共にケリーマ王国に来い」

 予想外の展開に周囲の騎士たちがざわついたが、クリスは頭を振ってため息を吐いた。

「前にも言ったが、私はシェットランド領から離れるつもりはない」
「ならばシェットランド領を我が領土にする」
「まあ、お前が本気になれば出来るな。だが、何故そんなに私を必要とする? 私の治療知識などたかが知れているのに」
「我が欲しいのは知識などではなく、お前自身が欲しい」
「私? なぜだ?」
「わからないか?」

 オグウェノが意味深に微笑むが、クリスは疑問符を浮かべ首をかしげるだけ。
 その様子にオグウェノが肩を落としていつもの雰囲気に戻った。

「まったく。オレにここまで言わせて、なびかなかったのは初めてだぞ」
「なびく?」
「まあ、いい。まだ時間はある」

 オグウェノが男前の笑みを作る。そこに、ランスタッドの怒鳴り声が響いた。

「誰がおまえなどにやるか!」
「「「「「「は!?」」」」」」

 ランスタッドは剣を収め、クリスの前に立った。

「ケリーマ王国の者にやるなんて、もったいない! それなら、オレのものになれ!」
「「「「「「「「はぁ!?」」」」」」」」

 オグウェノとクリスが目を丸くする。そこに騎士たちが小声で囁いた。

「……やばいぞ」
「また始まった」
「あいつ、気が強い系の美人が好みなんだよな」
「おまえ、止めろよ」
「無理だって」

 騎士たちの声にベレンが額を押さえて俯く。

「噂通りですのね」
「どういうことだ?」

 クリスの問いにベレンが呆れながら話す。

「ランスタッド様は大変惚れっぽい、という噂がありまして。先ほどあなたがランスタッド様に顔を寄せましたでしょう? そこで、あなたに惚れたのだと思います。あと大変、負けず嫌いな性格らしく」
「それで、この奇行か!?」
「惚れたところにオグウェノ様が求婚すれば、負けず嫌いの性格が触発されてますから」
「迷惑がすぎるぞ!?」

 クリスは嫌そうに足元に視線を向けた。そこには、いつの間にか片膝をつき、剣の柄を差し出しているランスタッド。
 一般常識に疎いクリスでも、これが騎士のプロポーズの儀式だと知っている。

 というか、カルラに無理やり教えられた。

 カルラとしてはルドがクリスに騎士式のプロポーズをするかもしれない、という思惑で教えていたのだが。

 ランスタッドが片膝をついたまま、尊大な態度で言った。

「受け取れ!」
「いらん」

 ランスタッドがまるっと無視して話を進める。

「新居は帝都内に建てよう」
「お前と住む気はない」
「遠征で離れることも多くなるが、毎日手紙を送る」
「文通をする気もない」
「寂しい思いをさせることもあるが、耐えてくれ」
「まったく寂しくない」
「忙しい身の上だが、新婚旅行ぐらいは行けるぞ。どこがいい?」

 クリスはベレンの方を向いた。

「まったく会話にならないのだが」
「恋をしたら盲目になりますからね。ランスタッド様は特に酷いですが」
「どうしたら会話ができる?」
「わかりません」
「即答か」

 魔法騎士団の騎士からの求婚という、世の女性からしたら羨ましい状況だが、クリスは唸った。
 そこに、オグウェノが入る。

「これで分かっただろ。おまえはまったくの脈無しだ。諦めろ」
「邪魔をするというのか? よかろう」

 ランスタッドが剣を天高く掲げる。その動きに周囲にいた騎士たちが諦めたように抜刀し、胸の前にかまえた。
 オグウェノが楽しそうに口角をあげる。

「そっちが先に手を出したなら、こっちは正当防衛ってことになるよな?」

 イディが大剣に手をかける。

「喧嘩を買うように軽く言うな! 犬! 止め……おい!?」

 琥珀の瞳を丸くしたまま硬直したルド。クリスはルドの肩を揺さぶった。

「起きろ! 意識を戻せ!」
「恋に障害は付き物だが、それぐらいで揺らぐ心ではない! 突撃!」

 ランスタッドの号令とともに、自棄になった騎士たちが雄たけびをあげて突進した。







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